《夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした》全部章節:第 131 章 - 第 140 章

271 章節

131話

伏見の雰囲気がぴりぴりとした物に変わり、緊張感が満ちる。 店員達は笑顔を浮かべてはいたが、その顔色は可哀想なほど悪くなっている。 そんな店員達を気にする事もなく、伏見はドレスを着ている音羽をじっと見つめながら低い声でまるで唸るように告げた。 「この、最後のドレスは駄目だ。音羽の足が出過ぎている。音羽の足が綺麗なのは認めるが、他の男の視界に入れたくない」 「──へ?」 「……何だ、音羽。その顔……」 まさか伏見からそんな事を言われるとは思わなかった音羽は、ぽかんとしてしまった。 まさか、嫉妬だろうか──。 蓮夜が──? そんな事を考えた音羽の頬が、じわじわと熱くなる。 「なっ、何を……そんな事、急に……」 音羽は真っ赤になった顔を隠すように自分の両手で顔を覆いつつちらり、と伏見を見やる。 伏見はどこか面白くなさそうな様子で音羽を見ていたが、今度は考え込むようにじっと音羽を見つめている。 「れ、蓮夜……?」 「……」 「あの……」 「……そのドレス」 口を開かず、ただじっと音羽を見つめていた伏見がようやく口を開いた。 と思えば、突然ドレスの事を口にされ、音羽は戸惑いつつ「ドレス?」と自分の着ているドレスを見下ろした。 ダークネイビーのドレスで、裾に向かうにつれてグラデーションがかかり、濃くなっている。 曲線が分かるように音羽の体の線にぴったりと沿うドレス生地は、さらりとした肌触りでとても心地良い。 少し胸元と、背中がざっくりと空いていて恥ずかしいが、とても素敵なデザインだ、と音羽は思っている。 先程、店員が言っていたように、太ももの下辺りから大胆なスリットが入っていて、歩くと音羽の白くすらりとした足が見え隠れする、とても刺激的なドレスだ。 何か変だろうか?と音羽が不安に思っていると、伏見は真面目な顔でオーナーに振り返った。 そして、話す。 「今まで着たドレスは全部購入する。靴とアクセサリーもだ。車に運んでくれ。あと、今妻が着ているドレスはそのまま着て帰る」 「──えっ!?」 「支払いはこれで済ませてくれ」 「ありがとうございます」 すすす、と近付いて来たオーナーに、伏見は懐から取り出したカードを渡す。 黒い、高級感のあるトレーにカードを受け取ったオーナーは一礼するとそのまま退がった。 「え。え……?蓮夜、
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132話

音羽の口元がもにょもにょとしてしまい、ニヤけてしまわないように何とか表情を引き締めていようとしたが、そんな音羽のささやかな頑張りなど、伏見にはお見通しなのだろう。 「……音羽。何ニヤついてるんだ?」 じとりとした目で音羽を見やった伏見は、音羽の頬を摘む。 どこか、伏見自身も照れくささがあるのだろう。 音羽の頬を摘む伏見の頬も微かながら赤くなっているのが見える。 「ふっ、ふふ……ごめんなさい蓮夜。何だか嬉しくって」 「俺の独占欲が嬉しいのか……?変な奴だな。嫌じゃないのか?」 音羽の言葉に、伏見はきょとりと目を瞬かせる。 確かに、伏見の言う通り独占欲と言う物は、行き過ぎれば嫌だと感じるかもしれない。 独占欲や、束縛を、窮屈だと感じる人は世の中に一定数以上いる。 音羽も、自分はそんな部類の人だと思ったいた。 「ふふっ、私も……束縛とか独占欲とか……そういったものを向けられるのが嫌なタイプの人間だと思っていました。だけど、本当に好きな人から向けられる独占欲って、凄い嬉しいんだって気づきました」 「……そんな甘い事を言ってると、調子に乗るぞ」 「ええ、ぜひお願いします。蓮夜に独占されるのも、束縛されるのも私にとっては嬉しいだけです」 心の底から本心を喋っている。 それが分かって、伏見は堪らず音羽に口付ける。 まだブティックを出ていないと言うのに、そんな事をしてきた伏見にびっくりした音羽だったが、嬉しそうに頬を綻ばせている伏見を見てしまえば、怒る事も出来ない。 音羽は笑いつつ伏見の胸を小さく叩いた。 「蓮夜……、ここはまだお店の中です」 「ああ、知ってる。だから可愛らしいキスだけにしてるだろう?褒めてくれ」 「──もうっ」 くすくすと2人で笑い合っていると、2人のもとにオーナーがやって来た。 「伏見様、奥様。お品物を車に運ばせていただきます」 「ああ、頼む」 こくり、と頷いた伏見の横を、ブティックの店員達が通り過ぎる。 手には伏見が購入した品物を沢山抱えていた。 車に詰め込まれていく購入品を眺めていると、音羽の腰を抱いていた伏見が口を開く。 「音羽、時間もちょうどいい。早めの夕食を食べて行くか?」 「えっ、でもこの格好で?」 「ああ。うちの組の管轄にいい店がある。そこは雰囲気も良いし、今日の音羽の装いにピッタリだ。
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133話

