Masuk凛音は罠に嵌められ、愛する朔夜に信じてもらえず、車の事故で命を奪われるはずだった――。だが、運命のいたずらか、彼女は他人の身体に転生し、記憶を抱えたまま再び朔夜のもとへ戻る。真相を突き止め、復讐を果たすために動き出す凛音。しかし、冷酷な朔夜は以前とは違い、執拗に彼女を追い求める。裏切りと憎悪を胸に、心を閉ざしながらも、彼の視線に胸が揺さぶられる————。誰が彼女を陥れ、誰が守ろうとしているのか。別人へと転生した元秘書×冷酷になったCEO、愛と復讐が交錯する極限の心理戦が、今、幕を開ける。
Lihat lebih banyakいつからだったのだろう。俺が凛音を好きになったのは。凛音とは、名門私立小学校からの付き合いだった。元々、一歳年上の朔夜とは幼稚園の頃からの付き合いだったけれど、凛音とは小学校で合流。 彼女の実家である高遠物産が、上場企業になってからだ。それぞれ、違う企業形態を経営する親を持ちながら、家族ぐるみの交流のために仲良くなったけれど――「朔夜。」凛音はいつも朔夜の後をついて回るような、おとなしい子だった。ただ、時々、正義感の強い面も存在した。弱いものいじめや、他人が間違ったことをしてると、人を助け、必ず正しいと思う行動に出た。キラキラと、眩く輝く凛音。いつしか、そんな彼女から俺は目が離せなくなっていた。だけど、俺は気づいていた。凛音の目が、いつも朔夜を追っているということに。 無自覚な憧れは、きっといつか本物へと変わるだろう。早くから俺は、失恋の覚悟をする必要があった。 少・中・高と、同じ付属の学校へと進み、やがて凛音が、朔夜への想いを自覚。学年で言えば朔夜は凛音より二学年上だったけれど、幼馴染の二人に距離感はほとんどなかった。 「新。私……朔夜のことが好きみたい。」ついに、恐れていた日が訪れたけど――わかっていただけに、冷静になれた。「そう、なんだ。応援するよ。」俺は凛音はもちろん、朔夜のことも人間として好きだったから、彼女の恋を応援した。その後二人は運命のように付き合うようになり――。 大学まで三人一緒で、あとはそれぞれの道へと進んだ。それから二人は政略結婚のための婚約を結んだ。鷹司グループ内での立場が弱い朔夜のため、凛音の両親は彼に快く協力してくれたのだ。凛音は朔夜の婚約者兼、秘書として鷹司ホールディングスで働くことになり、いつも誇らしげだった。「新。私には朔夜が全てなの。 彼のためなら、私はなんだ
「よかったら、一緒に食事でもしないかな?」新から連絡が来たのは、朔夜と次の再調査の約束をした前々日のことだった。なるべく新と親しくなっておきたいと思っているから、有り難い提案だった。新って、人懐っこく見えるけれど、実はあまり親しくない人とは積極的に関わらないタイプなのに珍しいわね。当日も新が車で迎えに来てくれて、帰りも送ってくれるという。待ち合わせに指定した場所に、すでに新は到着していた。すらっとした身長に、シックな私服姿の新を見て、街ゆく女性たちが騒いでる。しかし、当の本人は、自分が注目されていることなどまったく眼中にないようで。私に気づくなり、新はさっと手を上げ、笑顔を浮かべた。「久しぶりだね、月島さん。元気だった?」本当に、新とは随分久しぶりだ。あの日の、最悪なバッティング以来ね。私は軽く会釈して、“光咲”として明るく振る舞う。「ええ、お陰さまで。あれから体調も回復して、充実した日々を送っています。」久しぶりに彼に再会すると、心の底からほっとした。最近色々ありすぎて、緊張していたせいだろう。「敬語じゃなくていいのに。」そう言いながら新は、変わらない笑顔を浮かべ、紳士的な対応で私をエスコートしてくれる。「いえ、そんなわけにはいきませんよ。」私はそれを、躊躇いがちに断った。なぜなら、急に砕けた言い方に変えてしまうと、うっかり凛音のクセが出るかもしれないから。でも、優しい新を利用しているみたいで、罪悪感だけは拭い切れない。***誰でも気軽に入れるわけではない、高級寿司店。それこそ、朔夜や新みたいな社会的地位の高い人が来る場所だ。「この店でよかったかな?この前、月島さんにいい店を教えてもらったお礼なんだけど……気に入ってくれると嬉しいな。今日は俺の奢りだから、気にせずに食べて。」
