蓮は病室で病衣に着替えさせられて眠っていた。着ていたものは丁寧に畳まれているが、血痕や汚れが酷く律は思わず目を背けた。備え付けの簡素な椅子をベッドの脇に引き寄せ、消灯後の暗い病室に読書灯だけが灯る中で腰を下ろしてしばらくじっと蓮の寝顔を見ていた。 体の至る所に包帯やガーゼの処置さえなければ、いつもと同じく眠っているように見える。痛みに苦しんでいる様子も、悪夢にうなされている様子もない。──でも、蓮は目を覚ましたらどんな反応をするだろう? 律にはそれが気がかりだ。 父は荒い気性ゆえに蓮を殴って目を覚まさせろだなどと言う。律にも今回ばかりは一発くらいは殴ってしまいたい気持ちはある。けれど、生来の乱暴を好まない性質と、いまだ自責してしまう不器用さが簡単に手を上げる判断に至らない。そもそも、殴るという暴力を行使してもなんの解決にもならない。状態の悪化すら考えられる。好きなのに、手を上げるなんておかしい。 ふと、思いついて律は蓮の片手を布団からそっと出すと、背中を丸めて両手で包んだ。 まだ、蓮が黒瀬家に引き取られたばかりの頃、よく手を繋いだまま同じ布団で眠っていた。一人寝に慣れていないのは蓮の方だったのだ。六歳とはいえ母を亡くしたばかりで、表面上の悲壮感は薄かったが、夜になると寂しさで押し潰されそうになり「りつ……」と枕を抱えて布団に潜り込んできていた。そんなことを律は思い出した。 家の者たちから追いかけられ、逃げ回った蓮の本意はわからない。だが、蓮は大きな勘違いをしたままだということだけは確かだ。自分に対して疑心暗鬼のまま。その内側は不安と寂しさに満ちているのだろう。蓮はもう、律を受け入れないかもしれないが、律にも譲れない気持ちがある。だから、目が覚めるまででも伝う温度が少しでも蓮の心を癒せばいい。「蓮が、怖くない場所を僕が作れたら、まだここにいてくれるかな」 ぽつりと律は呟く。 暗い病室で読書灯だけが頼りの中、呟いた声はやけに大きく響いたように感じた。頼りない明かりに浮かぶ蓮は眠ったままで律の独り言には返事をしない。 ──優しい場所。そんな風に律は初めて自分の家のことを認識した。粗暴さはあっても、理不尽な暴力はない。蓮が出て行くといって飛び出したと知れば、理由など聞く前に誰もが探すことに必死になる。困っている、弱い立場の人間に無尽蔵に手を伸ばしてしま
Last Updated : 2026-03-09 Read more