All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 911 - Chapter 920

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第911話

この時、一花はすでに驚きと恐怖から落ち着きを取り戻し、頭をフル回転させていた。電話の男はボイスチェンジャーすらも使っていないから、一花の知り合いでないことは確かだ。しかし、浩之と一花の関係を知っているということは、身近な人間か、裏でこそこそと一花を調査していた人物のはずだ。一花を恨んでいる者がいるとすれば、それはただ一つ、「青空」だ。誠は去る前に、一花に「青空」の南関に残る勢力に十分注意するように言っていた。一花はここ暫く、柊馬とともに目立たないように動き、何をするにも警戒していた。「青空」の残党はきっと一花たちに手を出すことができないと分かり、浩之に狙いを定めたのだろう。もし、一花が今警察に通報すれば、浩之は生きて帰ってくることはない。そして凶悪犯も捕まらないかもしれない。結婚式も同じく、ぶち壊しになるに決まっている……一花は何も言わず、黙認しているようなものだった。相手は目的が達成されたと思い、低い声で本題に入った。「今からこちらの言う通りにするんだ」一花は電話の声を聞きながら、突然運転手に車をとめるように伝えた。「途中のドラッグストアで一度止めて。買いたい物があるの」「買い物ですか?西園寺様、何か必要なものがございましたら、誰かに買いに行かせたらよろしいのでは?今は時間が……」「止めてと言ったら止めてちょうだい。今すぐに停車するのよ!」運転手はおかしいと思いながらも、一花の指示に従うしかなく、路肩に突然停車した。車の列はそれぞれある程度の間隔で走っていた。一花の車がとまった所はちょうど十字路だった。後続車は状況がわからず、次々と停車させた。しかし、一花が突然車を降りて、ドレスの裾を掴んだ状態でドラッグストアに駆けこんでいった。後ろに続く車からはすぐにボディーガードが降りてきて、状況確認に向かった。しかし、数分も経たないうちに、一花が消えてしまった。一花は携帯を握りしめたまま、すでに店の裏から出てきて、すでに待機していたタクシーに乗った。相手はどうやら全てを手配していたらしい。ドラッグストアの場所はちょうど周りの視線を遮れるようになっていた。タクシーはその辺に走っている普通のタクシーで、相手は運転手に目的地を伝えてあった。電話の相手は一花に電話を繋いだまま
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第912話

「社長、奥様はもしかしてトラブルに巻き込まれたのでは?警察に通報……」湊はとても焦っていた。柊馬と一花はこれまで多くの事があったから、湊もかなり神経をとがらせている。しかし、湊が言い終わる前に、柊馬が冷ややかにその言葉を遮った。「必要ない」柊馬は監視カメラの映像を湊に返した。「彼女から何も連絡が来ていない。後で来るかもしれない」「そ……そんなことがあるでしょうか?」湊は驚いていた。彼はその時、自分が幻聴でも聞いたのかと思った。これが、普段から妻を命よりも大切にしている人間が口にする言葉だろうか。柊馬は冷ややかに言った。「ないというのか?監視カメラには彼女は自分から車を降りているのが映っているぞ」湊はその言葉にまた衝撃を受けた。こんな時に、まさか主人が妻に腹を立てているのかと彼は思ったのだ。彼は再び監視カメラに目を向けた。確かに柊馬の言う通り、一花は自ら車を降りている。彼女の近くには他に誰もいない。一花は車を降りるとすぐにドレスの裾をまくりあげて、走っていき、途中でヴェールまで捨てて行った。しかし、その全ては異常ではないのか。「これは奥様のやり方ではないでしょう。まさか何か裏がある……」「お前は暇人か?」柊馬はまた湊の言葉を遮った。柊馬が放つオーラは周りを凍り付かせそうなほどだった。「結婚式はあと一時間で始まる。しかも全世界にライブ配信されているんだ。それをお前は彼女が結婚式の途中で逃げ出したとでも思っているのか?」「結婚式の途中で逃げ出す……いえ」湊は唖然として、首を横に振った。柊馬はそれ以上湊に話す機会を与えなかった。会場にはすでに招待客で溢れかえっていて、今どこもかしこも人手が必要だ。湊はやらなければならない事があるし、柊馬も撮影の準備を整える必要がある。柊馬の様子はあまりにも落ち着きすぎていて、みんなを驚かせたが、年長者や親しい友人たちがこの知らせを聞いた時には、もはや冷静さを保つことなどできなかった。湊はこの情報を柊馬にだけ伝えたが、みんなに言わなかった。しかし一花は会場に向かう途中、多くの目がある中で逃げ出した。その情報は勝手に流れてしまった。この時、伊集院家はすでにその情報を耳にしていた。状況を確認するため、夏海と茉白の二人もみ
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第913話

