All Chapters of 憑依転生〜私を断罪した男の溺愛に抗う: Chapter 21 - Chapter 30

48 Chapters

第20話:運命共同体

広い豪邸。噂では、時価百億とも言われているが、見るからにそれ以上に見える。ただ、蒼史の家族は見当たらず、普段は家政婦しか出入りしてないらしい。彼女はご馳走を用意するだけして、自分専用の離れに引っ込んでいった。広すぎるリビングの真ん中の棚上に、一色グループの創業一家が並んで映った写真がある。その横に、一色蒼史とその家族の写真も飾ってあった。「今現在、ここには俺しか住んでいない。」終始ご機嫌な蒼史と、ずっと緊張しっぱなしの私。一秒たりとも気が抜けない。油断なんて、できない。もし“凛音”のくせでも出ようものなら、即ゲームオーバー。とはいえ、この男が凛音に興味があったとは思えないけれど。警戒するに越したことはない。長いテーブルを挟み、私たちは共に食事をした。私は消化にいいメニューばかり。対する蒼史は、ステーキなどを上品に食べている。さすが、創業一家の孫。でもまさか毎晩ステーキとかじゃないわよね……「一……蒼史さんは、ご結婚はされてないんですね。」箸を動かしながら、私はなんとなく蒼史に尋ねた。彼の眉がぴくりと動く。「ああ、まあな。」「優秀な一色キャピタル・マネジメントのCEOで、一色グループ創業者の孫。おまけに優秀な経営手腕をお持ちだと聞きましたが。結婚の話は引く手数多でしょうに。失礼ですが、なぜ結婚されないのですか?」確か蒼史は、去年三十歳になったはず。婚約者がいたと聞いたこともあるが、それも、かなり前の話だ。「へえ。詳しいんだな。さすが、贋作を調べていただけのことはある。」褒めるように蒼史は唇を動かした。なぜ、さっきから目が輝いているのかはわからないが。「……調査は基本です。」気をつけて、光咲。
last updateLast Updated : 2026-03-06
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第21話:彼女が消えてから(蒼史side)

高遠凛音が会場に入ってきた瞬間に――俺は思わず、目を奪われた。その夜、とある高級ホテルで、多くの企業家や資産家などが集まる、合同チャリティーパーティーが開かれていた。こういった場への参加は、企業同士の繋がりや、人脈作りには欠かせない。招待された者だけが参加できる、まさに特別な場。その会場に、鷹司朔夜と共に現れたのが彼女だった。あの男と肩を並べても、忖度ないほどの美貌の持ち主。高身長に、落ち着いたライトブラウンの長い髪。凛としていながら、目元は穏やか。シンプルなカクテルドレスを身に纏いつつ、鷹司朔夜の隣で、確かな輝きを放つ。俺は遠目に彼女を眺めながら、秘書に尋ねた。「おい、あれは誰だ?……鷹司朔夜の隣にいる、あの女は。」「ああ、あれは高遠凛音ですね。 鷹司朔夜の婚約者で、高遠物産の一人娘です。」秘書は、素早く俺に耳打ちをした。「ふうん。」「代表?まさか、彼女に興味を持ったなんてことはないですよね?」なにかを察したかのように、秘書は怪訝な表情を浮かべた。「やめて下さいよ?あの鷹司朔夜の婚約者ですよ。間違っても手を出さないでくださいね!」まだ何もしてないのに、いきなり忠告を受ける。失礼だな。どれだけ手が早いと思われてるんだ。「分かってるよ。 いくら俺でも、あの男の女に手は出さない。」ゆっくりと、アルコールが入ったグラスを揺らし、俺はあの男を、睨むように見つめた。鷹司朔夜――俺とまったく気が合わない、嫌な男。もともと、企業同士がライバル関係にあったのもある。だが、それ以上に、あの男のビジネスのやり方が単純に好きじゃない。いや、何より人を蔑むようなあの目線が気に食わない。俺はお前より優れてるんだぞ、という目をしているから、余計に。とにかく、俺はあいつが嫌いだ。だから……なぜ、そんな男
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第22話:気になる存在(蒼史side)

