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All Chapters of 月灯りの花嫁。: Chapter 21 - Chapter 30

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3話-9 心の内のこと。

シャイン皇帝の衝撃的な言葉にリリシアはただただ固まる。シャイン皇帝はそんなリリシアをよそに、ルファルの肩をぽんっと叩いて微笑むと部屋から出て行った。その後、少しの時間部屋で待機し、準備が整ったとのことで副メイドが呼びに来て、リリシアとルファルはそれぞれ衣類保管室で着替える。が、着替えを済ませた自分の姿をルファルに見られることの恥ずかしさだけに留まらず、髪を下ろしたルファルがあまりにも美しすぎて目のやり場に困った。髪を下ろすルファルを見るのは初めてではないというのに、宮殿という場所は恐ろしい……。副メイドが互いの服装をチェックし頷くと、廊下を歩き出す。リリシアはルファルと共にその後に続き、静かな秘密の部屋へと案内された。だが、その部屋を見るなり、リリシアは固まる。キャンドルが柔らかに灯る落ち着いた部屋だけれど、(ベッドが、一つしかないわ…………)やっぱりシャイン皇帝の言葉を聞き間違えたのではないかと廊下を歩いている間、ぐるぐると思いもしたが、どうやら、合っていたらしい……。シャイン皇帝に呪いを解く為に力を貸してもらえることになったのは良かったとはいえ、ルファルと一緒に寝るだなんて。そんなこと、花嫁候補とは言えど、あってはならない。「あの、ルファル様、わたしは別の部屋に……」「シャイン皇帝の命に背く気か?」「し、しかし……」「さっさと儀式を済ませ、出て行く。だから少しの間、我慢しろ」そんなふうに言われてしまっては、別の部屋に行くことを諦めざるを得ない。「はい……」唇を微かに震わせて答え、意を決して、ルファルと共にベッドまで歩き、ルファルが布団に入り横になると、リリシアもまた横になり同じ布団に入る。けれどそれだけで、緊張してしまう。「月の光は大丈夫か?」そう言えば、月の光が窓から入っているのに平気だ。宝石の効果は継
last updateLast Updated : 2026-01-29
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4話-1 星夜の押しかけ。

* * *――夜が明けた頃。瞼を上げ、ゆっくり隣を見ると、ルファルはいなかった。リリシアは布団を顔に被せる。一瞬でも、もしかしたらルファルが寝ているのではないか。そんなふうに期待した自分が恥ずかしく、同時に少しの間一緒に寝たのは事実なのだと悟る。――ああ、このままずっと隠れていたい。だが、その思いも虚しく、廊下からコンコンと扉を叩く音が響く。「リリシア、起きろ。これより帰宅する」自分はこんななのに、ルファルは相変わらずのようだ。「か、かしこまりました……」「では、貴族専用の玄関で待っている」ルファルの足音が遠ざかっていくのが分かった。昨日、ルファルにお姫様抱っこでシャイン皇帝がいる部屋まで連れて行かれたこともあり、部屋の前で待たれる可能性も十分あったけれど、助かった……。(……今、会ってもどんな顔して良いか分からないもの)部屋のクローゼットを開くと、昨日、衣類保管室で着替えた正装のドレスがあり、誰がいつの間に持って来たのかは分からないが丁寧に掛けてあった。リリシアは素早く着替えを済ませ、髪を整え、部屋を後にする。そのまま、廊下を歩き、回廊階段を降りて、貴族専用の扉がある玄関でルファルと合流し、準備された外の馬車に、ルファルに続き乗り込む。やがて、昨日と同じ案内人が頭を下げる中、馬車が動き始めるもリリシアは意識してしまい、ルファルの顔を一切見ることが出来ず、気まずいまま、邸宅へと戻った。その後、邸宅の外の玄関先でソフィラを含め使用人達に出迎えられる。「ルファル様、リリシア様、おかえりなさいませ」使用人達が会釈し、リリシアはルファルの後に続いて歩き出す。するとソフィラに呼び止められる。「リリシア様、少し宜しいでしょうか?」「は、はい」「リリシア様宛てにミア・ベルフォード様より手紙が届いております」ソフィラの言葉にリリシアの身が凍り付く。「母が、わたしに手紙…&h
last updateLast Updated : 2026-01-30
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4話-2 星夜の押しかけ。

