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All Chapters of 月灯りの花嫁。: Chapter 11 - Chapter 20

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2話-6 花嫁候補のお勤め。

ルファルが夜空を見上げ、殺気を放つのを彼の胸の中で感じ、リリシアは息を呑む。自分には夜空は一切見えない。夜空に一体何が……。そんな疑問を抱いた時だった。草花がざわめき、一瞬の強風が過ぎ去り、リリシアとルファルの結った長髪が揺れる。この風、まさか…………。リリシアの首筋に冷や汗が流れる。あの儀式の日の記憶が蘇りそうになり、リリシアは縋(すが)るようにルファルの貴族服の胸元をきゅっと掴んだ。そうして、しばしの時が流れ、ルファルが静かに口を開く。「――消えたようだな。もう心配ない」ルファルの言葉に、リリシアはほっと胸をなで下ろし、掴む手を放す。ルファルもリリシアを放した。「怖がらせてすまなかった」「い、いえ……。あの、一体何が……?」「怪異の気配を感じた。姿は現さなかったものの、一瞬、夜空を通り過ぎたようだ」その言葉を聞いた瞬間、リリシアの瞳が揺れ、両手が微かに震える。するとルファルがその両手をぎゅっと掴む。「月の香りが濃くなっているな」ルファルの言葉に、リリシアはハッと冷静さを取り戻す。まずい。リリシアはパッと両手を引っ込め、立ち上がる。「ルファル様、守って頂き、ありがとうございました。失礼いたします」リリシアは深く会釈をして箒を拾い、歩いて行き、中庭の入口を出る。するとふらつき、箒を支えにし、ふと入口付近の花が目に入った。花びらが一枚、ひらひらと地面に落ちて行く。わたしとしたことが……体質のことがバレるのも、近いうちかもしれない……。リリシアはぎゅっと両手で箒を持つ。けれど、姉や家の為に、どうか、もう少しだけ、花嫁候補としていさせて下さい――――。* * *晩春の夜、ルファルは宮殿の執務室の席で、とある封
last updateLast Updated : 2026-01-18
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2話-7 花嫁候補のお勤め。

月を眺めた後、ルファルは執務に集中し全てを済ませ、やがて、カイスと共に宮殿を出る。 今宵はすっかり遅くなってしまったな。 ルファルがそんな思いを抱き、息を吐いた時だった。 後ろから怪異の気配を感じ、ルファルの顔付きが険しくなる。 確実に付いて来ているな。 ――気配からして、中庭の時の怪異か。 これから宮殿近くの馬留め場に行き、馬に騎乗し、帰宅しようと思っていたのだが、仕方あるまい。 「カイス、先に馬留め場に行っていろ」 「かしこまりました。兵達に馬を出してもらい、すぐに馬に乗れるよう準備しておきます」 カイスが了承すると、ルファルは一人、石畳の広場まで駆けて行く。 すると、複数の鳥の翼のように手を伸ばした怪異の影に囲まれる。 分身か。なめた真似を。 私は無詠唱を主とするが、今宵は早く帰宅する為、致し方ない。 ルファルは鞘の剣の柄に手をかける。 「月の名において、我が力よ、呼び醒ませ」 詠唱を口にすると、ルファルの結った髪が揺れ、背後から冷たく煌めく月光の粒子が溢れ出す。 その粒子は巨大なドラゴンの輪郭を形作り、剣を抜くと、ルファルの動きに合わせて、ゆらめくドラゴンの形をした気がしなり、怪異を威圧する。 そして剣を振る瞬間、そのドラゴンの形をした気が、一気に剣先へと収束し、目にも止まらぬ速さで分身の本体を両断した。 「静まれ」 本体が消え、光の粒子が舞うと、複数の分身も消えていった。 哀れな怪異め。私が見抜けないとでも思ったか。 ルファルは剣を鞘に入れ、カイスのいる馬留め場へと向かった。 * * * リリシアはふと邸宅の1階から響くざわめきに気づき、2階の手摺を両手で掴み、少し身を乗り出す。 メイドや下働き達が階段下に集まっていた。 「ルファル様、遅いわね」 「もう宮殿での執務はとっくに終わられているはずなのに……」 「ソフィラはメイド長の部屋に呼ばれて行ったきり出て来ないし、もしかして、ルファル様、怪異に襲われたんじゃ……」 「滅多なこというもんじゃないわよ」 相部屋の仕切り
last updateLast Updated : 2026-01-20
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3話-1 心の内のこと。

