LOGIN元カレ後悔×契約結婚から始まる真実の愛×長年の秘めた片想い 矢野嘉代(やの かよ)は、恋人である神谷一樹(かみや かずき)の成功を信じ、献身的に彼を支え続けてきた。 あらゆる苦労を共に乗り越え、ようやく結婚という幸福が手の届くところまで迫った、その時。彼女を待っていたのは「用済み」というあまりにも残酷な裏切りだった。 一樹は嘉代を捨てただけでなく、二人で貯めていた結婚資金までも、子連れで戻ってきた忘れられない女へと明け渡してしまう。 目の前で幸せそうに笑い合う「三人の家族」。その光景を前に、嘉代の心から未練は完全に消え失せた。 彼女は静かに身を引き、自身のルーツである名門・矢野家へと帰還する。そして、港都で数兆円の資産を誇る御曹司、青木直弥(あおき なおや)との婚約を世間に発表した。 それからの嘉代は、かつての日陰の女から脱却し、世界的なトップデザイナーとして華々しく表舞台へ躍り出る。その傍らには常に、誰もが羨むほど完璧な夫・直弥の姿があった。 一方の一樹は、高を括っていた。「俺に依存しきったあの嘉代のことだ。どうせちょっとした反抗で、すぐに泣きついて戻ってくるに違いない」と。 だが、どれほど待っても彼女は来ない。それどころか、手の届かない高嶺の花となっていく嘉代の姿に、一樹は次第に正気を失っていく。 …… 一方、直弥は、業界でも「感情を持たない冷徹な男」として恐れられていた。彼には心の奥底に、決して忘れられない想い人がいるという。 それを知る嘉代は、彼に深入りすることを避け、利害が一致した「形だけの妻」を完璧に演じようと努めていた。 だがある穏やかな午後。嘉代は直弥の書斎で、一冊のスケッチブックを見つけてしまう。そこに描かれていたのは、数えきれないほどの「自分」の姿だった。 スケッチブックを手に、嘉代は彼を問い詰める。「青木さん……これでも、私のことは『よく知らない相手だ』なんて白を切るつもりかしら?」 すると、冷徹だったはずの男は無言でぐいっと顔を近づけ、抗う隙も与えず彼女を抱き上げた。そのまま寝室へと向かいながら、熱を帯びた声で囁く。 「――今から深く知っていっても、遅くはないだろう?」 本心を仮面の下に隠した独占欲の強い御曹司×どん底から輝きを取り戻す不屈のヒロイン
View More港都、慈善オークションの夜。一樹が前回この地を訪れたのは、嘉代を伴って重要プロジェクトの商談に招かれた時だった。あの頃の彼は意気揚々としていた。嘉代の完璧な補佐と自らのビジネスプランを武器に、交渉の席で堂々と振る舞ったものだ。それが今夜は、紫穂が細川家のコネを総動員して、ようやく招待枠に潜り込んだに過ぎない。その落差に、一樹の胸には僅かな憂鬱が広がっていた。だが、自分にはまだ後ろ盾がある。そう言い聞かせて顔を上げた。オークションの会場となったのは、港都で最も名高いペニンシュラホテルの大宴会場だ。周囲では各地の名士や財界の大物たちが談笑し、会場には、富と権力が放つ芳醇な香気が満ちていた。一樹はネクタイを整え、野心を隠さぬ鋭い眼差しで、人混みを射抜いた。「紫穂」彼は声を潜めて尋ねる。「事前に土屋会長の秘書に挨拶したと言っていたな?会長の席はどこか分かるか?」初めてこの規模の社交場に足を踏み入れた紫穂は、不自然に髪を整え、落ち着きなく目を泳がせた。「……たぶん、他の社長様方にご挨拶されているんじゃないかしら。こういう場では、急用が入って席を外しているだけかもしれないわ」実は、彼女の心は不安で押し潰されそうだった。この港都最高峰の夜会に紛れ込めたのは、秘かに一番上の姉の招待状を無断で持ち出したからに過ぎない。上流階級の不文律など知る由もなく、ましてや土屋会長のような重鎮に直接連絡を取る術など、彼女にはなかった。一樹は彼女の動揺を鋭く察したが、今は深く追及しなかった。