「え?」「気にするなって?」湊の言葉に夏海と茉白は驚いてしまった。それをあの伊集院柊馬が口にしたのか?茉白はその瞬間、思わず怒鳴りだした。「伊集院社長は頭でもおかしくなったわけ?一花さんよ!自分の奥さんでしょ!」茉白の声は急に大きくなった。侑李は急いで彼女を自分の胸に引き寄せた。数人が話し合っているところに、陽菜と徹がやって来た。二人も美穂と敬子から一花失踪の知らせを聞いていた。今、年長者たちは大慌てだ。勇は警察に通報するように提案していた。結婚式は中断して、一花を探すことが第一だと主張したのだ。しかし、その提案が出るとすぐに柊馬がそれを阻止させた。陽菜が来た時、伊集院家の年長者たちは柊馬を探しに行くところだった。「そういえば、日笠さんの情報網は一番すごかったはず。彼に手伝ってもらったらどうだろう?」突然、侑李は優紀のことを思い出した。彼は一花から優紀は裏情報の収集に長けていると聞いていた。以前、和香と「青空」の事を優紀が裏で調査してくれたおかげで解決に至ったのだ。今は重要な結婚式が行われるところだ。優紀の部下たちも南関市には突発的な状況に対処するために、準備をしていたはずだ。「そうよ!日笠さんよ!」茉白は目を輝かせた。しかしこの時、その場の全員が優紀の姿が見つからないことに気付いた。仲間内で、今優紀が今どこにいるのかが分かる人間はいない。……時間が刻一刻と過ぎていき、もうすぐ結婚式が始まる時間になった。みんなは会場の入り口を何度も行ったり来たり落ち着きなく動き回っていたが、一向に一花の姿は見えない。そして結婚式のライブ配信が始まった。会場のドアが開かれ、招待客たちが溢れかえり、華やかな様子がすべてカメラに捉えられた。しかし会場には、本来赤い絨毯を歩いているはずの花嫁の姿がなかった。すると会場には驚きの声があがった。「聞いた?花嫁の姿が見当たらないって!」「一体どういうことだ?」「なんでも、結婚式の直前で逃げ出したとか……」「そんな馬鹿な。だって今日の結婚式は全世界にライブ配信されてるんだよ。それにあの有名な京原大聖堂なんだよ!」「でも本当みたい!だって花嫁が来る途中で車を降りて、ヴェールも捨てて行ったのを目撃した人がいるんだよ」「嘘で
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第914話

