時を遡った後藤菫(ごとう すみれ)が、まず最初にとった行動は、1000億円という途方もない金をはたいて、外界から完全に隔絶された島を買い取ることだった。手続きを担当した職員は、驚きを隠せない様子だった。その島は全くの無名で、世間にはその存在すら知られていない上に、外界から完全に隔絶され、ナビにさえ載らない。まさに、この世界から完全に切り離されてしまうも同然の場所だったからだ。「後藤さん、本当にこの島を購入されますか?もし島に住むとなると、外の世界と連絡を取るのは難しくなりますよ」菫はうなずいた。その声には、どこか重荷を下ろしたような響きがあった。「ええ、私が望んでいるのは、誰からも連絡がつかないことなんです」電話口の職員は少し戸惑った様子だった。菫の言葉を不思議に思ったようだが、仕事柄それ以上は尋ねず、ただ購入手続きと入島できる時期について詳しく説明した。手続きが数日で終わると聞き、菫は安堵の息をついた。彼女はすぐにカードで支払いを済ませ、その場を後にした。彼女は頭上に広がる青空を見上げ、ほっと息をついた。島の購入費用は、黒崎勳(くろさき いさお)がくれた結納金だった。江川市一の富豪である彼は、いつも気前が良かった。だから結納金として、ぽんと1000億円もくれたのだ。前の人生では、死ぬまでこのお金に手をつけることはなかった。二度目の人生は、ちょうど彼と婚約した直後の時期に戻っていた。今回、もう自分を犠牲にするのはやめよう。菫はまず、そう心に決めた。彼女が通りに出ると、一台の黒いマイバッハが急ブレーキをかけて目の前に止まった。ドアが開き、勳が降りてきて、足早に菫の方へ歩いてきた。いつも冷静沈着な勳が、少し慌てているようだ。その瞳には、隠しきれない心配の色が浮かんでいた。人生をやり直してから初めて彼に会ったので、菫は思わずいつもの呼び名で声をかけた。「勳さん……」しかし勳は彼女をよく見ようともせず、ただその手を掴んで車の中へ引っ張った。「菫、早く、一緒に来てくれ」菫は後部座席に押し込まれ、ゴンと音を立てて頭をぶつけてしまった。勳はスマホの画面に目を落としていて、菫のことには全く気づいていないようだった。車は猛スピードで走り、やがて病院の前に停まった。勳は車が完全に停まるのも待たずに、
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