All Chapters of コロッケスマイル ~俺様御曹司は、庶民女王と子供たちにご執心!~: Chapter 1 - Chapter 10

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スマイル1 水もしたたる俺様御曹司 01

「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」 バシャッ 先ほどまで俺に愛想を振りまいていたイモっぽいホステス女が、目を吊り上げて怒っている。  その彼女が、俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけたのだ。「おっ、お前――」 バチン! なにするんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男に抱かれるなんて、たとえ1億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」 ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、彼女は席を立った。 この、最低最悪の出会いが、まさか、俺の人生を180度ひっくり返すことになるとは。  そして目の前の彼女を、命を懸けて愛することになるとは、この時の俺は、夢にも思わなかった―― ※ 遡ること、数時間前。  俺は自家用リムジンに乗り込み、面倒な案件の資料をもらったところだ。「今日は飲みに行くから、適当に車回してくれ」 運転手にそう告げて、ホテル建設予定プランの資料に目を通す。 ご大層な資料だな。読むのも疲れる。  バサッ、と分厚い資料をリムジンのシートの上に放り投げ、ため息をついた。 そういえば、ホテル建設予定地に邪魔な施設が建ってるんだっけ。頑なに立ち退きしないとか言ってたな。 金をちらつかせれば、どんなヤツでもすぐ立ち退きするだろう。  つまらない施設ごとき、俺がすぐ潰してやるさ。退屈しのぎには丁度いい。 とりあえず行きつけのクラブで飲むことにして、車を銀座方面に走らせた。 CLUB 雅-miyabi- ゴージャスな内装、煌びやかな光で包まれた店内。一流どころの女性が揃った店だ。  俺の名前――櫻井王雅(さくらいおうが)の文字が入ったクラブだから、仕事の接待に利用している。ただそれだけのことだ。 VIP席に通され、革張りのソファーに座って足を広げていると、この店のママが現れた。「これは王雅様、いらっしゃいませ」 斜め45度の角度できっちり頭を下げ、俺に挨拶をするママを見て会釈を返す。「今日は新しい子が入店してますの。王雅様に紹介しますね。ミューちゃんよ」 こんばんは、と若干怯えるようにしながら挨拶してきた女がいた。  少し大きめの瞳に、薄くて長い茶髪を巻髪にしている。年齢は俺と同じ――22、23歳くらいってとこか? 
last updateLast Updated : 2025-12-22
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スマイル1 水もしたたる俺様御曹司 02

 適当に会話を流し、ミューとふたりきりになりたいと言って、他のホステスを下げさせた。 ミューは、突然先輩たちが「王雅様がミューちゃんとふたりきりになりたいみたいだから、あとは宜しくね」と言い残し、席を去っていったので、ますます挙動不審になっている。「ども。櫻井王雅だ。よろしくな」「はい、今日入店したばかりのミューです。どうぞ宜しくお願いします」 深々と頭を下げ、お辞儀をするミュー。さーて。どうやってからかってやろうかな?「そんな堅苦しい挨拶はいーからさ。飲めよ」「あっ、あの……でも私、お酒飲めなくて……」「ハア? 酒が飲めなくてこの商売できるわけないだろ。お前の都合なんか知らねえよ、いいから飲め」「は、はい……」 ミューは仕方なく自分のグラスに少量のブランデーを垂らし、ウーロン茶を大量に入れてウーロン割りを作っている。 おい、新人。それはどう見てもただのウーロン茶だろ。「貸せよ」 俺は無理矢理ミューからボトルを取り上げ、コップに半分くらいブランデーを入れてやった。 乾杯を交わして、適当にハナシをする。 ミューのグラスが全然進んでないから飲むように急かすと、しかめっ面したまま、濃いブランデーのウーロン割りを小さな口に流し込む。きっと酒も弱いんだろうな。酔わせてしまったら後が楽だ。「なあ、ミュー」 俺はわざとミューの肩を抱いて、耳元で囁いた。「お前、処女?」「えっ?」 見る間に真っ赤になって、大きな目を更に見開く。 ははっ。男にも慣れてないのか。そんなイモ娘が、こんなクラブなんかで働くなよ。 極上の笑みを湛えて俺は言った。「お前、いくらだったらヤらせてくれる? 俺、処女好きなんだ。だって汚くないだろ? 誰ともしてないんだからさ」 処女が好きな理由は、今言った通りだ。 汚くないから。 俺はなんでも一番でないと気がすまない。 女もそうだ。 他の男より後、というのがイヤだ。 初めての女性を俺が征服していく――手に入れているという支配欲に満たされるあの一瞬が好きだ。 ま、後はポイだけど、手切れ金たっぷり包んでやるんだ。別に文句はないだろ。「なぁ、ミュー、お前はい・く・ら・で・処・女・売・る・の?」 彼女は肩を震わせていた。 羞恥心でいっぱいなんだろう。少しの下ネタで黙ってしまうとは。夜の世界ナメんなよ。  この俺様
last updateLast Updated : 2025-12-22
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スマイル2 再会 01

