テキサスの朝日は容赦がない。九月の終わりだというのに、午前八時の陽光は既にアスファルトから立ち上る陽炎を生み出していた。ロガン・キャロルは黒いメルセデスSクラスの助手席で、タブレットに表示された地図を見つめていた。セダー・ヒル地区——オースティン北部郊外の、樫の木が点在する丘陵地帯。 彼の会社「キャロル・ホライゾン」が買収した1,200エーカーの土地の中心部に、33軒の既存住宅が散在していた。「ロガン、本当に自分で行くのか?」 運転席のジェームス・ウォーカーが訝しげに尋ねた。45歳のビジネスパートナーは、ロガンが現地交渉に自ら出向くことを不思議がっていた。通常、こうした「面倒な作業」は専門のブローカーに任せるものだ。「このプロジェクトは違う」 ロガンは感情の読み取れない声で答えた。彼の顔は彫刻のように整っているが、表情筋が動くことは稀だった。40歳の台湾系アメリカ人は、不動産業界で「冷血のキャロル」と呼ばれていた。それは侮蔑ではなく、ある種の畏敬を込めた呼称だった。「市の再開発計画の象徴的プロジェクトだ。失敗は許されない」「それで、一軒一軒回るわけか」 ジェームスは肩をすくめた。 車は丘の頂上に位置する住宅街に入った。道路は舗装されているが、幅は狭く、両脇には古い郵便受けが立ち並んでいた。1990年代に建てられたと思われる一戸建てが、広い敷地にゆったりと配置されている。テキサス特有の赤レンガと白い柱を組み合わせた、いかにもアメリカ南部的な住宅だ。 最初の訪問先は、リストの17番——モンゴメリー家。 車が停まると、ロガンは躊躇なくドアを開けた。灼熱の空気が一気に車内に流れ込む。彼は完璧に仕立てられたネイビーブルーのスーツを着ており、白いシャツの襟元には小さなタイピンが光っていた。 敷地に入ると、すぐに声が聞こえた。「ちょっと待って! そっちじゃなくて、左よ、左!」 明るく、弾むような女性の声。ロガンは声のする方向——家の裏手の庭——に向かった。 そこで彼が目にしたのは、黄色いサンドレスを着た女性だった。膝まである裾が風に揺れ、肩にかかる栗色の髪が陽光を反射している。彼女は土まみれのガーデニンググローブをはめ、バラの植え込みの前で腰を屈めていた。 女性の横には、70代と思われる老夫婦がいて、段ボール箱を運んでいた。「グレース、これで
Last Updated : 2025-11-27 Read more