都内にある高級クラブ。 伏見の車が店の前の道に停まると、耳に無線を付けた黒服の男性が慌てた様子で走り寄って来た。 「伏見様!」 「上、空いてるか?」 「は、はい!今ご用意いたします!」 「分かった。車を頼む」 窓を開け、そんな会話を交わす伏見と黒服の男性。 そんな2人の会話を聞いていた音羽は、伏見がどういった立場の人なのかを、改めて実感した。 (あんなに怖そうな人に、蓮夜は頭を下げられる存在なのね……。蓮夜のところが管轄してるお店、って言ってたけど……こんな都内の高級クラブを……?) 音羽も知っているくらい、ここは都内でも有名な高級クラブが立ち並ぶ一等地だ。 音羽が唖然と見つめていると、運転席から降りた伏見が助手席のドアを開けた。 「音羽、どうした?」 「──あっ、いえ!何でもないです!」 手を差し出してくれる伏見に、音羽は自分の手を重ねる。 すると、伏見から強く腕を引っ張られ、音羽はそのまま伏見の胸元に引き寄せられた。 「わっ、わぁっ!」 「──あまりその姿で俺以外の男を魅了してくれるなよ?嫉妬して音羽をめちゃくちゃにしたくなる」 「──っ」 くつり、と喉奥で艶やかに笑う伏見。 真っ赤になった音羽の頬をするり、と撫でたあと、伏見は自分が着ていたスーツを脱ぐと音羽に羽織らせる。 「背中も、胸元もこれで隠しておけ」 「蓮夜がこの服をそのまま着て帰るって言ったのに……」 「ああ。見せびらかしたい気持ちもあるからな」 「もう……」 「男心ってのは複雑なんだよ」 くすくすと笑いながら伏見は音羽の腰に手を回し、ぐっと引き寄せる。 音羽はもう、と呟きつつ店に向かって歩く伏見に倣い、足を進めた。 黒服の男性に案内され、店の廊下を歩いている時。 「伏見さん!」 伏見の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。 ぴたり、と足を止めた伏見は音羽の腰を抱いたまま振り返ると何の感情も浮かんでいない顔で口を開く。 「──ああ、彩花か」 「お店に来てくれるなんて。事前に教えてくだされば良かったのに……」 「急に決めたもんでな」 廊下の向こうから歩いてくるのは、露出したドレスを着つつ、それでも下品には見えない気品ある佇まいの美人な女性だった。 艶やかな黒い髪の毛が、女性が歩く度にさらりと流れ、しなやかな白く長い手足が眩しい。 露出さ
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134話