 次の日。雅のママからもらったミューの履歴書に書かれた住所に行ってみると、更地だった。名前の欄に、木村 美幸(きむら みゆき)と書いてある。美幸だから、ミユを取ってミュー。……なるほど、これも偽名そうだな。 逃げようったって、そうはいかないぞ。履歴書に貼った写真はある。この俺様がしっかり覚えてるからな。お前のその顔、忘れるものか! 俺の財力、ナメんなよ。全勢力と財産を上げて、草の根掻き分けてでも探し出してやる!! 久々に熱くなっていると、ホテルの支配人から連絡があった。立ち退きの件を急かされてしまった。  無能と思われても困るので、先にホテルの件、片付けに行くか。ちょうど近いし。 リムジンに乗り込み、ホテル建設予定地の近くまで行った。 路地が多く、俺の乗ってきた車じゃ入らないから、大通りでリムジンは待機させ、途中から歩いた。 俺様に歩かせるなんて、どういう見解だ? 自慢じゃないが、車が入れないような密集地帯なんかに来たことないからな。 路地を進むとボロい施設が見えてきた。 少し大きくて古い作り。遊具もペンキがはげたりして、本当にボロい。 相当年期入ってるな。看板に【マサキ施設】と書いてある。 施設の門から中を覗いていると、俺に気づいた子供たちが駆け寄ってきた。「こんにちはー!! お客様ですかー?」 丁寧に挨拶されたので、そうだ、と返すと、子供たちはどうぞ、と小さい手で俺の手を握って中へ案内してくれる。 なかなか手厚い歓迎だな。もうすぐお前等の住む場所が無くなるのに、可哀相な子供たちだ。「ミュー先生! お客さんだよー!!」 耳を疑った。 俺の聞き間違いか?「どちら様?」 振り向いた女は、昨日見せることのなかった極上の笑顔を湛えていた。 昨日は巻いてあったが、今は違う。腰の上あたりまである薄茶色の長いストレートの髪を無造作に後ろに束ねていて、大きな目には殆どアイシャドウも乗せられておらず、化粧っ気も殆ど無い。 昨日逢った時に着ていたドレスより似合っているボロいジーパンとTシャツ着て、全然化粧して無いし汚い格好なのに、昨日より綺麗な女。 まさか昨日、俺様に水をぶっかけて頬まで叩いた女に会うなんて―― ミューは俺の顔を見た途端、あからさまに嫌悪感いっぱいの表情を浮かべて睨みつけてきた。「なにか御用でしょうか?」「お前、昨日
last updateLast Updated : 2025-12-22
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スマイル2 再会 02

