Masuk櫻井 王雅(さくらいおうが)二十三歳。 今まで金で買えなかったものなんかない。 櫻井グループの御曹司。 成績優秀。 容姿端麗。 性格王様。 女はすぐポイ捨て。 そんな男が初めて欲しいと思ったものは コロッケ3個100円の特売セールに微笑みを零す女 名を、真崎 美羽(まさき みう)。 なあ、美羽。 お前の心は、一体いくらで買い占められる? 1億? 2億? 俺の有り金で良ければ、いくらでも払ってやるよ。 総資産、何兆円もある。 今まで、金で買えないものなんか無かった。 だから お前のコロッケ笑顔を手に入れる方法が解らなくて こんなにも苦しい。
Lihat lebih banyak「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」
バシャッ
先ほどまで俺に愛想を振りまいていたイモっぽいホステス女が、目を吊り上げて怒っている。
その彼女が、俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけたのだ。「おっ、お前――」
バチン!
なにするんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。
「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男に抱かれるなんて、たとえ1億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」
ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、彼女は席を立った。
この、最低最悪の出会いが、まさか、俺の人生を180度ひっくり返すことになるとは。
そして目の前の彼女を、命を懸けて愛することになるとは、この時の俺は、夢にも思わなかった――※
遡ること、数時間前。
俺は自家用リムジンに乗り込み、面倒な案件の資料をもらったところだ。「今日は飲みに行くから、適当に車回してくれ」
運転手にそう告げて、ホテル建設予定プランの資料に目を通す。
ご大層な資料だな。読むのも疲れる。
バサッ、と分厚い資料をリムジンのシートの上に放り投げ、ため息をついた。そういえば、ホテル建設予定地に邪魔な施設が建ってるんだっけ。頑なに立ち退きしないとか言ってたな。
金をちらつかせれば、どんなヤツでもすぐ立ち退きするだろう。
つまらない施設ごとき、俺がすぐ潰してやるさ。退屈しのぎには丁度いい。とりあえず行きつけのクラブで飲むことにして、車を銀座方面に走らせた。
CLUB 雅-miyabi-
ゴージャスな内装、煌びやかな光で包まれた店内。一流どころの女性が揃った店だ。
俺の名前――櫻井王雅(さくらいおうが)の文字が入ったクラブだから、仕事の接待に利用している。ただそれだけのことだ。VIP席に通され、革張りのソファーに座って足を広げていると、この店のママが現れた。「これは王雅様、いらっしゃいませ」
斜め45度の角度できっちり頭を下げ、俺に挨拶をするママを見て会釈を返す。
「今日は新しい子が入店してますの。王雅様に紹介しますね。ミューちゃんよ」
こんばんは、と若干怯えるようにしながら挨拶してきた女がいた。
少し大きめの瞳に、薄くて長い茶髪を巻髪にしている。年齢は俺と同じ――22、23歳くらいってとこか?田舎から出てきたてのような第一印象。しかもドレスが全く似合ってない。着られてるってカンジ?
全然あか抜けていない、イモっぽい女だな。この商売初めてなんだろうな。
おもしろそうだな。ちょっとからかってやるか。
