彼の朝は早い。日が昇ると共に起き、朝食の準備を始める。といっても用意するものは前日から仕込んでおいたところに取りに行くだけだ。寝床から用意した場所まで行くまでの間は、彼の周囲は多少湿った草花と土の香りが僅かに漂い、仄かに朝露を連想させる霧が薄く立ち込めていた。霧を掻き分けて少し、川のせせらぎが聞こえてくる。ここで大きな欠伸を一つ。日々の習慣とはいえ、眠いものは眠い。用意していた仕掛けに到着。仕掛けと言っても罠や餌でもなく、ただ単純に川の水を一部頂いているに過ぎない即席のダムと言っていいだろう。到底一人では成し得ない、ましてや一夜で用意するなど真っ当な手段では難しい規模の即席ため池がそこにはあった。「今日は見やすくていいね」池の中の水は透き通り、自然の恵みが惜しみなく流れ込んでいる。狙い通り魚が四、五匹池に迷い込み、池の外周を泳ぐ。スッと右手を魚に方に向け、指先に意識を向けると、体を包んでいる自然魔力が指先に僅かに集まり、集中しなければ見えないほど細長い糸が魚目掛けて伸びてゆく。その糸と形容するものが空中を真っ直ぐ伸びてゆき、水中に入ってからも真っ直ぐ魚に向かって伸びる。着水しても水飛沫は立たず、泳いでいる魚はその糸に気づかない。泳ぐ魚を追跡するように伸びた魔力糸が魚に命中すると同時に、彼が纏っていた自然魔力と同様のオーラが魚を包む。「よっと」掛け声と同時に空中に引っ張られるように魚が自ら飛び出てくる。その数は池にいた魚全て。朝食用に二匹見繕い、まだ成長していない魚はそのまま川にリリース。魔力糸と接続が切られた魚が再び元気に川を泳いでいく。魚と接続している魔力糸が出ている手とは反対に、左手からも魔力糸を出してゆく。その数実に二十本。川の流れの一部を拝借して作った池を無くす作業だ。魔力糸が石へと伸びてゆく。石に接続した魔力糸は、石から石へと更に広がり、一度に接続した石は大小様々で百個は下らないだろう。数秒も経たないうちに石が池に入ってゆき、瞬く間に池だった場所が河原へと還る。一つだけ接続を残された石が、それよりも大きい岩に向かって急加速を始め、勢いよく衝突する。ガキィンと大きな衝突音と共に石が割れ、鋭利な破断面が顕になった。簡単な石包丁が出来たら、後は魚の腸抜きを空中で行ってゆく。石包丁の操作を誤ると中の腸が傷つき、
Huling Na-update : 2025-11-27 Magbasa pa