Short
入籍当日、元カレ元カノ大集合

入籍当日、元カレ元カノ大集合

作家:  サイファー完了
言語: Japanese
goodnovel4goodnovel
11チャプター
37ビュー
読む
本棚に追加

共有:  

報告
あらすじ
カタログ
コードをスキャンしてアプリで読む

概要

切ない恋

愛人

ひいき/自己中

クズ男

スカッと

後悔

4年間付き合った彼氏の柴田大輝(しばた だいき)と婚姻届を出しに行ったが、突然の大雪で道がふさがってしまった。 その場で5時間も立ち往生していたところ、前の車から厚いダウンを着た女の人が、お湯を分けてほしいと窓をノックしてきた。 大輝が車の窓を開けた瞬間、私たちはぽかんとしてしまった。 窓の外にいた女性は、大輝が一度も口にしたことのない、アルバムの奥に大切にしまっていた幼馴染の碓氷瑠夏(うすい るか)だった。 そして、瑠夏の後ろ。傘をさして不機嫌そうに立っていた男は、私が3年間愛し、3年間憎み、もう二度と会うまいと誓った元彼の、碓氷真司(うすい しんじ)だった。

もっと見る

第1話

第1話

4年間付き合った彼氏の柴田大輝(しばた だいき)と婚姻届を出しに行ったが、突然の大雪で道がふさがってしまった。

その場で5時間も立ち往生していたところ、前の車から厚いダウンを着た女の人が、お湯を分けてほしいと窓をノックしてきた。

大輝が車の窓を開けた瞬間、私たちはぽかんとしてしまった。

窓の外にいた女性は、大輝が一度も口にしたことのない、アルバムの奥に大切にしまっていた幼馴染の碓氷瑠夏(うすい るか)だった。

そして、瑠夏の後ろ。傘をさして不機嫌そうに立っていた男は、私が3年間愛し、3年間憎み、もう二度と会うまいと誓った元彼の、碓氷真司(うすい しんじ)だった。

車のドアが開くと、猛吹雪まじりの冷たい風が一気に流れ込んできた。

瑠夏と真司の車はガス欠で、暖房も壊れてしまったらしい。仕方なく、私たちの車に避難してきた。

狭い車内で、四人はそれぞれ違うことを考えていた。気まずい空気が張り詰めて、爆発しそうだった。

でも、さっきははっきりと見た。瑠夏は、厚手の白いダウンを着ていて、車に乗り込むときによろめいた。そして、無意識に助手席のドアを開けて、そこに座ったんだ。

その動きはとても自然で、まるでそこが彼女の指定席みたいだった。

瑠夏を支えようと伸ばしかけた私の手は、行き場をなくして宙をさまよった。

瑠夏もハッとしたようで、顔を青くした。そして慌ててシートベルトを外しながら、「ごめん、癖で……後ろに行く」と呟いた。

「動かないで」

大輝の声だった。でも、そこには私の知らない焦りがあった。彼は瑠夏の腕をおさえ、「後ろは風が当たるから寒い。君の体は弱いんだから、暖かいところにいた方がいい」と言った。

瑠夏は私を一瞬見た。ごめん、って目が言ってた。でも、彼女は結局おとなしく座り直した。

私は黙って手を引っ込めた。大輝が助手席のヒーターの温度を、二度も上げているのをただ見ていた。

この人は私の婚約者。なのに、私の目の前で、他の女の人に無意識の優しさを見せつけている。

後部座席のドアが開けられて、また凍えるような冷気が入り込んできた。

真司が雪をまとって、無表情のまま私の隣に座った。

狭い後部座席で、彼と私の太ももがどうしても触れ合ってしまう。

懐かしい匂いに、一瞬意識が飛んだ。まるで大学時代の、あの別れの雨の夜に戻ったみたい。あの時も真司はこんな風に体が濡れていて、目を真っ赤にして「本当に行くのか」って私に聞いたんだ。

