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7. 薔薇色の世界…?

last update Last Updated: 2026-01-02 16:29:30

side天音

ゆっくりといつものように、まぶたを開ける。

だが、いつもと同じはずなのに、何もかもが違った。

体を沈めるマットレスはふわふわで心地が良く、掛けられた布団は肌触りがとてもいい。

目に映る天井は見慣れたものとは違い、高級ホテルのような清潔感があり、私の知っている生活感がそこにはなかった。

ぼんやりとしていた思考は、いつもとは違うここに、はっきりとし始めた。

ーーーここ、どこ。

知らない場所に、慌てて体を起こす。

ここを取り囲む大きな窓の外の空は暗く、星が瞬いており、その下には小さなビル群が光を放っている。

見たことのない景色だ。

「おはよう、天音さん」

右隣から聞き覚えのある甘い声が私を呼ぶ。

バッと勢いよく声のする方へ視線を向ければ、そこには大きなベッドに腰掛け微笑む翡翠がいた。

どうして、翡翠が?

それに、名前も…。

そこまで考えて、意識を手放す前のことを思い出す。

そうだ。私、翡翠と交流券を使って、話をしていたんだった。

コーヒーを飲んで、少しお菓子を食べて、手を握られて、たくさん話をした。

4ヶ月前と同じように、楽しいひと時を過ごして、それから…。

『好き〝だった〟。ファン〝だった〟。ぜーんぶ、過去形。ねねさんにとって、俺はもうねねさんの一番星じゃないんでしょ?』

そう、私は翡翠に嘘をついて怒らせた。

だから一生懸命弁明しようとしたけれど…。

急に思考が鈍くなって、どんどん意識が遠のいていって。

『俺をもう一度、一番星だと心から言えるように頑張ろうね、天音さん』

最後に翡翠にそう言われて、意識を手放したのだ。

何故、あの時急に意識を失ったのか。

何故、今目の前に翡翠がいるのか。

そしてここは一体、どこなのか。

何もわからない状況に、わけがわからなくなる。

そんな私の様子に気づいたのか、何も言えずただただ翡翠を見つめる私に、翡翠は柔らかく笑った。

いつも見てきた翡翠の笑顔。それなのに、どこか仄暗いと感じてしまうのは気のせいなのか。

「天音さん、一つずつ説明するね。まず天音さんはあの時、急に寝ちゃったんだよ。よっぽど疲れてたんだね。だから俺の家に連れて帰ってきたんだ」

「…え」

翡翠に丁寧に説明されても、状況がうまく飲み込めない。

あの場で急に寝てしまったなんてあり得ないし、仮に寝
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  • 推し変には、ご注意を。   7. 薔薇色の世界…?

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  • 推し変には、ご注意を。   6. 壊れた世界。

    あのゲリラライブを境に、ねねさんは変わってしまった。〝ねね〟のアカウントは動かなくなり、毎日のライブ配信にも来なくなった。ゲリラライブ後にあった、握手会にも当然現れなかった。どうして、どうして。動かない、現れない、ねねさんに不安が募り、気が狂いそうになる。ねねさんのことばかり頭に浮かんで、何も手につかなくなる。眠れなくなった。そのせいで、不調も続いた。今が大事な時期だというのに。それでも、ねねさんを見ることは辞められなかった。〝ねね〟のアカウントを見て、今日も動きがない、と肩を落として、今度は〝天音〟のアカウントを見る。〝天音〟では、ねねさんは普通の日常を送っていて、ますます何故、〝ねね〟を動かさないのかわからなくなった。そんな日々が続いた、ある日のこと。俺は今日も楽屋でスマホを触りながら、自分の出番を待っていた。すると、スマホに嬉しい通知が来た。〝ねね〟がコメントしました。と。「…っ!」ねねさんだ!やっと来たねねさんの動きに、心臓が高鳴る。一体、何を言っているのだろうか。今まで〝ねね〟を動かさなかった理由でも並べられているのだろうか。それとも案外いつも通りに、翡翠について楽しそうに言葉を並べているのか。何であれ、ねねさんからの言葉ならなんでもいい。なんでも嬉しい。はやる気持ちを抑えて、通知をタップする。…が、そこに現れた言葉に、俺は言葉を失った。『LOVEの透くん、眩しすぎない?』は?1週間ぶりに出てきた言葉が、これ?自分の目を疑って、慌てて、アカウント名を見る。しかし、間違いなく、ねねさんのアカウントだ。な、何、これ。意味がわからなかったが、習慣のように、ねねさんのプロフィールへと飛ぶと、そこには信じられない文字があった。『透くんは私の一番星。』自分の中の何かが静かに崩れていく。ゆっくり、ゆっくりと、腐敗して、もう元には戻れない。ねねさんの一番星は俺でしょ。仄暗い感情が俺を支配して、どんどん暗闇へと引きずり込んでいく。透って、誰。ねぇ、ねねさん。スマホを見つめたまま、俺はそこから動けなくなった。まるで蔦に囚われたように。*****翌る日も翌る日も、ねねさんはSNSで俺ではない推しの話をする。『透くんのあのまっすぐな瞳。絶対に彼は大物になる!』『今日も透くん、かっこいい!ライ