「──あら。伏見さんの新しいイロかしら?ふふ……伏見さんって年上もいけたのね?」 「い、いろ……?」 彩花の放った言葉の意味が分からず、音羽が困惑するような様子を見せると、目の前にいた彩花は益々笑みを深めた。 そして、再度口を開こうとしたところで──。 「──おい」 伏見の重低音が響く。 たった一言。たった一言発しただけなのに、一瞬にしてその場にぴりっとした緊張感が満ちる。 伏見の声にびくり、と肩を揺らした彩花は真っ青な顔をすると、怯えたように伏見を見上げる。 「何を勘違いしているのか分からないが、お前なんぞと音羽を同列に語るな」 「も、申し訳──」 音羽の腰を抱き、歩き始めた伏見は彩花の横を通り過ぎる寸前、音羽には聞こえない程度の声でぼそり、と彩花に向かって呟く。 「これ以上余計な事を口にするなよ?お前1人くらいどうとでも出来る」 「──っ、も、申し訳、ございませんでした……」 ガタガタ、と全身を震わせて真っ青になっている彩花。 伏見が彩花に何を言ったのかが分からず、音羽は眉を下げつつ伏見を見上げた。 「何を言ったの?」とでも言うような音羽の視線に、伏見は先程の無表情など嘘のように音羽に微笑んだ。 「気にするな。部屋に行こう、音羽」 「え、ええ……」 廊下で頭を下げ、震えている彩花を背後に残し、音羽と伏見はそのまま進んで行く。 音羽に見えないように伏見は後ろ手で軽く手を振って指示をする。 すると、どこに控えていたのか。 数人の黒服が素早く現れ、頭を下げ続ける彩花の口元を布で覆い、目にも止まらぬ早業でどこかに連れて行ってしまった──。 高級クラブの個室。 いわゆる、VIPルームと呼ばれている場所だろう。 そこに通された音羽は、珍しそうに部屋の中を見回した。 以前、律子から連絡を受けて伏見を迎えに行った部屋とはレベルが違う。 壁の一面がガラス張りになっており、階下のホールを見下ろせるようになっている。 「ここの下って……」 「ああ……。時折小規模なパーティーを開催する時に使ってるみたいだ」 「今日はパーティーが開かれないんですかね……」 階下を見下ろしていた音羽は、今は人ひとりいない寂しげなホールを見てぽつりと呟く。 音羽の言葉に、同じくホールを見下ろしていた伏見は、何ヶ所かに目を向け「いや……」と口を
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135話

「れ、蓮夜……近い、です」 「そうか?これくらい普通だろう?」 くつくつ、と楽しげに笑う伏見。 伏見はそのまま音羽を自分の腕の中に閉じ込めるように背後から抱きしめる。 驚いたような声を上げて見上げてくる音羽に、軽く口付けを落とすと、伏見は階下を見下ろしたまま真剣な表情で呟いた。 「……こういった場所を利用するのは、大企業の社長や重役が多い。時折、政治家も利用する事もある」 「──えっ」 「この国の中心で、夜な夜な企業の重役達が秘密裏にこの場で密会する事もある。……もちろん、玉櫛ホールディングスの重役達もこの店で見かけた事がある」 「──!」 どうして伏見がここに連れてきたのか。 その意味が分かっていなかった音羽だったが、伏見が「玉櫛ホールディングス」の単語を口にした時にようやく分かった。 この場所で、玉櫛ホールディングスの重役が参加するパーティーが開かれている。 そして、それはきっと過去に何度も開かれているのだろう。 その情報を知っていた伏見は、恐らく「表会社の社長」として何度か接触をしているのだろう。 そんな雰囲気を、伏見からヒシヒシと感じた。 そして、それはきっとあまり良くない意味での接触──。 目的があって、近付いたのだろう。 そんな事をまるで世間話をするような雰囲気で、天気の話をするような雰囲気でさらりと話す伏見に、音羽はそこで初めて伏見の「裏の人間」としての恐ろしい一面を感じた。 だが、伏見が玉櫛ホールディングスの重役と接触を図ったのは自分のためであろう事も同時に理解した。 伏見がそんな面倒な事をするのは、そんな事をする理由は、自分しかない。 音羽は伏見の胸元をぎゅっと握ると彼を見上げる。 「──ありがとうございます、蓮夜」 「急にどうした、音羽」 伏見は音羽の言葉に敢えて惚けて見せた。 それが、伏見なりの優しさだと分かった音羽は、自ら彼の首に腕を回し、背伸びをした。 音羽のしたい事が分かったのだろう。 伏見が音羽の腰を抱き寄せ、少しだけ屈む。 つま先立ちになった音羽はそのまま伏見の唇に軽く触れるだけのキスを落とす。 すると、目の前の伏見の表情がとても嬉しそうな明るい顔に変わっていて。 音羽は堪らない気持ちになる。 子供の頃、確かに伏見を助けた。 だが、それだけでこんなにも自分の事を助けてく
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136話