大輝がペットボトルの水を取り出して、キャップを開けた。

てっきり私にくれるんだと思って、いつもの癖で手を伸ばした。

でも、彼の手はコンソールボックスを越えて、まっすぐ瑠夏に差し出された。「水筒のお湯は熱すぎるから。これはしばらく俺が温めてたんだ。胃が弱い君はこれを飲んで」

私の手は行き場を失ったまま宙をさまよっていて、本当に馬鹿みたいだった。

大輝は、私の方を一度も見ようとしなかった。

その時、ぽいっと温かいものが私の膝に投げられた。

下を見ると、包装が破かれた使い捨てカイロだった。

「貼っとけ」

真司は窓に寄りかかって、だるそうな声で言った。その顔は、私を馬鹿にしているみたいだった。「後で生理痛で死にそうになられても困る。車内で騒がれたらうっとうしくなるからな」

私は、ハッとした。

確かに今日は生理の日だった。急いで家を出たから鎮痛剤を忘れてて、下腹部がずっとズキズキ痛んでいた。

自分でも我慢して言わなかったのに。婚約者の大輝なんて、全く気づいてもいなかった。

それなのに、3年も会っていなかった真司のほうが、一目で私の不調を見抜いたのだ。

私は黙ってカイロをお腹に貼った。じんわりと温かさが広がったけど、心は逆に、もっと切なくなった。

車の中は完全に沈黙していた。気まずさを紛らわそうと、瑠夏が口を開いた。「大輝さん、お二人はどこに行くの?」

大輝はハンドルを握る手に力を込めた。バックミラー越しに私を見たけど、その目はどこか泳いでいた。「真奈美(まなみ)の両親に会いに行くんだ。渋滞がなければ、明日には入籍する予定だった」