柊馬は無表情で、声も落ち着いていた。しかし、ぞっと寒気がするほどの距離感を感じさせる。「もしかすると、これが彼女の選択なのかもしれないだろう」「……」夏海と茉白は柊馬の言葉に驚いてしまった。この時、敬子たちが急いでやって来て、柊馬の行く手をステッキで阻んだ。「柊馬、あなた一体どういうつもり?」「結婚式は中止だ」柊馬の短いその言葉に、全員が驚いてしまった。敬子はステッキを重く床に突き立てた。「一花さんは絶対にこんなことをするような子じゃない!何が結婚式を中止するって?彼女に何かあったに決まってる!さっさと人を手配して探しに行きなさい!」「ばあちゃん」柊馬の声は重く沈んだ。「あなたも見たとおり、彼女は結婚式を逃げ出したんだ。だからみんなにはこちらから説明しないと」彼はそう言い終わると、他の誰にも視線を向けることなく、そのまま会場のステージのほうへと歩いていった。司会は柊馬が一人でやって来るのを見て、彼にマイクを渡すべきかどうか迷った。光り輝く明りの下、音楽が急に止まった。そして柊馬はスポットライトに照らされた。彼はオーダーメイドの完璧なタキシードに身を包み、光の下で今まで以上に決まっていた。しかし、彼から発せられる氷のように冷たい空気が、その場の全員を戦慄させた。彼はマイクを口元に近づけた。「ご来賓の皆さま方、本日は誠にありがとうございます。しかし、申し訳ございません……」柊馬の声がスピーカーを通して、会場全てに響いた。「私と西園寺一花の結婚式は中止することになりました」その瞬間、会場は騒然とした。「柊馬さん!」ステージの下で侑李が我慢できずに立ち上がった。彼は本当にこれ以上見ていられなかった。今、一花はどのような状況なのか全く分からないというのに、柊馬が簡単に結婚式を中止すると決断を下したのだ。柊馬は冷ややかな視線を侑李に投げた。しかし、全く気に留めていないようだった。「本日、予期せぬ事態が発生しましたので、皆さまにご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。パーティーは通常通り開催されますので、ぜひお楽しみいただければと思います」そう言い終わると、彼はマイクを完全に呆然としてしまっている司会に渡し、ステージから降りた。敬子は顔を真っ赤にさせて、息が詰
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第915話

一花の声が倉庫中にこだました。男は数秒ほど驚いて呆然としたが、携帯をおろし、傍にいる仲間に浩之の状態を確認させに行った。相手は浩之の状態を確認すると、冷たく笑った。「本当にぎりぎりセーフだな。あと数分遅かったらやばかったぞ」そう言うと、彼は浩之の腕に解毒剤を打った。そして注射器を捨てて、男は一花のほうへ振り向いて手を振った。「どうだ、西園寺一花さんよ、信頼を裏切ることはないと言っただろう?約束は守ったぞ!」「あんた達、その女は確実に仕留めなさいよ。じゃないと、あんた達のほうがやられるわよ。それに、どうして本当に浩之に解毒剤を打ったのよ!」浩之に解毒剤が打たれたのを見て、綾芽がすぐに甲高い声をあげた。しかし、彼女が話し終わるまえに、近くにいた男が綾芽に平手打ちをくらわせた。「クソが、何勝手に口を開いてんだ?」「……」綾芽は痛みに涙を流した。しかし、恐怖から再び同じことを繰り返す勇気はなく、ただ静かに顔を覆うしかなかった。綾芽はここにいる男たちが浩之を見逃してやることはあっても、一花を見逃すことはないと分かっていた。どのみち、今日が西園寺一花の命日になるのだ!一花は浩之の傍に駆け寄り、彼の脈を確認した。彼がまだ生きていることが分かると、二人の男の方を向いた。「あなた達、『青空』のメンバー?」「西園寺お嬢様は賢いお方だな。じゃ、どうやって死ぬか選びな」綾芽の傍にいた男が口を開いた。彼が浩之の傍にいる仲間に目配せをすると、仲間は一花のほうへ毒の入った注射器と鋭いナイフを放り出した。「その毒の効果は高い。たった十分苦しむだけでいいぞ。ナイフを使いたいなら、俺もなるだけ苦しまずに逝けるように、直接お前の喉を切り裂いてやろう」一花は自分のほうへ投げ捨てられたこの二つを、落ち着いた様子で見つめていた。「私は今日必ず死なないといけないわけ?」「お嬢さん、冗談はよしてくれよ。てめえはここに来る前にもう分かっていたんじゃねえのか?」男は何の警戒心も持たずに一花に近づいた。傍にいた仲間は拳銃を取り出して、いつでも一花か綾芽に発砲できるよう構えた。動いた瞬間、すぐにあの世行きだ。一花は浩之を見た。「私が死ぬ前に、三条さんを解放して、逃がしてちょうだい。じゃないと、あなたがちゃんと私
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第916話

