All Chapters of これからは、自分に花束を: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

勳の秘書はすぐさま、調査を開始した。そして、詳細な報告書が勳の元へ届けられた。報告書は、恵子の話がすべて事実だと裏付けるだけでなく、静香のさらなる悪行も暴き出していた。勳は報告書に目を通しながら、怒りで手がかすかに震えていた。彼が報告書を後藤家に見せると、拓海と椿、そして仁は、みな雷に打たれたように顔面蒼白になった。静香は、菫の手柄をすべて横取りしていただけではなかったのだ。学生時代には、人を使い、ありとあらゆる方法で菫をいじめさせていた。どうりで、あの頃はいつも菫が全身傷だらけで帰ってきていたわけだ。それなのに、彼らは気にもかけなかった。それどころか、一体誰と遊び歩いているんだ、少しは静香を見習え、と菫を責め立てたのだ。そればかりか、乞食をけしかけて菫を襲わせようとさえした。菫が必死で逃げなければ、あの時、本当に危ない目に遭っていたかもしれない。何より許せないのは、家に押し入った犯人でさえ、静香が手引きしていたことだ。目的は、菫を殺すことだった。「なんてことを……なんてことをしてくれたんだ!」拓海と椿は、まさかあれほどおとなしかった娘が、こんな狂ったことをするなんて、想像もしていなかった。仁は後悔の念に頭が真っ白になった。再び静香に目を向けた時、その瞳は怒りの炎で燃え上がっていた。「静香、菫はお前の妹だぞ。どうしてこんなことができるんだ!」静香はもはや取り繕えないと悟ると、完全に開き直った。彼女は狂ったように高笑いする。「そうよ、全部私がやったわ!それが何だっていうの?菫なんて消えてしまえばいいのよ!何もかも私のものにしたかったんだから!私だけを愛してくれるって言ったじゃない!娘は私一人だって言ったくせに!なのにどうして菫を産んだの?産んだのはまだいいわ。どうせ私のための血液タンクなんだから。でも、なんで彼女はあなたたちの愛情を欲しがったり、尽くしたりするのよ?そんなことされたら、出来の悪い姉みたいに見えるじゃない!それに勳さん!先に勳さんを好きになったのは私なのに!なんで、なんで帰国した勳さんが最初に見たのが菫なのよ!どうしてよりにもよってあの日、菫は庭で踊ってたの?勳さんが一目惚れして、踊っていた人を必死に探すなんて!好きな人が他の人を好きになるなんて許せるわけないじゃない!だから
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第12話

菫に電話が通じないとわかると、勳は使える人脈を全て使った。街中をひっくり返すように探したけど、菫の行方はまったくつかめなかった。勳の目には、疲れと焦りの色が濃くにじんでいた。見つからないという報告を受けるたびに、胸がナイフでえぐられるように痛んだ。拓海と椿、それに仁も同じように、気が気ではなかった。彼らは昼も夜も電話の前から離れず、菫からの連絡をただひたすら待ち続けていた。椿は毎日泣き暮らしており、自分を責め続けた。「全部私たちのせいよ。あの子を追い詰めたのは私たちよ。もし静香の企みにもっと早く気づいて、菫にもっと優しくできていたら、あの子が家を出ていくことなんてなかったはずなのに」拓海は後悔の念に苛まれているようだった。その背は、まるで一夜にして重荷を背負ったかのように丸まり、かつての勢いは見る影もない。ただ娘を案じる、憔悴しきった老人の姿がそこにあった。仁はというと、やみくもにあちこち駆けずり回っていた。会う人ごとに菫を見かけなかったか聞いて回ったが、返ってくるのは期待外れの答えばかりだった。時間が経つにつれ、みんなの焦りはますます募り、ほとんど絶望しかけていた。勳は捜索範囲を広げた。街で見つからなければ全国を、全国で見つからなければ世界中を探すつもりだった。一方、拓海と椿は、誰かが情報をくれるかもしれないと期待して、菫の写真を街のあちこちに貼り出した。仁もネット上に菫を探す書き込みを何度も投稿した。