「やっぱり、無理があったかな」クリストの低い声が広々とした応接室に響く。先程ヴェルムに電話で話した内容は、ランディの立てた作戦。彼を誘き出す為の単純なもので、全て演技だ。彼が居なくなった店で今度はクリストがオーナーになるという計画。安易なフェイクとはいえ、それは彼が一番望まない形だろう。自分が逃げた店で、自分の弱味を知る人間が働くなんて。「ヴェルムは来ないと?」クリストが呟く横で、ウォルターが諦め気味に問いかける。彼らの目の前のテーブルに、グラスが三つ並んだ。「うーん、でもさ。要は恋人のクリストさんと、自分のプライドを天秤にかけてる状態でしょ」ランディはスクリューキャップを豪快に外してワインを注ぐ。「今クリストさんを止めに来ないと、二人の仲に亀裂が生まれるのは明らかでしょ?」「それは……」そうだ。そうだと良い、とクリストは頬杖をついて嘆息をもらす。ヴェルムは職場の人間全員と音信不通にしている。ここに来ることがどれだけ厚顔無恥な行為か理解してるはずだ。何より、プライドの塊のような青年だ。そのプライドをズタズタにしてまで、果たして自分に会いに来るのか。……その価値が自分にあるのか、分からないというのが実状だった。「あー、でももうけっこう経つのに来ないね。これじゃホントにクリストさんにオーナーをやってもらう事になるかな」ランディは壁にかかった時計を見て、冗談ぽく呟く。「いや、だから俺は…」やっぱり……来ないのか?クリストが口元を隠した瞬間、ドアの開く音がした。「へぇ。誰がオーナーをやるって」部屋に響いた聞き慣れた声に、クリストは思わず立ち上がる。開け放たれたドアの方を注視した。「ヴェルム!」そこにいたのは間違いなく彼だった。予想が的中したことが予想外に嬉しくて、つい笑ってしまう。「おい! お前なに勝手に上がり込んでんだ!」すると彼の後ろから、激昂したレイグールがやってきた。恐らく強引に店内に入ってきたんだろう。「レイグール、落ち着いて」ウォルターが間に入って彼を宥めるが、あまり意味を成さない様子だ。ランディは逆に助長して、彼を煽り出す。「まぁまぁ。ウォルター、止めなくてもいいじゃん。乱闘してもそれはそれで面白いし」「ランディ、お前も俺にケンカ売ってんのか?」「いーえ。思ったことを言っただけです」「なんだとこのガ
Last Updated : 2025-12-12 Read more