それから、2人は個室で暫くゆったりと過ごした。 伏見がシャンパンや軽食を頼み、2人で美味しいシャンパンや食事を楽しんだ。 個室には大きなテーブルと、それに合わせたソファがある。 今、2人はその大きなソファに隣り合って座っているのだが、室内にはキングサイズのベッドも置いてある。 部屋の隅にそのベッドがあり、ソファに座っている音羽の視界にもそのベッドはしっかりと存在を主張していた。 薄暗く、この部屋の雰囲気的にあのベッドの用途が音羽にも分かり、そのベッドが視界に入る度に音羽は微かに頬を染めてしまう。 もしかしたら、伏見はここで……。 そんな想像をしてしまい、音羽はちらりと伏見を見てしまうのが先程から止められなかった。 音羽の腰に手を回し、抱き寄せていた伏見は何の動揺も見せず、普段と変わらない態度でシャンパングラスを煽っている。 だが、もちろん伏見にも先程から音羽がそわそわしているのは分かっていた。 ベッドを視界に入れる度に意識して、ちらちらと視線を向けられているのが分かっていた。 だが、伏見はこの場で音羽の事を抱く気はなかった。 この個室は、過去に様々な人間が使用している事も伏見には分かっていた。 あのベッドも、沢山の男女に利用されている。 そんな場所で、アブノーマルな抱き合いをするような人間が殆どのこんな場所で、伏見は音羽の事を抱く気は一切無かったのだ。 だが、ベッドを意識して頬を染める音羽がとても可愛らしかったため、伏見は音羽にその事を話してはいなかった。 だが、そろそろ黙っているのも可哀想だ、と思った伏見は音羽をぐっと抱き寄せ、くつりと喉奥で笑い声を上げた後、耳元で囁いた。 「心配するな音羽。こんな所で音羽を抱くつもりは無い」 「──ひぇっ」 伏見の艶やかで、低い声が直接脳内に吹き込まれるような心地がして、音羽は思わず肩を震わせた。 くつくつと楽しげに声を震わせながら、伏見は続ける。 「家の方が何も考えずに思いっきり乱れるだろう?ここは店だ。誰かが入ってくる可能性を考えながら俺に抱かれるのは音羽も嫌だろう?」 「──〜っ」 その事を告げると、抱き寄せていた音羽の体が羞恥でカッと熱を持ったのが、伏見の手のひらから伝わる。 「だが、安心してくれ。家に戻って……恭と遊んだあと、音羽が満足するまで付き合うよ」 「ま、満
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137話

「──〜んんぅっ!」 音羽の喘ぎ声を聞きながら、伏見がキスを楽しんでいると。 階下のパーティー会場にパラパラと人が集まりだしたのが分かった。 (パーティーが始まる時間になってしまったか?そろそろここを出て、家に帰ってもいい頃かもな) 音羽に口付けつつ、伏見はそんな事を考える。 これから帰宅すれば、恭が保育園から帰宅する時間に合わせる事が出来るかもしれない。 恭に、着飾った音羽を見てもらいたい。 本当のお前の母親は、こんなに綺麗で愛らしい、と言う事を見せてやりたい、と伏見は思っていた。 綺麗で、優しく。自分に対して惜しみない愛情を注いでくれる音羽に、恭は無意識の内に惹かれている。 今日、着飾った一際美しい音羽を見たら、恭の胸の中に「こんな人が自分の母親だったら」と言う気持ちが更に強く芽生えるかもしれない。 (そうなってくれれば、あのクズ夫婦から更に離しやすくなる) 音羽との口付けを楽しみながら、そんな事を考えていた伏見の視界に、ふと階下に居るパーティーの参加者が目に入った。 今日は小規模のパーティーらしく、フロアには普段の溢れる程の人はいない。 だからこそ、ひとりひとりの顔が良く見えた。 伏見の目は、ある男を見た瞬間見開かれた。 「──ん、蓮夜……?」 突然キスが止まり、音羽は閉じていた瞳をそろそろと開く。 すると、目の前の伏見はあからさまに驚いたように目を僅かに開き、階下にあるフロアを凝視していた。 「蓮夜、どうしたんですか?」 「……音羽。あそこに居るのは……」 「──!」 伏見の視線を追い、フロアを見た音羽。 そして伏見と同様、驚きに目を見開いた。 だが、驚いたのも束の間。 音羽は眉を顰め、嫌そうに呟いた。 「ええ……。あそこに居るのは、元夫……ですね。どうして、ここに……」 音羽の元夫、樹は裕衣ではない女性と一緒にパーティーに参加しているようで。 彼の隣には、綺麗な女性がぴったりと寄り添っていた。 そして、樹も満更ではないような様子で、女性の腰を抱き寄せているのがここからでも分かった。 「──今日のパーティーの内容を確認する。今から人を呼ぶから、そのとろんとした顔は見せないでくれ」 「な……っ、何をっ」 「ああ、ほら。口元も滲んでいる。化粧室で直してきてくれ」 伏見は乱れ、滲んでしまった音羽の
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138話

