All Chapters of 独占欲に捕らわれて2: Chapter 31 - Chapter 40

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紅玲の取材旅行19

「だって、あの部長を呑み負かしたって伝説の持ち主だよ? そんなの見たいに決まってるじゃない」瑞希は本人の前にも関わらず、悪びれる様子なく言う。(確かに、たまにはこの子達と呑むのもいいかもしれない)千聖は彼女達を見回して、小さく頷く。「それもいいわね。なんなら今日、一緒に呑みに行く?」千聖の言葉に、3人は目を輝かせた。「はい、是非!」「わぁ、楽しみだなぁ」「残業しないように頑張らなきゃ」口々に言う彼女達を見て、千聖は微笑ましい気持ちになる。仕事が始まると、4人は連携プレーで次々と仕事を終わらせていく。「ちはちゃん、この資料50部コピーしてもらっていい? ホチキス止めは手伝うから、コピー終わったら声掛けて」「はーい」千春は資料を受け取ると、小走りでコピー機へ向かう。(なんだかいいわね、こういうの)仕事終わりの呑み会に思いを馳せながら、千聖は次の仕事に取り掛かる。4人の努力のかいがあって、彼女達は定時に仕事を上がることが出来た。「綾瀬先輩の行きつけに連れてってくださいよ」会社から出ると、美幸がせがむ。「うーん、よく行く居酒屋はいくつかあるから迷っちゃうわ」そう言いながらも、千聖の足は迷うことなく進んでいく。会社から10分ほど歩いたところで、千聖の足は止まる。着いたのは、格安でカクテルの種類が多い居酒屋だ。「ここよ」千聖が先に入ると、店員が案内してくれる。4人掛けの席につくと、千聖はさっそくハイボールを頼んだ。「上級者は案内されるのと同時に頼むものなんですね」「そういうわけじゃないわよ」感心したように言う美幸に、千聖は苦笑する。「わぁ、ここカクテル多いんですね。私カンパリソーダにしよ」マイペースな瑞希は、ひとりでメニューをパラパラとめくる。「私も見たい」「もう1冊あるわよ」千聖はメニューを広げると、自分と隣に座る千春の間に置いた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行20

千聖のハイボールを持ってきた店員にそれぞれのカクテルと、数種類のつまみを注文する。他愛のない話がダラダラと始まる。だがカクテルとつまみが運ばれてきた途端、話の内容は恋バナになった。(特殊なスイッチねぇ……)千聖は恋バナを始めた彼女達を、不思議顔で眺めた。彼女達は元カレの話や、今の彼氏の不満話で盛り上がる。紅玲に不満を持たない千聖は、好きで付き合っているのにそんなこともあるのかと聞いている。「綾瀬先輩は、彼氏さんに不満とかないんですか?」完全に愚痴大会になってしまったところで、美幸が千聖に話を振る。「特にないわ。今回急に取材旅行に行っちゃったのは寂しいけど、それだけ。私に隠し事なんかしないし、在宅ワークだからって、家事もほとんどやってくれるわ。それに、毎日キスしてくれるもの」さすがに帰宅後すぐに首輪を付けられて愛されることは伏せたが、言えることは言葉にした。彼女達に紅玲の話をしながら、自分がどれだけ恵まれているのか改めて思い知る。「愛されてますねぇ……」「いいなぁ……。元カレなんか洗濯物ちょっと畳んだくらいで偉そうにしてたんですよ……」「でもでも、同棲してるならお金のことで揉めたりしませんか? 家賃とか公共料金とか」どうしても千聖から不満が聞きたいのか、美幸は食い下がる。「今住んでる家はね、同棲を決めてから紅玲が買ってくれたのよ」「えぇっ!?」またしても3人の声が綺麗に揃った。「買ってくれたって、結婚してないのにですか?」「えぇ、そうよ。正式な婚約はしてないけど、お互いになくてはならないほど大きな存在だからって。さすがに家は早すぎるって言ったんだけど、こういうのは早い方がいいって聞かなくて」千聖の話を、3人は口をぽかんと開けながら聞いている。「……こういうこと聞くのもアレですけど、ローンはどうなってるんですか?」千春は遠慮がちに聞く。「紅玲が一括で支払ったの。公共料金はよく話し合って割り勘にしてるわ。お金のことでちょっとした言い合いになることはあるけど、私が支払おうとしたものを向こうが支払っちゃった時くらいね」「玉の輿だ……」瑞希がぼそっと言う。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行21