「入籍」という言葉が出た瞬間、隣にいた真司の動きがピタッと止まったのが分かった。

彼が指先でもてあそんでいた金属製のライターが、カチッと小気味よい音を立てて閉じた。そして、それきり動かなくなった。

瑠夏は一瞬きょとんとしたけど、すぐに愛想笑いを浮かべた。「そう、おめでとう」

彼女は、少し膨らんだ自分のお腹を撫でながら、優しく言った。「私と真司も結婚して2年なんだ。今回は気分転換に出てきたのに、赤ちゃんを授かるなんて……でも、嬉しい」

「赤ちゃん」という言葉に、大輝ははっとして、瑠夏のお腹をじっと見つめた。

その落胆ぶりは、あまりにもあからさまだった。まるで私が、ただの数合わせの部外者みたいに感じられるほどに。

彼は瑠夏のお腹をじっと見つめたまま、かすれた声で尋ねた。「君……妊娠、してるのか?」

瑠夏は頷いた。そして、幸せそうな顔でバックミラー越しに真司を見た。

真司は、クスっと笑った。そして再びライターに火をつけた。炎が、彼の相変わらず整っているけれど、どこか影のある顔を照らし出した。

真司は気だるそうに口を開いた。「ああ、妊娠してるよ。まあ、これが生活ってやつだろ。適当にやってくしかない。まさか離婚するわけにもいかないしな」

その一言で、瑠夏の顔は血の気が引いて、真っ青になった。

そして、私の心臓も嫌な音を立てて跳ね上がった。
もっと見る
次へ
ダウンロード

最新チャプター

続きを読む
コメントはありません
11 チャプター
第1話
4年間付き合った彼氏の柴田大輝(しばた だいき)と婚姻届を出しに行ったが、突然の大雪で道がふさがってしまった。その場で5時間も立ち往生していたところ、前の車から厚いダウンを着た女の人が、お湯を分けてほしいと窓をノックしてきた。大輝が車の窓を開けた瞬間、私たちはぽかんとしてしまった。窓の外にいた女性は、大輝が一度も口にしたことのない、アルバムの奥に大切にしまっていた幼馴染の碓氷瑠夏(うすい るか)だった。そして、瑠夏の後ろ。傘をさして不機嫌そうに立っていた男は、私が3年間愛し、3年間憎み、もう二度と会うまいと誓った元彼の、碓氷真司(うすい しんじ)だった。車のドアが開くと、猛吹雪まじりの冷たい風が一気に流れ込んできた。瑠夏と真司の車はガス欠で、暖房も壊れてしまったらしい。仕方なく、私たちの車に避難してきた。狭い車内で、四人はそれぞれ違うことを考えていた。気まずい空気が張り詰めて、爆発しそうだった。でも、さっきははっきりと見た。瑠夏は、厚手の白いダウンを着ていて、車に乗り込むときによろめいた。そして、無意識に助手席のドアを開けて、そこに座ったんだ。その動きはとても自然で、まるでそこが彼女の指定席みたいだった。瑠夏を支えようと伸ばしかけた私の手は、行き場をなくして宙をさまよった。瑠夏もハッとしたようで、顔を青くした。そして慌ててシートベルトを外しながら、「ごめん、癖で……後ろに行く」と呟いた。「動かないで」大輝の声だった。でも、そこには私の知らない焦りがあった。彼は瑠夏の腕をおさえ、「後ろは風が当たるから寒い。君の体は弱いんだから、暖かいところにいた方がいい」と言った。瑠夏は私を一瞬見た。ごめん、って目が言ってた。でも、彼女は結局おとなしく座り直した。私は黙って手を引っ込めた。大輝が助手席のヒーターの温度を、二度も上げているのをただ見ていた。この人は私の婚約者。なのに、私の目の前で、他の女の人に無意識の優しさを見せつけている。後部座席のドアが開けられて、また凍えるような冷気が入り込んできた。真司が雪をまとって、無表情のまま私の隣に座った。狭い後部座席で、彼と私の太ももがどうしても触れ合ってしまう。懐かしい匂いに、一瞬意識が飛んだ。まるで大学時代の、あの別れの雨の夜に戻ったみたい。あの時も真司は
続きを読む
第2話
