ルファルが夜空を見上げ、殺気を放つのを彼の胸の中で感じ、リリシアは息を呑む。自分には夜空は一切見えない。夜空に一体何が……。そんな疑問を抱いた時だった。草花がざわめき、一瞬の強風が過ぎ去り、リリシアとルファルの結った長髪が揺れる。この風、まさか…………。リリシアの首筋に冷や汗が流れる。あの儀式の日の記憶が蘇りそうになり、リリシアは縋(すが)るようにルファルの貴族服の胸元をきゅっと掴んだ。そうして、しばしの時が流れ、ルファルが静かに口を開く。「――消えたようだな。もう心配ない」ルファルの言葉に、リリシアはほっと胸をなで下ろし、掴む手を放す。ルファルもリリシアを放した。「怖がらせてすまなかった」「い、いえ……。あの、一体何が……?」「怪異の気配を感じた。姿は現さなかったものの、一瞬、夜空を通り過ぎたようだ」その言葉を聞いた瞬間、リリシアの瞳が揺れ、両手が微かに震える。するとルファルがその両手をぎゅっと掴む。「月の香りが濃くなっているな」ルファルの言葉に、リリシアはハッと冷静さを取り戻す。まずい。リリシアはパッと両手を引っ込め、立ち上がる。「ルファル様、守って頂き、ありがとうございました。失礼いたします」リリシアは深く会釈をして箒を拾い、歩いて行き、中庭の入口を出る。するとふらつき、箒を支えにし、ふと入口付近の花が目に入った。花びらが一枚、ひらひらと地面に落ちて行く。わたしとしたことが……体質のことがバレるのも、近いうちかもしれない……。リリシアはぎゅっと両手で箒を持つ。けれど、姉や家の為に、どうか、もう少しだけ、花嫁候補としていさせて下さい――――。* * *晩春の夜、ルファルは宮殿の執務室の席で、とある封
Last Updated : 2026-01-18 Read more