妊娠が判明したその日、私・吉野柚木(よしの ゆずき)は、何気なく夫・高城渉(たかぎ わたる)の車載レコーダーを確認すると、映し出されたのは――彼と、あのヨガインストラクターとの、車中での情事だった。 画面の中の渉は、私が聞いたこともないような卑俗な言葉を、興奮に任せて吐き散らしている。映像を見せて問い詰めた。彼は一瞬たじろいだが、すぐに言い訳めいた口調に変わった。「医者に言われただろ?妊娠の安定期まではダメだって。君と赤ちゃんのことを思えばこそ、外で解決したんだ!所詮はその場限りの遊びだよ。俺の心はいつだって、君だけに向いているんだから……」この、開き直ったような口ぶりに、吐き気がこみ上げてきた。この腹の中の命を、私を縛る鎖にしようというのか。そっと手を下腹に当て、俯いたまま薄く笑った。「うん、わかった。信じるから」 遊びたいなら存分に遊べばいい。私が、とことん付き合ってやる――心の中で、静かに、そう呟いた。渉は一瞬呆然としたが、すぐに大喜びで私を腕の中に引き寄せた。彼の体に染みついたタバコの匂いと、濃厚なクチナシの香りが混ざり、甘ったるくて胸がむかむかした。私は吐き気をこらえ、うなずいた。 「ええ、赤ちゃんのためなら、何でも我慢する」渉は私を離し、さっきの口論で乱れたネクタイを直した。 「やっぱり君はしっかりしてるよな!ちょうどよかった、サプライズを用意してたんだ」彼は振り返り、外に向かって呼びかけた。「真凛、入ってきて」ドアが開き、タイトなヨガウェアに身を包んだグラマラスな女性が入ってきた。正にあの録画の主役、青沼真凛(あおぬま まりん)だ。彼女は着替えていなかった。はだけた胸には無数のキスマークが生々しく、頬の赤みもまだ引いていない。どんなに強い香水も、あのいやらしい情事の匂いを消しきれない。真凛は私を見つめ、挑発と得意げな表情を隠そうともしない。渉は彼女の手を取って、あっけらかんと紹介した。 「君のために、特別にプロのマタニティヨガインストラクターを手配したんだ。こちらは青沼真凛さん、これから、指導しやすいようにうちに住み込んでもらうんだ」手のひらがじんと痛んだ。愛人を家に連れ込み、しかも私のためだと言い張った。渉、あなたは「厚かましい」の極みだね。
Read more