凛音が死んでから、とにかく奴の無茶苦茶な買収攻勢が続いた。鷹司朔夜に文句の一つでも言ってやらないと気が済まないと、俺はアポもなしに鷹司ホールディングスに乗り込こんだ。「代表……!どうか落ち着いて……!」正面玄関前に堂々と着けた車から降りた俺を、秘書が慌てて追ってくる。「落ち着けだと?あれだけのことをされて落ち着いていられるなら、俺はかなり間抜けな経営者だな。」鼻で彼を一蹴しながら、俺は怒り任せに、まるで城のように聳え立つ巨大なビルを見上げた。このビルをすべてあいつが仕切っているかと思うと、ひどく恨めしい。そうして俺が、怒りを携えたまま、正面玄関前に差しかかると――玄関の扉から、外側に出ようとしている人物とすれ違った。見たこともない女。一瞬目が合った。――本当に、ただの一瞬だ。それなのに、俺はその女の存在が妙に気になった。“引っかかる”とでもいうか。髪は清楚感のある黒で、ミディアムヘア。まるで武装でもしてるかのように化粧は濃く、服装はブランド品で固めている。近寄りがたい雰囲気。だが、どこか優雅だ。瞳の色が……その眼差しが。まるで突き刺すように、俺を捉える。そう――まるで、“彼女”みたいに強い……いや、馬鹿げている。俺は冷静になり、視線を逸らした。また、女も俺には何の興味も示さないように、背を向けて去ってしまった。一瞬立ち止まって振り返る。「……代表?」だが、すでに彼女の姿はそこにはなかった。秘書がやきもきした様子で俺を引き止める。「……さっきの女は、誰だ?」無意識にそう口にすると、す
last updateLast Updated : 2026-03-29
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第23話:密談

朔夜に連絡を入れたのは、家族オフィスに通されたあの日から、一週間後のことだった。その間私は、蒼史との本格的な取引を成立させていた。 「朔夜の弱みになりそうな情報」を逐一彼に提供する代わりに、蒼史は私に資金と、外部ネットワークを提供すると約束した。私は深く息を吐き、電話のコールボタンを押す。「この前は大変失礼をしました。 ……急な用事が入り、タクシーを呼んだことを失念していました。 何度もお電話を頂いたようで、大変申し訳ありません。」朔夜の声は明らかに不機嫌だったが、ビジネスライクに切り返してきた。「無事ならいい。だが、いくら仮契約とはいえ、ビジネスパートナーとして連絡の不備だけは今後避けてくれ。」「本当にご心配をおかけしました。」とにかく、失敗を重ねるわけにはいかない。これからは余計に気を引き締めなければ。私はさっそく、次の段階に進むための交渉を始める。「あれから一週間経ちました。例の風景画の件ですが……決心はされましたか? 朔夜さんさえその気なら、私の方でも専門のチームを結成したいと考えてますが……」とはいえ、私は、ここ最近プライベートアドバイザーを名乗るようになったばかりだ。しかも朔夜や、燈たちに近づくために作り上げた虚像に過ぎない。偉そうに言った手前、当然、人脈など皆無だ。だが、あえてそこは心配していなかった。なぜなら、朔夜が「合同」で調査を申し出た時点で、彼が専門チームを立ち上げるのはわかっていたからだ。あの日、朔夜が見せた動揺。あれは間違いなく、燈に対する不信感が芽生えた瞬間だったはずだ。だが、朔夜は強く燈を信じてる。ということは、私はともかく、外部の人間に調べられるのを嫌がるはず。つまり、朔夜は極秘に調査してくれるメンバーを雇うだろう。ただでさえ朔夜は、簡単に人を信用しないタイプの人間だ。朔夜の父親である、入院中の会長に加え、彼の母親も美術品を管理するにあたっては、あまり積極的に人を雇ってはこなかった。確かに専門のアドバイザーはいたが、朔夜は深く踏み込ませなかったはずだ。だからこそ――鷹司を守るという名目で、私が朔夜と共同で調査をすることになったのは、かなり幸運と言えるだろう。「……電話で軽々しく話す内容ではない。 明日の夜、指定する場所に来てくれ。 そこで落ち合おう。」――低くて、冷たい声
last updateLast Updated : 2026-04-05
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第24話:消えゆく花びら

