憑依転生〜私を断罪した男の溺愛に抗う のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

21 チャプター

第10話:ライバルの男

契約書を交わすと、またふと、朔夜の刺すような視線を感じた。だが、今度は気づかないふりをする。 「なぜあなたが、鷹司ホールディングスの芸術投資に関わりたがるのか、理解できない。こんな情報を流してまで……」彼は低い声で口を開いた。抑えた調子だが、その奥に鋭い刃を秘めている。 「理解できなくても構いません。私の目的は意外とシンプルなんです。……純粋にビジネスに関心があり、利益を得たいから、とでも言っておきましょう。」 そう答えれば、朔夜はやはり不満げに唇を尖らす。 ――突然現れた女。――会社の基盤を揺るがすほどの情報を携えた。――目的は不明、だが一歩一歩確実に迫る。彼の目には、間違いなく私は危険な存在として映っている。実際、鷹司ホールディングスにとって不利な証拠を握っているのは、偶然ではない。 あらゆるものを駆使して、三年前のファンド事件を徹底的に調べたのだから。 朔夜、この会社、誰かに狙われているわよ。 そんな私の意思とは無関係に、粘着質な視線がいつまでも肌にまとわりつく。 「それで、次はいつお会いできますか?」 とにかく必死に話題を振って、彼の目線から逃れた。 ……なぜ、そんな風に見つめるの? まだ二回しか会ったことのない“光咲”を。 それが、なぜかとても不愉快だった。理由は、この男が――かつて私の弁明に耳を貸すことなく、自らの手で私を深淵へ突き落とした張本人だからだろう。……だが今は、感情に流されるわけにはいかない。 とにかく、朔夜を含めた
last update最終更新日 : 2026-01-31
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第11話:復讐のブルーポピー

一色蒼史。容姿は悪くないし、どちらかというと大人の色気がある人。いつも、そばを通り過ぎるとき、渋めの香水が香る。またワイルドさもあって、会社でも密かに彼を見て騒ぐ女性社員もいた。昔から朔夜とは折り合いが悪く、顔を合わせればお互い悪口ばかり。私は朔夜の秘書をしていたから、彼とも顔を合わせる機会が多かった。「鷹司朔夜さんは、山のようにお高いプライドをお持ちのようだ。」特に一色は口が悪い。しかも、私には変なことを言って絡んできてばかりだった。「可哀想だな。あんな無愛想な男の婚約者だなんて。」よほど朔夜のことが嫌いで、その婚約者である私のことまで、よく思ってはいなかったのだろう。だからなのか、私は本当に彼のことが大嫌いだった。しかし、彼もまた、『一色キャピタル・マネジメント』のCEOであり、グループの後継者だ。事実上、鷹司グループと敵対する企業の代表でもある。もしも、あの彼を味方にできたら――アパートに帰ると、すぐにお風呂の準備を始めた。全身が見渡せる大きな姿見の鏡の前で、おもむろにバスタオルを脱ぐ。私の背中には――青いケシの花がある。このアザは、こうして姿見の前に立って初めて気づいたことだった。目にした時は本当に驚いて、思わず悲鳴に近い声まで出してしまい……「え?何、これ……」ケシの花は、透き通るような鮮烈な青色で、8枚の花びらが重なっていた。調べたところ、これは「ブルーポピー」という珍しいケシの花のようだった。植物界では青色のケシは非常に珍しく、この色は人工物とは思えないほど鮮やかだという。“幻の青いケシ”とも呼ばれ、ヒマラヤの高山地帯など限られた過酷な環境にしか自生しないため、その存在自体が神秘視されるのだとか。「タトゥーかしら?もともと光咲が……?」居ても立っても居られず、
last update最終更新日 : 2026-02-02
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第12話:最悪なバッティング

