結婚式場。私は会場の入口に立ち、入場の時を待っている。しかし、そこで届いたのは、あろうことか謝罪の電話だ。「美来、すまない。祐見子が死のうとしてるんだ。俺が行ってなだめなきゃいけない」指先に力を込め、聞き間違いかと思った。「でも、今日は私たちの結婚式よ。あなたがいなくなったら、私一人でどうすればいいの?」この日のために、私は丸一年をかけて準備してきた。今まさに、式が幕を開けたばかりだ。親族や友人たちも、私たちの幸せな瞬間を見届けようと、わざわざ駆けつけてくれている。それなのに、四谷竜巳(よつや たつみ)はこのタイミングで岩瀬祐見子(いわせ ゆみこ)のもとへ走り、私を一人で式場に残していくというのか。――私はどうなるの?電話の向こうから、竜巳の憤りを含んだ声が聞こえてきた。「美来、お前がそんなに自分勝手な人間だとは思わなかった。祐見子が命を絶とうとしてるのに、まだ式のことを考えてるのか?そんなに彼女に死んでほしいのか!」入口に現れた司会者が、困惑した表情でこちらを見ている。私は惨めな思いで、縋るように懇願した。「でも、祐見子は絶対に大丈夫よ。あなたを引き止めるための演技に決まってるわ。式が終わったら、私も一緒に彼女のところへ行くから。それでいいでしょう?今日だけは……竜巳、お願いだから私を一人にしないで」すると、電話越しに竜巳の怒鳴り声が響いた。「岩瀬美来(いわせ みく)!よくもそんな冷たいことが言えるな。祐見子はお前の異母妹だろう!お前が彼女の母親を恨んでるのは知ってる。だが、祐見子に罪はないはずだ。ただの結婚式だから、後でいくらでもやり直せる。だが、俺が自分の目で彼女の無事を確認しない限り、安心できないんだ」言い捨てると、彼は迷うことなく電話を切った。かけ直しても、すでに電源は切られていた。私はそっと目を閉じた。心の底から無力感が込み上げてきた。――まただ。いつもそうだ。祐見子に何かあるたびに、竜巳はためらうことなく私を切り捨てる。彼の心の中で、いつだって優先されるのは私ではない。私のあふれんばかりの愛も、心を込めて準備した結婚式も、祐見子からの一本の電話には敵わない。たとえそれが彼女の狂言だと分かっていても、たとえ私が全身全霊で引き止めたとしても。
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