私は橘彩音(たちばな あやね)。幼なじみの一条朔也(いちじょう さくや)に、告白を百一回も重ねたけれど、返事はいつだって同じ。全部、断られた。朔也は結局、想い人の白石梓(しらいし あずさ)と結婚した。心が折れた私は、一条隼人(いちじょう はやと)と結婚することを決めた。朔也の弟で、ずっと私のことを追いかけてきた人だった。そんな隼人は、私のことを骨の髄まで愛している。大胆で、熱くて、惜しげもない愛し方に、周りは口を揃えてこう言った。「そんなに愛されるなんて、前世で徳でも積んだんじゃない?」って。あの日までは、私もそう思っていた。混乱の中、梓と私は海へ落ちてしまった。泳げないはずの隼人が迷いもなく飛び込み、必死に梓を水面へと押し上げようとした。波に叩き返されるたび、息を分け合うように唇を重ねた二人。私は絶望の中でもがいた。一度でいいからこちらを見てほしいと願った。それなのに彼は、梓だけを岸へ引き上げることに必死で、私が海に呑まれていくのをただ見捨てた。意識が遠のいたとたん、世界がすっと暗くなる。どれほど時間が経ったのか分からない。ようやく声が聞こえたのは隼人の怒鳴り声。「お前らの幸せを邪魔されないために、俺が身を切って彩音を繋ぎ止めたんだろ!頼むから今回だけ、梓に会わせてくれ!」一条兄弟が、梓の「付き添い」を奪い合っていたらしい。——ああ、そういうことだったんだ。最初から、誰も私のことを愛してなんかいなかった。いっそこのまま、死んだことにして消えよう。この世界から。「偽装死サービス」ふと、そんな言葉が頭をよぎった。どこかのサイトで、胡散臭い広告に表示されていた名前。目を覚ました私は迷う暇もなく予約した。死んだことにして、全部から抜け出すために。……「一条彩音さま。この度は『偽装死サービス』のお申し込み、本当にありがとうございました。確かに承りました。当日は身分情報の抹消から、ご希望に沿った『死』の演出まで、すべてこちらで手配いたしますので、どうぞご安心ください」電話越しに丁寧な声が響く。私は淡々と「はい」とだけ返した。「それじゃ三日後でお願いします。片付けたいものがあるので」通話を切った瞬間、胸の奥だけが妙に静かになった。軋むような身体を引きずるように廊下を戻り、病室の扉に手を伸
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