「お久しぶりです、深瀬さん。」今夜――私は新とディナーに来ていた。誘うならどこがいいか。必死に考え抜いた、とある場所へ。深瀬リゾート株式会社のCEOである新。彼が普段から利用するラグジュアリーホテルで、嫌というほどディナーを食べ飽きているのは知っている。そこで思いついたのが、隠れ家的な雰囲気で、味がいいと評判の店。さっそく店に着き、私と新は向い合って座る。静かで、小洒落た店内。一日二組限定の店だから、他に客はいない。それだけでも、新にとっては、かなり開放的に思えるはず。久しぶりに顔を合わせた新は、いつものように爽やかな笑顔を見せた。今日の新は、全身シックなコーディネートだった。柔らかそうな茶髪は相変わらず。しかし、心なしか緊張しているようにも見える。あの新が……?まさか、ね。「お久しぶりです。月島さん。体調はもうすっかり戻ったようで良かったです。」「ええ、おかげさまで。」私は陰りのある笑顔で、『少し虚弱気味』をアピールした。しばらく店内の雰囲気を楽しんでいると、二組限定のスペシャルディナーが、次々と目の前に運ばれてくる。本当に庶民的な……昔から新が、息抜きで食べていたようなものばかり。特に、彼の大好物である『焼きおにぎり』を見て、一瞬で目の色が変わった。新はいつも言っていた――『小さい頃、堅苦しい親父の目を盗んで、芳美さんがこっそり作ってくれた焼きおにぎりが好きだったんだ』と。そういう情報を知っているからこそ、この店にしたのだ。「私のお気に入りのお店なんです。普段、深瀬さんが行く高級店とはまったく違うでしょうけれど。」私はあざとく微笑む。「そんなことないですよ。むしろ、プライベートな空間で、どこかほっとします。それに、食事も本当に美味しい。」新は私に気を遣わ
last update最終更新日 : 2026-02-05
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第13話:横暴な朔夜

願いもむなしく。彼に気づいた新が仕切りの障子を勢いよく開け、声をかけてしまった。「朔夜?」「新と……月島、光咲?」そこにいたのは確かに、一昨日会ったばかりの朔夜――。一瞬、驚愕に満ちた表情をする彼と目が合ってしまった。自然と体が固まってしまう。まるで逃れられない、呪いの因果のように。まさかこんな場所で朔夜と会うなんて――彼を見るのは、オフィスで、乱暴に私を壁に押し付けてきたあの日以来。朔夜も、戸惑いを隠せないように私を見ている。しかし次第にその顔は険しくなっていった。だが、次の瞬間――見えてしまった。彼の背後に、どこか儚げで、可憐そうな“女性”がいるのが。「あの、鷹司さん?」想像通り、透き通るような声が彼を呼ぶ。――朔夜。その人は誰?その女性は、一体、誰なの?心の中で複雑な思いが渦巻く。現実に引き戻されたのは、新の驚きの行動のおかげだった。朔夜を見た彼の顔が、さっきまでの穏やかさを失い、目には怒りの色が宿って――「朔夜!何度連絡したと思っ……」彼は個室を飛び出し、一瞬、朔夜に殴りかかりそうになる。しかし、寸前で、新はぴたりと振り上げそうになった拳をおろした。「〜……!」ギリギリで理性が働いたのか。私や店に迷惑をかけるわけにはいかないと思ったのだろう。「はあ、朔夜。何度も連絡したのに、なんで電話に出ないんだ?」珍しく、苛立つように新が髪をかき上げる。その彼の背後にいる私は、気まずさのあまり朔夜から視線をそらした。だが、すぐに容赦のない冷たい声が降ってくる。「新こそ……ここで何を?しかも、なぜ彼女といるんだ?」――なぜ、お前がそこにいる
last update最終更新日 : 2026-02-08
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第14話:揺れるな!

