All Chapters of 独占欲に捕らわれて2: Chapter 51 - Chapter 60

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紅玲の取材旅行39

ひとしきり泣くと、千聖はスマホを寝室で充電してから風呂に入る。湯船に浸かってぼんやりしていると、昨晩の悪夢が過ぎる。「違う、紅玲はそんなことしない……」声に出して否定をするも、不安は拭いきれない。「起きてても悪いことしか考えないわね……」はやく寝るのが得策だと考えた千聖は、風呂から出ると寝室に入る。スマホを見るが、相変わらず紅玲からの連絡はない。千聖は大きなため息をつくと、化粧台に座り、髪を乾かした。乾かし終えると、未練がましくLINEを開く。既読がついていて、思わずあ、と声を上げる。返信が来るのを待とうと画面を見ていると、紅玲から着信が入った。すぐに出て、耳にあてる。『もしもし、チサちゃん。なかなか連絡できなくてごめんね?』「まったくよ、寂しかったんだから……」久しぶりに聞く紅玲の声に安堵しながらも、本音を伝える。『昼過ぎから少し前まで、ずっと書き通しだったからLINE気づけなかったんだ。本当にごめん……』「ちゃんと反省してくれてるならいいのよ……。そんなに書いてるなら、そろそろ帰ってこれそう?」千聖の質問に、紅玲はうーんと唸る。『今回それなりに長いの書いてるから、まだかかりそうなんだ……。オレもはやく、チサちゃんに会いたい……』紅玲の気弱な声に、千聖は頬を緩める。(こうやって言葉にしてもらえるのって、やっぱり嬉しいものね)『ねぇ、チサちゃん。チサちゃんの可愛い声聴きたいなぁ』「今電話で聴いてる最中でしょ?」言葉の意味が分からず、首を傾げる。『違うよ。チサちゃんの可愛くてえっちな声、オレに聴かせて?』「なっ……!?」熱っぽい声で言われ、千聖は耳まで赤くなる。「……斗真は、寝てるの?」『さすがに別の部屋だって。じゃなきゃこんなこと言うわけないでしょ?』紅玲はおかしそうに言う。「斗真に睡眠薬盛ってでもしそうだけど……」千聖の言葉に、紅玲は声を上げて笑った。『あっはは、いくらなんでも親友にそんなことしないって』
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行40

斗真が同室にいないことに安堵した千聖は、そっと胸を撫で下ろす。「どうしろっていうのよ……?」紅玲の要望は極力応えたい千聖には、断るという選択肢はない。なにより千聖自身が、欲求不満だ。『まずチサちゃん、今どこにいるの?』「寝室だけど……」『ちょうどいいところにいるねぇ。それじゃあサイドテーブルの、真ん中の引き出しあけてみて?』訳が分からないまま、言われたとおりにサイドテーブルの引き出しを開けると、アイマスクと紅玲が愛用している赤いイヤホンが入っている。「あなたのイヤホンとアイマスクがあるけど……」『それじゃあベッドに寄りかかって座って。両手を使えるように、イヤホンを使ってね』千聖は返事をすると、言われたとおりにベッドに寄りかかり、イヤホンを耳に入れる。スマホはベッドの上に置いた。「言われたとおりにしたわよ」『それじゃあ次は、アイマスクをつけて』息遣いまで鮮明に聴こえ、胸が高鳴る。千聖は緊張で震える手で、アイマスクをつけた。『あぁ、言い忘れた。オレの枕をぎゅってして』「どうして?」『チサちゃんだって、できるだけオレを感じたいでしょ?』熱っぽく囁く声に、千聖は息を呑む。アイマスクをずらしながら紅玲の枕を取ると、再びアイマスクをつけて座った。「枕、とったわよ」『それじゃあ始めよっか』楽しそうな紅玲の声に、千聖は自分でも気づかないうちに息を荒らげる。『まずは、右手の指を2本咥えて。口の中を指でかき回しながら、指に舌を絡ませて。オレとのキスを想像しながらするんだよ?』(紅玲と、キスを……)紅玲の言葉を内心で繰り返すと、右手の中指と人差し指を口に含み、指をバラバラに動かす。舌を指に這わせたり、口全体を使って吸い上げたりする。「んっ……ふ、ぅんん……」淫らな声が唾液とともに、千聖の口端から零れる。『んんっ……ふ、はぁ……チサちゃん……』紅玲も同じように指を咥えているのか、ぴちゃぴちゃという水音と、悩ましげな吐息が聞こえてくる。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行41