化粧室でメイクを直した音羽が部屋に戻ると、伏見は先程のソファに変わらず座っていた。 シャンパングラスを傾けていた伏見は、音羽がやって来た事に気が付くと、ちょいちょいと手招きをする。 「蓮夜」 「もう確認した。今日、この店ではある企業がパーティーを主催しているらしい。そのある企業ってのが玉櫛ホールディングスだ」 「玉櫛ホールディングスが……?どうして……」 「最近、玉櫛ホールディングスと取引のあった企業が次々と他社に買収されているからな。これ以上取引先を失わないよう、無駄な抵抗をしてるって訳だ」 ふん、と鼻で笑うように告げる伏見に、音羽は彼の顔をじっと見つめる。 「……もしかして、その買収に……蓮夜が関わっていますか?」 音羽の言葉に伏見は軽く肩を竦めただけで、何も答えない。 だが、何も答えない事が既に答えのようなものだ。 否定も、肯定もしない。 ただ軽く肩を竦めただけで、笑みを浮かべている。 「やっぱり……」 音羽はため息をつくと、心配そうに言葉を続けた。 「その……大丈夫ですか?無理して、ない……?」 「ああ。何も問題ないから音羽は気にするな」 伏見は勝気な笑みを浮かべたまま音羽に言葉を返すと、音羽にある提案をした。 「そこで、提案だ音羽。下で開催しているパーティーに、この個室を使用している俺たちも参加可能らしい。……下に降りてみるか?」 「──えっ!?」 まさか、下に降りてみようなんて言われるとは思わなかった音羽は、ぎょっと驚く。 「別にあいつ本人と相対する訳ではない。そもそも、音羽をあいつに会わせる事は俺がしない」 「……蓮夜は、下で何かやりたい事があるんですよね?」 音羽の言葉に、伏見はにんまりと笑みを深める。 「そうだな。こんなに綺麗な音羽を、あいつに見せつけてやりたい、とは思ってる」 「も、もう……!ふざけないでください、蓮夜!」 「ははっ、ふざけてはいないさ。本心ではある。だが、下に降りて少しばかり話したい人間がいるのも事実だ」 「──分かりました。私は蓮夜の隣に居ればいいですか?」 「ああ。絶対に俺から離れてくれるなよ?」 「ええ、もちろんです」 こくり、と頷く音羽に伏見は「いい子だ」と頭を撫でる。 まさか頭を撫でられるとは思わなかった音羽は、恥ずかしさに頬を染めたがどこか嬉しそうに口元
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139話

