私は慌てて地下1階のボタンを押した。エレベーターのドアが閉まる寸前、渉は意地悪く口元を歪めた。そして、拓海の前で私の顎を掴むと、さらに力強くキスしてきた。聞くところによると、拓海は加藤家の人に軟禁されているらしい。クレジットカードは取り上げられて、もう二度と私にちょっかいを出さないと誓わない限り、外には出してもらえないらしい。あのあと、私は渉と一緒にJ市に戻った。ちゃんとした結婚の形も考えたけど、渉が面倒くさがって、さっさと役所に婚姻届を出してしまった。私も、彼の友達や家族に一緒に会った。噂通りだった。渉は長男で、母親は早くに亡くなり、父親も彼が18歳のときに心臓発作で急死したそうだ。渉の叔父たちは後継者争いに敗れらからなのか、私にはとても丁寧だった。渉の友達も、みんな上品で礼儀正しい人ばかりだった。でも一人だけ、たぶん渉の親友なのだろう。彼の目の前で「いい歳して、ようやく卒業かよ」なんてからかっていた。まさか。30歳を過ぎてるのに、童貞なの?でも、入籍して2週間になるけど、確かに渉はまだ私に指一本触れてこない。もしかして、やり方を知らないとか……それとも、知らないってバレるのが怖いのかな?だからその夜、ベッドに入った時、なんだか変な雰囲気だった。私は渉に触れたいような、でも避けた方がいいような、複雑な気持ちでいた。万が一、知らないんじゃなくて、その、機能しないんじゃ……コホン。いや、そんなはずはない。キスされた時の感じだと、そういうわけでもなさそうだし。渉は社長で毎日忙しいし、簡単に近寄れる雰囲気でもない。だから、こういうのも普通なのかな?たとえ普通じゃなくても、もう結婚したんだから、私は気にしないのに。「なにを考えてる?」突然、渉が寝返りをうって、私をぐっと抱き寄せた。私は何度も首を横に振った。彼は少し屈んで、私の唇を奪った。最近、渉がキスしてくる回数はどんどん増えて、時間も長くなっていた。「君が俺を受け入れるための時間を、もう少しあげたいだけなんだ」布団の中の温度が上がっていく。暗闇の中、渉は少し息を切らしながら、掠れた声で言った。「私……」ドキドキと高鳴る心臓の音で、声が続かなかった。でも、ベッドの足元で安心
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