Home / BL / White Shadow / Chapter 11 - Chapter 20

All Chapters of White Shadow: Chapter 11 - Chapter 20

29 Chapters

#10

「やっぱり、無理があったかな」クリストの低い声が広々とした応接室に響く。先程ヴェルムに電話で話した内容は、ランディの立てた作戦。彼を誘き出す為の単純なもので、全て演技だ。彼が居なくなった店で今度はクリストがオーナーになるという計画。安易なフェイクとはいえ、それは彼が一番望まない形だろう。自分が逃げた店で、自分の弱味を知る人間が働くなんて。「ヴェルムは来ないと?」クリストが呟く横で、ウォルターが諦め気味に問いかける。彼らの目の前のテーブルに、グラスが三つ並んだ。「うーん、でもさ。要は恋人のクリストさんと、自分のプライドを天秤にかけてる状態でしょ」ランディはスクリューキャップを豪快に外してワインを注ぐ。「今クリストさんを止めに来ないと、二人の仲に亀裂が生まれるのは明らかでしょ?」「それは……」そうだ。そうだと良い、とクリストは頬杖をついて嘆息をもらす。ヴェルムは職場の人間全員と音信不通にしている。ここに来ることがどれだけ厚顔無恥な行為か理解してるはずだ。何より、プライドの塊のような青年だ。そのプライドをズタズタにしてまで、果たして自分に会いに来るのか。……その価値が自分にあるのか、分からないというのが実状だった。「あー、でももうけっこう経つのに来ないね。これじゃホントにクリストさんにオーナーをやってもらう事になるかな」ランディは壁にかかった時計を見て、冗談ぽく呟く。「いや、だから俺は…」やっぱり……来ないのか?クリストが口元を隠した瞬間、ドアの開く音がした。「へぇ。誰がオーナーをやるって」部屋に響いた聞き慣れた声に、クリストは思わず立ち上がる。開け放たれたドアの方を注視した。「ヴェルム!」そこにいたのは間違いなく彼だった。予想が的中したことが予想外に嬉しくて、つい笑ってしまう。「おい! お前なに勝手に上がり込んでんだ!」すると彼の後ろから、激昂したレイグールがやってきた。恐らく強引に店内に入ってきたんだろう。「レイグール、落ち着いて」ウォルターが間に入って彼を宥めるが、あまり意味を成さない様子だ。ランディは逆に助長して、彼を煽り出す。「まぁまぁ。ウォルター、止めなくてもいいじゃん。乱闘してもそれはそれで面白いし」「ランディ、お前も俺にケンカ売ってんのか?」「いーえ。思ったことを言っただけです」「なんだとこのガ
last updateLast Updated : 2025-12-12
Read more

【2】

ヴェルムが店に戻ってから、早一ヶ月が経った。今までの行いを従業員に謝罪したあと、真剣に経営管理をして挽回しているようだ。それ自体は良い。ひとつ問題があるとしたらお互い仕事に追われて、会う暇がないというところだろうか。クリストはスケジュールを確認して、一息ついた。明日は久しぶりの休みだ。生活は笑えるぐらい変わらず、多忙なものの手応えのある日々を送っている。以前は刺激が欲しくて色々な世界に首を突っ込んだりもしたけど、今はそれもない。年を重ねて落ち着いたのか、もしくは好奇心が少なくなったのか。どちらにせよ、それで人生がつまらなくなるのはご免だ。どうせなら自分の力だけにこだわらず、誰かと新しい世界を築きたい。「ついてたな、お互い休みが重なるなんて」翌日の夜、都市から離れた海岸線に車を停め、ヴェルムは言った。久しぶりに会ったわりに、二人は落ち着いている。「ね。でも、やっぱり会うのは夜なんだな。そんなに夜景が好き?」「まぁな。お前の髪色が映えるし」ヴェルムとクリストは近くのベンチに腰掛け、何でもない雑談を交わした。「アホ。……でも、夜の海も悪くない」ヴェルムはほんのり赤らんだ耳を隠すように、前髪を崩した。少し先の港湾で煌々と揺らめく灯りは宝石のよう。人工的な、それも観賞目的で作られたわけではないのに何でこんなにも綺麗なんだろう。「やっぱたまには都会の喧騒から離れないとな。こういう静かな場所に来ると何となく落ち着ける……けど」ギッ、とベンチの留め金が軋む様な音を立てた時、ヴェルムはクリストの唇を塞いでいた。「恋人といるってなると、ただのシチュエーションになっちゃうから……怖いよな」彼の熱い舌はクリストの唇の形を確かめる様になぞり、這った。「お前がノリノリなんて珍しいな。欲求不満なのか?」「……」クリストの茶化した物言いに、ヴェルムは黙って睨みをきかせた。「悪い、図星だったか」「あのな……ん!」ヴェルムが言い返そうと開いた口を、強引に塞ぎ、中を無遠慮に犯した。その間にクリストの手は下へと伸び、衣服をはいで彼の下半身を露にしてしまう。「……っ」そしてヴェルムの唾液でぬらした指を、彼の尻のすぼまりにそわせ、力を入れた。それは少しずつ、時間をかけて彼の中へ入っていく。「うぁ……っ」「これを期待してたんだろ」確かに、期待してい
last updateLast Updated : 2025-12-13
Read more