やがて腕が離され、彼の重みが消える。 朔夜が車から離れて、そっぽを向く。「とにかく、新に近づくな。あれは純粋な人間だから。」こんなことをしておいて、なおも冷たく忠告してくる。 ぐっと怒りを胸に秘めながら、私は乱れた服を整え、ようやく車から降りた。「私を怪しんでいるようですが…… 朔夜さん。あなた、これまでのことをセクハラで私に訴えられても、おかしくはないですよ?」ほぼ真横に立ち、彼をぎろりと睨みつける。険悪な雰囲気。 そこへ新とあの女性が、慌てた様子で駆けつけてくる。「月島さん!朔夜……どこに行ったかと!探したよ!」新はすぐに私の元へ。彼女は――朔夜のそばへ。「大丈夫だった!?」労わるように私の肩を抱く新。 だけど私の体は、まだどこか熱くて…… 朔夜も女性になにかを説明しているようだったが、その視線は時々私の方へと向けられた。一体、なんなの……「大丈夫です、本当に仕事の話だったので。」新には内容を誤魔化して話す。だが、彼はどこか不満そうだった。「月島さん。本当に仕事の話だったの?」鋭い新はすぐそこにたどり着く。「そうです。」私は頷くしかない。 次に私は、新と朔夜の関係について尋ねた。 この場面だとそうする方が自然だろう。「深瀬さんと、朔夜さん。お二人はどのようなご関係で?」振り向いて、先に答えたのは新だった。「ええっと、俺たちは友達――」「鷹司さん?あの……」あの女性が、可愛らしいスカートを揺らし、朔夜の名前を呼ぶ。 どこの企業の令嬢だろう。 華やかだが、どこか健気な雰囲気だ。朔夜のお見合い相手……「なんでもない!知り合いだけど、今のこいつとは赤の他人も同然だ!行こう、月島さん!」怒った新になぜか繁華街の方向へと、連れ出された。 振り返ると、あの二人が小さくなっていく。二人はあのまま、デートを重ねて……いえ、もうすでに体も重ねているのだろうか?かつて私を抱いたように。朔夜。あなたはもう、他の誰かを愛せるのね。こういうことか。 復讐のために、彼のそばにいるということは――つまりそれは、見たくないものを嫌でも見なければいけないということ。違う!凛音、なにを考えてるの?彼は私を信じず、地獄へと突き落とした人じゃない。可哀想な凛音。 死後も墓参りすら来てもらえず。そして、彼は次の女と結
last update最終更新日 : 2026-02-13
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第15話:揺さぶりをかける

それでも、朔夜が私に頼ってくるのはわかっていた。なぜなら彼は正体不明の見えない“敵”と戦わなければいけないからだ。――マネーロンダリング疑惑の絵画。――仕掛けられた罠。今の地位を守るために、彼は自分を脅かすものを排除する必要がある。たとえそれが、自分の幼馴染に近づく怪しい女に頼ることになったとしても。「仕事の話をしよう。この前の続きだ。あなたの知っている情報を渡してもらおう。」電話越しに聞こえた朔夜の声は、この前の出来事などなかったかのように淡々としていた。私もそれに合わせるかのように、ごく冷静に対応した。「わかりました。でもそれにはまず、家族の前美術品の再調査をする必要があります。話はそれからです。」これは、私にとってまたとないチャンスだ。横領事件の真相解明にまた一歩近づける。朔夜――逃さないわ。あなたが私を罠に嵌めたという証拠を、必ず見つけてみせる。朔夜の家族オフィスに通されたのはそれから二週間後のことだった。久しぶりに顔を合わせた朔夜は相変わらず無表情で――。この前の出来事を一切封印したかのように振る舞う。とはいえ私も感情を抑えておくことにする。次の段階に進むため、とにかく波風立てず、穏やかに微笑を浮かべる。「この前は大変失礼しました。今日はお招きいただき、ありがとうございます。」そうは言った手前、失礼なことをされたのは“私”の方だが……。しかし、昔から朔夜が新を大切に思っているのは知っていた。だから、今思えばあの反応もわからなくはない。確かに朔夜は感情がわかりにくいが、幼馴染の新のことだけは大切にしていたから。***鷹司家の家族オフィスは豪邸との併設で、美術品管理室、書庫、会議室などがある。ここに通されるまでに、複数回の審査や機密保持契約を結ばされ、厳しいセキュリティチェックも受けた。
last update最終更新日 : 2026-02-18
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第16話:“元婚約者”に似ている