書斎の扉が反動で閉まると、ルファルの手が腕から離れる。「……それでどこへ行こうとしていた?」(低い声……相当怒っているわ……)リリシアは胸の上にぎゅっと両手を重ね合わせ、口を開く。「ソフィラさんの元に母からの手紙が届き、居ても立っても居られず、宝石を届けてもらおうとソフィラさんのところへ……わたしは売られた身であり、お姉さまの元へは帰れない為、せめて宝石だけでもと……」ルファルの目が鋭く細まるもリリシアは話を続ける。「もしかしたらシャイン皇帝がわたしの呪いを解こうとした影響が、お姉さまにも出ているのではないかと思い、シャイン皇帝から授かったこの宝石をお姉さまに届けられたら効くかもしれないと思って……」「シャイン皇帝からの恩を仇で返すつもりか」ルファルが冷酷に怒鳴ると、リリシアの瞳が揺れる。「ですが、お姉さまが呪いにかかったのはわたしのせいなのです……だから……どうしても救いたいのです……」「私の時間をも無駄にしてでもか?」「ち、違……」「何が違う? 自分自身も救えていないくせに姉を救える訳がないだろう、ふざけるな」リリシアの右目から一筋の涙が流れる。ルファルが両目を見開くと、リリシアの身体がふらりと傾く。ルファルはとっさに腕を引き、リリシアの身体を支えた。「リリシア、言い過ぎた。すまない」「い、いえ、ルファル様のおっしゃる通りです……わたしの方こそ……申し訳ありません……」謝ると、ルファルは封筒から紐に通された宝石が入った小さな袋を取り出し、リリシアの首に付ける。「もう2度と自ら外すな。もっと自分を大事にしろ」「は、はい……」
last updateLast Updated : 2026-02-04
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4話-3 星夜の押しかけ。

「え……」リリシアは小さく声を上げた。(この方が星の魔術師だったなんて……そうとは知らず、わたし、無礼なことを……)「あ、あの……」リリシアは声をかけ、謝罪しようとする。が、エルシーの甲高い声に遮られた。「きゃ、今の星の魔術師ぽかったよね!? ばっちり決まってたよね!? ね!? ね!?」リリシアはエルシーに圧倒されながらコクンと頷く。その時だった。広間の扉が開く。「――おい、私の許可なく、何を勝手に入っている」低い声が響き、着替えたルファルが広間に入ってきた。「冷たい~。せっかく、ルファル様の仕事の書類を届けに来たっていうのに」「仕事の書類だと?」ルファルはエルシーから書類を受け取る。* * *ルファルが目を通すと、書類には、『一週間後、フェリカディア宮殿会議室にて、神魔会議を開く。全隊員参加せよ』と魔術語でシャイン皇帝の字が綴られていた。リリシアの儀式が終わった後、シャイン皇帝の私室にてふたりで話し合い、彼女の姉、ユエリアについては、呪いを軽減する呪い除けのブレスレットを手配するという形となり、神魔会議についての話に移ったのだが――。『リリシアを神魔会議に参加させたく思う』『お待ち下さい、リリシアを参加させれば会議は荒れ、彼女の身が危ないかと』『やはりリスクが高いか。ならば、リリシアなしで話を進めよう。――だが、日の光が降りてきた際はそれに従う。良いな?』との話に落ち着き、了承せざる終えなかった。しかしながら、今のところ、リリシアの参加はないようだ。「参加者は魔術師だけのようだな」「当り前じゃない。神魔会議なんだから」「神魔会議……?」リリシアが尋ねると、エルシーが説明する。「神魔会議っていうのはね、神魔術隊に属する魔術師全員が参加必須のシャイン皇帝の前で開く会議のことで、一週間後にその会議が宮殿で開かれて、今回は
last updateLast Updated : 2026-02-05
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4話-4 星夜の押しかけ。