「やっと到着?遅すぎよ」一花は少し責めるような口調でだったが、口角をにやりとあげていた。彼女の前にいた男は瞳を震わせていた。一花の瞳から、自分の後ろに立っている男の姿を捉えた。次の瞬間、冷たい銃口が頭の後ろに当てられた。「ごめん、今日初めて新郎になったものだから、いろいろとやる事が多すぎて」男もからかうようにそう答えた。それはまさか……柊馬だった。結婚式はさっき始まったばかりのはずだ……伊集院柊馬は今結婚式の会場にいるはずではないのか?「そんなまさか……」男は驚愕していた。「ありえないって?まあ、正義は必ず悪に勝つってやつだな」この時、倉庫には多くの人が突入してきた。優紀の声が続いて響いた。浩之は救急車に運ばれ、綾芽は我に返り逃げようとしたところを捕まった。優紀の部下が来ると柊馬は銃をおろし、その部下に返した。そして彼はすぐに一花の手を握り、彼女に怪我がないことを確かめてから安堵した。「驚かさないでくれよ。君にいつもこんな無茶をされると、今後はばあちゃんみたいに常に心臓の薬を持ち歩かないといけなくなる」柊馬は優しい声でそう言うと、一花の手を繋いだ。一花は笑って、彼に抱きついた。「あなたがいるから、こんな無茶ができるのよ」「それよりもどういうことだ?みんなの前で結婚式を中止にしたって?」武器を手放して降伏した男は、仲間の死体を見つめながらも、どうしてこうなってしまったのか、今なお理解できていなかった。優紀がやって来て、嘲笑するように言った。「まだ分からないのか?あんたら、知能は低いんだな。わざわざ出てきて悪さをするとは自分がどれほど無能なのか分かってないらしいな」柊馬は一花を抱きしめたまま横を向いた。一花の細く白い腕が露わになっていて、腕にはちょうど煌びやかな幅広のラインストーンの腕時計をつけている。この腕時計は一見普通のアクセサリーのように見えるが、よく見てみるとその文字盤には数字ではなく、細かな赤と青の点がついている。青は実際の位置情報を、赤は小型のカメラになっている。これは誠が去る時に一花に贈ったプレゼントだった。これを渡す時、誠は一切説明などせずに、ただ子供への贈り物だとしか言わなかった。一花は箱を開ける前は護身用のナイフか何かだと思
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第917話

一花と柊馬は事前に話し合い、もし命の危険に晒されるような状況が発生したら、ヴェールを脱ぎ捨てて相手に知らせることに決めていた。だから、監視カメラに一花が車を降りてヴェールを捨てているのを見ると、柊馬はすぐに行動を開始したのだ。綾芽は目の前の光景が信じられずにいた。最後の最後に一花は生き残ってしまった!倉庫の外では、警察車両のサイレンの音がだんだん大きくなってきた。そして入ってきた警察によって綾芽は両手を拘束された。冷たい手錠が彼女を狂ったように大笑いさせた。「西園寺一花、生き残れたからって勝ったつもり?あんた達の結婚式はもう台無し。あんた達は全世界から笑い者になるのよ!伊集院家も西園寺家もみんな、みんなお笑い種よ!」綾芽は外に引きずられていきながら、必死に一花を攻撃する言葉を吐き続けた。「そう?だったら今携帯を開いて、ライブ配信を見てみたら?」一花は深く息を吸い込んだ。綾芽を見つめ、一花はふいに憎たらしさよりも、可笑しく感じた。その言葉に綾芽は驚いた。優紀がすでに用意していた携帯を取り出してライブ配信を開いた。こんなに面白い状況はめったに見られない。優紀は相手に追い打ちをかけるのが好きだ。携帯の画面には結婚式会場が映り、一花と柊馬が事前に撮っていた美しい映像が流れていた。結婚式の映像の後、暫く大聖堂の歴史を伝えるドキュメンタリーが放送され、現場でのステージ上演までもあった。今のところ、第一部が終了したばかりのようだった。「そんなまさか」綾芽はそれを見て大きな衝撃を受け、暫く経っても何が起こっているのか理解できずにいた。二人の結婚式はすでに中止されたのではなかったのか……「まだ理解できないのか?お前たちが見たライブ映像はただのパフォーマンスにすぎない。リアルに見せなければ、時間を稼いで助けに来られないだろ?あんたらは最初からずっとこちらの手のひらで踊らされていただけだ!期待したものだけしか見えず、現実が見えなくなるのはあまり感心しないな」優紀の言葉の一つ一つが、綾芽の心を抉った。綾芽は目を大きく見開き、口を開いたが言葉が出てこなかった。全世界に向けてのライブ配信をするのだから、何か起きた場合を想定して、結婚式の様子はリアルタイムではなく、一時間遅く配信されるようになっていた
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第918話

