一花は帰宅してすぐに風呂に入る習慣がある。しかしこの日は柊馬がいるので、それは後回しにして、まずは彼と一緒に過ごした。彼には何かしたいことはないか尋ねた。映画でも本でも、ゲームでも、どんなことでも彼に付き合おうと思った。一花は過去一度だけ恋愛した経験を持っているが、かなり昔の学生時代の恋愛だ。だから、実際はまだ恋愛未経験の少女となんら変わりない。当時は慶が一花のことを口説きまわっていた。毎回のデートもいつも彼が予定を立てて、ほとんど彼の主体的なものばかりだった。学生時代、慶はいろいろな試合を見るのが大好きで、一花は彼に付き合っていろいろな所へ見に行った。そして卒業してから、二人の恋愛もただ街に出て食事する程度にとどまっていた。慶は仕事のほうに意識を向けていた。彼は会社が上場したら一花と新婚旅行に行って、彼女がしたい事、行きたい所、なんだって彼女の希望を叶えると約束してくれた。しかし、一花はそれを真剣に考えたことはなかった。彼女はすでに自らを犠牲にし、相手を守るという形の恋愛に慣れていた。だから、自分が何を求めているのかなどはきちんと考えたこともなかった。「別に無理に俺に合わせる必要はありません。それでは疲れてしまいますからね。一緒にダラダラするのもいいでしょう。確か嫌な事があったと言ってましたね、それなら気分が良くなるような事を……もし、嫌じゃなければ、今日何があったのか話してくれませんか。俺も聞きたいから」柊馬がこのような言葉を口にした瞬間、一花は少しぼうっとしていた。その様子を見て、柊馬は一花が疲れているのを感じ取った。この日、彼女が遅くに帰ってきて彼も別に余計な詮索はしなかった。でも、彼女は嫌な事があったとはっきり言っていた。「先にお風呂に入ってきてもいいですか。それから一緒に途中のあの映画を見ませんか?だけど、今日はちょっと疲れてて最後まで見る体力がないかもしれません……でも、私もあなたと一緒にお話したいです」一花は少し遅れてやっと自分の思いを口にした。名家同士の政略結婚が意味しているものなど、彼女もよく理解している。互いの財産をさらに増やしたり、強力な協力関係を作ったり、支え合うことが目的だ。しかし、そこには感情というものは置き去りにされる。一花はもともと、柊馬とはそんな協力し合えるパートナー
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