『次は、服の上から胸を触って。壊れ物を扱うみたいに優しく、手の全体を使って撫で回して』千聖は指を出すと、手を胸の形に合わせて撫で回す。「ぁ……や、んんっ! はぁ……あぁ……」就寝時はノーブラなため、布が乳首を擦りあげる。『ふふっ、可愛い声……。人差し指で乳首を刺激しながら、胸を揉んで』初めは言われた通りに人差し指だけで乳首を引っ掻くようにいじったがそれだけでは足りず、親指と人差し指でグリグリとつまみ上げながら、胸を揉んだ。「あっ、んぁ……こんなのじゃ、足りないの……。お願い、紅玲……直接触らせて……」千聖は恥じらいながらも、懇願する。『どうしようかなぁ?』紅玲の楽しそうな声音に、千聖は彼の嬲るような視線を思い出し、吐息を零す。「はぁ、んぅっ……お願いよ……」『だってチサちゃん、オレの言うこと聞いてないみたいだし?』「え……?」紅玲の言葉に、思考が停止する。『オレは人差し指でって言ったのに、チサちゃんは欲張って親指まで使ってるでしょ?』「どうして分かるのよ?」具体的に言われ、千聖は疑念を抱く。『チサちゃんのちょうど正面に、カメラを隠したからねぇ』「はぁ!?」千聖が柄にもなく大声を出すと、紅玲はなにがおかしいのか、クスクス笑う。『もう、せっかくの雰囲気が台無し。まぁいいけど』「私のこと、ずっと見てたの……?」『カメラが仕掛けてあるのはそこだけ。普段はベッドの前を通るチサちゃんの美脚しか見えないよ』カメラの位置情報を知り、千聖は安堵する。いくら相手が紅玲でも、生活を見張られていると思うと、ゾッとする。『ねぇ、続きしよ? 今度はパジャマのボタン全部とって、はだけさせて』千聖は言われるままにボタンを外すが、疑問が生じる。「このままじゃ、枕が邪魔で見えないんじゃない?」『あっはは、そんなこと考えてくれるの? たしかに見えないけど、チサちゃんに気持ちよくなってもらうのが目的だから。それに、躯が見えなくてもチサちゃんが感じてる姿は見られるしね』自分のための行為だと伝えられ、千聖は幸せな気持ちになる。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行42

「嬉しいこと言ってくれるじゃない」『オレはいつでもチサちゃん第一だからねぇ。……さぁ、次は直接触ってごらん? さっきみたいに、親指と人差し指でつまみ上げながら揉んでよ』千聖は自分の胸を揉みながら、指定された指で乳首をつまみ上げる。「はうぅ……んっ、ああっ……! 紅玲……ひゃあぁっ!?」千聖が切ない声で紅玲の名を呼ぶと、息を吹きかけるような音が聞こえた。『チサちゃんは本当に耳が弱いんだねぇ』紅玲は喉をクツクツ鳴らしながら笑う。紅玲の笑い声、言葉ひとつひとつが、千聖の躯を熱くする。「あっ、んんっ……はぁ……紅玲、紅玲……!」『チサちゃんにそうやって求められるの、すっごく嬉しい。ねぇ、下、脱いで見せてよ』普段は聞かない低い声で囁かれ、千聖は躯を小さく跳ねさせる。息を荒らげながらズボンを脱ぐと、紅玲によく見えるよう、大きく足を開いた。『もうこんなにトロトロになって、ヤラシイ』「あぁ、紅玲……。はやく……」千聖は紅玲の枕を抱きしめながら、ヴァギナに触れる命令を待つ。『利き手でトロトロになったおまんこに指を1本だけ入れて、もう片手は好きなように胸をいじって』「んっ、はぁ……紅玲、1本だけじゃ、あぁっ、足りないわ……」千聖は物欲しそうに腰を揺らす。『えっちなことが大好きなチサちゃんには、1本じゃ足りないだろうねぇ。ナカでイクのと、クリトリスでイクの、どっちがいい?』淫らな問いに千聖は興奮を覚え、頬をさらに紅潮させる。「ナカで、ぁ、はぁ……! ナカでイかせてぇ……」『ふふ、いいよ。それじゃあもう1本、指を足そうか』「んあぁ……! ひぅ、あぁんっ!」千聖は小刻みに震えながら、指を動かす。ヴァギナからは愛液が溢れ、グチュグチュと淫靡な音を立てる。『こっちにまで音が聞こえるよ。指をおなかに向かって曲げてごらん? 気持ちいところがあるはずだよ』「おなかに向かって……? んぅ……や、あぁ……! ひゃうぅっ!?」言われたとおりに指を曲げて探るように動かすとザラついた部分に指が当たり、強い快楽に千聖は仰け反る。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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紅玲の取材旅行43