 なっ……。一度ならず二度までも、俺様を邪険に扱いやがった。 どんな女だって俺のこの容姿と名前を聞けば、絶対服従なのに。 なんなんだ、ミューって女は! このままじゃ腹のムシが収まらねぇっ!! もう一度扉を開けようと思ったら、さっきの部屋から物凄い勢いでミューが飛び出してきた。「おいっ、待て!!」 わき目も振らずにあっという間に施設を飛び出し、路地を潜り抜けて全力疾走するミューを、俺は成り行きで追いかけた。 なぜ俺まで走ってるんだ? ミューを追いかけていると、小さな商店街にやって来た。その一角の小さな店に沢山の人が押しかけている。まるで砂糖菓子に群がるアリみたいだな。 ミューも人だかりの中に居た。 アイツは驚異的な早さで人だかりをくぐり抜け、忍者の如くその中へと消えた。 やがて戦利品らしきものを獲得したミューが、満面の笑顔で歩いて来た。「あぁー買えてよかった!」 なにか買えたらしい。喜んでいる様だ。「あれっ。まだ居たの?」 俺の姿を見つけたミューが怪訝そうな顔をしている。「お前が人の話、聞かねえからだっ!」 この俺様をコケにした揚句、振り回しやがって!「私忙しいのよね。じゃ、話聞いてあげるからこれ持って」 さっきの戦利品を押し付けられた。「落とさないでよ。命懸けで買った御馳走なんだから!」「お前、俺を誰だと思ってるんだ!!」 召使扱いしやがって!「知らないわよ。アンタなんか」「昨日クラブで名乗っただろ! 王雅だ! 櫻井王雅!! 名前聞いたコトくらいあんだろ」「知らない」 興味もなさそうに俺に一瞥をくれると、ミューは商店街を歩き回って色々買い物を始めた。「おい待て! 話を聞いてくれるんじゃなかったのかっ」「はいはい。今忙しいのよ。ちょっと待ってね王様」「王様には違いないけど、名前は王雅だ!」「どうでもいいわ、大王様」「ダッ……大王!?」「ええ。うるさい大魔王よ」 扱い雑じゃね? なんだこの女? ありえねえ。「おい。今すぐ抱いてお前の方から話を聞いてくれって言わせてやろうか?」 あからさまに嫌そうな顔を向け、汚らわしいものでも見る目つきでミューが俺を見る。 コラ。そんな目で俺を見るな! 「救い様が無い変態ね、アンタ」「うっ……うるさいな! 大体俺は、女に断られたことがないんだよ!」「良かったじ
last updateLast Updated : 2025-12-22
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スマイル2 再会 03

「みんな、お腹空いたでしょ? ゴメンねっ、すぐご飯にするから、お手伝いお願いね!」 ミューはアイツ等と共に施設の中に消えて行く。「ちょっとー、アンタも来なさいよー!」声だけが施設から聞こえて来た。 俺、子供たちより扱い悪くないか?「お兄さん、早く早くー!」 ツインテールの女の子と、坊ちゃん刈りの男の子が俺を迎えに来た。 背中を押され、手を握られ拉致られる。「ミュー先生、お兄さん連れて来たよー!」「有難う」ミューが二人に向かって微笑んだ。「じゃあ、みんなでスプーンの用意してくれる? お兄さんから包み受け取って、持ってきてくれるかな」 施設の食堂の椅子に案内され、座らされた。「お兄さん、はい、どうぞ! お買い物手伝ってくれて、有難うございました」 スプーンを手渡され、さっきのボッチャン刈りの男の子に礼を言われた。「あ、あぁ、別に。大したことはしてねえから」 って、待て。 なぜ俺はこんなトコに座っているんだ? 俺は施設の立ち退き要請――つまり、ここにいる全員を追い払いに来たのに!「――オイっ、俺は……」 立ち上がって話を続けようと思ったら、ミューや他の子供たちが皿を持ってやって来た。 皿の上には、オムライスとコロッケが乗っている。 手分けして同じものが一斉に配られ、大きなテーブルはオムライスとコロッケの乗った皿で埋め尽くされた。「さぁ、みんなで食べましょう! もう、手は洗いましたか?」「はーい!」「それでは今日も、楽しく生きていることと、おいしいご飯が食べられることに感謝して……いただききます」「いただきまーす!!」 全員が両手を揃えて、神様ありがとうございます、と一礼した後、おもむろに貧相な昼食を食べ始める。「お兄さん、ちゃんと『いただきます』して、神様にお祈りしなきゃダメなんだよ」 天然パーマが掛かったチリチリ頭――サルみたいな男の子が、黙ってこの場を見つめている俺に説教を始めた。「ミュー先生のオムライス、おいしいんだよ! お兄さんも一緒に食べよう。ご飯はみんなで食べたら、もっともっとおいしいくなるから!」「あ、ああ……」 流石の俺も、子供に向かって反論するのも気が引けたから、仕方なく祈るフリをした。――ミュー、俺様に跪け、跪け×∞  処女を俺によこせ×∞…… 俺はミューに思念が届くように願いを込めた。 
last updateLast Updated : 2025-12-23
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スマイル2 再会 04