「みんな、お腹空いたでしょ? ゴメンねっ、すぐご飯にするから、お手伝いお願いね!」 ミューはアイツ等と共に施設の中に消えて行く。「ちょっとー、アンタも来なさいよー!」声だけが施設から聞こえて来た。 俺、子供たちより扱い悪くないか?「お兄さん、早く早くー!」 ツインテールの女の子と、坊ちゃん刈りの男の子が俺を迎えに来た。 背中を押され、手を握られ拉致られる。「ミュー先生、お兄さん連れて来たよー!」「有難う」ミューが二人に向かって微笑んだ。「じゃあ、みんなでスプーンの用意してくれる? お兄さんから包み受け取って、持ってきてくれるかな」 施設の食堂の椅子に案内され、座らされた。「お兄さん、はい、どうぞ! お買い物手伝ってくれて、有難うございました」 スプーンを手渡され、さっきのボッチャン刈りの男の子に礼を言われた。「あ、あぁ、別に。大したことはしてねえから」 って、待て。 なぜ俺はこんなトコに座っているんだ? 俺は施設の立ち退き要請――つまり、ここにいる全員を追い払いに来たのに!「――オイっ、俺は……」 立ち上がって話を続けようと思ったら、ミューや他の子供たちが皿を持ってやって来た。 皿の上には、オムライスとコロッケが乗っている。 手分けして同じものが一斉に配られ、大きなテーブルはオムライスとコロッケの乗った皿で埋め尽くされた。「さぁ、みんなで食べましょう! もう、手は洗いましたか?」「はーい!」「それでは今日も、楽しく生きていることと、おいしいご飯が食べられることに感謝して……いただききます」「いただきまーす!!」 全員が両手を揃えて、神様ありがとうございます、と一礼した後、おもむろに貧相な昼食を食べ始める。「お兄さん、ちゃんと『いただきます』して、神様にお祈りしなきゃダメなんだよ」 天然パーマが掛かったチリチリ頭――サルみたいな男の子が、黙ってこの場を見つめている俺に説教を始めた。「ミュー先生のオムライス、おいしいんだよ! お兄さんも一緒に食べよう。ご飯はみんなで食べたら、もっともっとおいしいくなるから!」「あ、ああ……」 流石の俺も、子供に向かって反論するのも気が引けたから、仕方なく祈るフリをした。――ミュー、俺様に跪け、跪け×∞ 処女を俺によこせ×∞…… 俺はミューに思念が届くように願いを込めた。
なっ……。一度ならず二度までも、俺様を邪険に扱いやがった。 どんな女だって俺のこの容姿と名前を聞けば、絶対服従なのに。 なんなんだ、ミューって女は! このままじゃ腹のムシが収まらねぇっ!! もう一度扉を開けようと思ったら、さっきの部屋から物凄い勢いでミューが飛び出してきた。「おいっ、待て!!」 わき目も振らずにあっという間に施設を飛び出し、路地を潜り抜けて全力疾走するミューを、俺は成り行きで追いかけた。 なぜ俺まで走ってるんだ? ミューを追いかけていると、小さな商店街にやって来た。その一角の小さな店に沢山の人が押しかけている。まるで砂糖菓子に群がるアリみたいだな。 ミューも人だかりの中に居た。 アイツは驚異的な早さで人だかりをくぐり抜け、忍者の如くその中へと消えた。 やがて戦利品らしきものを獲得したミューが、満面の笑顔で歩いて来た。「あぁー買えてよかった!」 なにか買えたらしい。喜んでいる様だ。「あれっ。まだ居たの?」 俺の姿を見つけたミューが怪訝そうな顔をしている。「お前が人の話、聞かねえからだっ!」 この俺様をコケにした揚句、振り回しやがって!「私忙しいのよね。じゃ、話聞いてあげるからこれ持って」 さっきの戦利品を押し付けられた。「落とさないでよ。命懸けで買った御馳走なんだから!」「お前、俺を誰だと思ってるんだ!!」 召使扱いしやがって!「知らないわよ。アンタなんか」「昨日クラブで名乗っただろ! 王雅だ! 櫻井王雅!! 名前聞いたコトくらいあんだろ」「知らない」 興味もなさそうに俺に一瞥をくれると、ミューは商店街を歩き回って色々買い物を始めた。「おい待て! 話を聞いてくれるんじゃなかったのかっ」「はいはい。今忙しいのよ。ちょっと待ってね王様」「王様には違いないけど、名前は王雅だ!」「どうでもいいわ、大王様」「ダッ……大王!?」「ええ。うるさい大魔王よ」 扱い雑じゃね? なんだこの女? ありえねえ。「おい。今すぐ抱いてお前の方から話を聞いてくれって言わせてやろうか?」 あからさまに嫌そうな顔を向け、汚らわしいものでも見る目つきでミューが俺を見る。 コラ。そんな目で俺を見るな! 「救い様が無い変態ね、アンタ」「うっ……うるさいな! 大体俺は、女に断られたことがないんだよ!」「良かったじ