菫の見た目の特徴や、いなくなった時の状況を詳しく書いたが、何の進展もなかった。ある日、探偵から電話がかかってきた。人里離れた小さな町で、菫にそっくりな女の子を見かけたらしい。勳はすぐに車を飛ばしてその町へ向かった。道中、彼の心臓は激しく高鳴っていた。期待と、また違ったらどうしようという不安で胸がいっぱいだった。勳が町に着き、探偵に言われた住所へ行ってみると、それはただの人違いだとわかった。その女の子は、後ろ姿が菫に少し似ているだけだった。彼女が振り向いた瞬間、勳の心は一気に絶望の淵に沈んだ。家に帰ると、勳の落ち込んだ様子を見た後藤家の人たちも、最後の望みを打ち砕かれた。椿は、その場にへなへなと崩れ落ち、声をあげて泣き始めた。拓海は黙ってそばに座り、両手で頭を抱えた。その指の間から、ぽたぽたと涙がこぼれ落
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第13話

拓海と仁も菫に歩み寄り、申し訳なさそうな顔をしていた。勳は少し離れた場所に立ち、静かに菫を見つめていた。言いたいことは山ほどあったが、何から口にすればいいのか分からなかった。彼らのせいで菫があんなに苦しんだのだ。また近づいて、彼女を傷つけてしまうのが怖かった。菫は眉をひそめた。この人たちが、どうして急に態度を変えたのか理解できなかった。彼女は冷たい顔で目の前の人を押しのけて言った。「人違いじゃない?よく見て、私は菫。あなたたちが可愛がっている静香じゃないよ」その言葉を聞いて、皆、胸が張り裂けそうになった。仁はもう我慢できなくなり、菫の手を掴んで、静香が今までしてきたことを全部知っていると話した。そして、菫が今までずっと辛い思いをしてきたことも。本当に愛すべきだったのは静香ではなく、彼らを心から想ってくれていたのは菫だったと痛感したんだ、と。仁は悔しそうに、目を真っ赤にしながら話した。でも菫は、ただ冷たい目つきで彼らを見ているだけだった。菫は冷ややかに笑って言った。「つまり、静香の本性が分かったから、今度は私を娘として取り戻しに来たと、もう遅すぎると思わない?」これを聞いた椿は、ボロボロと涙を流した。彼女は一歩前に出て、菫の手を掴もうとする。「菫、お母さんが間違ってたわ。本当にごめんなさい。あなたは大事な娘なのよ。あなたがいなきゃ、お母さん……」菫は椿の手を避け、首を横に振った。「もう元には戻れない。私には、ここで新しい生活と新しい家族ができたから」拓海は目を大きく見開き、信じられないといった様子で尋ねた。「新しい家族?菫、それは一体どういう意味だ?」菫は落ち着き払った顔で、ゆっくりと語り始めた。「数日前、島の岸辺で遭難しかけていた夫婦と一人の男性を助けた。命の恩返しに、本当の娘みたいに優しくしてくれた。今まで知らなかった愛情や温もりをたくさんもらってる」勳の心がきゅっと締め付けられた。「菫、どこの馬の骨かも分からないような奴らと、どうして簡単に関わるんだ?いい子だから、俺と一緒に帰ろう。俺たちの結婚式ももうすぐだ。前は、俺が悪かった。人違いをしていた。だから、許してくれないか?」菫は、冷たい目で勲を見た。「勳さん、本気で謝れば何でも許されると思ってるの?昔はあなたの愛が欲しくてたまらなかった。でもあなた
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第14話

菫はくるりと背を向け、彼らを無視してその場を去った。後藤家の人たちと勳は、菫が許してくれるまでこの場で意地でも居座る覚悟で来ていたのだ。だから、菫が去っていくのを見ると、彼らもそのあとをついていった。菫が家に戻ると、待ち構えていた小山玲奈(こやま れな)がすぐに出迎えてくれた。「菫、やっと帰ってきたのね。おじさんがあなたの大好物のスペアリブを作って、私はサクランボを洗ったわ。みんなで待ってたのよ。もう、絵を描きに出かけるなら、もっと厚着しないと。寒くないの?渉がずっとあなたのことを心配してたのよ。