「……VTuber、ですか?」閑の低く硬い声が、深夜の診察室に落ちた。手元にあるのは、プロデューサー・館花琴音が提示した新しい戦略図だ。そこには、五人の歯科医それぞれの魂の形を抽象化した、どこか幻想的で冷徹なアバターの設計図が並んでいた。「そうよ。今のあなたたちは、顔が売れすぎて『歯科医としての安全』を脅かされているわ」琴音は、窓の外に広がる無機質な夜景を見つめたまま、冷徹に告げる。「ミーハーな群衆は、あなたの治療技術ではなく、その『顔』を消費しにやってくる。それは、私たちの本懐ではないはずよ」琴音が振り返る。その瞳には、すでに数手先を読み切った軍師の光が宿っていた。「人の心を文章で陽動作戦してみせる。姿を消すことで、聴衆の耳はより鋭敏になり、言葉はより深く刺さるようになるわ。肉体という檻を捨て、概念として君臨しなさい」「やれやれ。またふりまわされるのか……はいはい」沖田総悟が、呆れたように、しかし楽しげに肩をすくめた。彼は手元の端末を操作し、大型モニターに五つの漆黒のアバターを映し出す。「でもね、閑くん。これはただの変装じゃないんだ。匿名性という壁の向こう側から、相手の無意識を一方的に狙い撃つ……いわば、魂の狙撃手になるための装備だよ。これなら、診察室にカメラを向けられることもないだろう?」理が眼鏡を指で押し上げ、モニター上の設計図を凝視する。「……確かに、視覚情報を遮断し、アバターというフィルターを通すことで、僕たちの『声』そのものが持つ治癒力は増幅されるかもしれません。しかし、ファンたちは納得するでしょうか?」「納得させる必要はないわ」琴音は言い切った。「これは選別よ。顔を見に来る群衆を切り捨て、物語を、音を、魂の震えを求める『聴衆』だけを残すための、冷徹なフィルター。……準備はいい? 今夜から、あなたたちの声は電子の海を漂う『救済の毒』になるわ」五人は、促されるまま防音スタジオへと足を踏みした。そこは、現実世界の重力や肩書きから解放された、繭のような空間だ。閑は歯科医の白衣を脱ぎ捨て、マイクの前に立った。モーションキャプチャーのセンサーが彼の動きを拾い、モニターの中の「漆黒の騎士」へと同期していく。画面の中の騎士が、閑の呼吸に合わせて、ゆっくりと重厚な瞳を開いた。それは、現実の「閑」よりも、彼の内面
最終更新日 : 2026-05-05 続きを読む