LOGIN相馬潤(そうま じゅん)は小鳥遊莉亜(たかなし りあ)と恋愛中、人前では高潔な人物を保っているが、家では犬のように尻尾を振って愛する彼女には従順な男だった。 しかし彼と一緒になって二年が経ち、彼が実は秘書と結婚していたことを莉亜は知ったのだった。 そのことが発覚すると、彼はそれが仕方のなかったことだと言うのだ。「莉亜、俺を許してくれないだろうか。君は海外に三年行っていて、俺は一人寂しく一時の衝動で彼女のことを君の代わりだと思っていたんだよ」 莉亜はそんな彼を捨てて、潤の兄と結婚する。 相馬朔也(そうま さくや)は生まれつき潔癖症な男だが、結婚すると莉亜の好みに合わせ、彼女の猫と犬を飼いたいという願いも受け入れた。 「うちにはもう君という猫のような存在がいるんだから、また増えたところで問題はないよ」 莉亜は顔を赤らめた。 そして愛し合う時、彼女がつけた赤い跡は朔也が彼女をからかう時の良いネタにされてしまうのだった。 チャリティーパーティーが開催された夜、莉亜を連れて出席した朔也たちは大きな注目を集めた。 以前は人を近寄らせない高貴なオーラを放っていた潤でさえ、近くから敵意をむき出しにし、陰鬱な表情で幸せそうな二人を見つめるしかなかった。 その様子を見た朔也はボディガードに命令した。「あの鬱々とした暗い男をこの場からつまみ出せ」
View More薫子は話しながら、心の中で愚痴をこぼしていた。ここ数年、家族の中で朔也の結婚を心配していなかったわけではない。以前も、朔也には家柄の釣り合う家の令嬢と政略結婚させようと何人か探してきたのだが、それは朔也に遠回しに断わられてしまったのだ。誰一人として彼のお目にかなう令嬢はいなかった。薫子も彼には結婚の催促を何度もしてきたが、毎回返ってくる言葉は同じだった。朔也はいつも仕事に集中したいと言うのだ。時間が流れ事業はどんどんうなぎ登りによくなっていくものの、恋愛方面については一切動きがなかった。薫子は考えれば考えるほど恐ろしくなってきた。「やっぱり誰か結婚相手の女性を探したほうがよさそうね……最低でもお見合いの席は設けるからね!ずっと恋愛しないで、女性と交流を持っていなかったら、問題が出やすいから!あれはただの弟の女なのよ!それなのにあなたを簡単に利用できるなんて!」朔也はそれを聞いて、眉間を押さえて落ち着いた様子で言った。「母さんは考えすぎなんだよ。昨日は彼女にあんなことをしたんだぞ、そもそもこちらのほうが間違っていたんだ。もし、俺みたいな物事をしっかり見極められる人間がいなければ、昨日の件は言い訳もできないほどのおおごとになっていたに決まっている。その時はどうやって収拾をつけるつもりだったんだ?」昨日自分がした事を思い出し、薫子は後ろめたさを感じたが、すぐにこう言い返した。「過ぎたことなんだから、もういいでしょ……どのみちうちの問題なんだから、あの女がいくら騒ごうとも、世間にばれるようなことはなかったのよ」その言葉に朔也は冷たく鼻を鳴らした。莉亜はもちろん世間にばらすことはないと思った。彼女を閉じ込めたのは相馬家の人間であり、何度も彼女を助けてきたのも相馬家の人間だ。今日、莉亜が何か言おうとして言葉を呑み込んだあのシーンを思い出した。自分への感謝が彼女の顔に書いてあって、朔也は心の底からまた悦が込み上げるのを感じた。薫子は彼を睨みつけながら、頭をフル回転させていた。「もういいわ、余計な事はあまり言わないでおきましょ……これから私のことはきちんと聞いてもらうわよ!そうじゃないと本気であなたを息子だと思わないからね!」朔也は立ち上がった。「お好きにどうぞ。じゃ、まだ忙しいからこれで」翌日、莉亜は目を覚ま
話している間、薫子はしっかりと朔也の腕をつかんでいた。朔也を連れて行かなければ、絶対にこの手を離すことはないと言わんばかりだった。朔也は仕方ないといった様子で言った。「母さん、先に俺の話を聞いてはくれないのか?」「駄目よ!今すぐ私と一緒に帰るのよ。帰らないと言うのなら……もう私の息子じゃないわ!」薫子がここまで言うのだから、莉亜は立ち上がって言った。「相馬さん、お母様と一緒に帰ってください。それがいいです」朔也へのお礼としてご馳走するのは、また後日約束しても遅くはないのだ。ちょうど莉亜は今日の彼の自分に対する態度に違和感を覚えていた。二人っきりになった時にこの話題を出すべきか迷っていた。莉亜自身も、少し考える時間と余裕が必要だった。薫子はまたぎろりと莉亜を睨みつけた。「相馬家のことはあんたに心配される必要なんてないわ。この女狐め、そんな演技なんてするな!」昨日朔也が莉亜を助けた時、薫子はあまり深く考えていなかった。そもそも自分がしたことは人の道から外れた行為だったからだ。あの時の彼女は、ただどうやって潤の前に立ちふさがっている危機を乗り越えるかだけ考えていた。だから、莉亜を閉じ込めておけばいいと思いついたのだ。それに彼らも別に莉亜を監禁しようとしたわけではない。家では彼女に美味しいものを与えることができたわけだし、ただ莉亜の名前で今回の件は丸く収まったという内容をネットに投稿させようとしただけだ……そして一時の衝動に駆られた気持ちが冷静になってから、薫子は自分のやり方は不適切だったことに気がついた。しかし、今日、朔也と莉亜が二人っきりでいるのを目撃し、彼女はまたすぐに怒りが爆発してしまった。あの二人が去ってから、莉亜はその場で肩をすくめていた。朔也は二度も振り返って彼女に目配せをしてきた。今回の件は絶対にその後何かがあるだろう。しかし、莉亜は朔也とまた食事する約束ができるかどうかは分からない。ちょうどレストランは賑わっていたし、さっき薫子が話す時もそこまで大声で騒いだわけではなかったので、今はそこまで周りから注目されていなかった。莉亜は店員に軽く説明してから、店を離れた。朝早くに秘書の電話で起こされ、それから急いで株主総会に出席して見物し、今はただ眠くてたまらなかった。食事はしなくていい
