第一回全統共通テスト模試の後、クラスで一番可愛い子、暮地渚(くれち なぎさ)が私に成績を賭けさせた。「点数の高い方が、幹生の彼女になる資格があるのよ!」それを聞いた梅戸幹生(うめど みきお)は、鼻で笑った。「もういい、渚。俺の恋愛に口出しするな」そう言い放ち、みんなの前で私に告白した。それを私は、長く胸に秘めていた片想いへの返答だと信じた。みんなの冷やかしに背中を押され、頬を赤らめながら頷いた。その夜、彼は私を家に連れて帰り、それから毎晩のように私を求めた。出願校を決める前に、彼と同じ大学に行きたいと思い、彼の家を訪れたとき、ふと耳にした電話の内容がすべてを覆した。「渚の言うとおり、写真も映像も準備できてる」受話器の向こうで、渚が甘く微笑んでいる。「さすが幹生、お疲れ。じゃあ、明後日の学校集会で、その映像をみんなに流そうね。そうしたら鈴山沙耶香(すずやま さやか)が、どの面下げて名門校を受けに行くのか見ものだわ。幹生、まさかとは思うけど、情は湧いてないよね?」幹生は短く沈黙したが、最終的に応じた。「あるわけないだろ。あいつが悪いんだ。お前より点数が高いなんて、生意気だ」私は手にしていたオーダーメイドの指輪を捨て、スマホでメールを開いた。一週間前に届いたイェール大学からの合格通知を受諾した。……家に戻ると、部屋はがらんとしている。三年前、父が浮気をしたため、母・竹坂珠恵(たけさか たまえ)は迷うことなく離婚を切り出した。その後、珠恵は私を連れて海外でやり直したいと言ったが、私は首を振って断った。ここ数年、彼女はよく電話をかけてきて、説得するように話す。「沙耶香、海外の学校のほうが教育環境もずっといいのよ。ビザもすべて手配してあるのに、何をそんなに迷ってるの?」「私は国内にいたいよ。こっちの学校に慣れちゃったし」私は毎回そう答え、いかにも大人しく自立した子どもを演じている。でも、本当のところは分かっている。あのわざとらしく大人びた笑顔の裏に隠れているのは、ただの少女の片思いにすぎない。ただ、幹生がここにいるという、それだけの理由で。私は珠恵の電話番号にかけた。すぐに繋がり、彼女の声はいつものように優しいが、焦っている。「あのね、イェールの入学許可は
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