#1

閉店時間はとっくに過ぎている。全ての照明を消した。従業員も客も皆帰って静まり返る店内。そこに、場にそぐわない淫らな喘ぎ声が響く。「ん……あっ……」甲高く、幼い声。……に聞こえてしまうのは、本当に嫌だ。必死に声を殺そうとするが、下から容赦なく突き上げられるとそうもいかない。「ランディ、声我慢しないで」それどころか相手はこの情けない声を強要してくるのだから堪らない。「あっ……ウォルターッ……俺、もう……!」イかせてほしい。だがそれを口するのは憚られる。相手が恋人だろうと関係ない。自分の中に、どうしても引けない一線があった。「イきたいのか?」「ふあっ!」急に繋がった部分を激しく擦られて、彼は苦しそうに呻いた。「心配しなくても、俺もそろそろ限界なんだ。悪いけど続けるぞ」拒否権はない。二人の時だけ、彼はこのように居丈高になる。勢いよく腰を打ち付けられ、少年は寄りかかっていたソファに倒れ込んだ。何も考えられず、だらしなく脚を開いて。気付けば、自身も果てていた。「はは……まだヒクついてる」「……っ」この鬼畜。闇の中で睥睨したが、彼が気付いた様子はない。自分ばかり好きにされるのは、何度肌を重ねても悔しかった。赤茶の髪を乱す少年、ランディは、同じ店で働くウォルターと恋人同士だ。まだ一年の付き合いだが、何度抱き合ったかは覚えてない。「はぁ、ふぅ……ウォルター、話変わるけど……ヴェルムが店に戻って来て良かったね」強引に腰を引いて彼の性器を抜く。そしてテキパキとティッシュでぬれた部分を拭いた。「でも完全にあの……クリストさんに惚れてたよね。もはや骨抜きっていうか」「あぁ。でも他人の色恋沙汰は興味ないかな」「他人……」「どうした、不満そうな顔して」強引に顎を引き寄せられ、思わず前のめりになって彼に寄りかかる。何故かセックス中、彼は人が変わった様に豹変する。そうなった時、並の精神力じゃ相手はできない。「別に。また変なこと考えてんじゃないか、って思っただけ」「変なこと?」「ウォルター……クリストさんに嫉妬してんじゃないの」凍りつくような、嫌な沈黙が流れる。まるで自分のこの一言が、時間を止めてしまったかのように思えた。「ははっ」笑い声が響くと共に、部屋全体が明るくなった。ウォルターが部屋の電気をつけたからだ。そこでようやく彼
last updateLast Updated : 2025-12-14
Read more

