「申し訳ございません、お客様」電話の向こうから保険会社の担当者の冷たい声が聞こえてきた。「お調べいたしましたところ、車の所有者である相馬潤様は確かにご結婚されているようですが、こちらに登録されているお名前はお客様のものではございません」相馬ハイテクノロジー社へと向かう途中、小鳥遊莉亜(たかなし りあ)は交通事故に遭ってしまった。彼女は相馬潤(そうま じゅん)に電話をかけ続けたが、繋がらず、仕方なく保険会社のほうに電話をしたのだ。彼女が運転していた車は潤名義のものであるが、二人は夫婦なので、保険が適用される。「相馬様は車をご購入されて保険の加入をされる際に、奥様と一緒にいらっしゃいました。その際に奥様のお名前も伺いましたが、奥様のお名前は相馬美琴(そうま みこと)様とおっしゃっていましたが」その言葉を聞いた瞬間、莉亜は何かで頭を強く殴られた時のような衝撃を受けた。くらくらするような眩暈を感じ、思わず全身を身震いさせた。彼女と潤は幼なじみで、相馬家と小鳥遊家は古い付き合いがあり、彼らの暮らす涼ヶ崎では潤が莉亜にべた惚れだと噂になるくらいだ。潤は周りの人にとっては冷たく近寄りがたい人間だが、そんな彼が、一日でも莉亜から離れたがらないくらい、彼女にぞっこんだった。三年前、莉亜が海外留学する時に、潤が彼女のために飛行機のフライトを遅らせたこともある。彼女がエレノワ国にいた三年、潤は彼女のことが心配で、海外ビジネスにも進出した。そして、一万六千キロも離れているのにも関わらず、彼は一週間に一度は彼女に会いに行った。彼女が肺炎にかかり、症状が悪化し危険な時には、重症患者の入院する病棟に一週間住み込み、自分が感染するリスクを冒しながらも、彼女の傍にいて指輪を取り出し求婚した。「もし、君になにかあれば、俺も一緒に逝くよ。だから来世でも夫婦になろう」そんな潤のために、莉亜は大学教授から研究室に残ってほしいと誘われたが、それをやんわりと断わり帰国した。潤にサプライズを仕掛けようと、心躍らせながら帰ってきた莉亜が、社長オフィスの扉を開くと、そこにはスリムな体型の綺麗な女性が彼の膝の上に跨っていた。そして純粋そうな可愛らしい顔を上に向けて、悲しげな声でこう言った。「相馬社長、莉亜さんが帰ってきたら、私はどうしたらいいの?」潤は
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