  • 推し変には、ご注意を。   5.変わる世界。

    デビュー前、最初で最後の握手会が終わり、俺は見事、デビューを勝ち取った。 そこからは毎日が嵐のようで、忙しい日々を送った。 デビューがゴールではない。 デビューはスタートだ。 romanceとしてデビューした俺たちは、トップアイドルになるために、さらなる努力と活動を続けた。 シングルの発売による、たくさんの準備。 MV撮影、ジャケット撮影。 番宣に地上波に出て、雑誌に載って。 romanceのアカウントで、ライブ配信をできるだけ毎日し、個人アカでも配信、投稿をした。 モデルの仕事、CMの仕事、歌、ドラマ、バラエティ。 俺たちはとにかく引っ張りだこで、その中でも群を抜いて、俺にはいろいろなところからオファーがきた。 その合間を縫うように、ファンに会うイベントも行われる。 このファンに会える時間が、俺にとって特別で大切なものだった。 ライブ配信でも、SNSでも、いつもねねさんに会えるけど、直接会えるのは、イベントでだけだ。 やはり、ねねさんとは直接会って話がしたい。 ねねさんはどんな現場でも、必ず俺に会いに来てくれた。 ライブ、地方のイベント、握手会、サイン会。 ラジオの収録に、ゲリライベント。 その中で俺はいつもねねさんを探して、その姿を見つけては嬉しくなっていた。 ねねさんは俺を輝かせる太陽であり、俺の神様だ。 ねねさんさえいれば、どんなに辛くても大変でも、頑張ろうと思える。 輝こうと立ち上がれる。 忙しい毎日に、失われた日常に、有名になればなるほど増えるアンチに、いつだって心が曇らされる。 けれど、神様の言葉一つで、俺はその曇りを晴らせた。 romanceとして、デビューして2年。 romanceはスター街道を駆け上がり、ついには誰もが知る、スーパーアイドルへと成長した。 歌を出せば、必ずバズり、誰しもが口ずさむ。 romanceが使っていた、となると、あれよあれよと売れてしまい、品切れに。 雑誌に登場した日には、その雑誌は入手困難となり、ライブのチケットはとんでもない倍率で、現場に行けれないファンが続出していた。 ねねさんはいつも、俺に言ってくれる。 『翡翠は私の一番星だよ』と。 光り輝き続ける俺を、ねねさんは自分のことのように、喜んでくれていた。 2年経っても、それは変わらなかった。 ねねさ

  • 推し変には、ご注意を。   4.君が世界。

    side翡翠 昔からなんでもできたし、なんでも持っていた。 身長も気がつけば高くなっていたし、スタイルもよかった。 顔も整っており、「かっこいいね」と、当然のように言われて生きてきた。 高3の春。 友達とノリで、アイドルのサバイバル番組に応募してみた。 「翡翠ならアイドルになれるっしょ!」 軽くそう言った友達に背中を押されて、俺は気がつけば、サバ番に参加していた。 俺の人生は、イージーモードだった。 だが、サバ番に参加したことにより、俺の価値観は全て脆く崩れ去った。 俺と同じように顔がいい男が、高身長の男が、骨格が優れている男が、掃いて捨てるほどいる。 彼らは容姿がいいだけではなく、幼少期から夢である芸能人になり、活躍するために努力を重ねており、何もして来なかった一般人の俺とは違った。 ある男は踊りができた。 見せられた踊りを瞬時に覚えるだけではなく、自分なりの解釈を入れ、誰よりも魅せる踊りをしていた。 ある男は歌声が綺麗だった。 一度聴くと忘れられないその声は、天性のものだったが、見えないところで、どう歌えば人を惹きつけるのか、研究と努力を惜しんでいなかった。 ある男は表情管理が、またある男は場を楽しませるトーク力が、またある男は自分の魅せ方をよくわかっていた。 俺が一番ではない世界。 俺が劣っている世界。 初めての世界に戸惑ったが、彼らと切磋琢磨し、磨かれていく時間は、何よりも楽しかった。 そしてそんな頑張っている俺の姿を見て、俺を応援してくれるファンという存在が、俺を嬉しくさせた。 ファンの存在が、俺を強くする。 辛い時、苦しい時に、あともう少しだけ、と踏ん張れる。 そんなファンの声が聞きたくて、気がつけば、俺はSNSでエゴサをすることが習慣になっていた。 SNSには、俺を応援する声で溢れている。 『夢島翡翠くん、かっこよくない?顔面が国宝』 『ダンスも歌も素人とは思えない!』 『骨格優勝!華がある!』 どの言葉も俺に力を与えてくれるものだ。 俺はその中で、あるアカウントを見つけた。 『翡翠は私の一番星』 そうシンプルに書かれたプロフィールの言葉。 そのアカウントは〝ねね〟と言い、毎日のように俺についてコメントをしていた。