#2

ウォルターはヴェルムの店で働く青年。彼と出会ったのも、店で働くようになったのも、彼と恋人同士になったのも……。今から一年前の話。たった一年とはいえ、自分にとっては長い年月だった。一年前の彼は……。「ねぇねぇ。ランディってさ、彼女いないのかな?」大学での講義が終わった後、後ろに座ってる女子二人のコソコソ話が耳に入った。「いないんじゃない? 噂も聞いたことないよ。狙ってんの?」「まぁ、美形だし」対する彼女は低い声で答える。「はぁー、プライド高そうで私はパスだな。だから彼女できないんだよ」女子の内緒話は、けっこう声が大きい。傷つくから、聞かせられる方の身にもなってほしいとつくづく思う……けど。実際、その意見は間違いじゃない。異性からウケが良い顔だという自覚はあった。でも内気だから突き放してしまうし、恋愛にハマった経験は皆無だ。今年で大学生になったというのに、まだ童貞。それも、自分の淡白さのせいにしてみる。セックスとか……やったら気持ち良いんだろうけどなぁ。やる勇気も、元気もない。ランディは親ゆずりの赤褐色の髪色をしていてた。顔も髪も目立つ方だったが、生来の引っ込み思案が災いして地味な毎日を過ごしていた。自分から歩み寄ろうとすると、不思議と人は離れていく。 近寄り難いオーラを放ってしまっているのかもしれないが、学校でこれはキツかった。将来の展望も、夢もない。自分がこれからどんな人生を送るか皆目見当もつかない。……あぁ。暇だ。ランディは大学を出て、天を仰いだ。なにかしたい。今までした事ないようななにかを。よく分からないが、その日は妙な欲求に支配されていた。たまには場所を変え、ちょっと遊びにいこう。そんな考えがふと頭を過ぎる。いつもだったら絶対に行かない場所に、今日だけは。今日ぐらいは、許される気がした。最近は勉強ばかりだったから久しぶりに遊びほうけてみよう。そんな些細な計画でも少し気分が上がって、人で賑わう駅へ向かった。世界は広い。何とも薄っぺらく聞こえるけど、今の心境を表すにこれ程当てはまる言葉は他に思いつかない。ランディは何度も瞬きし、見えるもの全てを目に焼き付けた。「あれ、お兄さん一人? 良かったら一緒に飲まない?」「すいません、また今度……」意を決して訪れた深夜の中心街は人で賑わっていた。時間なんて忘れてしま
last updateLast Updated : 2025-12-15
Read more

#3

「そうだ、自己紹介がまだだったね。俺はウォルター。君の名前は?」「ランディ……です」フルネームを教える必要はないと思った。彼だって実名を名乗ってる可能性は低い。自分を助けてくれた青年は見た感じ二十代後半、綺麗な黒い瞳をしていた。「お、お邪魔します」外観からでも大きな建物で、外階段の二階から中へ入った。「誤解しない様に言っとくけど、バスルームはスタッフが使う用。外部の人が使うことはないから」ウォルターは気まずそうに話した。「あは……大丈夫ですよ」スタッフしか通らない路らしく、荷物が廊下のそこかしこに置いてあった。その角にある、小さなバスルームに入る。「汚れた服は置いといてくれれば洗濯するよ」「あ、どうも」ドアを閉め、服を全て脱いだ。ちょうど目の前にあった鏡を見る。鏡に映るのは見飽きた自分の顔。見れば見るほど童顔で、女顔だと思う。子どもっぽい内面を映しだしてるみたいで大嫌いだ。おまけに、さっき男に触られたところが妙に疼く。下腹部から下にかけて────、「ランディ、お湯出た?」「うわあぁぁっ!?」ドアを開けて入ってきたウォルターに、ランディは声にならない声を上げた。「ノッ、ノックしてくださいよ!」「わ、悪い。音しないから心配になって」どうやら彼は部屋の外で待ってくれていたらしい。それなのに責めるような言い方をしてしまい申し訳ない気持ちになる。ランディが脱力していると、ウォルターはなにか気付いた様に身を乗り出した。「どうした、やっぱりどこか怪我してたのか?」「っ!」ウォルターは、男が触った部分を知っている。そこはどちらかというと下の方で。「やっ……ちょっとウォルターさん、来ないでくださいっ」今さら自分が全裸ということを思い出した。そんな場所をじっくり見られたら恥ずかしくて死ぬ。しかしパニックになってるランディに構わず、ウォルターの顔は強ばっていた。「見た感じは大丈夫そうだけど、どこか痛む?」「いっ……や、ちょっと……」後ろは壁で、逃げられる体勢じゃない。ランディは気休め程度に手で前を隠した。「何もされなかったんで大丈夫です!」何なんだ……!逆ギレに近いけど、羞恥心から当たり散らしたくなる。「……そう。何もないなら良かった。洋服預かるね」ランディがシャワーを浴び終え部屋を出ると、代わりにバスローブ
last updateLast Updated : 2025-12-16
Read more