「えぇ、綾瀬先輩そんな完璧な彼氏、どこで拾ってきたんですか!?」美幸は身を乗り出しながら聞く。「拾ってきたって……。無理やり連れてこられた合コンで知り合ったの。最初は正直苦手だったんだけどね……」「苦手だったのに、どうして付き合ったんですか?」質問してくる彼女達の目が刺々しいものに変わっていくのを感じながら、千聖はどう返答するか考える。「そうねぇ、私にハイボール一気飲みに勝てたら教えてあげてもいいわよ? ハンデとして、私は濃いめに作ってもらうわ」どう? と千聖が笑顔で言うと、3人は首を横に振った。「あら残念」千聖は店員を呼び止めると、ウイスキーをロックで注文した。千聖が一気飲みの勝負をしかけてから愚痴大会や恋バナは終わり、当たり障りのない話題になる。居心地の悪さに耐えかね、30分もしないうちに、千聖はこの場から抜け出すことにした。「なんだか眠くなっちゃったから、そろそろ帰るわね。お代、ここに置いておくから」笑顔を崩さないように意識しながら、千聖はテーブルの真ん中に2万円置いた。「こんなに飲み代出してもらうわけにはいきませんよ」瑞希は慌てて1万円返そうとする。「いいの、気にしないで。それじゃあおつかれ」「……お疲れ様です」「まだ明日」「ご馳走様です」千聖が笑顔のまま片手を上げると、3人は頭を下げながら言う。居酒屋から出ると、千聖は大きなため息をついた。「あぁ、すっかり忘れてたわ……。女の腹黒さ……」紅玲という恋人が出来てから、千聖は惚気話を親友の優奈以外にしてこなかった。というのも、学生の頃から女の嫉妬深さの被害に何度も遭い、痛い目を見てきているからだ。今は落ち着いてきているとはいえ、優奈もかつては嫉妬深い女のひとりだった。「呑み直そうかしら……」千聖は優奈を呼び出そうと、スマホを取り出す。電源ボタンを押して画面を明るくすると、紅玲から不在着信が何件も入っていたことに気づいた。「マナーモードにしたままだった……」仕事中はサイレントマナーにしている。千聖はサイレントマナーを解除すると、イヤホンをつけてから紅玲に電話をかけた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行22

紅玲はワンコールで出てくれた。『出ないから心配したよ』少し不機嫌そうな声が、耳に届く。「ごめんなさい……。マナーモードにしたまま、後輩達と呑みに行っちゃったの……」『チサちゃんなら大丈夫だと思うけど、そこに男はいないよね?』疑いとも取れる言葉に、胸を締め付けられる。「当たり前じゃない。いつも一緒にランチ食べてる子達よ。……あなたの話になって聞かれたことを話したら、なんだか嫉妬されちゃって……。居心地悪いから逃げてきちゃったけど」付け足すように言うと、紅玲は小さく笑う。『それはお疲れ様。で、夕飯はちゃんと食べられたの?』「いいえ、まだだけど……」恋人というより保護者のようだと思いながら、千聖は返事をする。『言い忘れてたけど、冷凍庫にちょっと作り置きしてあるから。解凍して調理して食べてね』紅玲の気遣いに、目頭が熱くなる。「ありがとう、すごく助かるわ。取材の方はどう?」『なかなか順調でさぁ、傑作が書けそうだよ。書き終わったら、読んでくれる?』子供っぽい言い方が愛おしくて、笑いそうになるのをこらえる。「もちろんよ、楽しみにしてるわ」『よかった。オレもそろそろごはん行くから、またね。愛してるよ』「もう……。私も愛してるわ」千聖は照れながらも愛の言葉を返すと、電話を切った。そして予定通り優奈に電話をかける。『千聖ぉ! 私もう死んじゃう!』間髪入れずに出たかと思えば、優奈は泣き叫んだ。千聖は思わず耳からイヤホンを外した。「……どうしたのよ?」意を決して再びイヤホンをつけると、優奈が求めているであろう言葉を投げかける。『かずくんに振られたのぉ!』(かずくん? ……確か、紅玲と知り合った合コンにいた年下の子だっけ? 優奈にしては、長く続いた方ね……)泣きわめく優奈をよそに、千聖は冷静に考えこむ。『ねぇちょっと聞いてる!?』何かをドンドン叩く音と共に、優奈のヒステリックな声が聞こえてくる。「聞いてるわよ。とりあえずそっちに行くから、どこにいるのか教えてもらえる?」『シーザーサラダが美味しい居酒屋さん』「……分かったわ、今行く」千聖は優奈の返事を待たずに電話を切った。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行23

