All Chapters of 感情を失くした男の恋 ~彼女が教えてくれた人間らしさ~: Chapter 1 - Chapter 10

15 Chapters

第1章:運命の出会い

 テキサスの朝日は容赦がない。九月の終わりだというのに、午前八時の陽光は既にアスファルトから立ち上る陽炎を生み出していた。ロガン・キャロルは黒いメルセデスSクラスの助手席で、タブレットに表示された地図を見つめていた。セダー・ヒル地区——オースティン北部郊外の、樫の木が点在する丘陵地帯。 彼の会社「キャロル・ホライゾン」が買収した1,200エーカーの土地の中心部に、33軒の既存住宅が散在していた。「ロガン、本当に自分で行くのか?」 運転席のジェームス・ウォーカーが訝しげに尋ねた。45歳のビジネスパートナーは、ロガンが現地交渉に自ら出向くことを不思議がっていた。通常、こうした「面倒な作業」は専門のブローカーに任せるものだ。「このプロジェクトは違う」 ロガンは感情の読み取れない声で答えた。彼の顔は彫刻のように整っているが、表情筋が動くことは稀だった。40歳の台湾系アメリカ人は、不動産業界で「冷血のキャロル」と呼ばれていた。それは侮蔑ではなく、ある種の畏敬を込めた呼称だった。「市の再開発計画の象徴的プロジェクトだ。失敗は許されない」「それで、一軒一軒回るわけか」 ジェームスは肩をすくめた。 車は丘の頂上に位置する住宅街に入った。道路は舗装されているが、幅は狭く、両脇には古い郵便受けが立ち並んでいた。1990年代に建てられたと思われる一戸建てが、広い敷地にゆったりと配置されている。テキサス特有の赤レンガと白い柱を組み合わせた、いかにもアメリカ南部的な住宅だ。 最初の訪問先は、リストの17番——モンゴメリー家。 車が停まると、ロガンは躊躇なくドアを開けた。灼熱の空気が一気に車内に流れ込む。彼は完璧に仕立てられたネイビーブルーのスーツを着ており、白いシャツの襟元には小さなタイピンが光っていた。 敷地に入ると、すぐに声が聞こえた。「ちょっと待って! そっちじゃなくて、左よ、左!」 明るく、弾むような女性の声。ロガンは声のする方向——家の裏手の庭——に向かった。 そこで彼が目にしたのは、黄色いサンドレスを着た女性だった。膝まである裾が風に揺れ、肩にかかる栗色の髪が陽光を反射している。彼女は土まみれのガーデニンググローブをはめ、バラの植え込みの前で腰を屈めていた。 女性の横には、70代と思われる老夫婦がいて、段ボール箱を運んでいた。「グレース、これで
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

第2章:抵抗の始まり

 会議室のホワイトボードには、セダー・ヒル地区の詳細な地図が投影されていた。33軒の住宅が赤い点で示され、そのうち12軒には既に緑のチェックマークがついていた。買収合意済み。「進捗は順調です」 ジェームスがプレゼンテーションを進めた。会議室には、キャロル・ホライゾンの主要幹部5名と、市の都市開発局の担当者2名が座っていた。「12軒が合意、7軒が交渉中、残り14軒がまだ未接触です。予定では、年内に全ての買収を完了——」「問題がある」 ロガンが口を挟んだ。彼は窓際に立ち、オースティンのスカイラインを眺めていた。「17番住宅——モンゴメリー家が、組織的な抵抗運動を始めている」 スクリーンに新しい画像が表示された。フェイスブックのグループページだった。「セダー・ヒル住民保護協会」というタイトルの下に、グレースの顔写真が見えた。「3日前に設立されたグループです。既に284名のメンバーがいます。地元メディアも注目し始めています」 ジェームスがクリックすると、ローカルニュースのウェブサイトが表示された。見出しには「大企業vs.地域コミュニティ——オースティン郊外で買収反対運動」とあった。 記事の中心には、グレースのインタビュー動画があった。 ロガンは「再生」をクリックした。 画面の中のグレースは、前回ロガンが会った時とは違う雰囲気を纏っていた。化粧は控えめで、服装もシンプルな白いブラウスとジーンズ。だが彼女の目には、強い決意が宿っていた。「私たちの家は、単なる不動産ではありません」 グレースは落ち着いた声で話していた。「ここには、何十年もの思い出が詰まっています。子供たちが育った場所、家族が笑い合った場所、愛する人との最後の時間を過ごした場所です。大企業が数字だけで判断できるものではないんです」 カメラが引くと、グレースの背後に他の住民たちが立っているのが見えた。老夫婦、若いカップル、子供を抱いた母親。「私たちは法的手段も辞さない覚悟です。弁護士を雇い、必要なら市議会にも訴えます。この地域は、お金では買えないものなんです」 動画が終わった。 会議室に沈黙が流れた。「これは……厄介ですね」 市の担当者の一人が呟いた。「メディアが絡むと、政治的な問題になります。市長選も近いですし——」「問題ありません」 ロガンが振り返った。「法的に
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

