* * *わたしは月に嫌われている。そんなことは分かっていたのに。リリシアは内心で嘆く。美しい青年がリリシアをお姫様抱っこし、銀色の月に照らされた夜道を歩き続ける。その度に揺れる月紐で一本に結ばれた、うるわしき髪。リリシアは、ぐったりとしたまま胸に誓う。決してこの青年に悟られてはいけない。姉を、そして、家を救うまでは――――。* * *帝都の離れに一軒の小さな家がある。その玄関前の庭で箒を握り、落ち葉を掃く小さな娘がいた。「リリシア、髪、ボサボサじゃないの」父と共に家に帰ってきた姉が小さな娘、リリシアを見て言う。「あ、お姉さま、お父さま、おかえりなさい」挨拶をすると、母が慌てて家から出てくる。「もうお母さま、またリリシアに手伝わせて」「今日も『お姉さまのようになる!』って言うことを聞かなくてね。張り切って手伝ってくれたのよ……」「全く、リリシアは。ほら、こっちおいで」「うん」姉が優しくリリシアの髪を麻紐で結い直す。――この時代、怪異を祓う様々な魔術師達が存在した。そして、リリシアが住んでいるベルフォード家は貧しいながらも父の公務と月の魔術を持つ6歳差の姉、ユエリアのおかげで名を上げている。その為、リリシアにとってユエリアは憧れの存在だった。「リリシアも明日で4歳か」「儀式が楽しみだわ」父に続けて母が言う。明日の魔術を確かめる儀式で自分もユエリアのようになれると思っていた。――翌日の夜。リリシアは母のミアに教えられた通り、儀式の為の純白なドレスを自ら着る。この衣装は神聖なもので、誰にも触れられてはいけない決まりだ。まるで一夜のお姫様になれたようで心が弾む。着替えが終わると、父のエバートに導かれ、中庭の大きく立派な樹木の前まで歩いていく。ユエリアは4歳の時にこの木に触れ、美しい黄色の花を咲かせたことから月の魔術を持ち合わせていることが分かった。自分もきっと花を咲かせて見せる。強く決意すると、月の光が真上から美しく樹木を照らす。リリシアは両親とユエリアが見守る中、そっと手を伸ばし、樹木に触れた。だが、次の瞬間。巨大な龍の影のような怪異が姿を現し、リリシアとユエリアの体を順にすり抜ける。すると樹木は一瞬で枯れ果て、ユエリアがその場で崩れ落ちていく。両親は一瞬の強風を感じただけで、怪異の姿は見えてい
Last Updated : 2025-12-19 Read more