「シーザーサラダ、シーザーサラダ……あそこね……」千聖は優奈が指定した居酒屋を特定すると、駅に向かう。優奈は昔から店の名前をほとんど覚えず、特徴で覚える。飲食店なら先程のように印象に残った食べ物を、服屋ならカワイイ系の服と、系統で伝えてくる。「いい加減店の名前を覚える習慣をつけてほしいものだわ……」千聖はうんざりしながら呟き、目的の駅で降りる。予想していた居酒屋に入ると、泣きながらシーザーサラダを食べている優奈をすぐに見つけることが出来た。もしゃもしゃとサラダを食べ続ける優奈を見て、千聖は眉間にシワを寄せる。ここのシーザーサラダはクルトンの代わりに、砕いたシュガーラスクを使っている。優奈はそれをいたく気に入っているようだが、千聖の口には合わなかった。「優奈」「千聖……遅い! カシオレおかわり!」優奈は通りがかった店員に、カラになったグラスを突きつける。「は、はい!」店員は裏返った声で返事をする。「もう……。すいません、テキーラロックでお願いします。あと、洋酒つまみセットも」「あ、はい、かしこまりましたぁ!」店員はそそくさと厨房に入っていった。「ねぇ聞いてよ! かずくんったら、年上の大人な女性がいいって言うのよ!? 酷いと思わない!?」優奈はテーブルをドンドン叩きながら訴えかける。(テキーラだけにしとくんだったわ……)荒れに荒れる優奈を見ながら、洋酒つまみセットを注文したことを後悔した。「優奈は甘えたさんだもんね……。そもそもなんで付き合ったのよ?」「合コンでスイーツの話で盛り上がって、それで……」顔を覆って嗚咽を上げたため、途中で言葉が途切れてしまった。「それだけで1年近く続いていた方が、むしろ奇跡ね……」「そんなこと言わないでよ!」優奈は叫ぶと、テーブルに突っ伏して大声で泣く。「す、すいません。テキーラとカシオレと、洋酒つまみセットです……」店員は気まずそうに注文したものを持ってきた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行24

千聖も優奈も、運ばれてきた酒を一気に飲み干す。(これは……どうしようかしら?)店内を見回すと、カクテルを楽しんでいる4人組の若い女性客を見つける。千聖は洋酒つまみセットを持って、彼女達のテーブル席へ行った。「すいません。よかったらこれ、もらってくれませんか?」女性達はキョトンとしながら千聖を見上げる。「あの子があそこまで騒ぐと思ってなくて、頼んじゃったんです……。一刻も早く、ここから連れ出したくて。もちろん代金は私が払います」優奈をチラリと見ながら言うと、彼女達は納得したように頷く。「それは大変ですね……。ありがたくいただきます」手前にいた女性は、頭を下げながら洋酒つまみセットを受け取ってくれた。「お礼と言っちゃなんですけど、これもらってください。ゲーセンで取りすぎちゃったんです」奥にいた女性は、大きな缶に入ったポテトチップスを千聖に渡す。「すごい……! 返ってすいません、ありがとうございます」「いえいえ、お友達慰めるの、頑張ってくださいね」あたたかい言葉をかけられながら、千聖は優奈の元へ戻る。「どうしたの? それ」優奈は目を丸くしてポテチ缶を見る。「あそこの女性客と交換したの。おつまみも手に入ったことだし、場所を変えるわよ」千聖は伝票を優奈に持たせ、彼女の手を引く。一刻も早く、ここから出たくて仕方がなかった。割り勘で支払いをすると、千聖は優奈の手を引いたまま歩き続ける。「どこに行くの?」優奈は鼻をすすりながら訊ねる。「ラブホ。そこでならいくら大声で泣いても問題ないわ。その前に、お酒を買いに行きましょう」「うわぁん、千聖ー! 好きー!」優奈はポテチ缶が足に当たるのも気にせず、千聖に抱きつく。「ちょっと、歩きにくい! 泣くのはホテルについてからにしなさい」そう言ってポケットティッシュを渡すと、優奈はくしゃくしゃの笑顔で頷き、鼻をかんだ。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行25