* * * やがて、ルファルが凛とした姿勢でリリシアをお姫様抱っこしながら邸宅まで辿り着くと、ソフィラが玄関前で蠟燭を灯しながら待っていた。 ソフィラは自分が放つただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、謝罪の意思を込めた深い会釈し、扉を開ける。 「え、何故、ルファル様がリリシア様を?」 「執事からの話だと、リリシア様が使用人用の扉をこじ開けて外の庭に出たそうよ」 「一体何がどうなって……」 執事、メイド、下働き達のどよめきの声が上がると、「静かにおし!」とメイド長が怒鳴る。 玄関は静寂に包まれ、メイド長はルファルを真剣な眼差しで見据え、丁寧に挨拶をした。 「ルファル様、おかえりなさいませ」 「おかえりなさいませ」 メイド長に続き、執事、メイド、下働き達もまたレッドカーペットの通路を開けて左右に立ち並んだまま挨拶をし、深々と頭を下げた。 ルファルは通路を通り、長い大階段を一段ずつ上がっていく。 そのまま廊下を歩き、部屋まで連れて行くと、ルファルはベッドにリリシアを寝かせ、そっと布団をかける。 すると、窓から入った月の光が天蓋のカーテンをすり抜け、リリシアの全身を照らす。 「ゔ……あ゙……」 リリシアは両目を閉じたまま苦しみ出した。 * * * 闇の中、リリシアは座り込む。 ――――月影! 全てお前のせいだ。 母の言葉が呪いのようにリリシアの心を蝕(むしば)んでいく。 分かっている。だからこそ、姉を、そして、家を救うまで励まなければ。 そう思うのに、力が入らない。もう、立てない。 いつでも貴女の味方だと言ってくれたのに。 「お姉さま、ごめんなさい……」 謝り涙を零した時だった。 大きな手がリリシアの手を掴んだ――――。 * * * ルファルは苦しむリリシアの手を握り、無詠唱で天蓋付きベッドを囲うように結界を張る。 すると月の光がリリシアまで届かなくなり、彼女の苦しみが解かれる。 「リリシア、もう大丈夫だ」 ルファルは声をかけ、夜が明けるまで彼女の手を握り続けた。 *
last updateLast Updated : 2026-01-21
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3話-2 心の内のこと。

「ルファル様、もうお気づきかと思われますが、わたし……」 リリシアは涙を堪え、強い眼差しをルファルに向ける。 「わたしは月を見る度に体調を崩す体質……怪異の呪いにかかった呪い付き、“呪い月”なのです」 ルファルは表情一つ変えず、ただ静かに次の言葉を待つ。 「ルファル様がすでに存じ上げている通り、実家であるベルフォード家は貧しいながらも父の公務と月の魔術を持つ姉、ユエリアのおかげで名を上げておりました。なのに……」 リリシアは拳を握り締める力を強める。 「わたしが4歳になった日の夜、中庭で行った魔術を確かめる為の儀式で樹木に触れた際、ドラゴンに似た巨大なイーグルの影のような怪異が姿を現し、わたしは姉のユエリアと共に呪いをかけられました」 体が微かに震え出すもリリシアはぐっと堪え、口を開く。 「けれど、両親には怪異の姿は見えておらず……ユエリアの説明のおかげで両親に信じてはもらえましたが、ユエリアは月の魔術の力を完全に閉じられ、病に伏せ、わたしは家の恥、「月影」と呼ばれ、家の中で朝から晩まで奴隷として働き、夜は部屋に閉じ込められておりました」 リリシアは震える声を絞り出すようにして話を続ける。 「だからわたしは花嫁候補の器などではないのです。それでも、姉を、家を救うことを、月の下を歩くことを絶対に諦めたくなくて……ずっとこのことを隠してきました」 リリシアの瞳が潤むとルファルは目を逸らす。 「ルファル様が初対面の時と変わらず、『死んでくれて構わない』とのご意思であるなら、それに従います」 深々と会釈すると、ルファルに目を逸らされたまま告げられる。 「――――ならば、諦めなくて構わない」 リリシアは両目を見開く。 するとこちらを見たルファルに腕を引かれ、抱き寄せられた。 「私の花嫁候補であることも、姉を、家を救うことも、そして」 ルファルは力強く告げる。 「月の下を歩くことも、全てだ」 ルファルの言葉を聞き、リリシアの両目から大粒の涙が零れ落ちる。 「ルファル様……」 名前を呼ぶのが精一杯だった。 「あ……う……」 涙も震えも止ま
last updateLast Updated : 2026-01-22
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3話-3 心の内のこと。

