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5.変わる世界。

last update Last Updated: 2025-12-30 12:28:42

デビュー前、最初で最後の握手会が終わり、俺は見事、デビューを勝ち取った。

そこからは毎日が嵐のようで、忙しい日々を送った。

デビューがゴールではない。

デビューはスタートだ。

romanceとしてデビューした俺たちは、トップアイドルになるために、さらなる努力と活動を続けた。

シングルの発売による、たくさんの準備。

MV撮影、ジャケット撮影。

番宣に地上波に出て、雑誌に載って。

romanceのアカウントで、ライブ配信をできるだけ毎日し、個人アカでも配信、投稿をした。

モデルの仕事、CMの仕事、歌、ドラマ、バラエティ。

俺たちはとにかく引っ張りだこで、その中でも群を抜いて、俺にはいろいろなところからオファーがきた。

その合間を縫うように、ファンに会うイベントも行われる。

このファンに会える時間が、俺にとって特別で大切なものだった。

ライブ配信でも、SNSでも、いつもねねさんに会えるけど、直接会えるのは、イベントでだけだ。

やはり、ねねさんとは直接会って話がしたい。

ねねさんはどんな現場でも、必ず俺に会いに来てくれた。

ライブ、地方のイベント、握手会、サイン会。

ラジオの収録に、ゲリライベント。

その中で俺はいつもねねさんを探して、その姿を見つけては嬉しくなっていた。

ねねさんは俺を輝かせる太陽であり、俺の神様だ。

ねねさんさえいれば、どんなに辛くても大変でも、頑張ろうと思える。

輝こうと立ち上がれる。

忙しい毎日に、失われた日常に、有名になればなるほど増えるアンチに、いつだって心が曇らされる。

けれど、神様の言葉一つで、俺はその曇りを晴らせた。

romanceとして、デビューして2年。

romanceはスター街道を駆け上がり、ついには誰もが知る、スーパーアイドルへと成長した。

歌を出せば、必ずバズり、誰しもが口ずさむ。

romanceが使っていた、となると、あれよあれよと売れてしまい、品切れに。

雑誌に登場した日には、その雑誌は入手困難となり、ライブのチケットはとんでもない倍率で、現場に行けれないファンが続出していた。

ねねさんはいつも、俺に言ってくれる。

『翡翠は私の一番星だよ』と。

光り輝き続ける俺を、ねねさんは自分のことのように、喜んでくれていた。

2年経っても、それは変わらなかった。

ねねさんからもらったファンレターは、全てファイル入れて丁寧に保存している。

ねねさんからのプレゼントも全部大切に使っている。

ねねさんのSNSの言葉は、お気に入りのものをスクショで保存してデータに残し、飾っているものまである。

2年間、潰れず頑張って来れたのは、全てねねさんのおかげなのだ。

…が、その日は突然やってきた。

都内でゲリラライブをした日。

シングルの宣伝のためにしたライブはゲリラにも関わらず好調で、とても盛り上がった。

時間が経てば経つほど、その情報は流れ、ファンを集めた。

歌い踊りながら、いつものようにねねさんの姿を探す。

彼女はどんな現場にでも必ず駆けつけてくれる。

だから今日も情報を聞きつけて、いの一番に俺に会いに来てくれるはずだ。

そう思って、ずっと探しているのに、彼女の姿はない。

…あれ?

気がつけばねねさんの姿を見ないまま、ライブは終わってしまった。

*****

「いやぁ、ゲリラにしてはすごい人だったな!」

メンバーの1人、裕也が楽屋で嬉しそうに声を上げる。

「今回の曲もヒット間違いなしじゃない?」

「レコード大賞も夢じゃないな!」

それから智司、圭介も明るい声で話し始めた。

だが、和気あいあいとしている楽屋内で、俺の表情だけは曇っていた。

ねねさん、どうしたんだろう。

必ず駆けつけてくれていたねねさんが、今日はいなかった。

ライブに来るまでに事故にでもあったのだろうか。

トラブルにでも巻き込まれたのだろうか。

ねねさんのことが心配で、スマホをじっと見つめる。

とりあえず都内で何か事件が起こっていないか、SNSを調べるが、そのような情報はない。

大きな事故には巻き込まれていない…。

じゃあ、何故?