ふたりは近くのドラッグストアに行くと、酒やつまみを買い漁った。優奈は缶チューハイを、何本も買い物かごに入れていく。「市販のチューハイは酔いやすいから、2本だけよ?」「でもぉ……」「でもじゃない。前に缶チューハイ3本呑んで吐いたでしょ」千聖がキッパリ言うと、優奈はむくれる。「そんなの昔の話でしょ? 前より呑めるようになったんだから」優奈の言う通り、彼女が缶チューハイでダウンしたのはかなり昔の話だ。まだ高校生だった頃、祭りの無礼講で缶チューハイをふたりで呑んだ。千聖は平気で5本くらい呑んだが、優奈は途中で体調を崩し、千聖に送ってもらって帰ったのだ。だが千聖は、いくら呑もうが酒に強くなることはないと知っている。多少慣れることはあるが、呑めるかどうかは体質的な問題だ。「ダメったらダメ」この状態の優奈にはどんな正論を述べても無意味だと分かっている千聖は、缶チューハイを何本か戻した。「むぅ……呑みたかったのに……」「はいはい……。おつまみ選ぶわよ」千聖は聞く耳を持たず、お菓子売り場に行く。千聖はナッツ類を選ぶが、優奈はチョコやクッキーなど、甘いものばかり選んでいく。「もうこれくらいでいいんじゃないかしら? お会計しましょう」「私もうちょっとお店見てるから、お願いしていい?」優奈は千聖に3千円手渡した。「すぐに来るのよ」「うん、すぐ行く」千聖は不審に思いながらも、酔い覚ましの薬と明日の朝食のパンを買ってレジに並んだ。千聖の会計が終わっても、優奈は戻ってこない。(袋詰めが終わったら、電話しようかしら……)千聖は袋詰めをしながら、ため息をついた。袋詰めが終わって振り返ると、優奈はレジで会計をしている最中だ。「嫌な予感……」うんざりしながらつぶやいてると会計が終わり、優奈は買い物かごを持って千聖の隣に来た。かごの中は大量のチューハイとお菓子だ。「買いすぎよ……」「いいの!」優奈は駄々っ子のように言うと、買ったものを適当に詰めていく。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行26

「もう、下手ね……。やってあげるから、これ持ってて」優奈の適当さに見かねた千聖は、彼女に自分が買ったものを持たせる。「えへへ、ありがと」「……どういたしまして」千聖は嫌味ったらしく言うと、慣れた手つきで袋詰めを終わらせる。「さ、行きましょ」「うん!」大きく頷きながら千聖の腕に抱きつく優奈は、満面の笑顔だ。ふたりはラブホテルに入ると、テーブルの上に酒とお菓子を並べていく。「……で、どうすんの?」千聖が声をかけると、優奈は泣き出した。(忙しい子ね……)「わた、私だってね、本当はね、しゅっとしてて年上で、王子様みたいな人が好きなのぉ! でも、かずくんは特別だってっていうか……。なのに、酷い!」いつものことながら、話のまとまりの無さに、千聖は頭を抱える。「でも、最初は順調だったんでしょ?」「そう! 最近までは普通にラブラブだったんだから! なのに、1ヶ月くらい前から距離置かれちゃって……」優奈は涙ながらに経緯を話していく。優奈が失恋した時は、別れた経緯と彼との思い出話を聞きながら肯定していくに限る。慰めや否定の言葉でもかけようものなら、彼女は喚き散らしながら、近くに置いてあるものを手当り次第に壊してしまう。優奈は缶チューハイや甘いお菓子を口に運びながら、何度も同じ話を繰り返す。千聖は内心うんざりしながら、相槌をうっていく。「優奈、そろそろお茶飲もう? 脱水症状になったら大変だから」「うん、ありがと……」優奈は鼻水をかみながら、千聖から緑茶を受け取った。ゴミ箱の中は、お菓子のゴミとティッシュでいっぱいになっている。千聖は空になったビニール袋とゴミ袋を取り替え、優奈の隣に戻した。「私はね、かずくんの笑顔が見たくて、がんばっていろんなお店を探してたりしてたの。それが重いしウザいって、あんまりだわ!」緑茶で喉を潤した優奈は、もう何度目か分からない話を再び始めた。「そうよね。優奈は彼氏くんのためにやったんだものね」千聖はただひたすら、優奈の言葉に肯定する。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行27