『その様子だと、見つけられたみたいだねぇ。チサちゃんのGスポット。ソコを強く擦って? 力を入れすぎて、傷つけないようにね』千聖の反応を楽しみ、声を弾ませる。「あああぁっ!! はぁ、あぁ……! 気持ちい……あんっ、ふ、ああ……っ!」千聖は紅玲の枕に顔を埋めながら、Gスポットを激しく擦りあげる。『あぁ、すごくそそる、可愛いよ……。指をもう1本増やしてみて』紅玲の息遣いで彼に余裕がなくなってきていることを察し、千聖はますます興奮を覚える。「んああぁっ! やぁ、もうダメ……! イク、イッちゃう! ひあああぁっ!!」『いいよ、イッてみせて……。それでオレもイクから……』熱のこもった紅玲の囁きに、千聖は愛液をとぷりと零す。「あっ、アッ、イッちゃうぅ! あああああああぁっ!!!」千聖は仰け反り、潮を吹きながら盛大に絶頂した。イヤホンからは紅玲のうめき声と、荒い息遣いが聞こえた。『くっ……はぁ……、はぁ……。可愛かったよ、チサちゃん』「はぁ……あぁ……ねぇ、紅玲……。もう1回、して?」触れてもらえない寂しさから、千聖はオネダリをするが、紅玲は困ったように笑う。『チサちゃんのお願いなら叶えてあげたいけど、チサちゃんは明日も仕事でしょ? そろそろ寝なきゃ』オネダリすればしてもらえると思っていた千聖は、常識的なことを言われ、小さく唸る。「うぅ……。ねぇ、1回だけだから……。ずっと寂しいの我慢してたのよ?」『うーん、オレは大丈夫だけど、チサちゃん朝起きられるか分かんないでしょ? また明日してあげるから、今日はもうおやすみ』無情にも、電話は切られてしまった。「もう、イジワル……」千聖はむくれながらアイマスクを外した。今日ばかりは、会社の存在を恨む。床には愛液の水たまりができている。「ベッドの上じゃなくてよかった……」そう呟きながらパジャマを着直すと、ウエットティッシュで愛液を拭き取って、ベッドに入った。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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綻び

翌朝、千聖は目覚ましが鳴る10分前に目を覚ます。ベッドから降りて躯を伸ばすと、昨日より躯が軽くなっていることに気づいた。「結局薬を飲むこともなかったし、紅玲のおかげね」千聖は昨晩のことを思い出し、頬を緩ませる。「はやく夜にならないかしら?」上機嫌に言いながら台所へ行くと、朝食と弁当を作る。(今日はどこかで呑んでから帰ろうかしら? そうだ、優奈を誘おう。まだ傷心中だろうし)仕事終わりに呑むことを考えると、とたんに楽しくなる。千聖は今までのような寂しさを感じることなく、ひとりの朝食を終わらせて出勤した。「おはようございます、綾瀬先輩。今日は顔色いいですね」通勤途中、瑞希が千聖に声をかけてくる。「おはよう、瑞希ちゃん。昨日はよく眠れたの。美幸ちゃんに感謝ね」本当は薬など飲んでいなかったが、紅玲絡みの話をすると面倒だと思った千聖はとっさに誤魔化した。「先輩が元気になったみたいでよかったです」「心配してくれてありがとう」瑞希に笑いかけると、彼女の後ろに見覚えのある人物が通った気がした。思わず立ち止まって振り返るが、後ろ姿だけで判別出来ない。「綾瀬先輩? どうしました?」瑞希は千聖の顔を覗き込む。「あ、いえ……。知り合いに似てる人がいたのよ。……本当にその人かどうか分からないけど」「え、どの人ですか? イケメンですか? 美女ですか?」瑞希は目を輝かせて、後ろを見る。「イケメンだけど、後ろ姿じゃ分からないわ。それに悪い男だもの。そんなことより、はやく行くわよ」千聖は苦笑しながら言うと、颯爽と歩き出す。「もう、待ってくださいよ」瑞希はカバンを持ち直すと、千聖の後を追いかけた。会社に着くと、千聖は美幸を見つける。「おはよう、美幸ちゃん。薬教えてくれてありがとう。おかげでよく眠れたわ」「おはようございます。回復したみたいでよかったです」美幸は安堵の笑みを浮かべる。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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綻び2