会場の隅にどうにか席を見つけて座り、行き交う業界の重鎮や、名門のサラブレッドたちを眺めるうちに、彼は港都とA市の間に横たわる、天と地ほどの格差を痛感していた。その時、彼の視線が会場の反対側で釘付けになった。ついに、土屋会長の姿を見つけたのだ。しかし、彼を驚愕させたのはその隣――土屋会長と堂々と渡り合っているのは、彼が誰よりもよく知る人物だった。嘉代!?銀色のマーメイドドレスを纏った彼女は、圧倒的な輝きを放っていた。裾にあしらわれたクリスタルが、歩くたびに夜空の星のように瞬く。優雅にまとめ上げられた長い髪が、白く細い首筋と端正な横顔を、鮮やかに縁取っていた。彼女は土屋会長と和やかに談笑し、その所作は気高く、洗練されている。一
考えを巡らせるうちに、紫穂は最悪の結末を脳裏に描き、まるで最後の賭けに出るかのように言い放った。「もしできないなら、私は晴翔を連れて別の人と再婚するわ。あの子に、あなた以外の男を『父親』だと教え込んでもいいのね?」彼女は、一樹がこの言葉に耐えられないことを熟知していた。ましてや今、その手には絶対的な証拠である鑑定書が握られているのだ。「馬鹿なことを言うな」一樹は低い声で彼女を宥めた。「安心しろ。できるだけ早く嘉代を説得して戻らせ、山積している実務を処理させる。その間に、あいつの代わりをじっくり探す。すべてが落ち着いたあかつきには、A市始まって以来の盛大な式を挙げよう」言質を取り、紫穂は満足げに口角を上げた。一樹を完全に掌握しているという自負が、彼女の胸を満たす。嘉代ごときに、これほどの手腕があるはずもない。「ふふ。ありがとう。ねえ、お部屋でゆっくり話しましょう?」彼女は瞳に熱を孕ませ、妖艶な視線を投げかけ、唇の端をわずかに上げた。一樹はその暗示を即座に理解し、「ああ」と短く応じた。紫穂は彼の腰に腕を回し、瞳を閉じて爪先立ちで接吻を求めた。その熱に煽られ、一樹も目を閉じ、次第に呼吸を荒らげていく。しかしその時、携帯が「ピロン」と無機質な音を立てた。メッセージの着信音。嘉代の凛とした横顔が脳裏をよぎり、彼は反射的に紫穂を突き放した。嘉代から、返信が来たのか――?期待に胸を膨らませて画面を開いたが、一樹の目に宿った期待が、一瞬で霧散した。ただの銀行の広告通知だった。「どうしたの?私に触れたくないの?」腕の中から逃げられた紫穂が、不満げに顔を上げ、探るような視線を向ける。一樹は視線を落とし、表情を殺して言った。「まさか。大事な客からの連絡かと思ったんだけど、勘違いだった。まだ、返事は来ていない」紫穂は疑念を抱いたが、それを飲み込み、自分を納得させるように頷いた。一樹がこれほど自分を求めているのだから、自分も信頼で応えるべきだと。彼女は再び彼にしがみついた。「あまり考えすぎないで。結婚式は急がなくていいわ。本気で私を迎えてくれるなら、港都の細川家に一緒に来てくれればいいの。今の成功ぶりなら、細川家もきっと認めてくれる」何より、それが一族の決めた不本意な政略結婚を回避する、唯一の手段でもあった。一樹
ありえない!脳裏をよぎる不吉な予感を振り払うように、一樹は勢いよく立ち上がり、顔を険しく歪めた。嘉代の人生において、最も愛された男は彼だ!これほどの年月、彼女は心のすべてを自分に捧げてきた。裏切るはずなどない。あいつは彼を悲しませるなんて、絶対にできない人間なんだ。たとえ他の男に目を向けたとしても、それはせいぜい自分を怒らせ、嫉妬させるための狂言に過ぎない。彼女が本当に自分を諦め、他の誰かを愛するなど、天地がひっくり返ってもあり得ない話だ。一樹は指輪を置き、代わりに、部屋の隅に打ち捨てられた写真立てに指を触れた。そこには、二人の幸福を切り取った一枚の写真があった。