ログイン相馬潤(そうま じゅん)は小鳥遊莉亜(たかなし りあ)と恋愛中、人前では高潔な人物を保っているが、家では犬のように尻尾を振って愛する彼女には従順な男だった。 しかし彼と一緒になって二年が経ち、彼が実は秘書と結婚していたことを莉亜は知ったのだった。 そのことが発覚すると、彼はそれが仕方のなかったことだと言うのだ。「莉亜、俺を許してくれないだろうか。君は海外に三年行っていて、俺は一人寂しく一時の衝動で彼女のことを君の代わりだと思っていたんだよ」 莉亜はそんな彼を捨てて、潤の兄と結婚する。 相馬朔也(そうま さくや)は生まれつき潔癖症な男だが、結婚すると莉亜の好みに合わせ、彼女の猫と犬を飼いたいという願いも受け入れた。 「うちにはもう君という猫のような存在がいるんだから、また増えたところで問題はないよ」 莉亜は顔を赤らめた。 そして愛し合う時、彼女がつけた赤い跡は朔也が彼女をからかう時の良いネタにされてしまうのだった。 チャリティーパーティーが開催された夜、莉亜を連れて出席した朔也たちは大きな注目を集めた。 以前は人を近寄らせない高貴なオーラを放っていた潤でさえ、近くから敵意をむき出しにし、陰鬱な表情で幸せそうな二人を見つめるしかなかった。 その様子を見た朔也はボディガードに命令した。「あの鬱々とした暗い男をこの場からつまみ出せ」
もっと見る玲衣は大声で潤の悪口をまくし立てた。彼女の怒鳴り声を聞くと、莉亜はここ数日強気でいた心の緊張の糸がプツンと切れてしまった。悲しみがこみ上げて、莉亜は瞬時に涙をこぼした。莉亜は呼吸をし、平静を保とうとした。「あなたにお願いがあるの。お母さんが私とあの男のために買ってくれた月花湖の家をどうにかしたいんだ。不動産屋に頼んで売りに出すから、あなたが購入してくれない?無事に離婚したら私がまた買い戻すから」「もちろん問題ないよ。準備ができたらまた私に教えて」玲衣はすぐに快くそれを受けた。電話越しでも莉亜の辛さが伝わってきて、玲衣も苦しくなってきた。莉亜はこれでようやく安心できた。日を改めて会う約束をしてから電話を切った。すでに夜中の一時過ぎだった。莉亜は眠気がなく、家の売却資料を整理して不動産屋に送った。この時、携帯に突然LINE友だちの申請が届いた。莉亜は携帯を持ち上げて、その申請してきた相手を確認した。キャミワンピースを着た女の後ろ姿がアイコンで、名前はハートマークが一つだけで、それ以外の情報はなかった。莉亜は目を細めて、申請を許可した。その後、相手からはある写真が送られてきた。ピンクのシーツのベッドで、結婚指輪をはめた二人の手が絡み合っている。莉亜はそれを見て怒ることはなく、逆に笑えてきた。つまり、挑発しようということだろう。ちょうど気分を害されて怒りが燃えていたところだ。やってやろうじゃないか。すると莉亜はパソコンを開いた。パソコン画面の光が莉亜の美しい顔を照らした。彼女の瞳の底には怒りが燃え上がっている。彼女がハッキングもできることを潤は知らない。彼女が前回潤を許した時、彼には十分すぎるほどの信頼を寄せた。彼と美琴は完全に関係を断ち切ったと思っていたので、一度もハッキングして彼の事を調べたことはなかった。今思えば、滑稽でしかない。潤は莉亜から信用されていることを逆手に取り、彼女を裏切った。そして何も恐れることなく、永遠に彼女たち二人からチヤホヤされながら、妻もいて不倫相手もいる生活を満喫しようと思っているのだ。永遠に夢でも見ていろ!莉亜は素早くキーボードを打ち込み、たった数分で潤のいる場所を特定した。そしてそこに表示された「月花湖」の文字を見た瞬間、彼女の顔が一瞬にして青ざ
莉亜は潤が美琴にした返事にショックを受けて、目を閉じた。潤は莉亜のほうへ視線を向け、彼女の頬を触り、彼女が完全に寝ているのを確認してから立ち上がってコートを手に取り出ていった。ドアが閉まる瞬間、莉亜はすぐに体を起き上がらせて、トイレに駆け込み吐いた。彼女は胃の中のものを全部吐き出すと、冷たい床によろよろと座り込んだ。その時突然携帯が鳴った。莉亜は調子の悪い体を支えながら立ち上がり、携帯を取りに行った。それは弁護士からの電話だった。「小鳥遊様、相馬潤氏の資産は全て確認いたしました。訴訟を起こせば、家は五戸、土地二つに、一千億の財産分与が約束できます」莉亜は携帯をぎりぎりと握りしめ、かすれた声で言った。「それから私の株も合わせて、たったそれだけしか得られないのですか?」「そうです。相馬氏はすでに彼のほとんどの資金を会社の運営のほうへつぎ込んでいます。小鳥遊様がもっと多くのお金を得ようと思ったら、彼の過失や、法に触れるような行為を見つけてそれを証拠に争うしかありません」その言葉を聞き、莉亜の頭にはパッと潤とあの女が結婚していることが浮かんだ。結婚証明書の偽造。彼女を騙し、会社に投資させ、人生で最も輝く年齢の数年間を無駄にしてしまった。これらを合わせれば、潤の大部分の財産を賠償として受け取ることができる。そして目下、引き続きその証拠集めをしなければならない。それで潤に弁解の余地すら与えず、おとなしく賠償させて、全てを奪ってやるのだ。それでやっと彼女の心の中に居座り続ける怒りを発散させることができる。莉亜が目を閉じると、ふともう一つの家のことを思い出した。その屋敷のことを思うと、胸がチクチクと痛んだ。当時、母親は重い病を罹っていた時、莉亜と潤が結婚することを知り、月花湖付近にある高級別荘地の川沿いの屋敷を購入してくれたのだ。それは二人が結婚した後に暮らすためにと思い、共有名義で買っていた。母親が逝去し、莉亜はその家に行くと母親のことを思い出してしまうのが怖くて、どうしても近づけなかった。この家は唯一、莉亜と潤の共有名義となっている家だ。しかし、この家の一ミリ、一円たりとも潤に財産分与させるわけにはいかない。莉亜は声のトーンを落とした。「私名義の月花湖の家は、相馬潤と共有名義になっています。この
