車が市街地に入ると、ちょうど雲間から太陽の光が差し込んできた。大輝は私をまっすぐ家には送らず、車を役所の前で停めた。でも、彼はシートベルトを外そうとせず、私の答えを待っているみたいに、こちらを振り返って見ていた。役所のドアは開け放たれていて、出入りするカップルはみんな幸せそうに笑っている。私は入口に掲げられた文字を見つめながら、無意識に服の裾を握りしめていた。「大輝」「うん?」「もし……」私は深く息を吸い込んで、ずっと喉に刺さったトゲみたいに気になっていたことを尋ねた。「もしまた事故が起きたり、もっと危ない状況になったりしたら、本当に私を先に助けてくれるの?」ここに来るまで、色々なことを考えていた。頭では分かってる。大輝が瑠夏を助けたのは、人としての当たり前の行動だって。瑠夏は妊婦で、助けが必要な人だったから。でも、あの瞬間に見捨てられた恐怖が、今も影みたいに心に重くのしかかっていた。大輝はシートベルトを外し、体をこちらに向けて、すごく真剣な顔をした。「真奈美、こっちを見て」私が顔を上げると、彼の深い瞳と視線がぶつかった。「あの時瑠夏を助けたのは、確かにお腹に赤ちゃんがいたからだ。あの瞬間の判断は、完全にどっちがより危険で、助かる可能性が低いかってことだけだった。でも、彼女の方へ飛びついた瞬間も、車がコントロールを失ってスピンしている時も、俺の頭の中は君の名前でいっぱいだった」大輝は私の手を握った。少し痛いくらい強い力だった。「もし君が怪我をしたらどうしよう、もし君がいなくなってしまったらどうしようって、そればかり考えていた。真奈美、もしあの時、俺も死んでしまったなら、君には生き続けていてほしい。でも、もし一人しか助からないとしたら……」彼は少し間を置いて、かすれた声で言った。「俺は、君を選ぶ」私は呆然としてしまった。普段は口下手で、瑠夏には「ぬるま湯みたい」とまで言われた男が、今、世界で一番甘くて、決意に満ちた愛の言葉を口にした。彼はコートのポケットからベルベットの小箱を取り出して、開けた。中には指輪が入っていた。大粒のダイヤとかじゃなくて、シンプルで上品なデザイン。それは、私が前に雑誌を見ながら「これ素敵だね」って何気なく言ったものだった。「この前のプロポーズは急
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