もう少し帰ってこなかったら、島中を探し回るところだったわ」その言葉に菫はかすかに微笑み、口を開こうとした。その時、長身で凛々しい顔立ちの男性・小山渉(こやま わたる)が、菫の後ろから姿を現した。「お母さん、そんな言い方しないで。菫が困るだろ?」その言葉を聞いて、菫はさっと顔を赤らめた。この数日間、渉の両親は自分をとても可愛がってくれた。20年間、一度も得られなかった愛情を初めて感じていた。そして渉は、言うまでもなく自分に優しかった。でも、菫だって子供じゃないんだから、その優しさがただの気遣いとは違う好意だって感じ取っていた。それは、男性の、女性に対する優しさだ。玲奈もそれに気づいたようで、ふふっと笑って息子の手を叩いた。「はいはい、分かったわよ。まあ、これからどんな関係になるか、まだ分からないんだものね?」菫は皆に囲まれて家に入った。玲奈たちはまるで彼女をお姫様のように扱っている。ドアの前に立ってその光景を見ていた勳たちは、一瞬、呆然と立ち尽くした。そのような光景に見覚えがないわけではなかった。昔、彼らも静香に同じように接していたのだから。菫が愛情を求めるような視線を向けていることに気づかなかったわけではない。でも、いつも見て見ぬふりをしてきた。そして今、菫は愛情を手に入れている。でも、それは彼らが与えたものではない。後藤家の人たちは胸が張り裂けそうなほどの痛みを感じた。勳に至っては、痛みと後悔、そして嫉妬の感情が頭のてっぺんまで駆け巡っていた。同じ男として、渉という男が菫にどんな気持ちを抱いているか、分からないはずがなかった。一家が食卓につくと、剛と玲奈はドアの前に立っている人たちに気
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第15話

そう言って、渉はドアを開けた。「中に入って、少し休んでください」勲たちは大喜びで、慌てて椿を支えながら部屋に入った。椿は温かい飲み物を少し飲むと、ようやくゆっくりと目を覚ました。彼女は周りを見渡し、開口一番、菫の手をぐっと掴んだ。「菫、やっと入れてくれたのね。私たちを許してくれるの?」菫は、とっさに手を引っこめた。「いいえ、許さない。あなたたちを中に入れたのは、ただ、家の前で死なれたくなかっただけ」椿の眼差しは急に暗くなり、拓海と仁もそれぞれうつむいた。勳は顔を上げた。その目は真っ赤に充血していた。「菫、お前を深く傷つけたことは分かってる。許せないのも当然だ。でも、俺は諦めない。お前が許してくれるその日まで、この島でずっと待ってる」菫は彼を見上げ、こう言った。「勳さん、何を言ってるか分かってるの?馬鹿げてるとは思わない?あなたは黒崎家の跡継ぎでしょ。全部捨てて、私と一緒にこの島に残るって言うの?」「そうだ!」菫はこれで勳も諦めるだろうと思っていた。でも、返ってきたのは全くためらいのない答えだった。それに続いて、両親と仁も慌てて立ち上がった。「俺たちもよ、菫。俺たちはもう何もいらない。ただお前に許してもらって、一緒に後藤家へ帰りたいだけなんだよ」菫は首を横に振った。「あなたたちと帰るなんてありえない。ここにいたいならいればいいわ。私はもう、ここを離れるって決めたから」この島へ来たのは、誰とも関わらず、一人になるためだった。でも、今は違った。心の救いとなる剛と玲奈、それに渉がいた。昨日、渉から家の用事で戻らなければならないと聞いた。そして、一緒に行こうと誘われた。初めて、菫は迷っていた。でも渉は、彼女が一緒に行かないなら彼らもここに残ると言った。自分のために全てを投げ出そうとする彼らの姿を見て、菫は笑みがこぼれた。どこに行くかは重要じゃない。一緒にいたい人と、一緒にいること。それが大事なのだ。だから、菫は小山家の人たちと一緒に島を出ることにしたのだ。菫の決断を聞いて、勳は胸が締め付けられるようだった。渉の一言だけで、菫がここを離れる決意をするなんて、勳は夢にも思わなかった。それなのに、彼らは3日間も外に立ち続けていて、少しも許してもらえなかった。その瞬間、勳の胸に鋭い