第3章:日常的な衝突

 セダー・ヒル地区のメインストリートには、小さなカフェがあった。「ブルーボネット・コーヒー」——テキサス州の州花にちなんだ名前の、地元住民に愛される店だ。 ロガンはそこで、毎日午後3時に仕事をするようになっていた。理由は単純だった。この場所から、セダー・ヒル地区の全体が見渡せるからだ。測量チームの動き、住民の反応、そしてグレース・モンゴメリーの行動——全てを観察できる。 少なくとも、それが彼が自分に言い聞かせている理由だった。「また来たの?」 3週間目のある水曜日、グレースがカフェに入ってきた。彼女は白いTシャツにデニムのショートパンツという軽装で、髪を後ろで一つに束ねていた。 ロガンはラップトップから目を上げなかった。「公共の場所です。誰が来ても問題ありません」「あなたにとって、ここは『観察ポイント』でしょ? 私たちを監視するための」 グレースはロガンのテーブルに近づいた。「監視ではありません。業務上必要な現地調査です」「毎日3時間も?」 彼女は皮肉っぽく笑った。「あなたの会社、よほど暇なのね」 ロガンは初めて彼女を見た。グレースの顔には、以前のような悲しみはなかった。代わりに、戦闘的な輝きがあった。「モンゴメリーさん、私たちの交渉を感情的にする必要はありません」「感情的?」 グレースは目を見開いた。「あなたが私たちの家を奪おうとしているのに、感情的になるなって? それ、本気で言ってるの?」「奪うのではありません。適正価格で買収するだけです」「適正価格……」 グレースは深呼吸した。「あのね、キャロルさん。世の中には、お金で測れないものがあるの。あなたには理解できないかもしれないけど」「全ての物には価格があります」「じゃあ、あなたの心の価格は?」 ロガンは沈黙した。「あ、ごめんなさい」 グレースは大げさに口を覆った。「あなた、心なんて持ってないんだっけ」 彼女はカウンターに向かい、コーヒーを注文した。ロガンは再びラップトップに視線を戻そうとしたが、なぜか集中できなかった。 グレースは注文したコーヒーを受け取ると、再びロガンのテーブルに近づいた。「一つ聞いてもいい?」 ロガンは答えなかったが、グレースは構わず続けた。「あなた、友達いるの?」「ビジネスに友達は不要です」「そう。家族は?」「プライベー
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