一花は柊馬の手を繋ぎ、ゆっくりと綾芽の前までやって来た。「リアルな演出がなければ、どうやってあんたたちを完全に騙して、油断させることができると思う?ライブ配信の時間が一時間遅くなってるんだから、もちろん会場にいたみんなには演技してもらっていただけだ」綾芽が変に幻想を抱かないように、柊馬はどういう事か細かく説明してやった。結婚式は一時間後に始まる。会場では簡単な儀式の予行練習が行われる手筈だったが、突発的な事態が発生したので、柊馬はその予行練習を取りやめた。彼は優紀の多くの部下から適当に一定数を会場の招待客に仕立て上げた。伊集院家と西園寺家、そして友人たちに関しては、どういうわけか説明する時間がなかったため、柊馬はいっそ彼らを騙す形でそのまま演技を進め、彼らの実際の反応がよりリアルな演出をつくり上げた。そして今、知らせを受けた湊がみんなに事情を説明し終わっていた。「詐欺だわ……あんたら全員詐欺師よ……」綾芽は激しく顔を引き攣らせていた。彼女は本気で自分がここまで愚弄されたことに耐えられなかった。「いたっ」綾芽が激しくもがいて一花のほうへ襲いかかろうとしたが、後ろから強く押さえ込まれた。「よくも私をはめたわね!まともな死に方ができないように呪ってやる!私は死んでもあんた達を許さないからね!」綾芽のそのあがきは無駄なものだと分かっていても、柊馬はその瞬間一花を懐に強く抱きしめた。綾芽の呪うような言葉はすぐに遠ざかっていった。その場の処理を終えると、警察は柊馬と一花の状況を確認した。簡単な事情聴取を終えて、帰っていった。「二人は先に戻ってな。俺が後片付けしとくから」優紀は二人を車まで送ると、時間を確認した。結婚式はあと三十分で始まる。今から駆けつけても間に合わないだろうが、遅刻するのは現場に到着しないことよりマシだろう。「そうだ、三条さんのこと……」一花は救急車で運ばれていった浩之のことを考えると、胸が締め付けられた。解毒剤はすでに投与されているが、危険な状況から脱したのかは分からない。「安心してください。三条さんならここから一番近い病院に運ばれています。後で様子を見に行くから、二人はまず今やるべき事を」優紀はそう言い終わると車のドアを閉めた。柊馬は視線で彼に感謝を伝え、再び一花
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第919話