数日後、朔夜から再び召集の連絡がきた。私から焦って連絡を入れず、静かに待っていた。せっかく引き出した燈への不信感を、みすみす潰したくなかった。電話越しから、極秘であるかを強調するかのように朔夜の念を押すような低い声が聞こえた。「チームはこちらで厳選して用意した。 だが、これはあくまで極秘事項だ。 そのことは、あなたも肝に銘じておいてくれ。」「分かりました。落ち合う場所はどこで……?」 時間も深夜を回った頃――朔夜の指定した黒塗りの車で、鷹司グループ所有の郊外美術倉庫に到着。私は厚手のコートに、サングラスという装いで目立たないようにした。あまり、他の人に素性を知られたくないからだ。一方の朔夜は、いつも通りのスーツ姿で、相変わらず私には淡々とした態度だった。確かに電話で話した通り、朔夜が連れてきたのは外部の美術鑑定士一名と、調査員二名のみ。本来ならチームを結成したり、道具を揃えるまでには数週間か、それ以上はかかる。 それなのに、これだけ色々なものを急速に揃えたあたり……(どうやら、朔夜は本気であの絵を調査するつもり……みたいね)こうなってくると、少なくとも朔夜があの風景画を資金隠しに利用している可能性は少なくなる。あの贋作に関しては、本当に燈が単独で動いているの……?だけどまだ――油断はできない。光咲に、自分は潔白だと演技をしているだけかもしれないから。 地下三階の温度管理室で、問題の風景画の検証が始まった。私は、購入時の輸送記録や資金フローを慎重に確認しながら、クラック以外に技法とサインの不自然さを指摘した。鑑定士も、「制作年代と様式に明らかな矛盾があります。 贋作の可能性が極めて高いと思われます。」と結論づけた。その過程で私は、胸騒ぎがする痕跡を見つけた。この絵の輸送記録に、香港の『Blue・River・Auction・House』という会社名と、鷹司グループの通常ルートとは明らかに異る特有の出荷コードが記載されている。(Blue・River・Auction・House……? この名前とコード、どこかで見た覚えがある……)だけど、よく思い出せない。それに調査はまだ始まったばかりだ。 これだけでなにかを決めつけるには早すぎる。朔夜の前ではなるべく核心に触れる発言を避け、意図的に言葉を濁した。「この作品は
last updateLast Updated : 2026-04-19
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第25話:重大なルール

部屋に冷気が漂っている。彼女は相変わらず雪のように白い髪に、深い緑色の瞳をしていた。服は全身、漆黒。時雨が部屋に現れてから、まるで現実世界から切り離されたよう。息をするのさえ忘れそうになる。「時雨……?本当に……?」私はまるでお化けでも見ているかのように、弱々しく問いかけた。彼女が関係しているかはわからないが、あの耐え難い熱感は、いつの間にか消え去っていた。「そう、私よ。」時雨は、当たり前のように微笑して答える。――ずっと彼女を待っていた。どれだけ待っていたことか。彼女に様々な疑問を聞きたかった。“光咲”についても……いや、それよりも、今は。「時雨。教えて。私の背中にあるこの、ハスの花びらは、一体なんなの……? これも、私が光咲になったことと、なにか関係があるの?」気づけば私の唇は震えていた。それでも尋ねずにはいられずに、時雨に近づいた。――私が“凛音”であることを、唯一知る人物。すべての“鍵”を握る。彼女は凛々しい表情で、口を開いた。「凛音、色々と知りたいことがあるだろうけれど、私もあまり時間がない。 だから手短に言うわね。あなたの背中にあるケシの花びらは――“転生”の証。 あなたが別人に生まれ変わったという確かな証拠よ。そして……」彼女の声は次第に強まっていった。「あなたには、リミットがあるの。 あなたの背中の花びらは、時間が経つごとに一枚ずつ消えていくわ。 つまり、真相に辿り着く前に、花びらがすべて消えてしまえば…… あなたの命も、リミットを迎えるということ。」 命のリミット――?まさか、そんな……突然、恐ろしいルールを聞かされて衝撃が走る。「なんで――どうして、そんな重大なことを今さら……!」ひどくショックを受けながら、私は時雨を責めるように問い詰めた。誰が、なんのために作ったルールかは知らない。 この世のものではない、なにか特別な力が働いているのだろう。もしくは時雨自身が――?「さあ……神はとても気まぐれだから。」なぜか時雨は、力なく笑った。「神って……」慌てて聞き返そうとしたが、彼女はそれを遮ぎる。「凛音。一色蒼史にも同じアザがあったでしょう? 実は、このアザを持つ人物は、もう一人いるわ。」衝撃の言葉が続き、私は軽い眩暈を覚える。「え……? 私や蒼史の他にも、このアザを持
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第26話:少しだけ楽になりたい

