すると、客席で食事をしていた静香が、クスっと笑った。「あなたの目は本当に節穴なのね!」いきなり罵声を浴びせられ、翼はむっとした。「山田さん、年上の方なので敬意は払いますが、俺の晴れの日に水を差すのはやめてください」「水を差してるだって?そう思いたいのなら、それでもいいわ」そう言って静香は立ち上がり、くるりと背を向けて出て行った。だけど、翼は彼女を気にすることなく、宴会が終わると花嫁を連れて家に帰った。「若葉、結婚したからには、はっきりさせておきたいことがあるんだ。俺が薫に優しくするから、君がやきもちを妬いてたのは知ってる。でも、俺と薫の間にはやましいことなんて何もないんだ。彼女は俺の命の恩人で、ここには他に身寄りもいない。だからこれからは、薫も俺たちの家で一緒に住まわせておこうと思っているんだ。若葉、君はそれを承諾してくれるよな」すると、向かいに座っていた花嫁は、恥ずかしそうに頷いた。翼の心は、とろけるように甘くなった。やっぱりだ。結婚式の今日なら若葉も機嫌がいいから、きっと同意してくれると分かっていた。そう思いながら、翼は、そっとベールをめくった。次の瞬間、彼は車椅子から転げ落ちそうになった。てっきり若葉だと思っていたのに、ベールをめくって彼は、初めてそれは薫だったと気が付いたのだ。「薫、どうして君が……」薫は恥ずかしそうに翼を見つめた。「翼さん、さきからずっと私だったよ!」それを聞いて、翼は顔面蒼白になり、ふるえる手で車椅子を動かした。「違う、何かの間違いだ。若葉を探さないと!」すると、薫のはにかんだような表情が、ぴしりと固まった。彼女は悔しさに歯を食いしばり、去ろうとする翼の前に立ちはだかった。「翼さん、行かないで!ピアスを届けに行ったときに知ったの。若葉さんはあなたのことを見限って、他の男と駆け落ちしたのよ!」だけど、翼は信じようとしなかった。「ありえない、若葉が俺にそんなことをするはずがない!」事故に遭ってからというもの、若葉はずっと親身になって世話をしてくれた。自分のために、わざわざ足のマッサージ法まで勉強しに行ったくらいだ。そんな彼女が、自分を見限るなんてことがあるだろうか?しかし、感覚のない自分の両脚を見下ろし、翼はまた劣等感に襲われた。
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