第4章:亀裂

 ロガンのオフィスは、オースティン中心部の高層ビルの35階にあった。床から天井まである窓からは、街全体が見渡せた。だが、ロガンが最近見ているのは、オースティンではなく、セダー・ヒル地区の地図だった。「これを見てくれ」 ジェームスが会議室に入ってきた。彼の手には、厚いファイルがあった。「何ですか?」「グレース・モンゴメリーについての詳細調査結果だ」 ロガンは一瞬、躊躇した。彼は2週間前、プライベート調査会社に、グレースの背景調査を依頼していた。表向きの理由は「交渉戦略の立案」だったが、本当の理由は——彼自身も説明できなかった。「報告してください」 ジェームスはファイルを開いた。「グレース・モンゴメリー、38歳。旧姓はグレース・アンダーソン。2003年にマーク・モンゴメリーと結婚。子供は2人——14歳の娘と12歳の息子。現在、子供たちは彼女の両親が養育している」「なぜ?」「それが……問題なんだ」 ジェームスは次のページをめくった。「マーク・モンゴメリーの死後、グレースは深刻な財政問題に直面した。マークは生前、オンラインギャンブルの借金を抱えていた。総額120万ドル」 ロガンの表情が変わった。「120万?」「ああ。グレースは夫の死後、初めてその事実を知った。債権者からの取り立てが始まり、彼女は自分の貯金、マークの生命保険、全てを使って返済した。だが、まだ40万ドルの借金が残っている」「セダー・ヒルの家は?」「テキサス州の家族住居法で保護されている。主要住宅は債権者から差し押さえできない。だから、あの家は彼女が持っている最後の資産なんだ」 ジェームスは ロガンを見た。「つまり、もし彼女があの家を失えば、文字通り何も残らない。子供たちを引き取ることもできなくなる」 ロガンは黙ってファイルを読み続けた。 グレースの銀行口座の残高——8,743ド
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

第5章:変化の兆し

 翌朝、ロガンはジェームスを呼び出した。「交渉条件を変更します」 ジェームスは驚いた表情で、ロガンを見た。「何を?」「モンゴメリー家の買収価格を、65万ドルから95万ドルに引き上げます。そして、退去期限を6ヶ月から18ヶ月に延長します」「ロガン……本気か?」「本気です」 ロガンは書類を差し出した。「今日中に、彼女に連絡してください」 ジェームスは書類を受け取ったが、すぐには見なかった。代わりに、ロガンの顔を凝視した。「昨夜、何があった?」「何も」「嘘をつくな。お前、何か変わった」 ロガンは窓の方を向いた。「……マークの墓に行きました」「そうか」 ジェームスは小さく笑った。「やっと行ったか」「ええ。そして、考えました。私たちのやり方を」 ロガンは振り返った。「ジェームス、あなたが昨日言ったことは正しい。私は、マークの死から逃げていました。感情的になることを恐れて」「それを認めるのか」「認めざるを得ません」 ロガンは椅子に座った。「マークは、生前、私に何度も言いました。『人間関係を大切にしろ』と。でも私は、それを無視しました。結果として、私は彼を失った」「そして今、彼の未亡人を追い詰めようとしていた」「ええ」 ロガンは深く息を吐いた。「それは……間違っていました」 ジェームスは書類を読み始めた。「95万ドル……これは、彼女の借金を全て返済できる額だ」「そうです。それが目的です」「でも、ロガン」 ジェームスは顔を上げた。「これは、単なる価格の変更じゃない。プロジェクト全体の利益率が下がる。投資家たちは—&mda
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

第6章:秘密の共有

 それから1週間、ロガンとグレースは毎日、ブルーボネット・コーヒーで会うようになった。最初は30分程度の会話だったが、次第に1時間、2時間と延びていった。 彼らは、マークについて話した。「マークは、どんな人でしたか?」 ロガンが尋ねると、グレースは遠くを見つめた。「マークは……優しくて、夢見がちで、時々馬鹿げたことをする人だった」 彼女は微笑んだ。「初デートの時、彼は私をピクニックに連れて行ったの。でも、食べ物を全部忘れてきたのよ。だから、私たちは空っぽのバスケットを前に、2時間も話し続けた」「それは……」 ロガンは言葉を探した。「ロマンチックですね」「そうでしょ?」 グレースは笑った。「マークは、完璧な人じゃなかった。でも、彼は私を笑わせてくれた。そして、私を愛してくれた」「彼は……ギャンブルのことを、あなたに話していましたか?」 グレースの笑顔が消えた。「いいえ。全く。死ぬまで、彼は隠していた」 彼女は深く息を吐いた。「それが……一番辛かったわ。彼が私を信頼していなかったこと。あるいは、私に負担をかけたくなかったこと。どちらにしても、彼は一人で抱え込んでいた」「あなたは……怒っていますか? 彼に」 グレースは少し考えた。「最初は怒っていた。裏切られたと感じた。でも、時間が経つにつれて……理解した。彼も人間だったってことを。完璧じゃなかった。間違いを犯した。でも、それでも私は彼を愛している」 ロガンは黙って聞いていた。「あのね、ロガン」 グレースは彼の目を見た。「人を愛するって、その人の完璧さを愛することじゃないの。その人の不完全さを受け入れることなのよ」 ロガンは、その言葉を心の中で反芻した。
last updateLast Updated : 2025-11-30
Read more

