警察署を出た途端、蓮はすっかり馴染みの甘えん坊モードに戻っていた。「千尋さん、あの元夫の人さ……全然手加減なかったよ。ねえ、俺、まだかっこよく見える?」私が「どれどれ」と近づいて顔を覗こうとした瞬間、蓮は素早く身をかがめ、私の唇に軽くキスを落とした。あまりにも自然で、私は思わず目を瞬いた。「ちょ、蓮!最初は偽装結婚だって言ってたでしょ?婚姻届もお母さんを安心させるためだけだって……!」蓮は顔を赤くし、空を見上げたり地面を見たりしながら、しばらくもじもじしていた。そしてようやく、私の目を見る決意をしたように顔を上げる。「俺……早めに決めたかったんだよ。だって千尋さんってこんなに素敵でしょ?一真がいつか正気に戻って、俺と取り合いになったら困るし。だから母さんには、結婚と引き換えに自由をくれって言ったんだ。千尋さんがいらないって言ったら……俺、妻も自由も両方失っちゃうんだよ?めっちゃ可哀想じゃん」大きな瞳で瞬きしながら、蓮は私の袖をちょん、と引っ張って甘えてくる。あまりの子犬っぽさに、私は呆れながらも笑ってしまい、くるくるの髪をぐしゃっと撫でてやった。すると蓮はすぐ調子に乗り、顔を近づけてくる。「千尋さん、俺を弄んで捨てるとか……ナシだからね?さっき殴られて痛かったんだよ。千尋さん、キスして治して?」その無邪気な顔に負けてしまい、私はそっと蓮の唇に軽く触れた。蓮は一気に表情を明るくし、そのままキスを深めようと身を寄せてきた――その時、軽い咳払いが聞こえた。振り向くと、気品のある美しい婦人が少し離れた場所に立ち、優しく微笑んで私たちを見ていた。さっきまで図々しかった蓮は、一瞬で小さくなり、弱々しく「……母さん」と呟いた。私は一気に顔が熱くなる。まさか蓮のお母さんに、こんなタイミングで初対面するなんて思わなかった。蓮のお母さんが私と一真の過去を知ったら、きっと私たちを引き離すだろうと思っていた。でも彼女は全く気にする様子もなく、むしろ私に向かって朗らかにこう言った。「蓮と早く結婚式を挙げて、うちの別荘に住みなさい。あの二人、これからきっとしつこく来るでしょう?」高慢な一真が、颯太を連れて何度もしつこく私を追いかけてくる姿なんて、到底想像できない。そのはずなのに。蓮のお母さんの真剣で温かいま
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