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第16話

菫はふと何かを思い出し、急に振り返って小山家の人々を見た。「おじさん、おばさん。世界一の大富豪って、苗字は小山だって聞いたことがあるんだが……」剛と玲奈、そして渉は顔を見合わせた。その目には、優しい光が満ちていた。最後に渉が菫の髪を撫で、優しく甘やかすように言った。「菫、黙っていてすまなかった。ただ、小山家はあまりに有名でね。俺たちを助けてくれた時、君がどんな人なのか分からなかったから、本当のことを言えなかったんだ。でも、君の思った通りだよ。俺たちが、世界一の大富豪なんだ」菫はあまりの衝撃に言葉も出なかった。まさか、自分が偶然助けた人たちが、こんなにすごい人たちだったなんて、夢にも思わなかった。菫は慌てて数歩あとずさりした。「おじさん、おばさん、お二人の正体なんて全く知らずにお助けしました。もうご無事にお家に着いたのですから、私はこれで失礼します」そう言うと、菫は急いで背を向けた。しかし、一歩踏み出したところで、渉に手首を掴まれ、その腕の中に引き寄せられた。「菫、お父さんもお母さんも、もう君なしではいられないんだ。このまま黙っていなくなってしまうなんて、ひどいじゃないか」剛と玲奈も慌てて駆け寄った。「そうよ、菫。私たちがどんな人間であろうと、菫との関係は変わらないわ。これまでもあなたを大切にしてきたけど、これからはもっともっと大切にするよ!」菫は立ちすくんだ。「私なんか……ふさわしくないんだよ」こんなに素敵な人たちには、ふさわしくない。こんなに素敵な家族には、ふさわしくない。その言葉を聞いて、渉たちは黙り込んだ。彼らは最近、菫の辛い生い立ちを調べて知っていたのだ。渉は深く息を吸い、優しい声で言った。「菫、君は世界で一番素敵な女性だ。君は、最高のものを受け取る価値があるんだよ」「私に……そんな価値があるの?」三人は同時に、力強くうなずいた。菫は目を赤くした。「はい。それじゃあ……ここにいさせて」小山家での日々は、菫にとってまるでおとぎ話の世界のようだった。彼女は、限りない愛情に包まれていた。剛と玲奈は彼女をとても大切にした。毎朝、菫の好きな朝食が心を込めて用意され、ダイニングテーブルには美味しいお菓子や新鮮なフルーツがずらりと並んだ。玲奈は優しく菫の眠り具合を尋ね、好みを聞いては毎日の服をコー
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第17話

一方、後藤家の人たちと勳は、菫の許しを得ようと必死にあらゆる手を尽くしていた。拓海と椿は毎日、菫との幼い頃の思い出を綴り、後悔の気持ちを込めた長い手紙を書いていた。そして、それを人に頼んで小山家まで届けさせていた。仁は菫の好みをあちこちで聞き出し、彼女が喜びそうな高価な贈り物をたくさん選んだ。そして、小山家の入り口を埋め尽くすほど送りつけ、これで菫の心を引きたいと願ってのことだった。さらに勳は、自身の人脈を使って世界中の珍品を集めた。そして愛情と後悔の念を綴った手紙を添えて、菫の元へ送った。しかし、菫はそれらを前にしても、まったく無関心だった。彼女はそれらの手紙や贈り物をすべて脇に置き、見向きもしなかった。菫の心は、過去の傷で凍りついていた。だから、そんな行動で心が動くはずもなかった。小山家での新しい生活は充実していて、とても楽しかった。小山家の人々がくれる愛情と優しさのおかげで、菫は過去の痛みを少しずつ手放せるようになっていた。でも、だからといって、彼女をあれほど深く傷つけた後藤家と勳を、簡単に許せるはずがなかった。ある日、菫は勳から「一度会いたい」という手紙を受け取った。菫は勳の手紙を握りしめたまま、しばらく思い悩んだ。でも、過去のしがらみを完全に断ち切るために、結局は指定された場所へ行くことに決めた。菫はシンプルなワンピースを選び、髪をラフにまとめた。そして薄化粧をして、どんなことが起きても冷静でいられるように、落ち着いた姿でいようと努めた。彼女が指定された廃倉庫に着くと、鼻をつくカビ臭さが漂ってきた。