伏見と音羽が階下のパーティーフロアに降りると、参加客達がざわり、とざわめいた。 身長が高く、容姿の整った伏見は遠目からでも人目を引く。 そして、その隣に立つ女性──音羽も、人目を引いた。 音羽は元々ハッと目が覚めるような美人だ。 だが、樹の妻だった時の音羽は化粧っ気はなく、いつも不安そうで、俯いている事の方が多かった。 服装も樹が派手な服装を禁止していたので、音羽はいつも地味で冴えない安物のスーツ姿ばかりだった。 そのため、音羽が会社で働いている頃は、殆どの人が音羽が美人だと言う事に気付いていなかった。 だが、今。 伏見の隣に立つ音羽は、自分に合ったメイクを施しているため、元々美人だった音羽の顔立ちを更に美しく際立たせている。 そして、伏見が音羽のために選んだドレスはとても刺激的なのに上品で。 音羽が歩く度に深く入ったスリットからスラリと伸びた音羽の足が、太ももが、ちらりと覗く。 白くしなやかな音羽の太ももがスリットからちらりと覗く度に、周囲の男達はまるで釘付けになったように熱い視線を音羽に向けていた。 だが、誰も音羽には近付こうとしない。 それは一重に、音羽の隣に立つ伏見がどう見ても「普通」ではないからだ。 酷く整った容姿の、長身の男。 一見、細く見える伏見だが、スーツの下は引き締まった体をしており、しなやかな筋肉が付いている。 見る人が見れば、ただの細い男ではないと言う事が分かる。 だが、伏見が「普通の人」ではない、というのはその雰囲気から、伏見から溢れ出る空気感から、簡単に察する事が出来る。 音羽に向ける笑顔はとろり、と蕩けているが、音羽に近付こうと足を踏み出す男がいれば、途端に伏見の目は冷たく凍てつき、殺気すら籠っているような目で睨まれる。 ただの参加者じゃない──。 パーティーの参加者達はみな、直感的にそう判断し、音羽や伏見に挨拶をする事なくただただ慎重に2人の動きを見守っていた。 だが、その中で一人の男が命知らずにも音羽に話しかけようと近付いた。 その男こそ「平和テック株式会社」の社長子息、平田 葵(ひらた あおい)だ。 平田は、目の前に現れた極上の女──音羽に話しかけようと足を踏み出し、口を開いた。 「こんにちは、初めましてですね」 「──?」 まさか自分に話しかけているとは思わなかった音羽は、不
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140話

「──これは、平田さんじゃないですか。こんなところでお会い出来るなんて、奇遇ですね」 口元に薄っすらと笑みを浮かべて穏やかな声で告げる伏見。 だが、その声は穏やかではあるが低く、重い。 そして伏見の口元は笑みを浮かべてはいるが瞳は凍てつくように冷たく、平田を鋭く見つめていた。 数々の女性と浮き名を流してきた平田は、トラブルに巻き込まれる事も多かった。 パートナーがいる女性に手を出す事も多い平田は、男女のトラブルに巻き込まれる事も日常茶飯事だ。 そのため、平田自身体だって鍛えている。 だが、目の前に立つ伏見を見た瞬間、平田は「敵わない」と直感的に悟った。 だが、目の前にいる極上の女性──音羽を簡単には逃したくない。 どうにか、連絡先だけでも手に入れたい。 平田は自分の欲望と、伏見へ対する恐怖を天秤にかけ、欲望が勝った。 話しかけてきた伏見を刺激しないよう、平田は努めて冷静に言葉を返す。 「ええ、平田 葵と申します。……そちらは?」 「……ああ。申し遅れました。どうぞ」 平田がじろじろと見定めるような不躾な視線を伏見に向ける。 だが、伏見は少しも表情を変えずに懐から取り出した名刺を平田に軽く手渡した。 伏見から渡された名刺に目を落とした平田は、名刺に書かれている伏見の名前と、会社名を見て驚きに目を見開いた。 「これ……この会社って、今──」 「ああ、弊社をご存知でしたか?それは嬉しいですね」 「知ってるも何も──!」 平田は、伏見の背後にいる玉櫛 樹を見て顔色を悪くした。 (なんっで、玉櫛ホールディングスの取引先を根こそぎ奪ってってる会社の……社長がこんなトコに!?見つかったらどうなるか……!) 平田はこれ以上伏見と話をするのを避けるため、音羽を諦める事にした。 (こんな極上の女を諦めるのは惜しいが、相手がこの会社なら諦めた方がいい。俺は玉櫛を裏切れな──) 「平田さん、玉櫛社長に色々とお世話になっているみたいですね」 くつり、と喉奥で笑った伏見は、嘲笑うかのような表情で平田を見下ろす。 どうしてその事を──。 平田は、伏見の言葉を聞いた瞬間、真っ青になった。 伏見は平田の心の声に答えるようににっこりと笑みを浮かべ、音羽には聞こえないようにこっそり平田の耳元で囁いた。 「──私は、人材派遣なんて会社を経営して
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