(嘘も方便とはよく言ったものだわ)美幸の笑顔を見ながら、千聖は内心苦笑する。「昨日ミスしたぶん、今日は頑張らなきゃ」千聖は自分のデスクに座り、仕事を始めた。この日は休み時間ごとに紅玲が連絡をくれたため、モチベーションを維持しながら仕事ができた。帰宅するとインスタント珈琲を淹れて、ソファに座る。「どこまで問い詰められるかしら?」千聖は小さく息を吐くと、紅玲に電話をかける。『もしもし、チサちゃん。お仕事お疲れ様』電話に出た紅玲は、穏やかな声で言う。「ありがとう、紅玲。ちょっと斗真にかわってもらってもいいかしら?」『いきなり他の男にかわれだなんて、ひどいんじゃない?』紅玲は苛立ちを隠さずに、トゲのある口調で言い返す。「ごめんなさいね、ちょっと確認したいことがあって」『なにを確認したいの?』(単刀直入に言っちゃっていいのかしら?)確信が持てない千聖は、どう返そうかと思考を回す。「今日斗真っぽい人を見かけたの。すれ違いざまだったから、ハッキリ顔は見えなかったけど」『もしかしてオレのこと、疑ってるの? 悲しいなぁ、チサちゃんに疑われるなんて』言葉と矛盾している紅玲の声音に、千聖は頭を抱える。(あぁ、絶対なにかある……)「疑ってなんかいないわ。ちょっと気になっただけよ。写真にも写りこんでいなければ、電話でもまったく声を聞いていないんだもの」『トーマは写真はあんまり好きじゃないし、オレが他の男の写真をチサちゃんに送るわけないでしょ? オレが電話を始めたら黙ってるか少し歩いてくるかしてるんだし、チサちゃんにトーマの声が聞こえなくても当たり前だよ』ボロを出さない紅玲に、千聖は考え込む。(うーん……、やっぱりそう簡単に話すわけないわよねぇ……。今朝見かけたのが斗真じゃないにしても、やっぱり今回の取材旅行はおかしいと思うし……)『もしもーし、チサちゃん? 聞こえてる?』紅玲に声をかけられ、千聖はハッとする。「……えぇ、聞こえてるわよ」『はぁ……あんまり嫉妬させないでよ。オレはチサちゃん以外眼中にないんだから……』嫉妬してくれたとこを嬉しく思うが、どうにか真実を暴こうと思考を回す。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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綻び3

「私だって、紅玲以外に眼中に無いわ。だからこそ、斗真に似た人を見かけて気になっちゃったの。……この話はやめましょう。確証はないもの」『うん、是非ともそうして。そっちはどう? 変わりない?』紅玲の口調が穏やかなものに変わり、張り詰めていた空気が柔らかくなる。「えぇ、変わりないわ。今日はこれから、優奈を誘ってどこか呑みに行こうと思ってるの」追求を諦めた千聖は、純粋に紅玲との会話を楽しむと決めた決めた。『確か失恋して大変だって言ってなかったっけ?』「そうよ。だからこそ誘おうと思って。騒いでくれた方が、気は紛れるもの」『そっかぁ、気をつけて行くんだよ。この前みたいにホテル泊まりにならないようにね』冗談めかして言う紅玲に、千聖は小さく笑った。「大丈夫、今回荒れたらカラオケに行くつもりだし、遅い時間になりそうなら先に帰るつもりでいるから」『ちゃんと帰ってこなくちゃ嫌だよ? 今夜も寝室で通話するんだから』囁くように言われて昨晩のテレフォンセックスを思い出し、千聖は頬を染める。「分かってるわ、大丈夫。遅くても11時には家に帰る予定だから」『それならよかった。それじゃあ、また今夜。愛してるよ』愛の言葉を最後に、電話は切られた。千聖は優奈に誘いのLINEを入れると、風呂を沸かしに行く。戻ってLINEを確認すると“これから合コンだから、またあとでね”と返信が来ていた。「切り替えはやいわね……。立ち直ってくれるならなんでもいいけど」スマホをしまうと、千聖は夜の街へ足を運んだ。日本酒をたくさん揃えた居酒屋に入ると、ふたり掛けの席に案内される。この店は様々な地酒を取り扱っており、千聖の地酒も置いてある。「紬美人と砂肝ください」席に座るなり、千聖はさっそく注文する。「紬美人と砂肝ですね」店員は注文を繰り返すと、厨房へ消えた。「決定的な証拠がないと、なにも始まらないわよね……」千聖はぶつぶつと呟きながら、お冷を口に含む。「千聖さん……?」聞き覚えのある声に顔を上げると、目を丸くした斗真がそこにいた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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綻び4