薄暗い照明が隅で揺れて、不気味な影を落としていた。思わずぞっとするような雰囲気だ。菫は倉庫の中へ足を踏み入れ、警戒しながらあたりを見回した。突然、隅からゆっくりと一つの人影が現れた。菫が目を凝らすと、それは乞食のような格好をした静香だった。静香の髪は枯れ草のようにボサボサで、服はボロボロ。顔も汚れだらけだった。でも、その瞳だけは、何を考えているのか分からない不気味な光を宿していた。「菫、来たのね」静香の声はひどくしゃがれていて、まるで地獄の底から響いてくるようだった。菫ははっとして、思わず一歩後ずさった。そして、「どうしてあなたがここにいるの?勳さんはどこなの?」と警戒しながら尋ねた。静香は冷た
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第18話

すぐに、後藤家の人たちと勳も駆けつけた。椿はその光景にへたり込み、声にならないほど泣きじゃくった。「静香、どうしてこんなことをするの?」拓海は目に怒りの炎を宿し、静香を睨みつけた。「この親不孝者が!こんな非道なことをするなんて!後藤家にどうしてお前のような人間が生まれてしまったんだ!」一方、勳は自分を責めるように焦った顔で、静香の手にあるナイフを睨みつけていた。静香が菫を傷つけてしまうんじゃないかと気が気でなく、低い声で言った。「静香、何かあるなら俺にしてくれ。菫を離すんだ。彼女は何も悪くない」静香はみんなの反応を見て、歪んだ笑みを浮かべた。彼女はナイフを振り回しながら、狂ったように言った。「何も悪くないって?彼女は私のすべてを奪ったのよ!私の家族も、私の恋も!」そして、静香は目に陰険な光を宿すと、その場にいる全員を睨みつけて大声で叫んだ。「いいわよ、そんなに彼女が大事なら、みんな土下座しなさいよ!」菫は信じられないという顔で静香を見た。「静香、あなた、何を……」その言葉が終わらないうちに、渉が真っ先にひざまずいた。それに続いて、剛と玲奈も。そして、勳も。さらに、拓海、椿、仁と、全員が静香の前にひざまずいた。「ひざまずいたぞ。菫を離せ」その光景を見て、菫は呆然とした。静香は、みんなが自分にひざまずくのを見ても満足するどころか、ますます狂気を増していった。「そんなに菫を愛してるのね!彼女のためなら、土下座までするんだね!じゃあ私は?お父さん、お母さん、お兄さん、勳さん。昔は、みんな私のことが一番大好きだったじゃない」静香は両親と勳を見回した。その目は苦痛と狂気が入り混じっていた。「それにあなたたちも!あなたたちは世界一偉いんじゃなかったの?世界一の大金持ちが、こんなクソ女のために土下座するなんて!なんでよ!なんでなのよ!」「土下座くらい、どうってことない!」渉は鋭く言った。「彼女を離してくれるなら、死んでやることだってできる!」拓海は狂ったような静香を見て、悲痛とやるせなさでいっぱいになりながら、震える声で言った。「静香、俺たちがお前を愛していたのは事実だ。だが、お前が何をしたか見てみろ。菫を何度も傷つけ、お前の心は嫉妬と憎しみでいっぱいじゃないか」椿は泣きながら懇願した。「目を覚まして、静香!こ
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第19話

救援隊が駆けつけた時、現場はめちゃくちゃな状態だった。みんなが菫をかばっていた。菫は一番下にいたおかげで、怪我は最も軽かった。次に軽傷だったのは、後藤家の人たちと勳だ。一番怪我がひどかったのは、誰よりも菫を守ろうとしていた渉たちだった。菫は渉たちを抱きしめ、胸が張り裂けるほど泣き叫んだ。「おじさん、おばさん、渉、目を覚まして!」一行はすぐに病院へ運ばれた。渉たちは出血がひどく、緊急で輸血が必要になった。菫がすぐに名乗り出たけど、血液型が一致しなかった。苦しむ菫の様子を見て、最後に勳が前に進み出た。彼は苦々しく言った。「俺と、渉さんの血液型は同じだ」続いて、拓海たちも前に出た。