優奈が静かになったのは、日付が変わる少し前。千聖の警告を無視して呑み過ぎた優奈は、トイレで吐くと、口をゆすいで眠ってしまった。千聖は優奈の飲みかけの缶チューハイを空にすると、ゴミをまとめた。「はぁ……今回はかなり重症だったわね……」居酒屋で会ってからのことを振り返りながら、千聖は大きなため息をつく。「疲れた……」千聖はスマホを持って風呂場に行くと、紅玲に電話をかける。「出てくれればいいんだけど……」4コール目で、紅玲は電話に出た。『もしもし、チサちゃん。寂しくて眠れないのかな?』茶化すような紅玲の声に、安堵を覚える。「まぁ、そんなところかしら? 今日は爆音機と一緒だから、疲れちゃって」『なにそれ』紅玲はクスクス笑う。「優奈よ。彼氏に振られたんですって。今回は長く続いてた方だから、重症なのよ……」『あっはは、それはお疲れ様。それで、どこにいるの?』紅玲の“お疲れ様”の一言で、疲れがじんわり溶けていく。「ラブホテルよ。ここなら、大声で泣かれても迷惑かからないから」『なに、そんなにすごいの?』「えぇ、今日なんて居酒屋で泣き叫んでいたわ……」千聖がげんなりしながら言うと、紅玲はゲラゲラ笑う。『なるほどねぇ、恋愛中毒者って別れたら大変なんだね。参考になったよ』声から察するに、彼は笑いを堪えながら言っている。「お役に立てたのならよかったわ。取材はどう?」『なかなか面白いよ。今日は寺と神社を見て回ってるんだけど、どこも個性的でね。今度ふたりで観光に行こうよ』「えぇ、是非とも行きたいわ」嬉しい誘いに、千聖の声音は明るくなる。『チサちゃんと一緒なら、もっと楽しいんだろうなぁ……。甘味処巡りなんていいかもね』無邪気に言う紅玲に、千聖は吹き出した。「本当に甘いの好きね。もう少しロマンティックなところへ行こうとは思わないのかしら?」『景色のいい防音の宿があれば、充分だと思わない?』予想外な紅玲のかえしに、千聖は頬を染める。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行28

「もう、何言ってんのよ……」『照れてるの? 可愛いね』「照れてなんていないわよ! ……はぁ、そろそろ切るわね、おやすみ」図星をつかれて、逃げるように言う。『おやすみ、チサちゃん。愛してるよ』紅玲はとろけるような甘い声で言うと、電話を切った。「私もはやく寝なきゃ……」千聖はシャワーを浴びると、ベッドに入って眠った。早朝、千聖は優奈のいびきで目が覚めた。「あー、やっちゃった……。今日も仕事なのに……。優奈! 起きて! あなたにはやるべきことがあるはずよ!」千聖はガックリと肩を落とすと、優奈をたたき起こす。「うぅ……もう、なぁに? 今日休みなんだけど……」優奈は目を擦りながら、恨めしそうに千聖を見上げる。「私は仕事なの!近くのコインランドリーで、これ洗って乾かしてくれない?」千聖は昨日自分が着ていたものを、優奈に押し付ける。「えぇ、めんどくさい……」「昨日優奈に付き合ってこうなったんだから、それくらいしてくれたって、バチは当たらないわよ?」再び布団を被ろうとした優奈の手が止まる。「いってきます……」「ありがとう。はい、ランドリー代」千聖は財布から300円取り出すと、優奈に差し出す。だが優奈は、首を横に振った。「これくらいなら、私が出すよ。付き合わせちゃったしね。朝ごはんも何か買ってこようか」「あら、ありがとう。パンは買ってあるから、サラダを買ってきてもらっていい?」「サラダね、分かった」優奈は手ぐしで髪を整えると、部屋から出た。千聖は電気ケトルでお湯を沸かし、その間にシャワーを浴びる。バスローブを羽織ると、テレビをつける。時刻は5時40分。お湯が沸いたのを確認すると、ティーバッグをマグカップに垂らしてお湯を注いだ。「間に合えばいいんだけど……」不安げに呟きながら、髪を乾かす。優奈は6時20分頃に戻ってきた。彼女はテーブルにサラダを並べると、冷蔵庫にシュークリームをふたつ入れた。
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