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第5話

Auteur: レイ
「なんでこんなことに……」

恵美が静かに話し終えると、親友の西村杏(にしむら あん)は憤慨してテーブルを叩いた。そして心配そうに顔を近づけて、恵美をなぐさめた。「恵美、そんなに気を落とさないで」

恵美の心はもう空っぽだった。彼女は静かに首を振り、「もう悲しくなんかないから」とささやいた。

むしろ杏のほうが、泣きながらお酒をあおっていた。「森田さんはなんで、恵美が絶対に出て行かないなんて思えたわけ?

あなたの性格は、私だって知ってるわ。中途半端な妥協なんて、絶対できない人だもの。

あのクズ男には、あなたを完全に失うってことがどんなことか、思い知らせてやらなきゃ!新しい大学のことは知らないんでしょ?見つけられなくて、絶対に胸が張り裂けるほど後悔するに決まってるわ!」

言い終わるやいなや、杏はカウンターに突っ伏してしまった。恵美は呆然としていた。

暁が、本当にそんなふうになるかしら?

結局、杏は彼氏が迎えにきて、恵美が会計を済ませた。

その時、振り返った拍子に、暁の幼馴染とぶつかってしまった。

幼馴染は、恵美の顔を見るとぱっと明るくなった。そして、いきなり恵美の腕を掴む。「恵美さん!暁をなんとかしてよ、あいつ、酔っ払って大変なんだ!」

恵美が抵抗する間もなく、個室の中に引きずり込まれてしまった。

中はみんなの笑い声で盛り上がっていた。「高木さんがまた負けだ!今回の罰ゲームは、ここにいる男の誰かにキスすること!一体、誰がその幸運を手にするのかな!」

佳奈は、うるんだ瞳で、助けを求めるような、甘えるような視線を暁に向けた。そして、甘ったるい声でささやく。「院長、お願い、助けてくれませんか?」

暁はシャツの襟元を少し緩めていた。目じりは酒でほんのり赤らんでいる。アルコールで思考が鈍っているのだろう、「何だ?」と聞き返した。

ようやく状況を理解した暁は、友人に「ふざけるな」と首を振ろうとした。

しかし、ピンクに染まった佳奈の横顔は、もう目の前にあった。その柔らかい手のひらが、頬をそっと撫でる。

暁の瞳がすっと暗くなった。喉をごくりと鳴らし、深く佳奈に口づけた。

暁はドアに背を向けていた。だから、恵美の瞳から急速に光が失われていくのには気づかなかった。

一方、佳奈は、息を切らしながらも恵美にちらりと視線を送った。そして得意げな笑みを浮かべ、挑発するように唇だけでこう動かした。[お、ば、さん]

恵美の目つきが冷たくなった。彼女は暁の幼馴染に向かって、鋭い声で「放して」と言った。

幼馴染は謝ったり、暁をかばったりしてもたもたしている。その間に、佳奈が静かに近づいてきた。

佳奈はにこりと目を細めた。「院長、すごく激しくて、舌も入れてきたんですよ……恵美さんは、やきもちなんて焼かないですよね?」

「若いのに、恥ずかしげもなく愛人をやってることにですか?」恵美は鼻で笑った。

佳奈は途端に顔色を変え、逆上して言い返した。「愛されてない方が、邪魔者でしょう!

もうアラサーのくせに、私と張り合う資格なんてあると思ってるんですか?」

佳奈は自分のキャミソールの細い肩ひもをくいっと引っぱった。そして恵美の地味な服装を軽蔑するように一瞥し、クスっと笑った。「どうりで院長に相手にされないわけですね。年増なだけじゃなくて、色気もまったくないんですから。

海外研修に行けたんですって?まさか、教授の前で服でも脱いで、片っ端から外人にでも抱かれて、その資格を手に入れたんじゃないんですか?」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、恵美は手を振り上げ、佳奈の頬をひっぱたいた。

パシッ!

乾いた音が、あたりに響いた。

平手打ちをくらって顔を背けた佳奈は、信じられないというようにゆっくりと振り返った。そして、ヒステリックに叫んだ。「よくも私を叩きましたね!?」

「なぜだめなんですか?」恵美は冷たい視線を向けた。「トイレより汚いその口を閉じてください」

口論の声が大きくなり、酒の匂いをさせた暁が、ついに薄暗いその一角に気づいた。
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