窓の外は吹雪がひどくなる一方で、風がごうごうと鳴っていた。どうやら、当分は動けそうにない。大輝がガラスの反射越しに、何度も瑠夏のことを心配そうに見つめているのが分かった。私の心は、すっと冷めていった。この四角関係の中で、私は大輝の過去にも、未来にも、居場所がないみたいだ。渋滞はまだ続いていて、いつの間にか、もう5時間も経っていた。言うまでもなく、みんなお腹が空いていた。私はカバンから、用意しておいたお菓子を取り出した。前の席に、ドライマンゴーの袋を差し出した。大輝はそれを受け取ると、ほとんど無意識に袋を開けて、瑠夏の口元に持っていった。「ほら、君が好きだったドライマンゴーだぞ」その動きは、あまりにも手慣れたものだった。でも瑠夏は、気まずそうにさっと身を引いて、彼の手を押し返した。「大輝さん、忘れたの?私、留学した年にひどいマンゴーアレルギーだって分かって、もう食べられないのよ」大輝の手は宙で固まった。いつも落ち着いている彼の顔に、今まで見たこともないような動揺と罪悪感が浮かんでいた。「ごめん……忘れてた」大輝は慌ててドライマンゴーを引っ込めた。そのおどおどした様子は、見ていて胸が痛くなった。だって、私の前ではいつも、大人で落ち着いていて、感情を表に出さない完璧な婚約者だったから。でも男の人って、本当に好きな人の前でだけ、不器用になったり慌てたりするものなんだ。その時、横から伸びてきた手が、大輝の手からドライマンゴーの袋をひったくった。真司は、それを私の膝の上にぽいと投げた。「彼女が食わないなら、お前が食え」真司は私をちらっと見て言った。「これ、お前の大好物だったろ?大学の頃、こんな安物のために節約して、俺は1ヶ月も禁煙したんだぞ」膝の上のドライマンゴーに目を落とす。袋には、あの安っぽいメーカーの名前が印刷されていた。本当は、もうとっくに好きじゃなくなっていた。むしろ、嫌いなくらいだった。大学の頃に好きだったのは、真司がお金を持っていなかったからだ。彼は貧乏な学生で、この街で必死に勉強していた。毎月の生活費はいつもギリギリだった。このメーカーのドライマンゴーはセールになると一番安かった。真司が食費を切り詰めて買ってくれたから、私は彼のプライドを傷つけないように、いつも大好き
続きを読む
第3話
真司は眉をひそめて尋ねた。「どうして死んだんだ?」「別れた年の冬に、老衰で」私は静かに答えた。本当は、違う。あの頃、私は失恋でひどく落ち込んでいて、精神的に参っていた。ある日、散歩の途中でリードを放してしまって、びっこは走り去ってしまった。雪の中を3日間ずっと探し続けた。ようやく見つけたとき、びっこは道端で、もう冷たくなって固まっていた。それは、今でも私の心の棘だ。びっこにも、そして真司にも、申し訳ないことをしたと分かっている。真司はしばらく黙っていたが、やがて喉の奥から冷たい笑いを絞り出した。「そりゃ、よかったな」彼は再び窓の外に視線を戻し、独り言のように低い声でつぶやいた。「誰も面倒を見るやつがいないよりはましだ。お前と一緒じゃ、どうせ苦労するだけだからな」その時、前の席の笑い声が、ぴたりと止んだ。大輝は、ようやく後部座席の不穏な空気に気づいたらしい。彼はちらっと私を振り返った。何か聞いてくれるのか、せめて一言でも慰めてくれるかと思った。でも、大輝は何も言わなかった。ただ私を一瞥しただけで、すぐに前を向き直ると、瑠夏のシートのリクライニングを調節し続けた。「この角度なら、腰、楽になった?」と、彼は優しく尋ねる。甘ったるいドライマンゴーの袋を握りしめながら、窓の外の真っ白な世界を眺めていると、急にどうしようもない孤独感に襲われた。まるで、別れたあの冬よりも、もっと寒いみたいだった。この渋滞は、まるで終わりのない拷問のようだ。私の忍耐力は、少しずつ削られていく。この息が詰まるような沈黙を破るため、瑠夏がゲームをしようと言い出した。「じっと座ってるのも退屈だし、ゲームしない?」瑠夏はそう笑って、空のペットボトルを取り出す。「これを回して、ボトルが向いた人が罰ゲーム、真実か挑戦かよ」私と真司は黙っていた。大輝は場を盛り上げるためか、「いいよ」と頷いた。最初のターン。ペットボトルはくるくると回り、やがて大輝の目の前でぴたりと止まった。大輝は、「真実」を選んだ。瑠夏はぱちぱちと瞬きをしながら、何気ないふうを装って尋ねた。「大輝さん、今までの人生で一番後悔してることって、なあに?」車内は、一瞬で静まり返った。大輝はハンドルを握る指に力を込めた。ガラスの反射越しに瑠夏を一瞬だけ見て、すぐに視