潤は体をこわばらせ、そっと莉亜を掴む手を離した。力がかなり入っていたらしく、関節部分は血の気がなく白くなっていた。彼は皮肉な笑みを漏らしたが、何を思っているのかは読み取れない。「莉亜、お前は大したもんだよ」次の瞬間、彼はアクセルを踏み込んだ。その途中、どちらも言葉を発することはなかった。家に帰ると、潤はすぐシャワーを浴びた。莉亜は結婚受理証明書の入ったカバンを手に、二階に上がろうとし、一歩踏み出した瞬間後ろから携帯の呼び出し音が響いた。彼女は足を止め、その携帯を取りに行った。携帯画面には、ただイニシャルの「M」だけが映っている。 莉亜はそれを見て目を細めた。女の勘が告げている。その相手は絶対に美琴だ。莉亜は携帯画面をタップし、その電話に出た。すると携帯越しに甘えた声が聞こえてきた。「あ・な・た~、私寂しいわ。ちょっと潤、なんで何も言わないのよ?」それを聞いた莉亜はバカバカしくなり、冷ややかに皮肉の言葉を吐き出した。「生田さん、タイミングが悪かったですね。潤なら今シャワーを浴びてますから、ちょっと待っててください。今彼を呼んで来ますので」電話の向こうの美琴はギクリとした。「なんであなたが出るんですか?」莉亜はそのまま二階へ上がっていった。すると、潤が焦った様子でバスローブをまとって出てきた。鍛えあげられた胸板にはまだ水滴が残っている。彼は少し慌てていて、莉亜が携帯を手に持っているのを見ると、驚いた。「莉亜……」「生田さんからよ」莉亜は眉を吊り上げて、携帯を彼に渡した。潤は居心地が悪そうにその携帯を受け取ると、すぐに上の階にある部屋に行って電話に出ようとした。その後ろから、ゆったりと彼を呼ぶ莉亜の声が聞こえてきた。「どうして私に隠れてコソコソ電話するわけ?」潤は全身を硬直させ、彼女の前に立ち止まった。「そんなことないさ。うるさいかなって思って」「そんなことないわよ。スピーカーモードにしたらいいじゃない。私も彼女がこんな夜遅くに何の用なのか知りたいし。さっき、電話に出たらすぐに『あ・な・た~』とか叫んでたわよ」莉亜は階段の手すりに寄りかかり、落ち着いた様子で腕を組んで見ていた。潤は体の動きをピタリと止め、すぐに言った。「きっと俺と旦那さんを間違えて電話しちゃったんだ
莉亜も隠す気がなくなりはっきりと言った。「あそこにある結婚証明を取りたいんです」それを聞いて、朔也は一瞬だけ動きを止め、あの結婚証明を取って何をするのかは尋ねず、椅子を押しのけた。彼は背が高い。少しつま先立ちしただけで、簡単に手に取った。朔也は証明書の字に目を通すと、少し驚いて口角を上げたが、微々たる変化なので人には気づかれない。彼はそれを莉亜に手渡した。「そういうことか」莉亜はその言葉ははっきりとは聞こえておらず、受け取った後、小声で言った。「ありがとうございます」彼女の手のひらには冷や汗をかいていて、結婚受理証明書を手にした時には寒気を感じた。この目障りな証明書がはっきりと、この結婚はただの笑い話だと告げていた。最初から最後まで、潤が莉亜を愛するふりをしている間、常に美琴という存在もあった。朔也は視線を下に落とした。彼と莉亜の身長差はかなりあって、上からはただ彼女のつむじしか見えなかった。彼にとっては彼女が小柄で可愛く見えた。あの雪のように白い手で証明書をきつく握り締めているせいで、手から血の気がなくなっていた。「その結婚証明書を取ってどうするの?」朔也の声からは感情が読み取れなかった。「えっと、持って帰って飾っておきたいんです」莉亜はすぐに適当に嘘をついた。朔也は彼女を抱きしめたい衝動に駆られ、その瞳は燃えるように熱い感情を宿していたが、実際に行動に移すことはなかった。その後、彼はただ優雅に袖口のボタンをしっかりと留め、背を向けて去っていった。莉亜はホッと胸を撫でおろし、冷たい棚に寄りかかった。太ももはまだ熱く感じた。彼女は急いでスカートを整えると、結婚受理証明書をカバンの中にしまい込み、気持ちを落ち着かせて何事もなかったかのように部屋を出た。この時、潤は庭で誰かとおしゃべりをしていた。莉亜は表情一つ変えず、彼の隣にやって来た。数人の親戚が潤と話していた。「まったく、朔也君は二日前に帰ってきたらしいけど、今日になってようやく我々に連絡したらしいね」それを聞いて潤は驚いた。「兄は今日のフライトだったんじゃないんですか?」「違うよ、彼は確か何かのオークションに参加したらしい。ただの噂だけど、一昨日グランツオークションホールに現れたって」「きっと違います。その日は私もいま