* * *「このパイのお肉、おいし~」宴の部屋の席で夕食を口にしたエルシーが幸せそうに呟く。急遽、リリシアはこの場に豪華な料理を運び、そのまま慎重にお出ししたが、気が気でなかった。料理には自分が作った鹿肉が入った黄金のパイ包み焼きも含まれていたからだ。丁寧に焼き上げたものの、口に合うかどうか不安であったが、大丈夫だったよう……。リリシアは自分の席で、ほっ、と安堵の息を吐く。エルシーの肩に乗った精霊もすました顔でパイの横に添えた美しい花の葉をかじって食べており、その姿がなんとも可愛らしい。「……あれ、リリシア様、自分の料理は?」「あ、わたしは後で頂くので……」「そんなのだめよ! ほら食べて食べて!」エルシーがパパッと料理を一種類ずつ皿に取り、リリシアの前に並べる。「エルシー様、ありがとうございます」「リリシア様、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。エルシーでいいわ! 私はリリシアちゃんって呼んでも良いかしら!?」「は、はい……ではわたしはエルシーさんで……」「きゃ! 嬉しい!!」両頬に手を当てながら甲高い声を上げるエルシーをよそに、リリシアは皿の料理に視線を移す。「……こんなに……どうしよう……」「もう食べられるだろう」隣で食すルファルに言われ、リリシアは恥ずかしさでいっぱいになる。どうやら呟きがルファルに聞こえていたようだ。今までの習慣ですっかり夜はもうだめなのだと頭に記憶されていたけれど……、そうだ、もう夜は大丈夫なのだ。「い、頂きます」リリシアはフォークを手に取り、料理を食べ始める。そんな中、エルシーもパクパクと料理を食べ進めていく。幸せそうな顔で頬張る彼女の姿にリリシアは驚き、ルファルは、よく食べるな
last updateLast Updated : 2026-02-06
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4話-5 星夜の押しかけ。

だが、隣からルファルのため息が聞こえ、リリシアは我に返る。 「うるさい。とっとと食べて帰れ」 「そうはいかないわ。今日はお祝いも兼ねてリリシアちゃんに会いに来たんだから!」 反論するエルシーにルファルは冷え切った視線を向けた。 「――やはり、書類は表向きの名目で、それが本来の目的か」 その声は震えあがる程にとても低い。 エルシーは眉を下げ、ぎゅっと握った拳を口元に添える。 「……だって、いつも『家に来るな』の一点張りで、ちっともリリシアちゃんに会わせてくれないんだもの。ルファル様とは同い年で付き合い長いから、ようやく素敵な花嫁候補さんが出来たって聞いちゃったら、どんな子かな、直接お祝いしたいなって思うのは当然じゃない」 「お前の祝いなど無用だ」 「ルファル様、ほんと冷たい~でもねでもね、今日、リリシアちゃんと会えちゃった! きゃ! だから、やっと伝えられる」 エルシーはまるでこれから結婚式の誓いを立てるかのような眼差しでリリシアを見つめる。 「リリシアちゃん、ルファル様の花嫁候補になってくれてありがとう。ルファル様を末永くよろしくお願いね」 「は、はい……」 「今日はいっぱいお祝いするね、リリシアちゃん」 「あ、ありがとうございます……」 リリシアとエルシーの間に花びらが舞っているかのような雰囲気が漂う。 隣のルファルは、エルシーの自分の姉のような発言と振舞いに何か言いたげだったが、口を噤(つぐ)み、呆れた表情を浮かべた。 するとエルシーはリリシアの首に視線を移す。 「そのリリシア様の首に付けているネックレス、シャイン皇帝に授かったものよね? シャイン皇帝の気配を感じるわ」 リリシアはぎくりとする。 「あ…………」 エルシーは星の魔術師……月除けの宝石だと見抜かれ、自分が“呪い月”であることがバレたのでは……。 「素敵ね!」 「え……」 「憧れのシャイン皇帝からネックレスを授かっちゃうなんてリリシアちゃん、すごい!」 ……どうやら、バレていなかったようだ。 リリシアは内心で安堵する。 「私なんて
last updateLast Updated : 2026-02-07
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4話-6 星夜の押しかけ。