第7章:プロジェクトの転換点

  翌週、ロガンは大きな決断を下した。「セダー・ヒル開発プロジェクトの方針を変更します」 会議室には、キャロル・ホライゾンの全幹部、投資家代表3名、そして市の担当者が集まっていた。 スクリーンには、新しい開発計画が表示された。「既存住宅の一部——5軒——を保存し、プロジェクトに統合します」 会議室がざわめいた。「ロガン、それは……」 投資家の一人が立ち上がった。「利益率が大幅に下がるぞ。当初の予測では、全ての土地を更地にして、最大限の住宅を建設する計画だった」「わかっています」 ロガンは冷静に答えた。「新しい計画では、利益率は当初の予測より12%下がります。しかし、長期的には——」 彼は次のスライドを表示した。「この計画は、『歴史保存型開発』として、市から特別な税制優遇を受けることができます。また、企業イメージの向上により、将来的なプロジェクトでの優位性が得られます」 別の投資家が尋ねた。「でも、なぜ今? 既に全ての許可が下りている。強行することもできたはずだ」「できました」 ロガンは認めた。「しかし、それは短期的な視点です。私たちは、長期的な価値を追求すべきです」「長期的な価値って、具体的には?」「コミュニティとの関係です」 ロガンは会議室を見回した。「私たちは、単に建物を建てているのではありません。人々が住むコミュニティを作っているのです。もし、私たちが地域住民を敵に回せば、そのコミュニティは決して成功しません」 ジェームスが口を挟んだ。「ロガンの言う通りだ。実際、メディアの報道を見てくれ」 彼は別のスクリーンに、最近のニュース記事を表示した。「『大企業vs.地域住民』という対立構造は、既に形成されている。このまま強行すれば
last updateLast Updated : 2025-12-01
Read more

第8章:親密さの深化

 プロジェクトの方針変更は、メディアで大きく取り上げられた。 「キャロル・ホライゾン、地域との共生を選択」「冷血の不動産王、心を取り戻す?」 ロガンのオフィスには、取材依頼が殺到した。だが、彼は全て断った。「メディア対応は、広報部に任せてください」 彼がジェームスに言った。「私は、プロジェクトの実行に集中したい」 だが、本当の理由は別にあった。 彼は、グレースと過ごす時間を大切にしたかった。 それから2ヶ月、ロガンとグレースの関係は深まっていった。 彼らは毎日、どこかで会った。カフェ、グレースの家、時にはロガンのオフィス。 グレースは、ロガンに「普通の生活」を教えた。「ねえ、今日は料理を教えてあげる」 ある土曜日、グレースがロガンをキッチンに引っ張り込んだ。「料理……ですか?」「そう。あなた、いつも外食かデリバリーでしょ? それじゃ、人生の半分を損してるわ」 グレースは彼にエプロンを渡した。「パスタを作りましょう。一から」 ロガンは、生まれて初めて、小麦粉をこねた。グレースが隣で指導してくれた。「そう、もっと力を入れて。生地が滑らかになるまで」 30分後、キッチンは小麦粉まみれになっていた。ロガンのスーツも、グレースのエプロンも、白く染まっていた。「これは……災害ですね」 ロガンが呟いた。「災害じゃなくて、経験よ」 グレースは笑った。「ほら、生地ができたわ。これをパスタマシンに通すの」 完成したパスタは、不格好だったが、美味しかった。「これを……私が作ったんですか?」 ロガンは信じられない表情で、自分の皿を見た。「ええ。初めてにしては上出来よ」 グレースは彼の肩を叩いた。「料理って、人生のメタ
last updateLast Updated : 2025-12-02
Read more

