「ピー……、ピッ、ピッ……」手術台の上で、すでに二時間手術をしている透也が、心拍測定器に再び波動が現れるのを見て、そっと安堵の息を吐いた。よかった、目覚めた。見慣れた真っ白な天井を見て、私は再び自分の強さに感謝した。乗り越えられたのだ。しばらくして、透也が白衣を着て入ってきた。彼を見た瞬間、私は急いで口を開いた。「退院したい」透也は、彼のスマホの画面に現れたショートメールを一目見て、頷いた。彼がまた説得してくると思ったのに、彼は「分かった」と言った。私は驚きの表情をしていたが、彼は淡々としている。「でも、条件がある。俺も連れて行け」本気で言ってるの？「でも透也は、パスポー……」トの字がまだ口から出ないうちに、言葉が途切れた。彼の上着のポケットから少しだけ覗いている紅色のそれを見たからだ。まあいいか。この人はやはり準備万端だったようだ。サン・マルコ広場に身を置き、その神秘と独特な魅力が、身も心も直撃する。真っ白な鳩の群れ、行き交う人の流れ、カーテンから忍び込む朝の光、心に染み入る鐘の音、今にも倒れそうな遥、この瞬間の全てが、美しかった。「透也、最後にお願いがあるの。この美しい場所に永遠にいたい。私を病院に連れて帰らないで」「分かった」――周防蒼介 番外編俺は、周防蒼介だ。年齢は24歳。いつからか、かつて最も愛していた人を見るのが、どんどん嫌になっていった。以前はあんなに気弱で人を憐れませる存在だったのに、どうして徐々に理不尽に騒ぎ立てるだけの、辛辣な悪妻に変わっていったのか。その後の歳月の絶え間ない喧嘩の中で、ついに我慢の限界に達し、家に帰らなくなり、酒に溺れて、好き勝手に楽しむようになった。ある日の講演で、一人の女の子に出会った。かつての遥にそっくりだった。気弱でありながら強く、善良で明るい少女だ。思わず、彼女に声をかけた。彼女と過ごす毎日は、まるで18歳に戻ったようだった。遥が離婚を騒ぎ立てた。最初は気にも留めず、またいつもの理不尽な騒ぎだろう、目を引きたいだけだと思った。でも今回、彼女は異常なほど断固としていて、裁判所に訴えて強制離婚まで辞さなかった。俺は慌て始めた。騒がれるのは辟易としていたが、でも彼女に離れてほしいなんて一度も思ったこと
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