「五分休符」が最初の一歩として選んだのは、煌びやかなステージではなく、地方にある小さな児童養護施設だった。 「歯科医だった僕たちにできる、最小単位の救済」として閑が提案したこのイベントは、VTuberとしてのアバターをプロジェクターで映し出し、子供たちに絵本の朗読と、歯の大切さを説く物語を届けるというものだった。「わあ、騎士様だ!」「声がすっごくかっこいい!」 モニター越しに跳ねる子供たちの無垢な歓声に、閑の胸が熱くなる。白衣を着ていた頃よりも、ずっと身近に、深く、彼らの心に触れている実感があった。「いいわね。この『純粋な共鳴』こそが、次の陽動作戦の種になるわ」 館花琴音は、会場の隅で静かにその光景を記録していた。彼女の狙いは、このボランティア活動を美談として消費させることではない。これを「真実の証明」として、ネットの海に投下することだった。 数日後、その映像がSNSで拡散されると、思わぬところから声がかかった。登録者数数百万人を誇る超有名VTuberからの、コラボレーションの打診だ。「やれやれ。またふりまわされるのか……はいはい」 総悟が、届いたメールを指で弾きながら笑う。「でもね、琴音さん。相手は来月のドームツアーのオープニングアクトを探してるんだってさ。僕たちの『朗読』で、五万人の観客を黙らせてほしいらしいよ」「……ドームの前座?」 理の声が震える。歯科医という安定を捨て、不安定な道を選んだ彼らに、いきなり巨大な試練とチャンスが舞い込んだのだ。 琴音は不敵に微笑んだ。「朗読で驚かせる準備はできたわね。五万人の孤独を、一瞬で『休符』に変えてやりなさい」 ドーム当日。漆黒の衣装を纏ったアバターが巨大スクリーンに映し出された瞬間、会場は静まり返った。 閑の重厚な低音、理の理知的な響き、蒼太の繊細な声……五つの個性が重なり合い、琴音が書き下ろした「魂の解放」の物語が、地鳴りのような共鳴を引き起こす。 その夜、SNSのトレンドは『五分休符』一色に染まった。 「まるで現代のシンフォニアだ」「ただのアイドルじゃない、救済者だ」 その熱狂は、ついに地上波ラジオ局のプロデューサーの耳にまで届く。「次はどんなクズを、どう料理してやろうか……なんて言ってる暇はなさそうね」 琴音は、鳴り止まない電話を無視して、5人に
最終更新日 : 2026-05-09 続きを読む