やがてリリシアが落ち着くと、ルファルは控え室の扉に視線を向ける。 すると扉が開き、ソフィラとカイスが部屋の中に入って来て跪く。 ルファルが扉を見た時、声には出さないものの、頭の中で誰かを呼んでいる気がした。月の魔術でふたりを呼び寄せたのだろうか? 「ルファル様、お呼びでしょうか」 ふたりが同時に言葉を発すると、ルファルはソフィラに目線を向ける。 「お前は今からリリシアを部屋に連れて行き、休みやすい服に着替えさせ、軽い食事をさせて休ませろ。そして私はここで朝食を済ませるによって、メイド長に運ばせるように」 「かしこまりました」 ソフィラが了承すると、ルファルはカイスに目線を移す。 「カイス、お前は宮殿に行き、シャイン皇帝に昨日、怪異が襲って来た件とリリシアの事情、それに合わせ、本日は1日休みを頂くことを伝えよ」 「承知致しました」 カイスは了承して立ち上がると控え室の扉を開けに行く。 同じく立ち上がったソフィラは、足が覚束ないリリシアを連れ、その扉から出て行き、カイスも急ぎ、部屋から出て行った。 * * * その昼下がりのこと。部屋にルファルが訪れ、リリシアはベッドに起き上がったまま、椅子に座ったルファルを見つめる。 「先程、カイスが邸宅に戻り、シャイン皇帝から『3日後の陽が傾く頃、リリシアと共に宮殿を訪れ、我と会食せよ』と言付かった」 ルファルの言葉にリリシアは両目を見開く。 「シャイン皇帝とはまさか……」 「このフェリカディア皇国を治める最高地位の日の魔術師だ。普段は穏やかなお方ではあるが、父君にあたる前皇帝を怪異によって失っておられることから怪異の呪いについてはよく思われないだろう。それゆえ、万に一つだが、お前の命を狙う可能性もある」 リリシアの瞳が揺れる。 本物のシャイン皇帝に呼ばれるだけでなく、命までも……? 「だが、心配は無用だ。お前はただ最後まで凛として耐え続けろ。良いな?」 「はい……」 リリシアが返事をすると、ルファルは器に入った、クリーム粥を手に取り、スプーンで一口すくう。
last updateLast Updated : 2026-01-23
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3話-4 心の内のこと。

* * * そして、3日後の午後。リリシアは馬車に乗っていた。 馬車は緩やかに揺れ、初めて着た正装の華やかなドレスに戸惑うリリシアの隣には長髪を月紐で一本に結い、正装したルファルが座っている。 てっきりルファルはいつも通り馬か、別の馬車に乗り登城すると思っていた。 だが、馬車に乗る前のカイスの話によれば、自分の身を案じて同じ馬車で宮殿まで向かうことにされたらしい。 それだけでなく昨日、宮殿では猛烈な勢いで一日お休みした分の執務をこなし、執務室で時折、息を吐いたり、手が止まったりしておられ、今日の午前中も邸宅で執務をし、仕事を片付けられたそう。 けれど、疲れた素振りは一切見せない。 なのに、自分は緊張と陽が傾きかけているせいか、気分が優れず、情けない。 それでも何か自分に出来ることは……そうだ。 「あ、あの、ルファル様」 「どうした?」 「この先、長丁場になると思われますので、馬車に乗っている間、少しお休みになられてはいかがでしょうか……?」 ルファルは冷ややかな目でじっと見つめる。 まずい。怒らせたかもしれない。 「あ、出過ぎたことを……も、申し訳……」 謝罪の言葉を遮るように、ルファルが肩に少しもたれかかる。 「え、あ、あの……」 「着いたら起こせ」 「か、かしこまりました……」 了承すると、ルファルは静かに両目を閉じる。 まさか、このような形でお休みになられるとは……。なんて美しい寝顔なのだろう。 ドキドキと心臓の動きが速まるも、リリシアは凛とし、ただ堪えた。 * * * それからどのくらい経っただろう。 気が付いた時にはフェリカディア宮殿に馬車が到着していた。 リリシアは名を呼んでルファルを起こし、馬に騎乗して着いて来ていたカイスの手にルファルから順に添え、馬車を降りる。 地面に降り立ったその瞬間、宮殿が目に入った。 なんて豪華絢爛で壮大な宮殿なのだろう。 圧倒され、足が一歩後ろに下がると、足元がふらついた。 それに気づいたルファルがとっさにリリシアの体を支える。
last updateLast Updated : 2026-01-24
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3話-5 心の内のこと。

