「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」 バシャッ 先ほどまで俺に愛想を振りまいていたイモっぽいホステス女が、目を吊り上げて怒っている。 その彼女が、俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけたのだ。「おっ、お前――」 バチン! なにするんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男に抱かれるなんて、たとえ1億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」 ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、彼女は席を立った。 この、最低最悪の出会いが、まさか、俺の人生を180度ひっくり返すことになるとは。 そして目の前の彼女を、命を懸けて愛することになるとは、この時の俺は、夢にも思わなかった―― ※ 遡ること、数時間前。 俺は自家用リムジンに乗り込み、面倒な案件の資料をもらったところだ。「今日は飲みに行くから、適当に車回してくれ」 運転手にそう告げて、ホテル建設予定プランの資料に目を通す。 ご大層な資料だな。読むのも疲れる。 バサッ、と分厚い資料をリムジンのシートの上に放り投げ、ため息をついた。 そういえば、ホテル建設予定地に邪魔な施設が建ってるんだっけ。頑なに立ち退きしないとか言ってたな。 金をちらつかせれば、どんなヤツでもすぐ立ち退きするだろう。 つまらない施設ごとき、俺がすぐ潰してやるさ。退屈しのぎには丁度いい。 とりあえず行きつけのクラブで飲むことにして、車を銀座方面に走らせた。 CLUB 雅-miyabi- ゴージャスな内装、煌びやかな光で包まれた店内。一流どころの女性が揃った店だ。 俺の名前――櫻井王雅(さくらいおうが)の文字が入ったクラブだから、仕事の接待に利用している。ただそれだけのことだ。 VIP席に通され、革張りのソファーに座って足を広げていると、この店のママが現れた。「これは王雅様、いらっしゃいませ」 斜め45度の角度できっちり頭を下げ、俺に挨拶をするママを見て会釈を返す。「今日は新しい子が入店してますの。王雅様に紹介しますね。ミューちゃんよ」 こんばんは、と若干怯えるようにしながら挨拶してきた女がいた。 少し大きめの瞳に、薄くて長い茶髪を巻髪にしている。年齢は俺と同じ――22、23歳くらいってとこか?
Last Updated : 2025-12-22 Read more