続きを読む
第4話
ゲームは、まるで参加者たちの心の傷をえぐり出すかのように、まだ続いていた。三回戦、負けたのは私だった。真司は手元のライターをいじりながら、その深い瞳で私をじっと見つめていた。「真奈美」彼は、私の名前を呼んだ。「もしやり直せるなら、今の婚約者を選ぶか、それとも元彼を選ぶか?」大輝の呼吸が少し荒くなる。彼は私の答えを待っているようでもあり、その答えを恐れているようでもあった。私が口を開き、何かを言おうとしたその時だった。突然、後ろからけたたましいブレーキ音と、激しい衝突音が響き渡った。次の瞬間、私たちの乗っていた車が、大きく揺れた。後ろの車が凍結した路面でスリップして、コントロールを失ったまま、私たちの車に追突してきたのだ。その勢いで、車は高速道路のガードレールに向かって突っ込んでいく。「危ない!」大輝が叫んだ。車が横転してガードレールにぶつかる、まさにその瞬間、大輝はとっさに自分のシートベルトを外した。でも、彼は私の方を見なかった。大輝は助手席に覆いかぶさるように飛びつき、両腕を広げて、瑠夏と彼女のお腹を、必死に守ったのだ。私は、強い遠心力でドアに叩きつけられながら、その光景を絶望的な気持ちで見つめていた。そうか、これが答えなんだ。大輝が選んだのは、瑠夏だった。ドンッ。車体は、激しい音を立ててガードレールに衝突した。でも、予想していたほどの痛みはなかった。衝突する直前、力強い腕が横から伸びてきて、私の頭をぐっと押さえつけ、彼の胸とシートの間に守ってくれたからだ。慣れた匂いに血の匂いが混じって、私の鼻先をかすめた。それは、真司だった。車はようやく止まった。車内はひどい有り様だった。大輝は、真っ先に瑠夏の顔を両手で包み込んだ。「瑠夏!瑠夏、大丈夫か?どこか怪我はないか?お腹は痛くないか?」大切な人を失いかけたような、そのパニックと愛情は、本物だった。瑠夏はまだショックから覚めない様子で、泣きながら大輝の腕の中に飛び込んだ。「大輝さん、怖かった……」二人は、まるで命拾いした恋人同士みたいに、きつく抱きしめ合った。その時、私の後ろから、真司の押し殺したようなうめき声が聞こえた。振り返ると、真司の腕が小刻みに震えているのが見えた。明らかに怪我をして
続きを読む
第5話
大輝はようやくさっきのパニックから我に返ったみたいだ。いつもは穏やかなその顔が、今は驚きと不安でいっぱいになっている。彼はシートベルトを外すと、私を引っ張ろうと手を伸ばしてきた。でも私は身をかわしてそれを避けた。「真奈美、落ち着いて、話を聞いてくれ」大輝は額に汗を浮かべ、しどろもどろに言った。「さっきはすごく危なかったんだ。瑠夏は妊婦だし、すぐ隣にいたから……ただ、とっさに彼女を守らなきゃって……」瑠夏も、この気まずい空気に気づいたみたいだ。彼女は慌てて大輝の支える手を振り払った。そして気まずそうに乱れた髪を整えながら、私から視線をそらして言う。「あの……真奈美さん、大輝さんも悪気があったわけじゃないから、そんなに考え込まないで」「ふん」その冷たい笑いが、大輝の苦しい言い訳を打ち破った。真司は背もたれに寄りかかって、大輝をじっと見ていた。「彼女はお前の奥さんか?そんなに必死になるなんてな。自分の女の生死も顧みないくせに、今さら愛情深いフリかよ」大輝の顔は一瞬で真っ赤になった。何か言おうと口を開いたけど、言葉にならない。瑠夏の顔色が変わったのも見えた。その時、後ろから追突してきた車の運転手が降りてきた。慌てて走ってきて窓を叩き、申し訳なさそうな顔で賠償と謝罪の話をしようとしている。大輝は仕方なく車を降りて対応することになった。吹雪の中で誰かと話している彼の背中を見ていると、私はひどく疲れているのを感じた。私は真司が止めるのも聞かず、ドアを開けて外に出た。車の中の空気が重すぎて、少し外の空気を吸いたかったんだ。外は吹雪いていて、ナイフみたいな冷たい風が顔に吹き付けた。