  • 推し変には、ご注意を。   3. 懐かしい世界。

    夢のような時間はあっという間に終わり、今度は幻のひとときがやって来た。 そう、1万人の中からたった10人しか選ばれない幻の交流券を使う時が来たのだ。 私はLOVEのメンバーの中からもちろん透くんを選び、透くんと個室でテーブル越しにお話をしていた。 交流時間はなんと5分もある為、テーブル上には飲み物やお菓子まで用意されており、椅子まである。 立ちっぱなしにならないようにとの、運営からの配慮なのだろう。 素晴らしい運営だ。 「透くん、今日もかっこよかった!ダンスまた上手くなったよね?あのステップのところとか、圧巻だったよ!」 透くんに手を握られたまま、とにかく熱くライブの感想を述べる。 私の言葉を聞くたびに、透くんは照れくさそうに笑ったり、嬉しそうにはにかんだりしていた。 「…ねねさんのおかげだよ。ライブ配信も、地方のイベントも、握手会も、ここ1ヶ月なんでも来てくれて、ずっと背中押してくれて。感謝してもしきれないよ」 キラキラとした眼差しで私を見つめる透くんに、ズキューン!と心臓が撃ち抜かれる。 まさに、沼である。 一度ハマったらもう戻れない。 やはり、透くんは素晴らしい存在だ。 「私、これからも透くんを推すよ!私の一番星は透くんだから!」 私はそう言って、笑顔で透くんの手を握り返した。 ***** 次の交流は、romanceのメンバーの誰かとだ。 もちろん私はromanceの中から、昔の推しである翡翠を選び、彼のいる個室の前へと移動していた。 この扉の先に、翡翠がいる。 透くんがいた個室と同じような扉を前に、しみじみとそう思う。 4ヶ月前は、お金と時間が許す限り、何度も何度も翡翠に会いに行った。 ライブにも、握手会にも、イベントにも。 その全てが今は透くんだ。 そんなことを考えていると、スタッフの方が私の電子チケットを改めて確認し、「どうぞ。時間は5分です」と丁寧に告げて、個室の扉を開けた。 すると扉の先には、透くんと同じようにテーブルの奥の椅子に腰掛けている翡翠がいた。 栗色のまっすぐな髪に、蛍光灯の光が当たり、天使の輪ができている。 キラキラと輝くそこから覗く顔は相変わらず端正で、日本中全ての人が「かっこいい」と騒ぐ理由も頷けた。 長い手足に、小さな顔。骨格まで完璧とは、さすが今をときめく翡翠である。

  • 推し変には、ご注意を。   2. 眩しい世界。

    ライブ当日。私は開演30分前には、指定席に着き、ライブ開始を放心状態で待っていた。何故、放心状態なのか。それはとんでもない倍率を勝ち抜いて当日のチケットを取れただけでもすごいのに、いざ会場に来てみればなんとアリーナの最前列だったからだ。ほ、本当にこの席が自分の席なのか、と、ステージの近さにあらゆるものを疑ってしまう。見間違えではないか、表記ミスではないか、そもそも人違いではないか。このライブのチケットは電子チケットだ。当日まで席はわからず、会場の入場口にある端末にチケットを読み込んで、初めてどの席かわかる。もしかしたらここは私の席ではないかもしれない、と再びスマホを開いて、電子チケットを確認したが、そこにはやはり最前列、1-30と表示されていた。か、神が、神が私に微笑んでくれた…。一生分の運をここで使い果たしてしまった。電子チケットの内容を何度も何度も見て、うっとりする。そうしていると、電子チケットに見慣れない文字があることに気がついた。座席番号が表示されている、さらに下。そこには、〝メンバーとの交流券当選〟と書かれていた。「…へ」思わぬ神々しい〝当選〟という二文字に、声が漏れる。信じられない文言に、その文字を凝視するが、何度見てもその文字が変わることはない。ま、幻の交流券に当選してる…。この〝メンバーとの交流券〟とは、ライブ会場に集まっているファン1万人の中からたった10人が選ばれる、名の通りの券なのだ。各グループから好きなメンバーを1人ずつ選び、そのメンバーと握手ができ、少しだけ話せて、チェキまで撮れる。夢のような券なのだ。…が、たった10人しかその資格は得られない為、私ははなから交流券の当落は眼中になかった。当たるなど夢にも思っていなかった。たった1万人だけが得られるライブの席を勝ち取り、さらに最前列を引き当て、幻の交流券にまで当選しているとは。何もかもが上手くいき過ぎている。明日、私は死ぬのかな?身に余るほどの幸福に、私は静かに涙を流した。やはり、世界は薔薇色だ。推しが私の世界を幸せな色に染めてくれる。ああ、早く、透くんに会いたい。*****幸せの絶頂の中、ライブは始まった。会場が暗転し、大きなメインステージと花道とサブステージだけにライトが当てられる。それからメインステージの後ろにある大

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