坂本恵美(さかもと えみ)は、信じられなかった。もうすぐ終わるはずの遠距離恋愛が、こんなにも惨めな結末を迎えるなんて。だって、森田暁(もりた あきら)ほど自分を愛してくれる人は、他にいないはずだったから。暁は忙しい病院の院長なのに、恵美に会うためだけに数えきれないほど飛行機に乗り、何千時間もかけて海外まで来てくれた。毎回ほんの少しの時間しか会えなかった。でも、初雪のなかで恵美を抱きしめ、「このくらい、なんてことないよ」と低い声で言ってくれたんだ。暁から贈られてきたプレゼントも、数えきれないほどだった。手書きの長いラブレターから、オークションで競り落とした十億単位の値がつくネックレスまで。恵美を笑顔にできるものなら、暁はなんだって手に入れようとした。たとえそれが空にうかぶ星だって、きっと命がけで取ってきてくれただろう。そんな骨の髄まで染み込むような深い愛情が、3年間、一日だって変わることはなかった。しかし、恵美が徹夜のフライトで帰国したときのことだった。友人たちは暁の変わらない愛をうらやましがっていたのに、当の暁本人が、かすれた声でそれを否定したのだ。その言葉を聞いて、恵美は認めざるを得なかった。心臓が、まるでじわじわと切り刻まれていくような、耐えがたい痛みに襲われていることを。暁の声は大きくなかったけど、個室の中は水を打ったように静まり返った。しばらくして、ようやく誰かが凍りついた空気を破った。「暁、冗談だろ?恵美とは、大学でも有名なお似合いのカップルだったじゃないか。恵美を見送った後、一人で子供みたいに泣いてたくせに。この3年間、どんなに無理しても海外まで会いに行ってたし……」友人は気まずそうに笑いながら、わざと大げさな口調で聞いた。「愛してないなんて、ありえないだろ?」「俺にも分からない」暁は淡々と答えた。いつもは冷静な暁が、どこか途方に暮れた様子で言った。「ただ、この3年間、すごく疲れたんだ。時間を作って恵美に会いに行くのは、もちろん嬉しい。でも、それ以上に、十数時間のフライトを往復する孤独と疲れの方が大きかった。プレゼントを贈るにも、いつも違うものを考えなきゃいけなかった。恵美は気に入ってくれるだろうか、喜んでくれるだろうかって、いつも気にしてた」暁は、いつもメスを握っている節くれだった
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