LOGIN凛音は罠に嵌められ、愛する朔夜に信じてもらえず、車の事故で命を奪われるはずだった――。だが、運命のいたずらか、彼女は他人の身体に転生し、記憶を抱えたまま再び朔夜のもとへ戻る。真相を突き止め、復讐を果たすために動き出す凛音。しかし、冷酷な朔夜は以前とは違い、執拗に彼女を追い求める。裏切りと憎悪を胸に、心を閉ざしながらも、彼の視線に胸が揺さぶられる————。誰が彼女を陥れ、誰が守ろうとしているのか。別人へと転生した元秘書×冷酷になったCEO、愛と復讐が交錯する極限の心理戦が、今、幕を開ける。
View More広い豪邸。噂では、時価百億とも言われているが、見るからにそれ以上に見える。ただ、蒼史の家族は見当たらず、普段は家政婦しか出入りしてないらしい。彼女はご馳走を用意するだけして、自分専用の離れに引っ込んでいった。広すぎるリビングの真ん中の棚上に、一色グループの創業一家が並んで映った写真がある。その横に、一色蒼史とその家族の写真も飾ってあった。「今現在、ここには俺しか住んでいない。」終始ご機嫌な蒼史と、ずっと緊張しっぱなしの私。一秒たりとも気が抜けない。油断なんて、できない。もし“凛音”のくせでも出ようものなら、即ゲームオーバー。とはいえ、この男が凛音に興味があったとは思えないけれど。警戒するに越したことはない。長いテーブルを挟み、私たちは共に食事をした。私は消化にいいメニューばかり。対する蒼史は、ステーキなどを上品に食べている。さすが、創業一家の孫。でもまさか毎晩ステーキとかじゃないわよね……「一……蒼史さんは、ご結婚はされてないんですね。」箸を動かしながら、私はなんとなく蒼史に尋ねた。彼の眉がぴくりと動く。「ああ、まあな。」「優秀な一色キャピタル・マネジメントのCEOで、一色グループ創業者の孫。おまけに優秀な経営手腕をお持ちだと聞きましたが。結婚の話は引く手数多でしょうに。失礼ですが、なぜ結婚されないのですか?」確か蒼史は、去年三十歳になったはず。婚約者がいたと聞いたこともあるが、それも、かなり前の話だ。「へえ。詳しいんだな。さすが、贋作を調べていただけのことはある。」褒めるように蒼史は唇を動かした。なぜ、さっきから目が輝いているのかはわからないが。「……調査は基本です。」気をつけて、光咲。
家政婦がそのアザに気づいたのは、まったく予想外のことで――。あの後、私が適当に服を選ぶと、彼女はどうしても着替えを手伝うと言って聞かなかった。仕方なく、大人しく彼女の前で服を脱ぐ。確かに、昼間に雨に打たれたシャツがまだ少し湿っぽくて、気持ち悪い。雑念を思い浮かべているうちに、うっかり背中を露見してしまい――。「あれ……?このアザ……」「え?」「お嬢様、ちょっと失礼しますね。蒼史さんを呼びます。」「ちょっと……なにを!」私の背中を見た家政婦が、急に部屋から飛び出して行った。慌てて服を着ようとしていたら、今度は一色が勢いよく部屋に入ってくる。 彼の背中を追いかけ、彼女はなにかを懸命に説明していた。「確かに、あったんです……!」一色の様子がおかしい。 さっきとはまったく違い、今にも人を殺しそうなほど険しい表情をしている。なに?一体なんなの?なにがなんだか、訳がわからない――!「おい、あんた――」とっさに上着を背中に羽織ると、一色は私の腕を強くつかんだ。 上から見下ろすその瞳は、捕食者の獣のように鋭い。「背中にアザがあるんだって? しかも――青いケシの花。」どくんと、心臓が不気味な音を立てる。「そ、それが……なんですか?」一色は無言で私を睨み、人の体を勝手に半回転させた。 そして、私の上着を強引にはぎ取り――「ちょと……!」「やっぱり――そうだ。 この花のアザ。間違いない。 ――ブルーポピー。“幻の青いケシ”。」なぜ、この男がそれを?ごくりと喉を上下させる。だが今は、この男に素肌を見られたことの方がショックだ。 無理やり上着をはぎ取られ、下着姿で前を隠している状態。彼の目線は、背中に一直線に注がれてはいたが――さすがに、冷静でいられるはずがない。