一花は深く感動し、何度も柊馬の首筋にキスした。「今日の結婚式は、本当に胸に刻まれるくらい印象的なものになるね……年を取って記憶力が衰えてもきっと忘れられないわ」「その通りだ。だけど、今俺の心臓は早すぎる。次はやっぱり……」柊馬は長いため息をついて苦笑いした。「いや、次はない。俺たちがいくらどんなことにも対処できたとしても、このような事は一度で十分だ」一花はそれを聞いて、すぐに柊馬の胸元をさすった。「病院に行く?それともお医者さんを呼んで診てもらおうか?」「それはダメだ。結婚式ができなかったらもっとつらいから」「だけど……結婚式はもう間に合わないし……」一花は眉をひそめた。いくら急いで戻ったとしても、三十分以上はかかってしまう。彼女のドレスも汚れてしまっていて、着替える必要がある。「大丈夫だ、まだ間に合う」一花が戸惑っていると、柊馬は携帯を彼女に渡した。一花がライブ配信を見てみると、この時まだ文化的な宣伝のドキュメンタリー映像だった。「どうして?」「今日、京原大聖堂を管理する組合がある臨時の抽選イベントを増やしたんだよ。本来、結婚式が終わってからそれをする予定だったんだけど、状況が変化したから、そのイベントを先にすることにしたんだ。その時間がだいたい三十分くらいかかるかな。会場までの時間を考えたら、俺たちは……」柊馬が話し終わる前に、一花が時間を計算した。「あと二十分ある!」時間はあまりないが、ドレスに着替える時間はある。するとすぐに、車はあっという間に京原大聖堂に戻ってきた。柊馬はすでに湊に連絡していて、事前に全て手配していた。車が地下にある専用通路に着くと、スタイリストチームはすでに予備のドレスとメイク道具を用意して待っていた。車のドアが開くと、スタッフがすぐに車に乗ってきて、一花の着替えを手伝った。柊馬も湊と一緒に専用のエレベーターで会場に戻り、白いタキシードに着替えた。ライブ配信の司会がしきりに時間を確認していた。儀式開始のカウントダウンの時刻がライブ配信画面の上方に表示されていた。この時、会場は招待客で満席になっていた。京原大聖堂の関係者と、各界の著名人たちも続々と会場入りしていた。もしこの時にまた突然予想外のことのせいで予定通りに進められなかった
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第920話

司会がそう言い終わった瞬間、全員の視線が会場の入り口に注がれた。司会ですらも、緊張し、息をのんだ。厳かな結婚式の音楽がそれと共に鳴り響いた。招待客の期待と、ライブ配信用のカメラが向けられる中、重々しい扉がゆっくりと開かれた。すると明るい光が差し込んだ。柊馬と一花の姿がその光の中現れた。柊馬はスラリとした長身に深いグレーのタキシード姿で、高貴さを漂わせている。そして一花はパールホワイトのマーメイドドレスだった。とてもシンプルなドレスのデザインだが、その優美な体型を際立たせている。完璧な二人は、まるで幻想の世界から飛び出してきたかのようにお似合いだった。会場全体がその瞬間しんと静まり返った。一花は手に小さなスズランの花束を持ち、薄い柔らかなヴェールが彼女の顔を覆っている。それが彼女の美しい輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。柊馬が一歩前に進み、一花の前に手をさし伸ばし微かに腰をかがめた。彼の海の底のように深い瞳が、この時とても優しく柔らかかった。一花は頷き、少しはにかんだ様子で手をそっと彼の手のひらに乗せた。柊馬は彼女の手をしっかりと握り、自分の腕に絡めさせた。二人は少しだけ目と目を合わせ、その後一緒に前へ進み、ホール中央に敷かれた真っ赤な絨毯を歩いていった。すると大きな拍手が沸き起こった。二人の歩調はちょうどよい速度で、落ち着きしっかりとしていた。柊馬はその間、一花が歩きにくいのではないかと気にかけた様子で、ずっと身を低めにかがめていた。一花は、はにかんだように視線を伏せているが、言葉では表せないほどに幸せそうにしていた。赤い絨毯の両側にいる招待客は初め驚き、しんと静かになっていたが、この時やっと反応できた。拍手は鳴りやむことはなく、ますます熱を帯びていった。そしてカメラのシャッター音が次々と響き渡った。そして多くの人が立ち上がり、携帯で撮影しながら祝福の声をかけた。「わあ!花嫁さん、本当にお綺麗ですね!」「新郎もとてもカッコいいぞ!」そのシーンを見て、敬子と和彦は心から満足して席で抱き合った。そのとき、二人の目には涙が浮かんでいた。美穂も黙々と涙を流し続けていた。そしてすぐにそれに修治が気づき、彼女を懐に抱き寄せた。夏海と茉白も感動して互いに喜び、暫くしてや
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