「よかったら、一緒に食事でもしないかな?」新から連絡が来たのは、朔夜と次の再調査の約束をした前々日のことだった。なるべく新と親しくなっておきたいと思っているから、有り難い提案だった。新って、人懐っこく見えるけれど、実はあまり親しくない人とは積極的に関わらないタイプなのに珍しいわね。 当日も新が車で迎えに来てくれて、帰りも送ってくれるという。 待ち合わせに指定した場所に、すでに新は到着していた。すらっとした身長に、シックな私服姿の新を見て、街ゆく女性たちが騒いでる。 しかし、当の本人は、自分が注目されていることなどまったく眼中にないようで。私に気づくなり、新はさっと手を上げ、笑顔を浮かべた。「久しぶりだね、光咲さん。元気だった?」本当に、新とは随分久しぶりだ。 あの日の、最悪なバッティング以来ね。私は軽く会釈して、“光咲”として明るく振る舞う。「ええ、お陰さまで。あれから体調も回復して、充実した日々を送っています。」久しぶりに彼に再会すると、心の底からほっとした。最近色々ありすぎて、緊張していたせいだろう。「敬語じゃなくていいのに。」そう言いながら新は、変わらない笑顔を浮かべ、紳士的な対応で私をエスコートしてくれる。「いえ、そんなわけにはいきませんよ。」私はそれを、躊躇いがちに断った。なぜなら、急に砕けた言い方に変えてしまうと、うっかり凛音のクセが出るかもしれないから。でも、優しい新を利用しているみたいで、罪悪感だけは拭い切れない。***誰でも気軽に入れるわけではない、高級寿司店。 それこそ、朔夜や新みたいな社会的地位の高い人が来る場所だ。「この店でよかったかな? この前、光咲さんにいい店を教えてもらったお礼なんだけど……気に入ってくれると嬉しいな。 今日は俺の奢りだから、気にせずに食べて。」カウンター席に並んだ新が、可愛く頬杖をつきながら尋ねてくる。ここは私がまだ凛音だった頃、新と何度か来たことがある場所だったけれど……光咲は、初めて来たという設定にしておこう。「ありがとうございます。とても気に入りました。」「本当に?よかった。」私が笑顔で対応すると、新はとても嬉しそうに微笑した。彼の笑顔を見るたびに、胸が暖かくなる。が、同時に切なくもなる。何度会っても、慣れない。 彼の隣にいるのが、凛音ではな
last updateLast Updated : 2026-04-25
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第27話:見守る愛(新side)

いつからだったのだろう。俺が凛音を好きになったのは。凛音とは、名門私立小学校からの付き合いだった。元々、一歳年上の朔夜とは幼稚園の頃からの付き合いだったけれど、凛音とは小学校で合流。 彼女の実家である高遠物産が、上場企業になってからだ。それぞれ、違う企業形態を経営する親を持ちながら、家族ぐるみの交流のために仲良くなったけれど――「朔夜。」凛音はいつも朔夜の後をついて回るような、おとなしい子だった。ただ、時々、正義感の強い面も存在した。弱いものいじめや、他人が間違ったことをしてると、人を助け、必ず正しいと思う行動に出た。キラキラと、眩く輝く凛音。いつしか、そんな彼女から俺は目が離せなくなっていた。だけど、俺は気づいていた。凛音の目が、いつも朔夜を追っているということに。 無自覚な憧れは、きっといつか本物へと変わるだろう。早くから俺は、失恋の覚悟をする必要があった。 少・中・高と、同じ付属の学校へと進み、やがて凛音が、朔夜への想いを自覚。学年で言えば朔夜は凛音より二学年上だったけれど、幼馴染の二人に距離感はほとんどなかった。 「新。私……朔夜のことが好きみたい。」ついに、恐れていた日が訪れたけど――わかっていただけに、冷静になれた。「そう、なんだ。応援するよ。」俺は凛音はもちろん、朔夜のことも人間として好きだったから、彼女の恋を応援した。その後二人は運命のように付き合うようになり――。 大学まで三人一緒で、あとはそれぞれの道へと進んだ。それから二人は政略結婚のための婚約を結んだ。鷹司グループ内での立場が弱い朔夜のため、凛音の両親は彼に快く協力してくれたのだ。凛音は朔夜の婚約者兼、秘書として鷹司ホールディングスで働くことになり、いつも誇らしげだった。「新。私には朔夜が全てなの。 彼のためなら、私はなんだ
last updateLast Updated : 2026-04-26
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第28話:何も言わなくていい(新side)

