「迅、おめでとう」「遅くなったな。あとで、たっぷり付き合うからな」「どうだ?もう全部話したのか?」迅の親友が彼のそばに来て声をかけてきた。「それにしても、まだ始まらないのか?」「そうだよ。もう腹ペコだぞ」迅は苛立った様子で言った。「雪乃を待ってるんだ。あいつ、どういうわけか、まだ来てない」「そういえば、迅。今朝俺、雪乃を見かけた気がする」会場の隅から男が出てきて、声を潜めた。「黒いマイバッハに乗ってた。ナンバーも見覚えがあってさ。お前の車だと思って、気にもしなかった」迅は眉をひそめた。「雪乃が、黒いマイバッハに?うちにマイバッハなんてないぞ」「おかしいな。それに、スーツケースも持ってた。俺、そのまま本邸に来るのかと思ってたんだけど。お前たちが言うみたいに、まだ来てないなら、まさか……」「神谷社長、ちょっと伝えたいことがありますが……」今度は人事が足早に近づいてきて、慎重に切り出した。「奥様は、少し前に退職届を出しましたね。こちらとしては、社長の承認も入っていましたので……正直、驚きました。奥様は、今まで一度も長期の休みすら取らなかったのに、突然、もう戻らないと言い出して……」一瞬にして、皆が私が去ったという事実を彼に突きつけた。「退職?」この言葉を聞いた瞬間、迅の胸がざわついた。彼は慌てて人事の腕をつかんで尋ねた。「いつのことだ?なぜ俺が知らされていない?いつ彼女に退職を許可したんだ!」迅にとって、私の最大の価値は、会社のプロジェクトにあった。肩書きは秘書でも、多くの重要な顧客リソースを握っている。実務能力は一流で、多くの会社の社長が、私との商談を好んだ。しかもいくつかの外国語を話せるので、どの国の会社と提携交渉をしても苦労しない。休暇を願い出たこともあったが、迅は一度も認めなかった。それなのに、退職など、あり得るはずがなかった。人事部長が補足した。「本当です、社長。退職届には、社長のサインがありました。わざわざお聞きしに来なかったのです」「あり得ない!」迅は首を振り、足元がふらつき、その場に立っているのもやっとだった。「雪乃は、あんなに俺を愛してた。離れるわけがない。俺から離れて、何ができる?俺のそばにいてこそ、価値があるんだ」「神谷社長……もしかして、奥様
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