港都へと続く、長く果てしない道のり。嘉代は、飛ぶように過ぎ去る車窓の景色を、ただ黙然と見つめていた。道のりのあまりの長さに、彼女は今さらながら驚いていた。A市と港都の間が、これほど遠く隔てられていたなんて……ふと隣を向くと、前方を見据える一樹の眉間に、長時間の運転による隠しきれない疲労の色が滲んでいる。これほどの距離を、直弥は彼女が港都に戻るのを待つのではなく、わざわざA市まで自ら赴き、彼女と婚約について話し合ったのだ。それは、彼がこの婚約を単なるビジネス上の協力ではなく、彼なりに重視している証なのだろうか。昨夜の夢のせいで、嘉代の頭の中には、あの端正な顔が何度も浮かんでは消えた。思考の海に沈むうちに、彼女はいつしか、心地よいまどろみの中へと沈んでいった。どれほど時間が経っただろうか。不意に左側から一樹の声が響いた。「嘉代、着いたぞ」彼はナビの電源を切り、圧倒されたような眼差しで車窓の外を仰ぎ見た。そこに天を突くようにそびえ立つ、威容を湛えた巨塔・青木グループの本社だ。一等地の中の一等地であるこの港都で、これほどの規模を誇る牙城を構えるとは。その実力は、一樹の想像を遥かに超えていた。建物全体が、冷徹なまでの機能美と威圧感を放っていた。これまで目にしてきたどのオフィスビルも、目の前の巨塔の前では色褪せて見えた。「ここが、どこの会社か教えてくれないか?」一樹の瞳には、野心的な興奮と隠しきれない戦慄が交錯していた。もし嘉代がここで上手く立ち回れば、自分もこの「雲の上の世界」に接触できるかもしれない。そうなれば、神谷グループの発展は約束されたも同然だ。嘉代は彼に説明する気力もなく、ただ一言だけを投げ捨てた。「……青木グループの本社よ」それだけ言い残すと、彼女はドアを開けて車を降りた。かつて彼を愛していた頃は、その無知と野心さえも、飽くなき野心の表れだと思っていた。だが愛を失った今、彼を眺めるその目は、ただ身の丈に合わぬ夢を見る、滑稽な道化を見ているような冷ややかさを帯びていた。一樹は背後から声を張り上げた。「嘉代、仕事頑張れよ!戻ってくるのを待ってるからな!」嘉代が壮麗なビルへと吸い込まれていくのを、彼はその場に立ち尽くして見送った。それだけでなく、建物の細部を観察し、わざわざ写真まで撮り溜
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