第9章:秘密の暴露

 全てが順調に進んでいるように見えた。 プロジェクトは計画通りに進行し、グレースとロガンの関係も深まっていった。二人は、まだ正式に「恋人」とは名乗っていなかったが、誰の目にも明らかだった。 だが、幸福は長くは続かなかった。 ある水曜日の午後、グレースはロガンのオフィスを訪れることにした。サプライズで、彼にランチを持っていくつもりだった。 受付で、彼女は秘書に案内された。「キャロルさんは、会議室にいらっしゃいます。ジェームスさんと話しているところですが、すぐに終わると思います。少しお待ちいただけますか?」 グレースは、会議室の隣の待合室に案内された。 そこで、彼女は聞いてしまった。 会議室のドアは、完全には閉まっていなかった。そして、ジェームスの声が漏れてきた。「ロガン、これを見てくれ」 紙をめくる音。「これは……3ヶ月前の記録だ。お前が、プライベート調査会社にグレース・モンゴメリーの調査を依頼した時の記録だ」 グレースの心臓が、激しく鼓動し始めた。「それが何ですか?」 ロガンの声。「何だって? お前、彼女の全てを調査したんだぞ。銀行口座、借金、子供たちの学校、両親の住所……全部だ」「それは、交渉戦略のためでした」「交渉戦略?」 ジェームスの声が厳しくなった。「お前、最初は彼女の弱みを握ろうとしたんだろ? 彼女を追い詰めるために」 沈黙。「そうです」 ロガンの声が、かすかに震えた。「最初は、そのつもりでした。でも——」「でも、その後で心変わりした。わかってる。でもな、ロガン。問題は、お前が彼女にこの事実を話したかどうかだ」「……話していません」「なぜだ?」「どう説明すればいいかわからなかったからです。私が最初、彼女を支配しようとした
last updateLast Updated : 2025-12-03
Read more

第10章:崩壊

 翌日、ロガンはオフィスに行かなかった。 ジェームスが彼の自宅を訪れた時、ロガンはソファに座り、ぼんやりと窓の外を見ていた。「ロガン……」 ジェームスは、友人の様子に衝撃を受けた。 ロガンは、いつものスーツではなく、Tシャツとジーンズを着ていた。髪はぼさぼさで、顔にはひげが生えていた。「お前、風呂に入ったか?」「わからない……」 ロガンの声は、虚ろだった。「食事は?」「食べる気がしない……」 ジェームスは、キッチンを見た。シンクには、手つかずの食器が積まれていた。「ロガン、これは……まずいぞ」「何が……?」「お前の状態だ。こんなお前、見たことがない」 ロガンは、初めてジェームスを見た。「これが……『感情』ですか?」「何?」「これが、人間が感じる『苦しみ』ですか?」 ロガンの目には、涙が浮かんでいた。「胸が痛い。呼吸が苦しい。何も考えられない。これが……感情?」 ジェームスは、ロガンの隣に座った。「ああ、それが感情だ。辛いだろ?」「辛いです」 ロガンは頭を抱えた。「でも、これは……私が望んでいたものですよね? 感情を取り戻すこと。人間らしくなること」「そうだ」「なら、なぜこんなに苦しいんですか?」 ジェームスは、ため息をついた。「ロガン、感情ってのは、良いものだけじゃない。幸福、喜び、愛情……それらは素晴らしい。でも、同時に、悲しみ、苦しみ、絶望……それらも感じるようになる」「それなら……感情なんて、ない
last updateLast Updated : 2025-12-04
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status