朔夜のこの反応は、一体どういうことだろう。本当にこの作品について、なにも知らないというの? それならこの絵は、燈とグルになってあの横領事件の資金隠しに利用したものではないということ?「……燈はいい妹だ。それを疑うなんて。」ひどく動揺しているのは私ではなく、なぜか朔夜の方だった。 その表情は固く、重苦しい。 吐いた言葉さえどこか哀愁を帯びている。「朔夜さん……?」これまで一貫して冷酷な態度を見せてきた朔夜が。 “光咲”に対して傲慢に振る舞ってきた彼が。なぜ私に、今さらそんな弱々しい姿を見せるの?燈とあなたの間は、揺るぎない信頼関係で結ばれていたのではなかったの――?朔夜はいつもの冷淡な彼ではなかった。 いつだって常に冷静で、簡単に他人に弱みを見せるような人ではなかったのに。婚約者時代、幾度となく“凛音”に見せてきた姿。鷹司グループを牽引していくプレッシャーに押しつぶされそうな時、彼は時々こうして凛音に弱音を吐くことがあった。 そんな彼の姿を知っているのは私だけだと思っていた。彼の支えになりたいと――あの頃の私は純粋に思っていた。記憶がフラッシュバックし、思いのほか動揺してしまう。いいえ。だめ、しっかりするのよ。どうせこれも、私を試すための演技かもしれないのだから。「いや、すまない。変なことを言って……」先に謝罪したのは朔夜の方だった。彼はこめかみを抑え、小さくため息を吐く。 まるで本当に精神が参っているみたいに、いつもの威厳のある姿ではなかった。「いえ、お疲れなんでしょう。鷹司グループを背負っている立場なのですから。」当たり障りなく答える。 ……今は同情的に振る舞っていたほうが得策かもしれない。確かに驚きはした。 でも、もう騙されたりしない。 この人は冷酷に、婚約者を地獄に突き落とすことができる人なのだから――。「それでしたら、調査は
last update最終更新日 : 2026-02-23
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第17話:危険な男

なぜ、一色蒼史が私の名前を知っているの?ついさっき、朔夜に正体を疑われたばかりだというのに。緊張から思わず肩に力が入る。「失礼ですが、あなたは?」ここは知らないふりをした方がいい。少なくともこの人は前世の“凛音”を知っている。さっきと同じような失敗をするわけにはいかないから……「俺の名前は一色蒼史だ。あんたとは……覚えてないか?この前、鷹司ホールディングスの正面玄関ですれ違っただろう?」朔夜とはまた違った、色気のある目元が微笑を浮かべる。オールバックに決めた髪。紺色の高そうなスーツ。高級腕時計。そしてこの、余裕のある表情。それが余計に不気味に見える。「話がある。車に乗ってもらえないか?」今、このタイミングで?なぜ、この男が光咲に――?怪しい。怪しすぎる。確かにこの男を味方にできたらと考えていたけれど、まさかこんな風に自ら近づいてくるなんて。私の勘が訴えかけている。これはきっと、ただのビジネスの話ではない。警戒した方がいい。「あの……すみませんが、よく知らない人の車に乗るのはちょっと」誘いを断り、私は足早にその場を去ろうとした。「一ヶ月前の国際的オークション――」背中側から、押さえつけるかのような強い口調。一色の車は私の歩きに合わせて進んでいる。彼は獲物をとらえたように私を見つめ、口元を緩めた。「鷹司グループを狙った絵画――。あんた、調べてるんだろう?真相を。」その言葉に、いやでも私の体は反応してしまう。「なぜ……あなたが、それを?」聞き返す声が震えた。これまでとは、また違った恐怖。足元から地面が崩れるような感覚に襲われる。「人に聞かれたくなければ、乗れ。」有無を言わさない圧倒的な命令。従うしかない、そう思わざるを得ない。本能でわかる。この男は危険だ。彼のいる後部座席の左側が開き、私は無言で車に乗り込んだ。運転手に彼が出せと目で合図し、車は雨の中をゆっくりと走り始める。ただでさえ体が雨に濡れて気持ち悪いのに。私は濡れた髪をさっと整えた。「……これを使え。」「え……?」車に乗り込んですぐ、一色が私に差し出したのは白いハンカチだった。そういえば、凛音の時もこういった場面があったような――……「いえ……結構です。」驚いたが、私はとっさに断る。「そうか?まあ俺は構いはしないが、
last update最終更新日 : 2026-02-28
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第18話:不可解な状況

