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妹に取られた婚約者が後悔した
妹に取られた婚約者が後悔した
Author: 匿名

第1話

Author: 匿名
結婚式場。

私は会場の入口に立ち、入場の時を待っている。

しかし、そこで届いたのは、あろうことか謝罪の電話だ。

「美来、すまない。祐見子が死のうとしてるんだ。俺が行ってなだめなきゃいけない」

指先に力を込め、聞き間違いかと思った。

「でも、今日は私たちの結婚式よ。あなたがいなくなったら、私一人でどうすればいいの?」

この日のために、私は丸一年をかけて準備してきた。

今まさに、式が幕を開けたばかりだ。

親族や友人たちも、私たちの幸せな瞬間を見届けようと、わざわざ駆けつけてくれている。

それなのに、四谷竜巳(よつや たつみ)はこのタイミングで岩瀬祐見子(いわせ ゆみこ)のもとへ走り、私を一人で式場に残していくというのか。

――私はどうなるの?

電話の向こうから、竜巳の憤りを含んだ声が聞こえてきた。

「美来、お前がそんなに自分勝手な人間だとは思わなかった。祐見子が命を絶とうとしてるのに、まだ式のことを考えてるのか?そんなに彼女に死んでほしいのか!」

入口に現れた司会者が、困惑した表情でこちらを見ている。私は惨めな思いで、縋るように懇願した。

「でも、祐見子は絶対に大丈夫よ。あなたを引き止めるための演技に決まってるわ。

式が終わったら、私も一緒に彼女のところへ行くから。それでいいでしょう?

今日だけは……竜巳、お願いだから私を一人にしないで」

すると、電話越しに竜巳の怒鳴り声が響いた。

「岩瀬美来(いわせ みく)!よくもそんな冷たいことが言えるな。祐見子はお前の異母妹だろう!

お前が彼女の母親を恨んでるのは知ってる。だが、祐見子に罪はないはずだ。

ただの結婚式だから、後でいくらでもやり直せる。だが、俺が自分の目で彼女の無事を確認しない限り、安心できないんだ」

言い捨てると、彼は迷うことなく電話を切った。

かけ直しても、すでに電源は切られていた。

私はそっと目を閉じた。心の底から無力感が込み上げてきた。

――まただ。

いつもそうだ。祐見子に何かあるたびに、竜巳はためらうことなく私を切り捨てる。

彼の心の中で、いつだって優先されるのは私ではない。

私のあふれんばかりの愛も、心を込めて準備した結婚式も、祐見子からの一本の電話には敵わない。

たとえそれが彼女の狂言だと分かっていても、たとえ私が全身全霊で引き止めたとしても。

ただ一度も、竜巳が私のために立ち止まってくれたことはなかった。

司会者は申し訳なさそうに言葉を濁しながら尋ねた。

「岩瀬様、その……これはいったい……このまま式を続行されますか?」

私は深く息を吸い込み、彼に謝罪の言葉を伝えた。

「申し訳ありませんが、婚約者が出席できなくなりました。すべての予定を中止してください」

司会者は同情の眼差しを私に向け、手際よくその後の予定をすべてキャンセルしてくれた。

私はマイクを手に取り、まっすぐステージの中央へと歩み出した。

本来なら、そこで私と竜巳が永遠の愛を誓い合うはずだった場所だ。

けれど今では、私が笑い者にされるための舞台に成り下がってしまった。

ステージに立ち、私はマイクを通して低く沈んだ声で告げた。

「本日は申し訳ございませんが、結婚式は中止とさせていただきます。ですが、わざわざお越しいただいた皆様への感謝の気持ちを込めて、このまま私のバチェロレッテパーティーを開催したいと思います」

客席は騒然となり、探るような視線が一斉に私に突き刺さった。皆、何が起きたのかと問いかけているようだ。

タイミングよく司会者がマイクを引き継ぎ、手慣れた様子で場を収めていった。

私は安堵の気持ちでステージを降りた。

降りた先で待ち構えているのは、血相を変えて駆け寄ってきた父・岩瀬和男(いわせ かずお)と、竜巳の両親だ。

彼らの顔には明らかな怒りが浮かんでいる。和男に至っては、問答無用で私の頬を張り飛ばした。

「この親不孝者め!なぜ式を中止にしたんだ?いったい何を考えてるんだ!」

私は口の端に滲んだ血を拭い、静かに三人を見据えた。

「竜巳は式を放り出し、祐見子のもとへ向かいました」

先ほどまで怒り狂っていた三人の顔色が、瞬く間に変わった。事実だと悟った瞬間、竜巳の両親は気まずそうに謝罪を口にした。

「ごめんなさい、美来さん。あの子が戻ったら、必ず本人に謝らせるから」

和男もバツが悪そうに私を見た。

「竜巳くんは祐見子のことが心配だっただけ。式なんて日を改めてやればいいだろう。バチェロレッテパーティーなんて、ふざけた真似はやめなさい」

私は彼を無視して、鳴り響くスマホを取り出した。

祐見子から、たった今メッセージが二通届いたところだ。

一つは写真、もう一つは文章。

写真は、彼女と竜巳が指を絡ませ、寄り添っている姿。

そして、文章にはこう書かれている。

【お姉さんは、一生私に勝てないわ】

何よりも皮肉なのは、写真に写っている竜巳が、私が彼のために仕立てた新郎のスーツを、まだ身に纏っていることだ。

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