この世界は薔薇色だ。 だって、こんなにも愛で満ちているのだから。 「ふふ、ふふふ」 日が暮れ、空に星が瞬き出した頃。 私、工藤天音は今日も一人夜ご飯を食べながら、スマホから流れる動画を見ていた。 スマホに映る、美少年。 彼の名前は、透くん。今、私が熱烈に推している、今年19歳のデビューしたてのアイドルだ。 艶やかな黒髪を揺らしながら懸命に踊り、歌う姿は、なんてかっこよくて、素晴らしいのだろうか。 透くんが所属する5人組グループ、LOVEの中でも、透くんは一際目立つ存在だった。 彼がこの世に存在してくれているおかげで、私はずっと生きてこれた。 いや、彼だけではない。 歴代の推したちが、私の世界を愛で薔薇色に染め、私を生かしてきたのだ。 私に推しという概念が生まれた日を、私は正直覚えていない。 記憶にある最古の推しは、低学年の時に推していた、戦隊ヒーローのブルーだった。 そこから私は、様々な推しを作り、熱烈に推してきた。 中学の3年間で推した推しは、10人。 高校の3年間で推した推しは、8人。 大学の4年間で推した推しは、同じく8人だった。 だが、22歳の夏。 世の中でアイドルのデビューを決めるサバイバル番組が流行っている中、私はあるサバイバル番組で、今後2年間も推すことになる推しを見つけた。 過去最高に推し続けた推しの名前は、翡翠。 サバ番放送時は高校3年生だったが、今は20歳の超売れっ子アイドルだ。 サバ番で翡翠は見事デビューを掴み取り、romanceの一人としてデビューした。 そこからスターダムに駆け上がり、今では知らない人はいないほどの存在だ。 栗色のまっすぐな髪に、端正な顔立ち。 高い身長に、長い手足に、小さな顔。 イケメンで、骨格まで優勝しているのに、何もやらせてもそつなくこなすという隙のなさ。 翡翠は私の完璧な一番星だった。 …が、私の一番星は当然だが、世間に見つかり、もうすっかり私の応援などいらない、遠い存在へとなってしまった。 私は高みを目指す誰かに尽くし、応援することが好きだ。 翡翠は最初、ダンスも歌も習ったことのない、芸能事務所にさえ所属していない、かっこいいだけの素人だった。 サバ番で翡翠は、アイドルになりたいプロのアイドルの卵たちの中で、いつも初めて
Last Updated : 2025-12-27 Read more