かつては宝物のように枕元に飾られていたはずのそれが、今は無造作に放置され、薄く埃さえ被っている。写真は四年前のものだ。彼は二十三歳、彼女は二十一歳。写真の中の嘉代はまだ初々しく、けがれのない、無垢な笑顔を浮かべている。そして自分は白いシャツを纏い、片手で彼女を抱き寄せ、深い眼差しをカメラに向けている。あの頃、神谷グループが、まだ産声を上げたばかりの野心に満ちていた頃、二人は共に未来を掴もうと奮闘していた。互いの瞳には、相手の姿しか映っていなかったあの日々。そう思うと、一樹の胸に柔らかな感傷が広がり、眼差しも自然と和らいだ。あんな想いを、そう簡単に捨て去れるはずがない。彼は深く息を吐き出し、再び眼光に決意を宿した。嘉代はきっと、旧邸のあの別荘に身を隠しているに違いない。あの不動産を欲しがったのは、いざという時の、避難場所を求めたのだろうと、彼は結論づけた。一樹はすぐさま車を出し、あの別荘へと走らせた。しかし、邸内をくまなく探し回っても、嘉代の姿はどこにもなかった。底知れぬ虚無感に襲われる。街灯の薄暗い光の下で、彼は何度も嘉代に電話をかけ続けたが、呼び出し音だけが虚しく響く。やむなく、彼はメッセージを送った。【誕生日おめでとう、嘉代。帰ってきたら、ゆっくり話そう】嘉代からの返信は、依然としてなかった。しかし、一樹の落胆は長くは続かなかった。次の出来事が、一樹の思考を強引に遮った。紫穂からの着信。親子鑑定の結果が出たと告げられ、夕食に誘われたのだ。一樹はふっと笑みを漏らした。憑き物が落ちたように、心が軽くなり、車を
嘉代は一瞬たじろいだが、すぐに顔を上げて反論した。「だ、誰が見てたって言うんですか!」彼女はすぐに本心を隠し、本題を切り出した。「こんな遅くに私を呼び出して、何の御用かしら?」直弥は視線を外に向けたまま、淡々とした口調で応じた。「俺たちの婚約について、話がある」その表情があまりに淡白であったため、嘉代の胸が締め付けられた。先ほどの絢子の不吉な言葉が脳裏をよぎる。でなければ、なぜわざわざこの時間に?婚約を白紙に戻すつもりなんだわ。彼女は深く息を吸い込み、強情に言い放った。「言っておくけど、今さら考え直しても遅いんですからね。あの指輪、お返しするつもりはありませんから。覚悟しておいてください。港都を統べる青木家の社長が、一度交わした約束を反故にするなんて、許されないですわ」前方の運転手が、その言葉を聞いて思わず身震いをした。青木直弥に対してこれほどまでに不遜な口を利ける人間など、港都広しといえど彼女以外に存在しない。直弥の瞳が微かに動き、端からはそれと判らぬほど、微かに口角を上げた。「……俺が約束を破る男だと、そう思ってるのか?」嘉代は真っ向から頷いた。「有言実行、それが人の道でしょう」彼はふっと口角を上げ、不意に機嫌が良くなったように見えた。沈黙が、嘉代の肌に冷たくまとわりついたが、彼はそれ以上、何も語ろうとはしなかった。車は、港都でも屈指の最高級レストランの正面に停車した。嘉代は困惑して周囲を見回した。「ここに連れてきて、どうするつもり?」「両親に会う」短い一言に、彼女は石のように固まった。両家が顔を合わせ、婚約の細部を詰めようというのか。時計を見れば、午前零時を回ったばかりだ。この時間に初対面の面会を望むなんて。青木家のご両親も、なんとも型破りな……「あの……せめて服を着替えてくるべきでは?」「その必要はない」高田が彼女の緊張を察し、柔和な笑みで助け舟を出した。「奥様、どうぞご安心を。楽な気持ちでいらしてください。ちょうど良い時間です。さあ、中へ」「奥様」という呼び名に嘉代の頬が僅かに熱を帯びる。まだ正式に嫁いでもいないというのに。だが年配の方を待たせては失礼だと、彼女は身なりを整え、意を決してドアを押し開けた。個室の中は、研ぎ澄まされたような静謐が満ちていた。だが室内には