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第3話

Auteur: レイ
恵美は感情的になるのが好きではなかった。いつでも理知的で、冷静なのだ。

でも、夢の中ではいつもの自分らしくもなく、ヒステリックに暁と口論した。

「『疲れた』って言ってたけど、私が会いに行くって言ったわ。なのにあなたは怒って断って、『愛があれば、これくらいなんともない』なんて言ってたじゃない?

私が留学したのを恨んでるけど、これは二人で話し合って決めたことよ!あなたは『君の人生は、恋愛だけがすべてじゃない』って言った。だから私も、卒業したら必ずあなたの元へ帰って、もう離れないって約束したでしょ?

あなたが疲れているのは分かってた。だから理由も聞いたわ。でもあなたは『心配かけたくないから』って、はぐらかした」

恵美は狂ったように暁を問い詰めた。でも夢の結末は、現実と同じように、気まずいまま終わってしまった。

翌朝、恵美は割れるような頭の痛みで目が覚めた。顔を上げると、暁と視線がかち合った。

しばらく気まずい沈黙が流れた。暁は、血の気を失った恵美の顔を見て、とうとうため息をついた。

「仲良くしよう。もう騒ぐのはやめてくれないか?」

白いシャツの上に膝丈の黒いコートを羽織っていて、とても様になっている。暁は跪くようにして、恵美に暖かいブランケットをかけた。

その鋭く精悍な横顔が、記憶の中のあどけない少年の顔と重なる。でも、恵美の心はもうときめかなかった。ただ、苦さと冷たさが広がるだけだ。

「高木さんと俺は、ただの上司と部下の関係だ。信じられないなら、今日、病院に連れて行ってやるよ」

「ええ」恵美はうなずいた。少し間を置いて、消え入りそうな声で言った。「あとで、私からも話があるの」

昨夜、研究を続けることを決めた。知らない大学を選び、1週間後に出発する航空券も迷わず予約したのだ。

これは意地を張っているわけではない。むしろ、たくさん考えた末の決断だった。

暁が一時的な怒りで言ったのだとしても、あの言葉は砕けた石のように、心に突き刺さっていた。じくじくと痛んで、無視なんてできなかった。

恵美が求めていたのは、いつだって純粋な愛情だけだった。もしそうでないなら、胸が張り裂けそうになっても、いっそ捨ててしまいたい。

ただ、暁への敬意から、きちんと伝えようと思った。せめて、円満に別れるという体裁は保ちたかったのだ。

車の中では会話もなく、やがて病院の前に着いた。

暁が車を停めていると、一本の電話がかかってきた。微かに、泣きじゃくる女の声が聞こえる。

向こうが何を言ったのか、暁は急用ができたと言った。恵美に、先に診察室で待っていてくれと告げた。

道がわからない、と恵美は言おうとした。でも暁は慌てて車のドアを閉めてしまい、恵美は急いで去っていく彼の背中を見送るしかなかった。

だだっ広くて少し不気味な駐車場に、恵美は一人取り残された。

病院はとても広くて、方向を見つけるのにかなり時間がかかった。

エレベーターで10階まで上がると、ナースステーションへ向かった。診察室の場所を尋ねるつもりだった。

すると、若い看護師たちが興奮した様子で話しているのが聞こえてきた。「だから言ったでしょ!高木先生が患者さんにちょっと文句を言われてしょげてたら、電話一本で院長が飛んできたのよ!」

恵美はその場で足を止めた。

なるほど、これが暁の言う「急用」だったのか。自分のことなんて、ためらいもなく置き去りにして。

「どう見ても、院長は高木先生のこと、彼女みたいに可愛がってるよね!

診察でも手術でも、手取り足取り教えてるし、もう完璧な彼氏って感じ!この間なんて、患者さんのご家族に『いつ結婚するの?』ってからかわれてたんだから!」

ある看護師が小声で尋ねた。「でも、院長には婚約者がいるんじゃなかった?」

別の看護師が「ちぇっ」と舌打ちした。「海外にいる彼女なんて、会えなきゃ意味ないでしょ。それに比べて、可愛い高木先生はどう?にっこり笑ったら、院長はもうメロメロよ!」

恵美はしばらくその場に立ち尽くした。自嘲の念が、ゆっくりと彼女を飲み込んでいく。

振り返ると、廊下の突き当たりに暁と佳奈が立っているのが見えた。

佳奈が羽織っている大きなコートに、恵美は見覚えがあった。自分が暁に贈った、記念日のプレゼントだ。

以前、なぜ着てくれないのかと暁に尋ねたことがあった。彼の答えは「大事すぎて、しまい込んである」だった。

まさか、あれも嘘だったなんて。

この3年間で、暁は一体いくつの優しい嘘を重ねてきたのだろう。その嘘が暴かれるたび、それはまるで緻密に編まれた網のようだった。恵美の全身を縛りつけ、傷だらけにしていく。

佳奈は目を真っ赤にして、いかにも可哀想な様子で泣いていた。

暁は優しく佳奈の頬の涙を拭う。その目は、溢れんばかりの愛情で満ちていた。「もう泣くな。俺が仕返ししてやっただろ?

俺がいる限り、誰も君をいじめたりはさせない」

権力のある男に優しく慰められ、佳奈は涙を拭いながら、笑顔を見せた。そして、唇をとがらせて甘えた声で尋ねる。「じゃあ、教えてくれます?昨日の夜、院長に電話してきた女の人は誰ですか?」

暁は押し黙った。

ほんの数秒だったはずだ。でも、恵美にとっては、一年もの時間に感じられた。

静まり返った後、暁の低い声が聞こえた。「ただの友達だ。親しくない」
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