三人は車に乗り、秘書が運転し、オンライン会議をする朔也のために、静かな駐車場に車を停めた。朔也はタブレットを取り出すと、その長い指先で画面をタップし、イヤホンをつけた。イヤホンをつけた瞬間、何か思い出したのか、またそれを耳から外して莉亜のほうを向いて尋ねた。「ここで会議して騒がしくないだろうか」莉亜は自分が物音を立てないように、息をひそめてこの会議が終わるまで静かにしていようと考えていたというのに……朔也のほうが彼女がうるさく思わないか心配してきたのだ。莉亜は急いで首を横に振った。「いいえ、大丈夫です。会議を始めてください」朔也は頷いてイヤホンをつけると、暫くして流暢な外国語で話し始めた。彼の声はもともと低音で聞き心地が良い。それが耳に入ると、莉亜はなんだか変な気持ちになるほどその魅力に引き込まれていった。莉亜は耳がくすぐったく感じ、思わず自分の耳をつねった。自分の勘違いかもしれないが、隣で話をしている朔也の声は一瞬だけ止まったように感じた。そしてまた話し始めた時に、その声はさらに小さくなったようだ。会議はおよそ三十分ほど続き、二人がレストランに到着した時には確かにちょうどお昼時だった。莉亜はメニューをめくって見ていた。「このレストランは初めてなので、お店のお勧め料理を注文しましょうか?」朔也から返事はなく、彼女は顔を上げて彼の意見を聞こうとした。しかしその時、彼は真面目な表情で莉亜をじっと見つめていた。その瞬間、心がざわついた。ここ数日、莉亜の心に何度も込み上げてきた、なんともいえないあの直感がこの時最も鮮明になっていた。彼女は前から、朔也が自分に対して特別な気持ちを持っているんじゃないかと薄々気づいていた。しかし、莉亜はそれを確信に変えることはできずにいた。 この二日、朔也が何かあるごとに莉亜を助けてくれていた。それにまたわざわざ重要な会議まで予定を変更して、会社まで赴き、彼女の味方をしてくれたのだ……そこまで考えると、莉亜はメニューを朔也に渡した。「何を食べますか?それとも私が選んだものでも大丈夫ですか?」莉亜がメニューを手渡す時、その手はそのままで引っ込めてはいなかった。細く透き通るような白い指先が朔也の目に飛び込んできた。彼の視線は莉亜のその指先からゆっくりと上に移って
潤の青ざめていた顔色がますます悪くなっていった。朔也が自分のためにスカッとする言葉を言ってくれたおかげで、莉亜の気分もだいぶ良くなった。会議室を出てからは、他人の議論や憶測など一切頭から捨てさった。莉亜は深呼吸して、緊張状態だった肩の荷が少しおりたように気持ちが楽になった。「スッキリしたかな?」傍にいる朔也がこの時突然口を開いた。莉亜はハッと、傍にこの大物がいたことを思い出し、微笑んで言った。「ええ、とってもスカッとしました。あなたが言っていた面白い事ってこれだったんですね。分かっていたら、早くからここに来て見る準備をしておいたのに」ただ一つ残念に思うのは、さっき美琴がさっさとあの場を退場してしまったことだ。莉亜は本来、美琴と潤が会議室で互いに庇い合い愛情を見せつけようとするシーンでも見てやろうと思っていたのだ。朔也は低い声で笑い、ちらりと腕時計で時間を確認した。「今日は君のためにあの場をセッティングしたんだけど、その礼に食事でもご馳走してもらえるかな?」莉亜は彼に言われる前からその気持ちがあった。これはこれ、それはそれだ。家と株の件はすでにあれで解決しているから、今日の事は莉亜も朔也にはしっかりお礼をしようと思った。彼女はニコリと笑った。「ちょうどお昼時ですもんね、何を食べたいですか?あなたが決めてください」莉亜がこのように積極的な姿勢を見せるので、朔也は少し意外だった。瞳を微かにキラリと光らせ、彼は真面目に答えた。「この付近に新しいレストランがオープンしたらしい。その評判もなかなかだ。そこに行ってみないか?」朔也はまた腕時計を一目見て、腕を彼女の前に伸ばして見せた。「今から行きますか?到着して注文していたら、昼の時間になりますね」莉亜もさっきの会議がここまで長引くとは思っていなかった。行く前は普通の株主総会だと思っていたのだ。それがまさか、潤があの大切な妻のために、会社で社員たちの前で自分と公然と争う姿勢を見せるとは思っていなかった。相馬潤という男は私生活は乱れているが、仕事においては野心を持った人間だと思っていた。しかし、今日の出来事によって、彼をよく見せてくれていたそのフィルターが完全に剥がれ落ちてしまった。それを考え、莉亜はまた感謝して朔也のほうを見た。「本当にありがと
reviews