 「サンキュ」  またミューがうるさく言いそうだから、とりあえずリョウに礼を言っておいた。「どういたしまして! お兄さんだけ食べられないの、カワイソウだもん」  そして、カワイソウ扱い。  どうなっているんだ、ここの連中は。俺をかわいそう扱いするな! コロッケみたいな庶民の食べ物、いくらでも食べれるんだ。  金、あるし。  家にコロッケ職人呼ぶことだってできるんだ。  バカみたいなこと考えて、ペース乱されまくってるな。コロッケをわざわざ職人呼んでまで食いたくねえし。 まあ折角だから、とりあえずもらったコロッケを食べようか。 この俺様がコロッケみたいな庶民の食い物を、しかも子供から恵んでもらうなんてな。ぜんぶ、ミューのせいだ! 絶対、この落とし前はつけてもらう。 今に見てろよ。  「んっ……めちゃくちゃうまい」   コロッケを頬張った瞬間、勝手に呟いていた。  このコロッケとオムライス、そして芳醇なソースの味付けが絶妙で。 今まで食べた中で、一番うまいオムライスとコロッケだ。うん、これはうまい! 「これ、すごくうまいな!」  ミューに向かって、思わず興奮して言った。 「そうなの。おいしいでしょっ、このコロッケ。しかも3個で100円の特売だから、発売した瞬間売り切れるのよ。だから、特売日は急いで買いに行くのよ」 「ひゃ……100円!?」  1、10、100……たった100玉1枚ぽっちで買えてしまうのか! しかも3個入り!  それでこんなにうまいなんて、安すぎて価格破壊だ
last updateLast Updated : 2025-12-24
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スマイル3 ケーキの役割 01

 次の日。俺は再びマサキ施設にやって来た。 この施設の主であるミューにはやられっぱなしだ。 この俺様が負けっぱなしでいるわけにはいかない。 なんとしても、この施設から彼女たちを立ち退かせる! そしてミューに土下座して謝らせ、処女はいただく。 それに、 昨日はリョウにコロッケを恵んでもらうという恩があり、借りができてしまった。 借りは作らない主義だ。 だから特別にプロの菓子職人に作らせた、デラックススーパー・シェリーノエル(つまり豪華な1人用のケーキだ)を持ってきた。 ブラックチェリーをふんだんに使い、チョコレートでコーティングした、オトナなケーキ。 超高級品で、マダムも大絶賛! 貧乏人にはとても買えない、目玉が飛び出るくらいの値段がついたケーキだ。子供でも食べられるように作ってもらったものだ。 俺が施設の門から中を覗くと、遊具で遊んでいたリョウと目があった。「あっ、お兄さんだぁ!」 ヤツは大声で叫び、俺の方に向かってやって来た。 「いらっしゃい、お兄さん! ミュー先生にご用ですか?」「ああ。昨日のコロッケの礼だ。お前にやる」  リョウにケーキを渡すと、うわーっ、すごーい、お兄さんありがとう、とメチャクチャ喜んで俺の手を掴み、一目散に施設の中に走っていった。 「ミュー先生っ、ミュー先生!! お兄さんがおみやげくれたよーっ!!」  仕事部屋で書類の整理をしていたミューが顔を上げた。「リョウ君、どうしたの? あら……」 俺の顔を見て、嫌そうな顔をするミュー。   オイ!! 人の顔を見てイキナリ嫌そうな顔をするなよ! 傷つくだろ!!  「リョウ君、良かったね。お兄さんにちゃんとお礼、言った?」
last updateLast Updated : 2025-12-25
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スマイル3 ケーキの役割 02

  「あ――――っ、痛ってぇ!! この俺様をブッ叩くなんて、ありえねえ女だな、お前!」   結局ブツブツ言いながら、また商店街の買出しにつき合わされている、俺。 どうしてこんなに振り回されてるんだよ!  絶対絶対、ぜ――ったい、手に入れてやるからな!  メッチャメチャのグッチャグチャにして、王雅様ゆるして下さいって、言わせてやる! あー、それにしても左頬、ホンキで痛い。 ミューのやつ、握力ハンパねえな。 「今日はアンタに、ケーキの役割っていうのを教えてあげる」「は? ケーキ?」「そうよ。今日はリョウ君が5歳の誕生日なの。施設が赤字経営だからプレゼントを買う余裕が無くて、クラブで働いたお給料でプレゼントを買おうと思っていたのよ」  それでミューが雅でバイトしてたってわけだな。そこへ俺がやってきた、と。 「クラブの仕事は私に向いてなくて、結局すぐ辞めちゃったわ。でも、それってアンタのせいよね。災難だったわ」「俺も災難だ」  水はかけられるわ、ビンタされるわ、振り回されるわ、散々だ! 「でも、アンタって義理堅いのね。リョウ君への恩、しっかり感じてるし、お金持ちなのに、庶民のコロッケおいしいって食べるし」  そう言って、ミューは嬉しそうに笑った。    ドキン   ――な、なんだ?    ドキン?  
last updateLast Updated : 2025-12-26
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スマイル3 ケーキの役割 03