――もしも、自分の両親が、姉が、と思ったら、胸が苦しくなった。(けれど、わたしはまだ恵まれている……呪いはあるものの、みんな生きているのだから)場がしんみりすると、ルファルが静かに立ち上がる。気分を悪くし、部屋から出て行くものばかりだと思ったが、ルファルはその足取りで舞台のグランドピアノまで歩いていき、椅子に腰を下ろす。するとエルシーが目をキラキラと輝かせる。「ルファル様!? きゃっ! 今から演奏してくれるの!?」「お前の為じゃない」ふいに視線が重なり、リリシアの心臓が跳ねるもルファルはすぐさま視線をピアノの鍵盤へと落とし、演奏し始める。それはまるで、花嫁候補となる前、夜の宴に参加出来なかった自分へ向けられているような、今宵を祝福するような旋律だった。窓から差し込む月光に照らされたルファルの横顔は、あまりに美しく儚げで――静かに涙が溢れた。* * *「リリシアちゃん、今宵はありがとう。とっても楽しかったわ」ルファルの演奏後、邸宅の玄関の扉前でリリシアはエルシーにお礼を言われた。ぎゅっと両手を握られながらのふわりとした微笑みに、胸が熱くなる。「いえ、こちらこそ……、楽しかった、です」リリシアは伝えてからハッとする。星の魔術師にこんな返しは失礼だっただろうか?不安に思うと、エルシーにぎゅっと抱かれた。「きゃ~、可愛い!」どうやら、大丈夫だったようだ。リリシアは心の中で安堵する。が、エルシーは思いがけないことを口にした。「やっぱり、帰りたくない~! そうだわ、今宵はもう泊まっていこうかしら」(え……泊ま、る?)驚くのも束の間、ルファルの手によってエルシーから引き離された。「とっとと帰れ」「もう、薄情なんだから! じゃあ、リリシアちゃん、ルファル様、またね」エルシーが手を振り、リリシアも振り返す。その時だった。異様な気配を感じたのか
last updateLast Updated : 2026-02-08
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4話-7 星夜の押しかけ。

リリシアがルファルの綺麗さに心を奪われていると、ルファルは静かに剣を鞘に収める。「残りはお前がやれ」「もうっ! ルファル様は星使いが荒いんだから!」エルシーはルファルの冷たい命令に従い、鞘から剣を抜き、中段に構える。が、その途端、残りの怪異の姿が透明になっていく。「キラサマ!」「仕方ないです、行くです」精霊は、ぱあっとエルシーの剣に力を与え――、次の瞬間、怪異に飛び掛かり、押さえ付ける。それを合図にエルシーは口を開く。「星の名において、詠みを導く、セレス・フィア・ルクス」詠唱後、エルシーはまるで華麗に星の女神が舞うかのように消えかかる残りの怪異を斬り、浄化した。怪異が星屑の如く光の粒子となって散っていく。エルシーは剣を鞘に収めた。しかし、その直後。浄化された怪異とは別の、お面を付けた黒い半透明の怪異が姿を現した。気配ごと姿を消し宙に浮かんでいたようだ。怪異はリリシアに向かって猛然と飛来する。「リリシア!」「リリシアちゃん!」ルファルとエルシーが叫び、再び瞬時に剣を抜くも間に合わない。ここで、終わりたくない。――まだルファル様の花嫁候補として、傍にいたい。「家から出て行って」リリシアが口に出した瞬間、首の宝石が神々しく光輝いた。身体を包み込むように結界が張られ、リリシアに体当たりしようとした怪異が、ブォォオオンと勢い良く弾き飛ばされる。そのまま怪異は浄化されていき、やがて、光となった。リリシアは唖然としながら、光の粒子が夜空に消えていく光景を見つめる。だが、急に全身の力が抜け、ふわりと身体が傾く。するとルファルとエルシーが名を呼ぶ間もなく瞬時に駆け寄り、ルファルの手が先に伸び、リリシアの身体を支えた。「大丈夫か?」ルファルの声は落ち着いているが、どこか切迫した響きが込められていた。「は、はい……。その、驚いてしまって……」「リリシアちゃん、良かったぁ〜」
last updateLast Updated : 2026-02-09
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5話-1 月の呪いと、ざわめきと。