次の日。雅のママからもらったミューの履歴書に書かれた住所に行ってみると、更地だった。名前の欄に、木村 美幸(きむら みゆき)と書いてある。美幸だから、ミユを取ってミュー。……なるほど、これも偽名そうだな。 逃げようったって、そうはいかないぞ。履歴書に貼った写真はある。この俺様がしっかり覚えてるからな。お前のその顔、忘れるものか! 俺の財力、ナメんなよ。全勢力と財産を上げて、草の根掻き分けてでも探し出してやる!! 久々に熱くなっていると、ホテルの支配人から連絡があった。立ち退きの件を急かされてしまった。 無能と思われても困るので、先にホテルの件、片付けに行くか。ちょうど近いし。 リムジンに乗り込み、ホテル建設予定地の近くまで行った。 路地が多く、俺の乗ってきた車じゃ入らないから、大通りでリムジンは待機させ、途中から歩いた。 俺様に歩かせるなんて、どういう見解だ? 自慢じゃないが、車が入れないような密集地帯なんかに来たことないからな。 路地を進むとボロい施設が見えてきた。 少し大きくて古い作り。遊具もペンキがはげたりして、本当にボロい。 相当年期入ってるな。看板に【マサキ施設】と書いてある。 施設の門から中を覗いていると、俺に気づいた子供たちが駆け寄ってきた。「こんにちはー!! お客様ですかー?」 丁寧に挨拶されたので、そうだ、と返すと、子供たちはどうぞ、と小さい手で俺の手を握って中へ案内してくれる。 なかなか手厚い歓迎だな。もうすぐお前等の住む場所が無くなるのに、可哀相な子供たちだ。「ミュー先生! お客さんだよー!!」 耳を疑った。 俺の聞き間違いか?「どちら様?」 振り向いた女は、昨日見せることのなかった極上の笑顔を湛えていた。 昨日は巻いてあったが、今は違う。腰の上あたりまである薄茶色の長いストレートの髪を無造作に後ろに束ねていて、大きな目には殆どアイシャドウも乗せられておらず、化粧っ気も殆ど無い。 昨日逢った時に着ていたドレスより似合っているボロいジーパンとTシャツ着て、全然化粧して無いし汚い格好なのに、昨日より綺麗な女。 まさか昨日、俺様に水をぶっかけて頬まで叩いた女に会うなんて―― ミューは俺の顔を見た途端、あからさまに嫌悪感いっぱいの表情を浮かべて睨みつけてきた。「なにか御用でしょうか?」「お前、昨日
適当に会話を流し、ミューとふたりきりになりたいと言って、他のホステスを下げさせた。 ミューは、突然先輩たちが「王雅様がミューちゃんとふたりきりになりたいみたいだから、あとは宜しくね」と言い残し、席を去っていったので、ますます挙動不審になっている。「ども。櫻井王雅だ。よろしくな」「はい、今日入店したばかりのミューです。どうぞ宜しくお願いします」 深々と頭を下げ、お辞儀をするミュー。さーて。どうやってからかってやろうかな?「そんな堅苦しい挨拶はいーからさ。飲めよ」「あっ、あの……でも私、お酒飲めなくて……」「ハア? 酒が飲めなくてこの商売できるわけないだろ。お前の都合なんか知らねえよ、いいから飲め」「は、はい……」 ミューは仕方なく自分のグラスに少量のブランデーを垂らし、ウーロン茶を大量に入れてウーロン割りを作っている。 おい、新人。それはどう見てもただのウーロン茶だろ。「貸せよ」 俺は無理矢理ミューからボトルを取り上げ、コップに半分くらいブランデーを入れてやった。 乾杯を交わして、適当にハナシをする。 ミューのグラスが全然進んでないから飲むように急かすと、しかめっ面したまま、濃いブランデーのウーロン割りを小さな口に流し込む。きっと酒も弱いんだろうな。酔わせてしまったら後が楽だ。「なあ、ミュー」 俺はわざとミューの肩を抱いて、耳元で囁いた。「お前、処女?」「えっ?」 見る間に真っ赤になって、大きな目を更に見開く。 ははっ。男にも慣れてないのか。そんなイモ娘が、こんなクラブなんかで働くなよ。 極上の笑みを湛えて俺は言った。「お前、いくらだったらヤらせてくれる? 俺、処女好きなんだ。だって汚くないだろ? 誰ともしてないんだからさ」 処女が好きな理由は、今言った通りだ。 汚くないから。 俺はなんでも一番でないと気がすまない。 女もそうだ。 他の男より後、というのがイヤだ。 初めての女性を俺が征服していく――手に入れているという支配欲に満たされるあの一瞬が好きだ。 ま、後はポイだけど、手切れ金たっぷり包んでやるんだ。別に文句はないだろ。「なぁ、ミュー、お前はい・く・ら・で・処・女・売・る・の?」 彼女は肩を震わせていた。 羞恥心でいっぱいなんだろう。少しの下ネタで黙ってしまうとは。夜の世界ナメんなよ。 この俺様