「斗真!? じゃあ、今朝見かけたのはやっぱり……」「今朝?」斗真は怪訝そうに千聖を見つめる。「ねぇ、一緒に呑みましょうよ。相談したいこともあるし、ここは私が持つから」「よく分からないけど、そうさせてもらおうか」斗真は優しく微笑むと、千聖の向かいに座る。ちょうどそのタイミングで紬美人と砂肝が運ばれてきた。「へぇ、紬美人か……。では僕は一人娘と冷奴、枝豆をください」興味深そうに紬美人を見てから、斗真はメニュー表も見ずに注文する。「相変わず冷奴好きね。それにしても、目の前で地酒を頼まれるのはなんだか嬉しいわね」千聖は目を細めながら、紬美人をひと口呑む。「なるほど、あそこが君の地元というわけか。ところで、相談したいことって?」「紅玲が今取材旅行に行ってるんだけど、あなたも同行していることになっているの」「なんだって?」斗真は眉間にシワを寄せる。「その反応からすると、口裏合わせすらしてないのね……。この前いきなり、京都と奈良に取材旅行に行くって言い出して、ろくに県外に出たことないから心配したら、斗真と一緒だから大丈夫だって言ってたの。だけど今朝、あなたに似た人とすれ違って問い詰めたんだけど、ちゃんとした証拠がないから諦めたわ」「紅玲がそんなことを……」斗真は難しい顔をして、お冷を一気に飲み干した。「ここまで不可解な行動をするのは初めてだ……。まぁあいつのことだ、なにか理由があるのだろう」「どんな理由よ……」千聖がため息まじりに言うと、斗真は肩をすくめる。「僕には理解できないよ。旅行に行くって言い出す前に、なにかおかしなことは?」斗真に言われ、千聖は顎に手を添えて旅行前の日々を振り返る。「ずっと一緒にいてほしいから、仕事を辞めてほしいって言われてたの。それと、『ずっとそばにいてくれればいいのに』って言われて、仕事があるからって言おうとしたらキスで妨害されて、『仕事があるからずっとは無理って言うのは、拒絶と同じ』、みたいなこと言われたわ……」「原因は……、恐らくそれだろうな……」斗真は神妙な顔をして、運ばれてきたばかりの一人娘をひと口呑む。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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綻び5

「やっぱり……」千聖は大きなため息をついた。「それで、千聖さんはどうするんだ? 証拠が必要だと言うなら、大人しく写真を撮られるが……」「ううん、きっと紅玲は私が斗真に会ったって言えば、大人しく降参してくれると思うわ」「たしかに、無駄な悪あがきをするタイプではないからな」斗真は納得したようにうなずく。「でしょ? だから私は今後のことを考えることにするわ」「今後のこと、とは?」「紅玲との距離感よ。思えば紅玲の話を流しすぎてた気がするの」千聖はグラスに目を落とす。憑き物が落ちた顔をする千聖に、斗真は穏やかに微笑む。「あぁ、是非ともそうしてやってほしい。それにしても、ここまで想われているのに、紅玲はなにが不満なんだか……」「不満?」呆れ返りながら言う斗真を、まじまじと見つめる。「変な意味ではないよ。今回の騒動は、紅玲が駄々をこねているように思えてさ。君に仕事を辞めてほしいって」「ふふっ、たしかに駄々っ子みたいね。さて、困った駄々っ子は、どうしてあげようかしら?」千聖は企むような笑みを浮かべると、グラスを空にした。それから30分も呑むと、千聖はまだ呑むつもりでいるという斗真に1万円札を押し付けて、居酒屋を後にした。その足でコンビニへ行くと、便箋と封筒、ボールペンを買って帰宅する。風呂に入ろうとしたところで、紅玲から着信が入る。「どうしたの? まだ9時すぎよ?」『なんだか無性に声が聞きたくなっちゃって。静かだけど、どこにいるの?』寂しさが滲む紅玲の声に、千聖は頬を緩める。「家にいるわ。優奈は合コンに行くっていうから、ひとりで呑んで来たの」『そっかぁ……。さぞかし楽しかったんだろうねぇ。チサちゃんの声、オレが旅行に出てから1番明るい……』「そういうあなたは元気がないみたいね。寂しいならはやく帰ってきてよ」千聖の言葉に、紅玲は力なく笑う。『んー……そうだねぇ……。検討しておくよ。それじゃあ、またね』一方的に電話を切られ、千聖は小首を傾げてスマホを見る。「諸刃の剣ってやつかしら? それとも、策士策に溺れる? どっちでもいいけど」紅玲の策略になんとなく勘づいた千聖は、苦笑しながらスマホを置くと風呂に入った。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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