部屋に冷気が漂っている。彼女は相変わらず雪のように白い髪に、深い緑色の瞳をしていた。服は全身、漆黒。時雨が部屋に現れてから、まるで現実世界から切り離されたよう。息をするのさえ忘れそうになる。「時雨……?本当に……?」私はまるでお化けでも見ているかのように、弱々しく問いかけた。彼女が関係しているかはわからないが、あの耐え難い熱感は、いつの間にか消え去っていた。「そう、私よ。」時雨は、当たり前のように微笑して答える。――ずっと彼女を待っていた。どれだけ待っていたことか。彼女に様々な疑問を聞きたかった。“光咲”についても……いや、それよりも、今は。「時雨。教えて。私の背中にあるこの、ハスの花びらは、一体なんなの……? これも、私が光咲になったことと、なにか関係があるの?」気づけば私の唇は震えていた。それでも尋ねずにはいられずに、時雨に近づいた。――私が“凛音”であることを、唯一知る人物。すべての“鍵”を握る。彼女は凛々しい表情で、口を開いた。「凛音、色々と知りたいことがあるだろうけれど、私もあまり時間がない。 だから手短に言うわね。あなたの背中にあるケシの花びらは――“転生”の証。 あなたが別人に生まれ変わったという確かな証拠よ。そして……」彼女の声は次第に強まっていった。「あなたには、リミットがあるの。 あなたの背中の花びらは、時間が経つごとに一枚ずつ消えていくわ。 つまり、真相に辿り着く前に、花びらがすべて消えてしまえば…… あなたの命も、リミットを迎えるということ。」 命のリミット――?まさか、そんな……突然、恐ろしいルールを聞かされて衝撃が走る。「なんで――どうして、そんな重大なことを今さら……!」ひどくショックを受けながら、私は時雨を責めるように問い詰めた。誰が、なんのために作ったルールかは知らない。 この世のものではない、なにか特別な力が働いているのだろう。もしくは時雨自身が――?「さあ……神はとても気まぐれだから。」なぜか時雨は、力なく笑った。「神って……」慌てて聞き返そうとしたが、彼女はそれを遮ぎる。「凛音。一色蒼史にも同じアザがあったでしょう? 実は、このアザを持つ人物は、もう一人いるわ。」衝撃の言葉が続き、私は軽い眩暈を覚える。「え……? 私や蒼史の他にも、このアザを持
数日後、朔夜から再び召集の連絡がきた。私から焦って連絡を入れず、静かに待っていた。せっかく引き出した燈への不信感を、みすみす潰したくなかった。電話越しから、極秘であるかを強調するかのように朔夜の念を押すような低い声が聞こえた。「チームはこちらで厳選して用意した。 だが、これはあくまで極秘事項だ。 そのことは、あなたも肝に銘じておいてくれ。」「分かりました。落ち合う場所はどこで……?」 時間も深夜を回った頃――朔夜の指定した黒塗りの車で、鷹司グループ所有の郊外美術倉庫に到着。私は厚手のコートに、サングラスという装いで目立たないようにした。あまり、他の人に素性を知られたくないからだ。一方の朔夜は、いつも通りのスーツ姿で、相変わらず私には淡々とした態度だった。確かに電話で話した通り、朔夜が連れてきたのは外部の美術鑑定士一名と、調査員二名のみ。本来ならチームを結成したり、道具を揃えるまでには数週間か、それ以上はかかる。 それなのに、これだけ色々なものを急速に揃えたあたり……(どうやら、朔夜は本気であの絵を調査するつもり……みたいね)こうなってくると、少なくとも朔夜があの風景画を資金隠しに利用している可能性は少なくなる。あの贋作に関しては、本当に燈が単独で動いているの……?だけどまだ――油断はできない。光咲に、自分は潔白だと演技をしているだけかもしれないから。 地下三階の温度管理室で、問題の風景画の検証が始まった。私は、購入時の輸送記録や資金フローを慎重に確認しながら、クラック以外に技法とサインの不自然さを指摘した。鑑定士も、「制作年代と様式に明らかな矛盾があります。 贋作の可能性が極めて高いと思われます。」と結論づけた。その過程で私は、胸騒ぎがする痕跡を見つけた。この絵の輸送記録に、香港の『Blue・River・Auction・House』という会社名と、鷹司グループの通常ルートとは明らかに異る特有の出荷コードが記載されている。(Blue・River・Auction・House……? この名前とコード、どこかで見た覚えがある……)だけど、よく思い出せない。それに調査はまだ始まったばかりだ。 これだけでなにかを決めつけるには早すぎる。朔夜の前ではなるべく核心に触れる発言を避け、意図的に言葉を濁した。「この作品は