でも、車の中にいるよりずっとマシだった。後ろから足音が聞こえた。ぬくもりの残るコートが、私の肩にかけられた。私は振り向かなかったし、断りもしなかった。「お前は相変わらず強情だな」真司の声が風に紛れて聞こえる。「寒くて震えてるくせに、意地を張るのか」私はコートを体に引き寄せ、舞い散る雪を見ながら自嘲気味に笑った。「この3年で鍛えられたのかもね」私と真司は雪の中に並んで立っていた。まるで大学時代、寮の前で何度もそうしていたみたいに。ただ、あの頃は別れがたくて一緒にいたけど、今は現実から逃げるためだった。真司はタバコを
続きを読む
第6話
車に戻ると、さっきよりもっと気まずい空気が流れていた。外はまだ吹雪が荒れ狂っている。唯一の朗報と言えば、通行止めがあと数時間で解除されるという連絡があったことくらいだ。でも、この狭い車内は息が詰まりそうだった。大輝は、さっきの失敗を取り繕うみたいに、必死で私に話しかけてきた。「真奈美、手は冷たくない?暖房、もっと強くするよ。水飲む?さっきは怖かっただろ?あ、このドライマンゴー食べる?昔、好きだったよな……あ、いや、今はもう食べないんだっけ」彼は慌てて水を持ってきたり、私の手を温めようとしたりしたけど、そのわざとらしいご機嫌取りは、ひどくぎこちなかった。私は、甲斐甲斐しく動き回る大輝を冷めた目で見ていた。感動なんて全くなくて、ただ罪滅ぼしをしているようにしか見えなかった。彼は、そんなちっぽけな優しさで、いざという時に私を見捨てた事実を隠そうとしているんだ。一方、助手席に座る瑠夏は、ずっと黙りこくっていた。彼女はバックミラー越しに、大輝が私に気を遣う様子を見ていた。その目には、隠しきれない寂しさと失望の色が浮かんでいた。その様子を、ずっと冷ややかに見ていた真司が見逃すはずもなかった。真司は、馬鹿にしたようにクスっと笑った。「どうした?昔の男が他の女に優しくしてるのを見て、面白くないのか?」瑠夏ははっと顔を上げた。顔を青ざめさせながら言った。「真司、でたらめを言わないで」「俺がでたらめを?じゃあ、さっきからバックミラーばっかり見てたのは何だ?瑠夏、彼が忘れられないなら、なんで俺と結婚したんだ?」その言葉で、瑠夏はついに堪忍袋の緒が切れた。彼女は目を真っ赤にして、真司を指さして叫んだ。「真司、この人でなし!どの口がそんなこと言うの!さっき誰をかばったか、私が見てないとでも思ったの!車がぺしゃんこになる寸前だったのに、あなたは命がけで彼女を守ったじゃない!私はあなたの妻よ?私のことなんてどうでもよかったんでしょ!」やっぱり、瑠夏も気づいていたんだ。さっきの咄嗟の行動は、私の淡い期待を打ち砕いただけじゃない。真司と瑠夏の化けの皮まで剥がしてしまった。瑠夏は、ずっと真司の心には別の誰かがいると感じていた。一方、真司は、瑠夏が考えすぎで、面倒くさい女だと思っていた。そして今、その答え
続きを読む
第7話
息が詰まりそうになった、ちょうどその時。瑠夏が突然口を開いた。彼女は涙をぬぐい、ひどい鼻声で言った。「ごめん……取り乱しちゃって。真奈美さん、大輝さんのことも、私のことも、誤解しないでね」瑠夏は息を深く吸い込み、隣でまだ鼻で笑っている真司に、複雑なまなざしを向けた。「たしかに真司はクズだけど、離婚しようと思ったことは一度もないわ」この一言で、その場の緊張がようやくほどけた。大輝の張り詰めていた肩から、ふっと力が抜けた。彼は少し気まずそうに私から視線をそらすと、小声で言った。「ああ、考えすぎだよ。みんなカッとなってただけだ。早く休もう。まだ道路の復旧を待たないといけないんだから」ほっと胸をなでおろしている彼の様子を見ていたけど、私の心にあいた穴は埋まらなかった。むしろ、そこから冷たい風が吹き込んでくるみたいだった。あの問いに、結局答えはなかった。もしかしたら、逃げたこと自体が、答えだったのかもしれない。夜が更けていく。外の吹雪は少し弱まったようだったけど、気温はさらに下がっていた。ガソリンを節約するために、暖房は1時間おきに一度つけた。狭い車内で、四人は服を着たまま眠りについた。