「俺たちは小山さん夫婦と同じ血液型だ」後藤家の人たちと勳は採血室に立ち、自分自身の血がゆっくりと採血パックに流れていくのを見ながら、複雑な思いに駆られていた。一方、菫は少し離れた場所で、小山家の人たちが運ばれていった救急治療室のほうを心配そうに見守っていた。彼らの方を一瞬たりとも見ることはない。菫の頭の中は小山家の安否でいっぱいで、自分たちの行動には全く気づいていないようだった。拓海は菫の後ろ姿を見ながら、腕に刺さる針の痛みよりも、心の痛みのほうがずっと強いように感じた。彼は何年も前に静香が入院した時のことを思い出した。あの時もこうして心配そうに付き添っていた。そばで菫が静かに涙を流していたのに、自分は慰めの言葉ひとつかけてやらなかった。今、立場が入れ替わり、拓海は無視されることの辛さを痛いほど感じていた。椿は唇を噛みしめ、目に涙をためていた。かつて、自分は静香のために心を込めて色々なプレゼントを用意したが、菫がそれを羨ましそうに見ていたことには気づかなかった。今、菫に無視され、心は後悔でいっぱいだった。仁は眉をひそめ、自責の念にかられていた。昔、静香の味方になって菫をいじめていたことを思い出した。今の菫の冷たい態度は、まるでナイフのように仁の心を突き刺した。勳は険しい顔で、過去に菫を傷つけたことを思い返し、罪悪感でいっぱいだった。勳は菫をじっと見ていた。一度でいいから、ほんの一瞬でもいいから、自分の方を振り向いてほしい。しかし、菫はただ小山家の人たちの方に向いていた。後藤家の人たちと勳は皆、これが運命のいたずら
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第20話

3日後、江川市で、とんでもないことが起きたんだ。拓海と椿が、自らの手で長女の静香を警察に突き出したのだ。彼らがこの決断を下すまでには、計り知れないほどの苦しい葛藤があった。静香が警察に連行されるのを見送りながら、椿は顔を覆って泣き崩れた。拓海も沈痛な面持ちで、その目には覚悟が宿っていた。かつてあれほど可愛がった娘が、まさかこんな道に進んでしまうとは夢にも思わなかった。菫がその知らせを聞いたとき、心の中は複雑な気持ちでいっぱいだった。しかし、それはほんの一瞬のことだった。なぜなら、家を出ると決めたあの瞬間から、菫は後藤家とも勳とも、もう一切関わらないと固く心に誓っていたからだ。退院後、小山家の人たちの体調は、徐々に回復していった。ある日、渉が意味ありげな顔で、菫に連れていきたい場所があると言った。菫は期待に胸を膨らませ、渉に連れられて、夢のように幻想的な庭園にやって来た。庭園は色とりどりの花で埋め尽くされ、花びらが敷き詰められた小道が、イルミネーションや風船で飾られたステージへと続いていた。周りには菫の大好きなユリの花がたくさん飾られ、ほのかな香りが漂っていた。菫が目の前の光景に驚いていると、ゆっくりと音楽が流れ始めた。渉は菫の前に進み出ると片膝をつき、瑞々しい赤いバラの花束を差し出して、愛情のこもった眼差しで彼女を見つめた。「菫、君と出会った瞬間から、俺の世界は変わった。君は俺の人生で最も輝く光だ。愛してる。一生かけて君を守りたい。俺と、結婚してくれないか?」菫は渉の真剣な目つきを見つめ、彼からの深い愛情を感じていた。菫が口を開こうとした時、慌ただしい足音がロマンチックな雰囲気を壊した。皆が振り返ると、そこには息を切らして駆けつけてきた勳の姿があった。勳の目には焦りと名残惜しさが浮かんでおり、まっすぐに菫を見つめていた。彼は数歩で菫と渉の前に進み出ると、菫を見つめ、少し震える声で言った。「菫、頼む。彼のプロポーズを受けないでくれ。俺は今までたくさん過ちを犯して、お前を傷つけた。でも、変わろうと努力してきたんだ。お前がいないとダメなんだ。お前への気持ちは一度も変わっていない。もう一度チャンスをくれ。償わせてほしい」場の空気は一気に張り詰めた。渉は立ち上がると菫を背後にかばい、警戒心に満ちた目で勳を
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