雨が降っている。車の中で、一色蒼史と取引をして、それから……あれ?今、私はどこにいるの?なんだか体がふわふわして――「!?」ここは――!?見慣れない天井を目にして、慌てて起き上がる。なぜか私は見知らぬ広い部屋にいた。しかもベッドの上に。「気がついたか。」ドアが開き、一人の男が部屋へと入ってきた。パッと明かりがつき、私は思わず顔をしかめる。彼は手にペットボトルを持ち、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。「一色蒼史……?」「そうだ。呼び捨てにするだなんて、度胸がある女だ。」「!!……ご、ごめんなさい!!頭がぼうっとしていて……!!」「いや、別に気にしてない。」本当に気にしてないように,彼はくすりと声を出して笑う。そして私に、持っていたペットボトルを手渡した。「……?」「水だ。あんたがいつ目覚めるかわからなかったから、適当に持ってきた。飲めるなら、飲め。」手渡されたのは、私が凛音の時によく飲んでいたミネラルウォーター。何でこの男がこれを……「言っとくが、毒なんて入ってないからな。」「……そんなこと思ってません。」どういう状況なのかわからず、戸惑った。だが、確かに喉が無性に乾いている。恐る恐る封を開け、口に含んだ。やはり、馴染みのある味……。彼はそれを見て満足したように、窓の近くにある椅子に腰かける。私は訳がわからず、きょろきょろと周りを見回した。「ここは……?あの後、私は――」「覚えてないのか?あんた、車の中で倒れたんだぞ
last update最終更新日 : 2026-03-03
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第19話:同じアザ

家政婦がそのアザに気づいたのは、まったく予想外のことで――。あの後、私が適当に服を選ぶと、彼女はどうしても着替えを手伝うと言って聞かなかった。仕方なく、大人しく彼女の前で服を脱ぐ。確かに、昼間に雨に打たれたシャツがまだ少し湿っぽくて、気持ち悪い。雑念を思い浮かべているうちに、うっかり背中を露見してしまい――。「あれ……?このアザ……」「え?」「お嬢様、ちょっと失礼しますね。蒼史さんを呼びます。」「ちょっと……なにを!」私の背中を見た家政婦が、急に部屋から飛び出して行った。慌てて服を着ようとしていたら、今度は一色が勢いよく部屋に入ってくる。 彼の背中を追いかけ、彼女はなにかを懸命に説明していた。「確かに、あったんです……!」一色の様子がおかしい。 さっきとはまったく違い、今にも人を殺しそうなほど険しい表情をしている。なに?一体なんなの?なにがなんだか、訳がわからない――!「おい、あんた――」とっさに上着を背中に羽織ると、一色は私の腕を強くつかんだ。 上から見下ろすその瞳は、捕食者の獣のように鋭い。「背中にアザがあるんだって? しかも――青いケシの花。」どくんと、心臓が不気味な音を立てる。「そ、それが……なんですか?」一色は無言で私を睨み、人の体を勝手に半回転させた。 そして、私の上着を強引にはぎ取り――「ちょと……!」「やっぱり――そうだ。 この花のアザ。間違いない。 ――ブルーポピー。“幻の青いケシ”。」なぜ、この男がそれを?ごくりと喉を上下させる。だが今は、この男に素肌を見られたことの方がショックだ。 無理やり上着をはぎ取られ、下着姿で前を隠している状態。彼の目線は、背中に一直線に注がれてはいたが――さすがに、冷静でいられるはずがない。
last update最終更新日 : 2026-03-05
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