#4

とにかく、このままじゃ駄目だ。ウォルターの横暴な振る舞いは普通に腹が立つが、彼も自分で自分を制御しきれてないんだろう。ここは、“彼ら”に協力を要請しようと思う。ランディはシャワー室から出ると、携帯を取り出しある人物に電話をかけた。翌朝は前もって予約していたレストランの個室に来ていた。「そんなわけで、ウォルターがおかしくなった原因は貴方達にあると思うんです。どうします?」ウォルターと自分にまつわる話を一通り聞かせた後、呼び出した二人に意見を求める。そこにいたのは、ヴェルムとクリストの二人。ランディが言う“原因”だった。「どうします? ……って言われても。どうしたいんだよ、逆に」ヴェルムは冷ややかな眼と声でランディの問いに返した。「色々あるでしょ。申し訳ないから、俺らの関係を修復するのに協力したいとか」「見事にお前の願望じゃねえか」呆れ気味のヴェルムの隣で、クリストは苦笑しながらワインを口にした。「でも確かに、一ミリも関係ないとは言えないかな。ウォルターさんがヴェルムに好意を持ってるなんて、今初めて知ったけど……お前は前から知ってたのか?」「は、悪いけど初耳。ランディのいつもの思い込みじゃないか?」「それはない! 付き合ってから、ウォルターがそう言ったんだ。でも昔のことだから、忘れてくれって言われたんだけど」忘れられるはずがない。ランディはカットしたステーキにフォークを突き立てた。「結局、ウォルターはまだヴェルムに未練たらたらなんだよ。今は俺と付き合ってるのに……っ」そんな彼を見て、クリストは密かに喉を鳴らした。意外な発見だった。第一印象からもっと爽やかな少年だと思ったけど、ひょっとしたらヴェルムよりも激情的かもしれない。チラッと隣に目をやると、ヴェルムはすぐに反応した。そして小声で呟く。「ロクなことじゃないと思ったけど、案の定。適当に宥めて帰ろう」薄情だとも思ったが、同意した。今の彼は何で起爆するか分からない。それに、現状自分達に協力できることもない。目配せを終了し、ランディの方へと向き直る。確かに美少年だ。彼に夢中になる女性は少なくないと思う。なのに彼も男が好きだと言うんだから、素直に驚きだ。「それはそうと……ランディ君、昨日は寝てないのかい?」クリストは手元の食器を確認しながらランディの顔を眺める。ヴェルムも
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

#5

ランディは店を出て家に帰ると、またシャワーを浴びた。他に何もする気が起きないからかもしれない。来週までにやらなきゃいけない大学の課題も、今はとても手に付ける気分じゃなかった。自分を混乱させている、もっと根本的な問題を解決しないことには。ウォルター。寝ても覚めても、考えるのは彼のことばかりだ。これは異常……なんだろうか。それすら分からないのは、彼が初めての恋人だから。「あら。ランディ、今日は休みじゃないの?」余計なことをグルグルと考えてしまう。少しでも早く解決しようと、休みだというのに店に来てしまっていた。「うん。ま、その……ちょっと暇だったから」ランディがそう返すと、向かいの美女、レイリーは鋭い眼で手を組んだ。「嘘ね。仕事嫌いなアナタが休日に顔を出すわけないもの」「……」図星の為ランディは閉口した。「そういえば最近元気ないわね。なにかあった?」それでもレイリーは心配そうに聞いてきてくれた。彼女とはそれなりの付き合いだから、様子だけですぐ分かるらしい。自分と同じ女の子を取っかえ引っ変えしている。性癖に問題はあるけど、今までもたくさん相談相手になってくれていた。 バレない程度なら話してもいいんだろうか……。「大したことじゃないんだけど……ウォルター、俺のこと何か言ってた?」「え? ウォルターがどうかしたの?」彼女が不思議そうに聞き返した、その時。「ランディ?」背後から聞こえた声に、ランディは冷や汗を浮かべた。振り返った先にいたのは、やはり紛れもない彼。「あら、噂をすれば。どうしたの?」「ちょっ、レイリー……!」慌てふためくランディに、ウォルターは怪訝な表情を浮かべた。「噂? 噂って……何の話してたんだ?」「い、いや」困った様に視線を外すランディを見て、レイリーは明るい口調で話し出す。「貴方のことに決まってるでしょ。最近飲みに行ってないから、久しぶりにどうかと思って」「あぁ……」それを聞くと、ウォルターも納得したように頷く。「わかった。……ちょうどこの前新人も入ったことだし、歓迎会も兼ねてやろうか」「お願いね。こういうの、ヴェルムは全然企画してくれないんだから」「はは、確かにそうだ」ウォルターは肩を揺らし、可笑しそうに笑っている。助かった。上手く誤魔化せたようだと、ランディは安堵する。レイリーが気を利かせ
last updateLast Updated : 2025-12-18
Read more

