青木家の邸宅。亜里は、長い長い夢を見続けていた。夢の中で、熱にうなされている自分を、時凪が一晩中看病してくれている。何度も濡れタオルで額を拭き、囁くように言った。「亜里、俺がいるから……すぐによくなるから……」また別の夢では、朝目覚めると、時凪が台所で彼女の大好きなお粥を作っている。香りが寝室まで漂ってきた。「おはよう、お寝ぼけさん。君の好きなものを作ったよ。味見してみて」「奥様、旦那様は朝五時に起きて、私たちに手伝わせようとされませんでしたよ」そして、結婚記念日の夢。時凪が街中の花火を借り切り、海岸で彼女だけのための打ち上げ花火を披露してくれた。彼は波の音を背景に、誓うように言った。「亜里、君がいたから、今の俺がいる。愛してる。一生、君だけを愛する。一生、君のために花火を上げる」――だが、その夢は突然暗転した。花火の残光が消え去ると、目の前には、秘書と絡み合う時凪の姿。そして、彼女が自らの手で葬り去った、六ヶ月のわが子が、虚空で泣き叫んでいる。「やめて!」彼女は悪夢から飛び起き、目を開けると、そこには見知らぬ、しかし端正で気品のある男性の顔があった。……とても、見覚えがある。意識を失う直前、見たのもこの顔だったような。彼女は警戒して周囲を見回した。もはや、あの忌まわしいホテルの部屋ではなかった。室内の装飾は見知らぬものだが、どこか温かみを感じる。「あなたは誰?ここはどこ?」「もう、覚えてないのか?」潤はかすかに笑ったが、詳しくは説明せず、傍らのタブレットを取り上げた。画面に映し出されたのは、兄の若月深(わかつき しん)の顔だった。「お兄さん!」その顔を見た瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。「亜里、大丈夫か?よかった……君が事前にメッセージをくれていたから、潤に救出に行かせることができた。新井の野郎のやったこと、全部調べたから、心配するな。この恨み、兄さんが必ず晴らしてやる」「うん、私は大丈夫……ありがとう、お兄さん」「バカ、兄さんに感謝なんていらない。もう手配は始まっている。新井もすぐにわかるだろう……彼が今日あるのは、誰のおかげなのかをな。俺が彼を成金にできたんだ。同じように徹底的に潰すこともできる」そう言うと、彼は画面の向こうの亜里をじっと見つめ
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