私は高橋汐里(たかはし しおり)。妊娠してからどうにも眠りが浅い。だからついマットレスを、「欲しい物リスト」に入れてしまった。翌日、夫の高橋直人(たかはし なおと)のスマホに、マットレスの発送通知が届いた。胸が熱くなったけど、私は知らないふりをして、そのサプライズを楽しみにしていた。ところが三日後、親友の藤本紗耶(ふじもと さや)のインスタに、まったく同じマットレスが写っていた。【誰かからのプレゼント、ほんとにうれしい!】偶然だ、たまたまだ。そう思い込みたくて、私は小さな希望にしがみついた。夜、直人が寝息を立てたのを確かめてから、彼のスマホで通販アプリを開いた。届け先の名前欄にあったのは、藤本紗耶。……頭の中がぐちゃぐちゃになった。お腹の子もそれを感じ取ったみたいに、内側でそわそわと動き回る。私はベッドのヘッドボードにもたれて、夜が白むまで座り続けた。朝七時前、直人が起きてきて、座ったままの私を見ると、やわらかい声で気づかった。「どうした、汐里。また眠れなかったのか?」ぎこちなくうなずくしかなくて、どんな顔で彼を見ればいいのかわからなかった。「この前、マットレス見てたって言ってただろ。ブラックフライデーで安くなってたし、買っちゃおう」直人は私の頭をぽんぽんと撫で、「高いとか気にするな。俺が稼ぐのはお前に使うためだ」と笑った。男の気持ちは、金の使い道に出るっていう。でも直人の心は、どうやら二つに割れるらしい。彼は私の分だけ朝食を整えると、そのまま仕事に出ていった。テーブルには私の好きなものばかりで、直人の分はどこにもない。彼が出ていったあと、私はスマホを取り出して、Xのサブ垢を作った。そのアカウントで直人を探し当てると、私は見たことのない投稿がずらりと並んでいた。毎朝かならず、朝食の写真を上げている。見覚えのある弁当箱が映るたび、胸の奥が痺れて、次の瞬間には締めつけられる。あの弁当箱は、大学のころ私が紗耶に贈ったものだ。料理好きの彼女のために、私は数千円の保温ランチボックスを選んで渡した。ふたには、彼女の名前のイニシャルまで刻ませた。紗耶は感激して私をぎゅっと抱きしめ、「汐里、これからは毎日これでお弁当持っていくね」と言った。まさかその弁当箱が、今では彼
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