後部座席には真司と瑠夏。私と大輝は、前の座席を倒して体を横たえた。すぐ後ろの真司からは、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。たいした神経だ。あれだけ大騒ぎした後なのに、すぐ眠れるなんて。なのに私は、どうしても眠りにつけなかった。まどろみのなかで、過去の記憶が走馬灯のように頭をめぐっていく。大学時代の真司のことを、思い出していた。あの頃の彼も、今みたいに自信満々で、怖いもの知らずだった。でも、私には真司のもう一つの顔も、よくわかっていた。大学4年のとき。急性胃腸炎にかかって、ひどい吐き気と下痢で彼に電話したことがあった。電話の向こうからは、キーボードを叩く音が鳴り響いていた。「真奈美、とりあえず温かいものでも飲んでて。今、ランクマの大事なとこなんだ!これが終わったら、すぐ帰るから!」結局、その試合は2時間もかかった。真司が薬を買って戻ってきたときには、私はもう自分でタクシーを呼んで病院へ行き、点滴を受けていた。就職活動の時期、私が不安で眠れない夜を過ごしていたのに、真司は友達と明け方の3時まで飲み明かしていた
続きを読む
第8話
翌朝、騒がしい人の声で目が覚めた。ようやく救助隊が来てくれたみたい。でも、この先で玉突き事故があったみたいで、レッカー車がまだ作業中らしい。だから、みんなで協力してこのあたりの雪をどかして、車が通れるようにしなきゃいけない。私たち四人とも、目の下にクマができていて、顔色が悪かった。でも幸い、朝の光が昨夜の重苦しい空気を追い払ってくれた。男たちは雪かきと、動けなくなった車を押す手伝いのために、外へ呼ばれていった。真司はスコップを手に、雪かきをしながら悪態をついていた。「なんだよ、ここの役所は!仕事が遅すぎるだろ!凍え死ぬっつーの!」力いっぱいやってはいるんだけど、やり方がとにかく雑だった。おかげで雪はそこら中に飛び散って、ついには隣の車の窓にまでかかってしまった。「おい!どこに目ぇつけてんだ!」隣の車の人が怒鳴った。「なんだその言い方は?」真司はさらに逆上して、スコップを放り出して殴りかかろうとした。現場は一気に混乱した。その一方で、大輝はずっと落ち着いていた。彼は、むやみに作業を始めたりはしなかった。まず救助隊のリーダーと話をして、それから周りの車のドライバーたちをまとめていた。「みなさん、聞いてください。まずタイヤの下の雪をどかしましょう。その後、俺たちが後ろから押しますから、前の車はローギアに入れてください……」大輝の声は大きくはなかったけど、説明が分かりやすかった。おかげで、いらいらしていた人たちもすぐに落ち着いて、みんな協力し始めた。その瞬間、人々の中心でテキパキと指示を出す大輝を見て、なんだか彼が輝いて見えた。私も車のドアを開けて、大輝を手伝おうと外に出た。「おい!!」真司はまだ人と口論していたけど、私が降りてきたのが視界の隅に入ったらしい。すぐにこっちを向いて怒鳴った。「お前は何しに出てきたんだ!外はマイナス十何度だぞ。車に戻ってろ!」その言い方はとてもキツくて、いつもの彼らしい高圧的なものだった。心配してくれてるのは分かってる。でも、あの言い方はやっぱり聞いてて気分が悪い。私は真司を無視して、まっすぐ大輝のところへ歩いて行った。大輝は地面に這いつくばって車の下を調べていた。私が来たのに気づいたけど、彼は私を追い返したりはしなかった。それどころか、ポケットから予備
続きを読む
第9話