そう思って、今度はねねさんをフォローしているアカウントでねねさんを見るが、ねねさんに動きはない。

romanceが…、ねねさんの一番星である翡翠が、ゲリラライブをしていたというのに、どうして無反応なのか。

2年間一度もなかったねねさんの沈黙に、不安が募った。

何か悪いことがねねさんに起きているのではないか。

〝ねね〟では、ねねさんのプライベートまではわからない。

俺は急いで〝天音〟の方のアカウントを見た。

『今日は仕事、早く終わった!』

〝天音〟が1時間前に、そう言っている。

1時間前といえば、俺たちがライブをしていた時間だ。

ねねさんには何も起きていない。仕事も終わっていた。

それなのにどうしてライブに来なかったのか。

『夜ご飯作ったぁ』

少し〝天音〟を見ていると、シュッとねねさんの言葉が現れた。

きちんと並べられた夜ご飯の写真と共に。

どうして。どうして?

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  • 推し変には、ご注意を。   3. 懐かしい世界。

    夢のような時間はあっという間に終わり、今度は幻のひとときがやって来た。 そう、1万人の中からたった10人しか選ばれない幻の交流券を使う時が来たのだ。 私はLOVEのメンバーの中からもちろん透くんを選び、透くんと個室でテーブル越しにお話をしていた。 交流時間はなんと5分もある為、テーブル上には飲み物やお菓子まで用意されており、椅子まである。 立ちっぱなしにならないようにとの、運営からの配慮なのだろう。 素晴らしい運営だ。 「透くん、今日もかっこよかった!ダンスまた上手くなったよね?あのステップのところとか、圧巻だったよ!」 透くんに手を握られたまま、とにかく熱くライブの感想を述べる。 私の言葉を聞くたびに、透くんは照れくさそうに笑ったり、嬉しそうにはにかんだりしていた。 「…ねねさんのおかげだよ。ライブ配信も、地方のイベントも、握手会も、ここ1ヶ月なんでも来てくれて、ずっと背中押してくれて。感謝してもしきれないよ」 キラキラとした眼差しで私を見つめる透くんに、ズキューン!と心臓が撃ち抜かれる。 まさに、沼である。 一度ハマったらもう戻れない。 やはり、透くんは素晴らしい存在だ。 「私、これからも透くんを推すよ!私の一番星は透くんだから!」 私はそう言って、笑顔で透くんの手を握り返した。 ***** 次の交流は、romanceのメンバーの誰かとだ。 もちろん私はromanceの中から、昔の推しである翡翠を選び、彼のいる個室の前へと移動していた。 この扉の先に、翡翠がいる。 透くんがいた個室と同じような扉を前に、しみじみとそう思う。 4ヶ月前は、お金と時間が許す限り、何度も何度も翡翠に会いに行った。 ライブにも、握手会にも、イベントにも。 その全てが今は透くんだ。 そんなことを考えていると、スタッフの方が私の電子チケットを改めて確認し、「どうぞ。時間は5分です」と丁寧に告げて、個室の扉を開けた。 すると扉の先には、透くんと同じようにテーブルの奥の椅子に腰掛けている翡翠がいた。 栗色のまっすぐな髪に、蛍光灯の光が当たり、天使の輪ができている。 キラキラと輝くそこから覗く顔は相変わらず端正で、日本中全ての人が「かっこいい」と騒ぐ理由も頷けた。 長い手足に、小さな顔。骨格まで完璧とは、さすが今をときめく翡翠である。