俺の前に突然現れて、目の前で倒れ込んだのも。ラグジュアリー・ログハウスで、ちょうどいいタイミングで目覚めたのも。本来なら、警戒すべきシチュエーションだったはずだ。俺のCEOと言う肩書き目当てに、よく知りもしない女が時々、近づいてくることがあったから。滞在先のホテルで、見知らぬ女に待ち伏せされたこともある。『深瀬新さんですよね?CEOの。ずっと好きでした……』その時俺に迫ってきたのは、どこかの社長令嬢だったが、本当に不快だった。あんな誘いに乗るわけがない。いくら俺に婚約者がいないからって。俺にはずっと凛音だけだったから。 彼女が死んだ後も……だが、月島光咲は、それまで出会ったしたたかな女たちとはどこか違っていた。『深瀬さんは、優しい人なんですね。』俺の肩書きを知っても、態度を一変させたりしなかった。むしろ、一緒にいるのがごく自然で。凛音とはまったく違うのに。身長も、体型も。髪色や髪型も、目も口も鼻も。 声も凛音より軽くて、明るめなのに。それでも、なんだろう。 そばにいると落ち着くというか……まるで凛音と一緒にいるみたいに思えて。 惹き込まれた。凛音を想っているのは変わらないのに、おかしな話だなと自分でも思っていたけれど。しかも、彼女は朔夜とプライベートアドバイザーで仮契約を結んだという。美術品に接点があるのも似ている。 どこかで彼女のことを怪しいと思いながらも、誘われて一緒に食事をした。その時に、彼女の箸の持ち方がふと気になった。確か凛音も独特で――だが、偶然にも朔夜に会ったことで、それどころじゃなくなってしまった。なぜか朔夜は光咲さんを外に連れ出した。二人を見失って、再び合流すると、光咲さんはなにごともなかったかのように淡々としていた。けれど――俺には、わかる。彼女は強がっているって。だって、手が震えていたから。朔夜?お前、光咲さんになにをしたんだ?凛音のことでも、まだお前を許せてないのに!気丈に振る舞う光咲さんが、やはりかつての凛音と重なって見えてしまった。凛音もそうだった。仕事でミスし、朔夜に叱られたと言った夜。 辛いはずなのに、凛音は、俺の前では平気な顔をしていた。なぜかそれが、強烈に思い出されて。「心配なんです、あなたが―― なぜか、放っておけないんだ。」この言葉も、無意識に出
last updateLast Updated : 2026-04-28
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第29話:三人の男

新にアザのことを打ち明けた。彼が《死を望まなかった者》だったらいいなと、願ってしまったからだ。「青いアザが? しかも、突然だなんて……そんな不思議なことがあるんだね。」新は興味深そうな反応をして見せたが、どうやら心当たりはなさそうだった。残念。まあ、そうか。私達はあくまでただの幼馴染だった――それだけのこと。 がっかりすることじゃないわ。 店を出ると、外は生ぬるい風が吹いていた。もうすぐ梅雨の時期だ。 いつの間にか季節はかなり進んでいた。今回もまた新が送迎してくれるという。 断ったけど、前回とまったく同じで彼は意見を譲らなかった。 「ごちそうさまでした。こんなに高い店……なんだか申し訳ないです。」シートベルトをしながら、私は運転席に座った新にお礼を言った。 新は笑い、ハンドルを握った。「本当に気にしないで。光咲さん。一緒に食事ができて良かったよ。」「……はい。」私は遠慮がちに答える。だが、あくまで演技だ。「これからも、時々こうして、一緒に食事をしてくれると嬉しいな。」「もちろんですよ。」私は笑顔で、ついに復讐へとシフトを切り替える。大きく息を吸い込んで――ごく自然と、日常会話のように話題を振る。「それにしても深瀬……新さんが、あの朔夜さんとお知り合いだったなんて驚きました。」「朔夜……?なに?彼のこと、なにか知りたいの?」一瞬、新は目を大きく見開いた。「あ、いえ。そういうわけではないんですが……少し気になって。 ビジネスパートナーだから、契約者のことは把握しているんですけれど。 朔夜さんの――亡くなった、婚約者のことについて。」大きく踏み込んだ。 自分から言っておきながら、私はごくりと喉を鳴らす。新が、不信感を抱かなければいいけれど。「ああ……そのことについて知りたいんだね。 いいよ。わかる範囲で教えてあげる。」微笑した新の横顔は、私の目にはどこか寂しそうに映った。 ――幼馴染の死。――新にとって、凛音の死は、かなりショックな出来事だったらしい。――それ以降、朔夜が別人のようにすっかり変わってしまったと。「すごく想い合っていたはずの二人が、あんな結末を迎えるなんて、思ってもなかったよ。」信号待ちで呟く新の声は、物悲しく響く。「よくはわかりませんが……本当に、亡くなったその女性は横領という
last updateLast Updated : 2026-04-30
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