雨が降っている。車の中で、一色蒼史と取引をして、それから……あれ?今、私はどこにいるの?なんだか体がふわふわして――「!?」ここは――!?見慣れない天井を目にして、慌てて起き上がる。なぜか私は見知らぬ広い部屋にいた。しかもベッドの上に。「気がついたか。」ドアが開き、一人の男が部屋へと入ってきた。パッと明かりがつき、私は思わず顔をしかめる。彼は手にペットボトルを持ち、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。「一色蒼史……?」「そうだ。呼び捨てにするだなんて、度胸がある女だ。」「!!……ご、ごめんなさい!!頭がぼうっとしていて……!!」「いや、別に気にしてない。」本当に気にしてないように,彼はくすりと声を出して笑う。そして私に、持っていたペットボトルを手渡した。「……?」「水だ。あんたがいつ目覚めるかわからなかったから、適当に持ってきた。飲めるなら、飲め。」手渡されたのは、私が凛音の時によく飲んでいたミネラルウォーター。何でこの男がこれを……「言っとくが、毒なんて入ってないからな。」「……そんなこと思ってません。」どういう状況なのかわからず、戸惑った。だが、確かに喉が無性に乾いている。恐る恐る封を開け、口に含んだ。やはり、馴染みのある味……。彼はそれを見て満足したように、窓の近くにある椅子に腰かける。私は訳がわからず、きょろきょろと周りを見回した。「ここは……?あの後、私は――」「覚えてないのか?あんた、車の中で倒れたんだぞ
なぜ、一色蒼史が私の名前を知っているの?ついさっき、朔夜に正体を疑われたばかりだというのに。緊張から思わず肩に力が入る。「失礼ですが、あなたは?」ここは知らないふりをした方がいい。少なくともこの人は前世の“凛音”を知っている。さっきと同じような失敗をするわけにはいかないから……「俺の名前は一色蒼史だ。あんたとは……覚えてないか?この前、鷹司ホールディングスの正面玄関ですれ違っただろう?」朔夜とはまた違った、色気のある目元が微笑を浮かべる。オールバックに決めた髪。紺色の高そうなスーツ。高級腕時計。そしてこの、余裕のある表情。それが余計に不気味に見える。「話がある。車に乗ってもらえないか?」今、このタイミングで?なぜ、この男が光咲に――?怪しい。怪しすぎる。確かにこの男を味方にできたらと考えていたけれど、まさかこんな風に自ら近づいてくるなんて。私の勘が訴えかけている。これはきっと、ただのビジネスの話ではない。警戒した方がいい。「あの……すみませんが、よく知らない人の車に乗るのはちょっと」誘いを断り、私は足早にその場を去ろうとした。「一ヶ月前の国際的オークション――」背中側から、押さえつけるかのような強い口調。一色の車は私の歩きに合わせて進んでいる。彼は獲物をとらえたように私を見つめ、口元を緩めた。「鷹司グループを狙った絵画――。あんた、調べてるんだろう?真相を。」その言葉に、いやでも私の体は反応してしまう。「なぜ……あなたが、それを?」聞き返す声が震えた。これまでとは、また違った恐怖。足元から地面が崩れるような感覚に襲われる。「人に聞かれたくなければ、乗れ。」有無を言わさない圧倒的な命令。従うしかない、そう思わざるを得ない。本能でわかる。この男は危険だ。彼のいる後部座席の左側が開き、私は無言で車に乗り込んだ。運転手に彼が出せと目で合図し、車は雨の中をゆっくりと走り始める。ただでさえ体が雨に濡れて気持ち悪いのに。私は濡れた髪をさっと整えた。「……これを使え。」「え……?」車に乗り込んですぐ、一色が私に差し出したのは白いハンカチだった。そういえば、凛音の時もこういった場面があったような――……「いえ……結構です。」驚いたが、私はとっさに断る。「そうか?まあ俺は構いはしないが、