  • 推し変には、ご注意を。   2. 眩しい世界。

    ライブ当日。私は開演30分前には、指定席に着き、ライブ開始を放心状態で待っていた。何故、放心状態なのか。それはとんでもない倍率を勝ち抜いて当日のチケットを取れただけでもすごいのに、いざ会場に来てみればなんとアリーナの最前列だったからだ。ほ、本当にこの席が自分の席なのか、と、ステージの近さにあらゆるものを疑ってしまう。見間違えではないか、表記ミスではないか、そもそも人違いではないか。このライブのチケットは電子チケットだ。当日まで席はわからず、会場の入場口にある端末にチケットを読み込んで、初めてどの席かわかる。もしかしたらここは私の席ではないかもしれない、と再びスマホを開いて、電子チケットを確認したが、そこにはやはり最前列、1-30と表示されていた。か、神が、神が私に微笑んでくれた…。一生分の運をここで使い果たしてしまった。電子チケットの内容を何度も何度も見て、うっとりする。そうしていると、電子チケットに見慣れない文字があることに気がついた。座席番号が表示されている、さらに下。そこには、〝メンバーとの交流券当選〟と書かれていた。「…へ」思わぬ神々しい〝当選〟という二文字に、声が漏れる。信じられない文言に、その文字を凝視するが、何度見てもその文字が変わることはない。ま、幻の交流券に当選してる…。この〝メンバーとの交流券〟とは、ライブ会場に集まっているファン1万人の中からたった10人が選ばれる、名の通りの券なのだ。各グループから好きなメンバーを1人ずつ選び、そのメンバーと握手ができ、少しだけ話せて、チェキまで撮れる。夢のような券なのだ。…が、たった10人しかその資格は得られない為、私ははなから交流券の当落は眼中になかった。当たるなど夢にも思っていなかった。たった1万人だけが得られるライブの席を勝ち取り、さらに最前列を引き当て、幻の交流券にまで当選しているとは。何もかもが上手くいき過ぎている。明日、私は死ぬのかな?身に余るほどの幸福に、私は静かに涙を流した。やはり、世界は薔薇色だ。推しが私の世界を幸せな色に染めてくれる。ああ、早く、透くんに会いたい。*****幸せの絶頂の中、ライブは始まった。会場が暗転し、大きなメインステージと花道とサブステージだけにライトが当てられる。それからメインステージの後ろにある大

  • 推し変には、ご注意を。   1. 薔薇色の世界。

    この世界は薔薇色だ。 だって、こんなにも愛で満ちているのだから。 「ふふ、ふふふ」 日が暮れ、空に星が瞬き出した頃。 私、工藤天音は今日も一人夜ご飯を食べながら、スマホから流れる動画を見ていた。 スマホに映る、美少年。 彼の名前は、透くん。今、私が熱烈に推している、今年19歳のデビューしたてのアイドルだ。 艶やかな黒髪を揺らしながら懸命に踊り、歌う姿は、なんてかっこよくて、素晴らしいのだろうか。 透くんが所属する5人組グループ、LOVEの中でも、透くんは一際目立つ存在だった。 彼がこの世に存在してくれているおかげで、私はずっと生きてこれた。 いや、彼だけではない。 歴代の推したちが、私の世界を愛で薔薇色に染め、私を生かしてきたのだ。 私に推しという概念が生まれた日を、私は正直覚えていない。 記憶にある最古の推しは、低学年の時に推していた、戦隊ヒーローのブルーだった。 そこから私は、様々な推しを作り、熱烈に推してきた。 中学の3年間で推した推しは、10人。 高校の3年間で推した推しは、8人。 大学の4年間で推した推しは、同じく8人だった。 だが、22歳の夏。 世の中でアイドルのデビューを決めるサバイバル番組が流行っている中、私はあるサバイバル番組で、今後2年間も推すことになる推しを見つけた。 過去最高に推し続けた推しの名前は、翡翠。 サバ番放送時は高校3年生だったが、今は20歳の超売れっ子アイドルだ。 サバ番で翡翠は見事デビューを掴み取り、romanceの一人としてデビューした。 そこからスターダムに駆け上がり、今では知らない人はいないほどの存在だ。 栗色のまっすぐな髪に、端正な顔立ち。 高い身長に、長い手足に、小さな顔。 イケメンで、骨格まで優勝しているのに、何もやらせてもそつなくこなすという隙のなさ。 翡翠は私の完璧な一番星だった。 …が、私の一番星は当然だが、世間に見つかり、もうすっかり私の応援などいらない、遠い存在へとなってしまった。 私は高みを目指す誰かに尽くし、応援することが好きだ。 翡翠は最初、ダンスも歌も習ったことのない、芸能事務所にさえ所属していない、かっこいいだけの素人だった。 サバ番で翡翠は、アイドルになりたいプロのアイドルの卵たちの中で、いつも初めて

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