* * * 宮殿内は煌びやかな内装が施され、まるで夢の世界に入り込んだよう。 リリシアは落ち着かない心を押し込め、案内人に続き、ルファルにお姫様抱っこされた状態で回廊階段を上がり、廊下を歩いて行く。 そして、人目のつかない特別室のような部屋の前でルファルに降ろされる。 「これより先は側近がご案内致します」 案内人は淡々と告げると会釈し、廊下から去っていった。 リリシアは扉前に立つキリリとした側近に視線を移す。 すると怪訝そうな顔をされただけなく、側近はあろうことかルファルに小さく声を荒げる。 「……ルファル殿、正気ですか!『呪い月』などという不吉な怪異の呪いにかかった花嫁候補を、あろうことか陛下のお傍に近づけるとは!陛下に万が一のことがあれば、貴公一人では責任を取りきれませんぞ!」 「……貴様! ルファル様に向かってなんという物言いか!」 後ろで控えていたカイスが叫び、リリシアは側近の言葉に震え、俯く。 やはり、自分がここにいるだけで、ルファルの立場を悪くしているのでは……。 そんな気持ちに駆られるも、ルファルは表情一つ変えず、側近を冷ややかな視線で射抜く。 「……責任? 私が付いていて万が一はない。そして、私だけでなく、私の『花嫁候補』のリリシアを侮辱することは、私達を招いたシャイン皇帝自身を侮辱することと同義だと心得よ」 ルファルのその一言で側近は凍りつき黙った。 「……顔を上げろ」 ルファルに小声で言われ、リリシアが顔を上げると、それを合図に側近は扉を開け、その前から退く。 するとルファルは扉の前で凛とした姿勢をし、名乗る。 「ルファルでございます」 『入ってまいれ』 皇帝の許可を得ると、リリシアはルファルの後に続いて足を踏み入れる。 会食の席に座るシャイン皇帝は、若き青年でありながら、まるで日を司る神のような、そんな印象のお方だった。 執事やメイドがリリシア達を見守る中、カイスと側近の手によって扉が閉まる。 「ルファル、隣にいるのがそなたの花嫁候補か」 「はい」 ルファルが答えると、リリシアは進み出て皇帝の
last updateLast Updated : 2026-01-25
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3話-6 心の内のこと。

「シャイン皇帝、あまり余計なことは……」「まあ、気にするな」ルファルに返すと、シャイン皇帝は話を続ける。「とは言え、ルファルは女嫌いで、亡き前皇帝も心配なされていたが、ようやく、花嫁候補を、リリシアを我の元に連れて来てくれた。このように嬉しい日はない。だが」シャイン皇帝の顔が強張る。「リリシアよ、そなたは“呪い月”であるそうだな」(あ…………)リリシアの瞳が揺れる。だが、気を引き締め、シャイン皇帝を真っ直ぐに見据えた。「はい……」答えると、シャイン皇帝はリリシアをじっと見つめ、話を続ける。「実はそのことは側近から話を聞くよりずっと前、ルファルの邸宅に売られてきた段階からすでに分かっていた。我は日の光で部分的な未来を予知することが出来るゆえにな」シャイン皇帝の言葉にリリシアは驚く。(そのようなお力が……)「だが、先程、近くでそなたを見て分かったことがある。月の魔術はドラゴンを力の源とするがゆえ、そなた達姉妹からドラゴンの源を吸い取る為に怪異が襲った。そして、完全な魔術師になられては困る為、怪異はそなたらに呪いをかけた」「そう、だったのですね……」シャイン皇帝は席に着いたまま窓の外を見る。「じきに夜になる。風に当たるとしようか」その後、リリシアはルファルとシャイン皇帝と共に結界の外にあるバルコニーへと出る。風が頬を撫で、やがて日が暮れ、月が輝き始める。月の光は3人を照らし、リリシアの身体を蝕む。するとリリシアの体が微かに震え出し、ルファルとシャイン皇帝は同時に怪異の呪いの気配を感じた素振りを見せ、皇帝は瞬時に鞘から剣を抜く。「!」リリシアとルファルは驚く。「禍々しい気配よ」先程までの穏やかで優しい雰囲気であったシャイン皇帝の面影はない。鋭い眼光で殺気を放ちながら自分に近
last updateLast Updated : 2026-01-26
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3話-7 心の内のこと。