さっきまで雪の中にいたせいかな。車に戻ってから少しして、なんだか体がだるくなってきた。頭が重くて、体もなんだか寒い。熱が出たみたい。周りに何もない高速道路で熱を出すなんて、すごく危ないことだ。30分もたたないうちに、熱で意識がもうろうとしてきて、歯の根が合わないほど震えだした。「真奈美?真奈美、どうしたんだ?」耳元で聞こえる大輝の焦った声。彼の手が、そっと私のおでこに触れた。「すごい熱じゃないか!」車の中は、あっという間にパニックになった。「どけ!」そう怒鳴ったのは、真司だった。彼は、私が熱で顔を真っ赤にしているのを見て、ものすごく焦っていた。「この先に救護車両がいる。そこには医者がいるはずだ。俺が彼女を運ぶ!」そう言って、私を抱きかかえようと手を伸ばしてきた。でも、真司の指先が私の肩に触れた瞬間、その手は思いっきり振り払われ、パシンと、乾いた音がした。大輝は真司を突き飛ばした。いつもは穏やかなその顔が、見たこともないような怒りに満ちていた。「お前の世話にはならない」大輝は冷たく言い放った。「彼女は俺の婚約者だ。俺が面倒を見る」「お前に面倒が見れるもんか!」真司もカッとなったみたいだ。「さっきの事故の時、お前はどこにいた?今さら心配してるフリなんてするな!お前なんかに、彼女を守れるもんか!」その言葉は、大輝の痛いところを的確に突いた。彼は真司を睨みつけたまま、胸を激しく上下させていた。数秒の沈黙の後、大輝は突然かがみこむと、私をぎゅっと抱きしめた。そして、誓いを立てるように、一語一句、力を込めて言った。「あの瞬間のことは、一生の後悔だ。だから、二度とあんな過ちは犯さない」そう言うと、大輝はもう真司に見向きもせず、トランクからありったけの厚手の服を出して、私に何枚も重ねて着せた。それから後ろの席に座り直すと、私を膝の上に乗せて抱きかかえ、自分のコートで私たち二人をすっぽりと包み込んだ。彼自身の体温で、私を温めようとしてくれたんだ。「真奈美、大丈夫。俺がいる。ほら、お水を飲んで。いい子だ」大輝は何度も耳元で囁き、水を飲ませてくれた。数分おきに濡れたタオルでおでこを拭いてくれたりもした。彼の腕の中は、すごく暖かくて、安心できた。でも、私の意識は限界まで朦朧として
続きを読む
第10話
やっと雪がやんだ。救援隊の除雪車が前に道を開けてくれて、これで道が通れるようになる。臨時の休憩所で、私たち四人はそれぞれ温かい飲み物を手にしていた。これが、別れる前の最後の時間だった。真司は、遠くで救援隊にお礼を言っている大輝を見た。次に、そばでマフラーを直している瑠夏に目をやる。そして突然、手の中の紙コップをぐしゃりと握りつぶした。彼は私のそばに来て、声を潜めた。その声のトーンには、聞き覚えがあった。「真奈美」私は真司の方を向いた。一晩中大変だったせいで、彼の顎には青い無精ひげが伸びていた。少しやつれて見えたけど、それでも負けん気の強さは変わらなかった。「もし俺が今離婚したら」真司は私の目を見つめて、こう尋ねた。「もう一度お前を追いかけても、まだ間に合うか?」3年前だったら、この言葉を聞いて、泣きながら真司の胸に飛び込んでいたかもしれない。あるいは、思いっきり平手打ちをして、「どうして今ごろになって」って、悔し涙を流しながら彼を問い詰めていたかも。でも今は、真司を見ても、不思議なほど心が落ち着いていた。私は吹っ切れたように微笑んで、静かに首を横に振った。「真司、もう遅いよ」「どうして?」彼は悔しそうに問い詰めた。「お前も見てただろ、俺と瑠夏は全然合わない。それに、お前も俺を忘れられないんじゃないのか?昨日の夜、熱を出した時、お前が呼んだのは俺の名前だった」私はため息をついて、真司の向こうに広がる、果てしない雪原に目をやった。「真司、その時あなたを呼んだのは、辛かったあの雨の夜がトラウマになってるからよ。あれは好きって気持ちじゃなかったの」私は彼に視線を戻して、静かに言った。「それに、あなたが好きなのは今の私じゃない。あなたが懐かしんでいるのは、大学のバスケコートのそばであなたに水を渡し、憧れの眼差しを向け、あなたの言うことは何でも聞いた、あの頃の女の子よ。でも、その子はもういないの。別れ別れたあの夜に、永遠に戻れない場所へ、置いてきてしまったから」真司は口を開いたけど、反論しようとしても、声が出なかったみたい。私は指を上げて、少し離れたところでつま先立ちになって、こっちを気にしている瑠夏を指さした。「見て、瑠夏さんがずっとあなたのことを見てる。彼女はあなたと喧嘩したり、わがままを言
続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status