そして最後に、柊馬はそっと一花の唇にキスを落とした。しかし、そのキスには如何なる欲望も含まれていなかった。ただ優しく、温かく、何かを感じ取っているかのようなキスだった。一花も両手を彼の背中に回して、彼の純粋な瞳を見つめた。「一花」「うん、なに?」「一花……」柊馬は何度も彼女の名前を呼んだ。その声はどんどん低く魅力的なものに変わり、一花は体全体が痺れてしまいそうだった。「どうしたの?また私が恋しくなった?」「それは毎分、毎秒感じているよ」柊馬の声は捉えられないほどに軽かった。彼は一花の耳を甘噛みした。一花はこれ以上彼の愛撫には理性が耐えられなくなりそうだった。それで彼の胸に手をあて、少し距離をとってから、両手を彼の頬に添えてじっと見つめた。「柊馬、ちょっとおかしいわよ。どこか具合でも悪い?」「俺は大丈夫だよ」柊馬は彼女にされるがままに、温かい瞳で彼女を見つめていた。彼は小さな声でクスッと笑い、彼女を抱きしめた。「なんだか急に……とても嬉しいなって思って」彼が何に喜んでいるのか、言われなくとも一花には分かった。一花が美穂と部屋のドアの前でこそこそ話していたのが、恐らく彼の耳に入ったのだろう。一花は一度たりとも彼のことを負担だとか、足を引っ張っているとか思ったことはない。逆に喜んで彼のために努力したいと思い続けている。なぜなら、柊馬こそ、一花の人生の希望であり、理想だからだ。「私だって同じ気持ちだよ……」一花は顔を柊馬の首元に埋めた。彼女が話し終わるのを待たず、彼は腕を彼女の両足に回して横抱きにかかえた。「柊馬、何してるの?早くおろして……」一花は突然のことに驚いて、とっさに彼をぎゅっと抱きしめた。柊馬は淡々とした声で言った。「一日疲れただろう。そろそろ休まないと」「少しくらい自分で歩けるから……それに、あなたの体は弱っている……」「誰の体が弱ってるって?」一花は唇を閉じた。突然、自分が言ってはいけない言葉を口にしてしまったことに気づいた。柊馬は立ち止まり、彼女を横抱きにしたまま動かなくなった。一花は瞬きをした。「そういう意味じゃなくて……」「一体誰が弱ってるって?」柊馬は危険を漂わせるような低い声で、まだしつこく彼女に尋ねた。「はっきり言ってごらん?」
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