#6

青年が帰ると、案の定気まずい空気になった。「あ、あの……」何から話すのがベストだろう。隠すところだけ布団で隠してるけど、この状況は本当に酷い。自分の今の姿は目も当てられないはずだ。「どういうことか説明してもらおうか」ランディは俯いたまま、顔を上げることができなかった。彼と目を合わせる資格がない。後ろめたさが勝って、唇を噛んだ。「最近、お前が複数の客と関係を持ってるって情報が入っててな。信じたくなかったんだけど」ウォルターは少しずつ歩みを進めて、ランディの前に膝をついた。「……本当だったみたいだな」「……っ」怖い。彼に心の底から失望されたと……わかってしまった。「って、おい? 泣いてるのか」ウォルターは目を見開く。確かに、自分は涙を流し、嗚咽していた。「泣くことないだろ。むしろ泣きたいのはこっちだよ」ウォルターは困ったように頬を掻くと、ランディの頭に手を当てた。「まさかこんな風に男と寝るなんて……襲われそうになったお前を助けた俺の行動は何の意味もなかったわけだ」息が詰まりそうな空間だ。ランディは彼のもっともな言葉に何も返せず、しかし涙も止まることなく流れ続けた。「強引に雇ったヴェルムにも非はあるけど、わかるよな? お前がした事は店の存続に関わる問題だってこと……俺もあいつも、前のオーナーが残してくれたあの店が大事なんだ。店を守るためなら何でもやる」「………」ウォルターの言葉に、静かに頷いた。彼らの大事なものを汚した自分は責任を取らなければいけない。迷惑をかけるだけかけた上での決断を。「ごめん……俺もう、店を辞めるよ。他に償えることがあれば、何でもする」ようやく発した言葉は何とも情けなかった。「本当に……本当にごめんなさい……」どれだけ憎まれても、どんな罰を受けても仕方ないと思った。しかしウォルターは落ち着き払った様子で、ランディを見据える。「……話してくれないんだな」その声には、少しだけど寂しさが漂っていた。「俺はよっぽどのことがなきゃ、お前がこんな事するとは思えないよ」ウォルターはランディの身体を引き寄せた。その温もりを感じて、また辛くなる。思わず彼の優しさにすがりつきたくなってしまいそうで怖かった。「したかった事があるんだ」消え入りそうな声で、ランディは言った。「恋人の真似事みたいな……」「
last updateLast Updated : 2025-12-19
Read more