「ルファル、様……!」リリシアはとっさに名を呼ぶ。だが、ルファルは身を差し出す覚悟を撤回するつもりは一切ないらしい。自分の為にルファルがそこまでするなんて……そんなの許されるはずがないというのに。「――うむ。それだけの覚悟があるならば良い」シャイン皇帝は鞘に剣を入れる。「そもそも元より命を取る気は毛頭なく、リリシアを救う為に呼び寄せたのだからな」「え……」リリシアが驚きの声を零すと、シャイン皇帝はルファルを見つめる。「ルファル、これより、リリシアの呪いを解く」「かしこまりました」ルファルは承知して下がる。するとシャイン皇帝は歩みを進め、リリシアの前に立つ。「リリシアよ、そのままでは辛かろう。終わるまで柵に触れていよ」「はい」リリシアは答え、バルコニーの柵に片手で触れ支えにし、シャイン皇帝を見据えた。「では、始める」シャイン皇帝はリリシアに両手を向ける。「日の名において、呪いを鎮め、解き放て」詠唱を口にすると、シャイン皇帝の両手から神々しい光が放たれ、リリシアはその光に包まれる。しかし次の瞬間、ドッと呪いが暴れ、リリシアの身体がぐらつく。同時にシャイン皇帝の額がピッと切れる。「シャイン皇帝!」「ルファルよ、大事ない」シャイン皇帝は言い切り、光を放ち続け、リリシアもまた震えながらも、一歩も引かずに静かな強さを見せる。だが、いっこうに呪いは解けず、シャイン皇帝は光を放つのを止めた。「――――解けぬか」シャイン皇帝の言葉にリリシアは絶望する。シャイン皇帝ならば、もしかしたら、呪いを解くことが出来るかもしれない。ユエリアの呪いも解け、家も救われ、自分も月の下を歩けるようになるかもしれない。そんな都合の良い奇跡なんて起きるはずが――ない。リリシアはふらつき、柵から手が離れる。ルファルはとっさに手を伸ばし、リリシア
last updateLast Updated : 2026-01-27
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3話-8 心の内のこと。

……ちゃんとルファルの手の感触がある。「はい、大丈夫、みたいです」リリシアの言葉に、ルファルは安堵の息を吐く。「それになんだか体がとても軽く、楽なような……」「我が月光の影響を抑える『月除け』の魔術を宝石にかけたゆえ。そなたが消えずに済み、何よりだ」シャイン皇帝の言葉にリリシアは身も縮こまる思いで恐縮した。だが、シャイン皇帝はどこかバツの悪そうな、申し訳なさを滲ませた顔をこちらに向けてくる。「先程、『解けぬ』と言ったが、言葉足りずであった。『呪いをかけた怪異本体を浄化せねば解けぬ』という意味で言ったのだ。リリシアよ、気を落とさせてすまなかった」シャイン皇帝は謝罪し、深々と頭を下げる。「いえ、そんな……むしろ、救って頂き、感謝しかありません。ですからどうか頭をお上げ下さい」シャイン皇帝は頭を上げると、リリシアを真剣な眼差しで見つめる。「ここからは大事な話となるが、イーグルの怪異を倒さないと呪いは解けないゆえ、月の魔術師になれない。よって、この呪いのことは魔術師全員に知らせ、ドラゴンに似たイーグルの怪異を探すように命じ、団結させることとする。当時、子供とは言え、魔術師を襲った訳であるから、魔術師は怪異を絶対に許しはしない」シャイン皇帝の敵意の顔つきに、リリシアはぞくりとする。「……しかしながら、我は良いが、他の魔術師達はリリシアをどう思うか。先程は試したに過ぎないが、最悪、怪異の呪いにかかったリリシアをよく思わず、魔術師の誰かに殺されかねない。ルファル、注意せよ」「はっ」ルファルが返すと、リリシアはルファルに支えられながら立ち上がり、シャイン皇帝とバルコニーから部屋へと戻る。「リリシアよ、そのままでは持ち歩きにくいであろう。宝石を少しばかり借りるぞ」「は、はい」小さく頷くと、シャイン皇帝はリリシアの掌から宝石を受け取る。そのまま、正装の懐から高貴な小さな袋と紐を取り出し、宝石を中に入れ、きゅっと締め、紐に通す。「ではこ
last updateLast Updated : 2026-01-28
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