 キッチンにずかずか入っていくと、ふんわりケーキの甘い匂いが漂っている。そして笑顔のミューが居た。「あ、ハイこれ。アンタもやってみなさいよ。そこでちゃんと手を洗ってからね」 生クリームが入った大きなボウルを手渡された。 「なんだよ、コレ」「生クリームよ」「俺にどうしろっていうんだよ」「そこのスポンジケーキに塗って。綺麗にお願いね」「そんなんじゃわからねえよ」 「じゃあ、お手本を見せてあげる」  ミューは慣れた手つきで、ケーキベラでスポンジに綺麗に生クリームを塗りつけていく。「そんなの、俺様にだって簡単にできるって。天才が手ほどきを見せてやる」 手を洗ってボウルを受け取り、生クリームをたっぷりヘラに乗せて、ミューの真似をしてベチャリとケーキに塗りつけた。  ……あれ? おかしいな。 思ってたより上手く塗れねえぞ。 スポンジの上でクリームがあちこちボコボコ山を作っている。 「流石、天才ね」「うるせえっ。やったことねえんだから、少々のミスは仕方ねえだろっっ」  なんだよ。俺に恥をかかせようって魂胆か。性悪女め! しかしミューはそんな俺をバカにしたりせず、笑った。「それでいいのよ。誰だって最初から上手くできないんだから」「こんなのすぐ慣れるって! この天才を見てろ」  そう言って豪語したものの、相変わらずケーキのスポンジには、ボコボコのクリームの山が出来あがるだけだった。   クソッ。 俺は完璧主義なんだ。……今度練習しよ。  「じゃあ次は、イチゴを乗せて」 イチゴはなんとかセンス良く盛り付けられたが、クリームの乗りが最悪なので、歪な
last updateLast Updated : 2025-12-27
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スマイル3 ケーキの役割 04

 パーティが終った後、俺はミューと話をつけるために応接間で向き合った。 ミューが入れてくれた紅茶が湯気を立てている。冷めないうちにどうぞ、と勧めてくるから、仕方なく飲んでやる。そういや昨日も飲んだが、相当美味い紅茶だった。「うん、うまい」 思わず、口からそんな言葉が零れていた。 ハッ 茶を飲んで、うまい、なんて言って和んでる場合じゃねえ。 オイ、と口を開きかけたら、ミューが先に話し始めた。「今日は有難う。飾り付け手伝ってくれて、すごく助かったわ」「あ、えっ、いや、別にそのくらい大したことねえよ」 それより、と続けようとしたら、またミューが先に話し始める。「ケーキ、みんなで食べたらおいしかったでしょ?」「あ、えっ、まあ、うまかったけど……」 俺が塗ったクリームのせいでかなり形の悪かったが、確かにうまいケーキだった。 スポンジは柔らかくて、ほんのり甘くて、優しい味だった。ミューが作ったからうまいのだと思った。「アンタが買ってきてくれたケーキもすごくおいしいと思うよ。今日持ってきてくれたケーキ、有名なお店で買ったんでしょ」「まあな。俺が特別に作らせたんだ」 やっと気づいたか。遅いって。「でも、あのケーキだと、ひとりを笑顔にすることはできても、みんなを笑顔にすることはできないの」「笑顔?」「そう。子供たちとワイワイ言いながら食べるのがおいしいのよ。私の手作りだと、見た目も味も、買ってきてくれたケーキには適わないけど、ケーキの役割は果たしてるのよ」「役割? そういえば買い物する前にも言ってたな。役割を教えるって」「ええ。ケーキは、みんなを笑顔にするの。楽しいパーティに欠かせない魔法のお菓子で、食べたひとを幸せにしてくれる魔法の役目がある。それが、ケーキの役割よ」「ケーキ食べただけで幸せになるわけねえだろ」「でも、幸せになったでしょ? 私も、アンタも」「ならねえよっ。そんなことで幸せだって言うなら、誰も苦労しねえよ」「はあ~。お金があっても心が貧しいって、イヤね」 蔑んだ目をされた上に、おもいっっっっっきりため息つかれた。「くそっ……ふざけんな!!」「私はふざけてないわ。いつだって本気よ」「俺だってふざけてねえよ!」俺は目の前のテーブルを拳で叩いた。「いいか、俺はこの施設の人間を立ち退かせに来たんだ。お前がこの施設に拘る理
last updateLast Updated : 2025-12-28
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