#7

人と繋がるのは、怖い。関係は不安定で老朽化した吊り橋だ。嫌われたり、好かれたり、その繰り返し。嫌だけど、それでも最後は誰かと繋がりたい。「ランディ?」名前を呼ばれた瞬間、暗かった周りが明るくなった。いや、元々周りは明るかった。闇を錯覚したのは、ずっと瞼を閉じていたせいだ。あれ。俺寝てた……。ランディは見覚えのある……店の休憩室で目を覚ました。確か、仕事に戻ったウォルターを待っていて……。「ランディ!」少し強い調子で名前を呼ばれ、ランディは身体を震わせた。目の前には、心配そうにこちらを見つめる恋人の姿。「あ……ウォルター。仕事終わったの?」「だいぶ前にな。でもお前が全然起きそうにないから……」声をかけた、とウォルターはソファに座った。「そっか、ごめん。ねぇ、ところでウォルターは」ランディは瞬きもせずに宙を見た。「何で俺と付き合うのOKしてくれたんだっけ?」「………」その質問の後、沈黙が流れた。「ウォルター、聞いてる?」「聞いてるけど……何だ、唐突に。寝惚けてるのか」ウォルターは少し心配そうにランディの隣へと移動した。「夢見てたんだ。ウォルターとまだ付き合う前の夢」あんな夢を見た原因は分かってる。店の廊下でウォルターと話していた時が、本当に不安で仕方なくって。まるで彼に告白した時のような、胸が押しつぶされそうな心境だったんだ。「思えばウォルターにはたくさん迷惑かけたなぁと思って」「確かにお前は手のかかる奴だよ。現在進行形で」彼は苦笑してから、前に屈んだ。「恋愛沙汰に発展するかどうかは俺自身分からなかったけど、あの時のお前は冗談抜きで消耗してたからな。ほっとけなかったよ」「うん」「ヴェルムを忘れるぐらい、お前のことばっかり考えていたから。俺の役目は、お前を支えることだと思って……って、こんな話、恥ずかしいからやめようか」ウォルターは珍しく顔を赤くして、額に手を当てた。それが逆に面白く、笑ってしまう。「いいじゃん。もっと聞かせてよ」「……」ウォルターは身を乗り出して、ランディの頬にキスをした。「いいけど、後でな。最近は本当に歯止めがきかなくて、俺も困ってるんだ。お前にもっと触りたくて」互いの指が絡まり合う。二人の息が、熱で溶け合った。「こんな場所でやって大丈夫かな。ヴェルムに見つかったら今度こそク
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

【3】

今日も店はいつも通りだ。客と店員の会話を除けば、耳に入るのはBGMぐらいのもの。ヴェルムは軽くホールを覗き、裏へ引っ込んだ。パソコンの電源を入れ、酒や食材等の物品の発注をする。今日はシフトの作成やスタイリストの手配など、事務的なことしかしない。そういえばまた近くに新しい店が出るらしい。場所によるが、それなら挨拶に行かないと。ここは競争社会。近隣にも目を配らないと取り残される。昔から乱れた区域だが、これからも変わることはなさそうだ。売上を見ながらマウスを叩いてると、一人のスタッフがカウンターに入ってきてヴェルムの耳元に囁いた。「ヴェルム、三番テーブルの客が呼んでるよ」「トラブル?」一瞬、鼓動が速まる。しかし彼は首を横に振った。「そういう感じじゃないな。挨拶をしたいんだと。お前を名指しで呼んでるんだ。知り合いじゃないのか?」ヴェルムは奥に入り、監視カメラで確認した。「知らないな。見たこともない」「一見さんだよ。紹介も特になかった」「分からないけど、行くしかないか。さっきホールに出てるから居留守は使えないし」ヴェルムは身なりを整えると、指定された席へと向かった。少しして到着すると、そこには店員の女性が二人、そして客の男性が二人座っていた。態度や様子から、この二人は仕事繋がりだと推察する。眼鏡をかけた男性は姿勢が良い。緊張しているようだ。女性に対してではない。恐らく、もう一人の男に対して。その男は、癖のあるブロンドと非常に整った顔をしており、気品があった。仕事でもプライベートでも相当なやり手だろう。穏やかな笑顔を浮かべているが、相手をよく観察しているような視線が纏わりつく。こういう人間は大抵、自分に絶対的な自信を持っている。自分も似たような類だけど、共感はできても意気投合するとは思えない。ヴェルムは一瞬の間にこのような妄想をするのが楽しくなっていた。「お待たせいたしました。何かお困りでしょうか」「初めまして。わざわざ呼びつけてしまって申し訳ありません」彼は声まで魅力的、女性を虜にしてしまいそうなバリトンボイスをしていた。「ここは居心地のいい店ですね。非常に満足しています。……ですからもう少し寛ぎたくて。時間、閉店まで伸ばせませんか?」「あぁ、問題ありません。ありがとうございます」ウチは時間制だ。確かにこのテーブルの客はそろ
last updateLast Updated : 2025-12-21
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status