修也は弾かれたように立ち上がり、焦った声を絞り出した。「……何を投稿した?」秘書は視線を落とし、言葉を選びながら報告する。「奥様が受理証明書の写真を添付されていて、本文はこうです。『想像でも噂でもありません。離婚しました。ひとりに戻りました。金曜、新作ドラマ、見に来てね』――と……」修也は紗良の投稿を見つめたまま、顔色をみるみる曇らせた。これは、必死に自分と切り離そうとしている。投稿までの速さからして、紗良は修也のSNSをずっと追っていたのだろう。ただ、その視線はもう、心配でも愛情でもない。離れると決めた人間が、淡々と確かめるための――冷えた目だ。そう思った瞬間、胸の奥が薄く削がれるように痛み、息が詰まった。修也は拳でこめかみを叩き、今すぐ一年前に戻りたいと願った。……間違いなく、後悔している。……フランス。紗良は飛行機を降りたばかりで、見知らぬ空港を見回し、胸の奥に小さな孤独が湧いた。これまで海外へ出るたび、隣には修也がいた。それが今日は一人だ。慣れない。けれど、この孤独は、彼女にはむしろ解放でもあった。紗良はスーツケースを引き、前へ進む。スマホが震えた。真琴からのメッセージだ。「紗良、姉があなたがフランスに来るって知って、何がなんでも迎えに行くって。しばらく姉のところに住んでいいってさ。気晴らしに行きたい場所があれば全部付き合うって。断られたら困る。ちゃんと見てないと、不安になるから」紗良の胸がふっと温かくなった。だが、迷惑はかけたくない。数歩進んだところで、真琴からまたメッセージが届く。「そうだ、姉から聞いたんだけど、兄も空港に来てるって。今日どうしたのかな。前は人を迎えに来るタイプじゃなかったのに。紗良、兄はクールで口が悪いだけの男だけど、もし嫌なこと言ったら私に言って。姉に叱らせるから」……真琴の兄?紗良は小さく眉を寄せた。真琴とはもう十五年来の付き合いだが、兄については話に聞くばかりで、実際に会ったことは一度もない。冷たくて、言葉が鋭くて、女が近づくのを嫌う――そんな噂だけが残っている。真琴の姉・若葉真冬(わかば まふゆ)の家にいる間は、できるだけ関わらないほうがよさそうだ。紗良はスーツケースを押しながら歩き続けた。ほどなく
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