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届いた先は、私じゃない
届いた先は、私じゃない
Author: れい

第1話

Author: れい
私は高橋汐里(たかはし しおり)。妊娠してからどうにも眠りが浅い。だからついマットレスを、「欲しい物リスト」に入れてしまった。

翌日、夫の高橋直人(たかはし なおと)のスマホに、マットレスの発送通知が届いた。

胸が熱くなったけど、私は知らないふりをして、そのサプライズを楽しみにしていた。

ところが三日後、親友の藤本紗耶(ふじもと さや)のインスタに、まったく同じマットレスが写っていた。

【誰かからのプレゼント、ほんとにうれしい!】

偶然だ、たまたまだ。そう思い込みたくて、私は小さな希望にしがみついた。

夜、直人が寝息を立てたのを確かめてから、彼のスマホで通販アプリを開いた。

届け先の名前欄にあったのは、藤本紗耶。

……

頭の中がぐちゃぐちゃになった。

お腹の子もそれを感じ取ったみたいに、内側でそわそわと動き回る。

私はベッドのヘッドボードにもたれて、夜が白むまで座り続けた。

朝七時前、直人が起きてきて、座ったままの私を見ると、やわらかい声で気づかった。

「どうした、汐里。また眠れなかったのか?」

ぎこちなくうなずくしかなくて、どんな顔で彼を見ればいいのかわからなかった。

「この前、マットレス見てたって言ってただろ。ブラックフライデーで安くなってたし、買っちゃおう」

直人は私の頭をぽんぽんと撫で、「高いとか気にするな。俺が稼ぐのはお前に使うためだ」と笑った。

男の気持ちは、金の使い道に出るっていう。

でも直人の心は、どうやら二つに割れるらしい。

彼は私の分だけ朝食を整えると、そのまま仕事に出ていった。

テーブルには私の好きなものばかりで、直人の分はどこにもない。

彼が出ていったあと、私はスマホを取り出して、Xのサブ垢を作った。

そのアカウントで直人を探し当てると、私は見たことのない投稿がずらりと並んでいた。

毎朝かならず、朝食の写真を上げている。

見覚えのある弁当箱が映るたび、胸の奥が痺れて、次の瞬間には締めつけられる。

あの弁当箱は、大学のころ私が紗耶に贈ったものだ。

料理好きの彼女のために、私は数千円の保温ランチボックスを選んで渡した。

ふたには、彼女の名前のイニシャルまで刻ませた。

紗耶は感激して私をぎゅっと抱きしめ、「汐里、これからは毎日これでお弁当持っていくね」と言った。

まさかその弁当箱が、今では彼女が毎日私の夫に弁当を持たせるためのものになっている。

直人が家で朝食を取らなかった理由が、やっと腑に落ちた。毎朝、誰かが丁寧に用意していたんだ。

直人と紗耶は、同じ会社で働いている。

その会社はもともと私と紗耶が立ち上げたのに、妊娠してからは直人が運営を手伝うようになった。

二人は私にとって、家族みたいに大切な存在だった。だから疑うなんて、考えもしなかった。

その瞬間、息が詰まるような裏切りが胸いっぱいに広がった。

画面をスクロールすると、直人は私だけに見えない設定で、また一つ投稿していた。

【今日の朝ごはん。俺の大好物、ローストビーフサンド!】

直人と一緒に過ごしてきた五年間、写真を撮って、記録して、誰かに話していたのはいつも私のほうだった。

それなのに彼は、「こんな日常、残してどうすんの?」なんて笑っていた。

淡々とした報告みたいな更新が毎日続くのを見ていると、口元に皮肉な笑いが浮かぶ。

自分を傷つけるみたいに、私に関係のない投稿を一つ、また一つと開いていった。

指がふと止まる。目に飛び込んできたアカウント名があった。

【紗耶の残夢】

そのアカウントは、紗耶に関する投稿だけを、漏らさずいいねしている。

紗耶の表も裏もアカウントは知っている。だからこそ、違うはずだと都合よく思いたかった。

でも開いた瞬間、現実を突きつけられた。

先週は紗耶の誕生日で、私は彼女のために童話テーマのケーキを予約していた。

その日、【紗耶の残夢】が投稿したのは、まさにそのケーキの写真だった。

添えられていた言葉は、【いちばん好きな人と、いちばん大切な人が一緒に祝ってくれた】

じゃあ紗耶の中で、私っていちばん好きなの?それとも、いちばん大切なの?

丸一日、私は盗み見するみたいに、二人の秘密のやり取りを覗き続けた。

やってることは節度を欠いているのに、決定的な一線は越えていない。

それでも胸の奥に居座る鈍い痛みが、これは裏切りだと告げていた。

直人が帰宅すると、髪はぼさぼさで目のふちを真っ赤にした私が、ソファに沈んでいた。

「汐里、どうした?」

あのやさしさを湛えた目も、やわらかな声も、何一つ変わっていないはずなのに。

なのにこの瞬間だけ、世界の輪郭が少し歪んだみたいに感じた。

涙がこぼれたとき、直人の瞳に走ったのは、動揺と痛ましさだった。

反射的に、そう思ってしまった。まだ、私は愛されている。——だから、もう一度だけ確かめてみよう。

私は紗耶のインスタの写真を開き、拗ねたふりをして文句を言った。

「紗耶には、誰かがこれを贈ってるのに。私は何もないんだよ」

直人の瞳が揺れ、その表情がそのまま固まった。
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