* * *――神魔会議前日の深夜のこと。リリシアは一人きりで廊下を歩いていた。月の光で眠れないことは幾度もあった。けれど……。(明日の会議のことが気になって眠れないのは初めてだわ…………)リリシアはふと涼しい風を感じ、中庭の入口を見ると、ルファルの姿を見かけた。以前もルファルが夜風に当たりに来たことがあったが、寝る前、書斎はまだ蠟燭が灯されていたこともあり、恐らく神魔会議で執務が滞る為、これまで必死にこなし、休憩を取りに来たのだろう。ルファルが髪を流し月を眺める姿は、月よりも綺麗で、思わず目を奪われる。が、リリシアは両頬を軽く叩き、気を引き締め、ルファルに近づいて行く。「ル、ルファル様……」「どうした? 月の光で眠れないのか?」「あ、いえ、大したことでは……」答えると、ルファルに優しく頭をぽんっと叩かれる。「神魔会議のことなら大丈夫だ」え……バレて……。隠したつもりだったのに……顔が熱い……。「で、ですが……当人のわたしがここで待つのは……」「お前に何かある方が困る。全て私に任せておけ」「は、はい……よろしくお願いいたします……」「それでいい。しかし」ルファルはじっとこちらを見つめてくる。「ルファル様?」「宝石の効果で、ほんとうに月が平気になったのだな」(そう言えば、中庭で月の光に当てられていても変わりない……。ルファル様に言われるまで気付かなかった……)「……あ、そう、みたいです」「ならば、このまま、共に月を眺めないか?」―
last updateLast Updated : 2026-02-10
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5話-2 月の呪いと、ざわめきと。

* * *そして、夜が明けた。神魔会議の朝が来た。リリシアは夏の透き通った光が差し込む休憩室でルファルの背にそっとコートを掛ける。このほんの少し前に行った髪結いでは集中していたからか大丈夫だった。が、袖を通さず、肩に羽織らせただけで指先がわずかに震え、きゅっと手を重ねて握り締める。いつもの宮殿入りする際の華美な正装とは違い、まさしく神魔術隊の長としての証を主張した軍服のような正装といった感じだからだろうか。「……かっこいい、です」(……え? わたし、今……)自らの唇から自然と零れた言葉にリリシアはハッとし、息を呑む。見上げれば、ルファルが驚いたようにきょとんとしていた。(ルファル様に、聞かれて…………)自覚した途端、頬にじわりと熱が帯びていくのを感じた。零れた言葉は決して嘘ではない。けれど、このような浮ついた言葉をこれから神魔会議に向かうルファルに零すべきではなかった。「あ、あの、ルファル様……今の、は……」「……。悪くは思っていない。むしろ、その……喜ばしい、というか……」ルファルはふいっと、視線を逸らした。自分が言葉を零す前に見せていた冷酷な姿とは違う、不器用な姿にリリシアはいたたまれないような、それでいてどこかふんわりとした甘い心地に包まれる。(ルファル様が……、喜ばしい、だなんて…………)「――では、そろそろ、発つとしよう」ルファルは月紐で一本に結ばれた、うるわしき髪を揺らし、扉に向かって歩いていく。リリシアはその大きな背中を追って休憩室から共に退室した。そのまま、廊下を歩き、長い大階段を降りて行く。ふたりの足音
last updateLast Updated : 2026-02-11
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