《夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした》全部章節:第 121 章 - 第 130 章

181 章節

121話

裕衣の視線をベタベタと受け続けていた伏見の背筋には、悪寒が走っていた。 このまま裕衣との会話を続けていたら、仮面が剥がれてしまいそうだ、と判断した伏見は半ば無理矢理会話を終わらせた。 「──〜っ、くそっ、気色悪い……っ」 まるで全身を舐め回すようなねっとりとした視線だった。 自ら恭の母親だ、と自己紹介をしておきながら、他の男に対して色を含んだ視線を向けるなど、考えられない事だ。 伏見が両腕を摩りつつリビングに戻ると、音羽がリビングのソファに向かってゆっくり歩いて来ているのが見えた。 「随分長くお話されていたんですね、蓮夜」 「──音羽!歩いて大丈夫か?」 「だ、大丈夫ですよ。ゆっくり歩けば大変じゃないですから……」 慌てて駆け寄ってくる伏見に、音羽は微かに頬を染めて顔を逸らしつつそう答える。 音羽の可愛らしい反応を見た伏見は、癒される心地がした。 「音羽、抱き上げるぞ」 「えっ、わっ、きゃあ!」 伏見はそう言うなり音羽を抱き上げ、そのままソファに腰を下ろす。 向かい合わせになるように音羽を抱いたまま座った伏見は、音羽の肩に額を乗せてぐりぐりと擦り付けた。 「蓮夜……?どうしたんですか。それに髪の毛がまだびしゃびしゃじゃないですか!家の中はエアコンが効いてて涼しいんですから、しっかり乾かさないと風邪をひいちゃいますよ!」 「……音羽が乾かしてくれ。俺は来客対応でぐったりした……最悪だ……」 「ええ?一体誰が来たんですか?お仕事関係の人ですか?」 音羽は浴室から持って来ていたのだろう。 大判のタオルを広げると、伏見の髪の毛に被せてぽんぽん、と軽く叩き水分を拭って行く。 音羽にされるがままだった伏見は、裕衣の名前を呟いた。 「来たのは、玉櫛 裕衣だった……」 「──え」 伏見の髪の毛を優しく拭いていた音羽の手がぴたり、と止まる。 だが伏見は言葉を続けた。 「もしかしたら、以前に俺と音羽の後ろ姿か何かを遠目から見たのかもしれない。俺の妻が音羽かどうか探っている感じだったな……。勿論名目は恭の母親として挨拶をしに来たって体を装ってたが」 「……それで、蓮夜はどう答えたんですか?」 「音羽が一緒に住んでいる事は本当だからな。妻とは数年前から、と話した。嘘は言っていないだろう?」 伏見のその言い方で、上手く誤魔化してくれ
閱讀更多

122話

(蓮夜に色目って──……) 音羽の胸に、もやりとした物が膨れ上がる。 手が止まってしまった音羽に、伏見は不思議そうに音羽に目を向け、そこで眉を寄せ、少しだけ怒ったような様子の音羽を見た伏見は驚きに目を見開く。 「──音羽、もしかして妬いているのか?」 「えっ!?いえ、そのっ、違います……っ!」 伏見の言葉を聞いた瞬間、音羽の表情がはっとした物に変わり、そして羞恥からか頬を微かに赤く染めている。 わたわたと慌てる様子の音羽に、伏見はじわじわと自分の胸に喜びが満ちるのを感じた。 (俺ばっかりが音羽に執着して、好きだと思ったいたが……。音羽も、本当に俺の事が好きなのか) 音羽が伝えてくれた「好き」と言う言葉を疑った事はない。 だが、伏見自身、自分が音羽に抱いている気持ちは大きく、重いものだと自覚している。 だからこそ音羽からの好意は、可愛らしいキラキラとした眩しいものだと思っていたのだ。 伏見の中で音羽への感情がドロドロとした重く深い愛だとして、音羽の感情はキラキラとした明るく、そんなドロっとした重いものじゃない、と思っていた。 だが。 (嫉妬してくれているのか、音羽が俺に──) そう考えると、伏見は堪らなくなった。 目の前で狼狽えている音羽が愛おしくて、もっとこちら側に落ちてくればいいのに、と伏見は口角を上げる。 だが、音羽を苦しめたい訳じゃない。 伏見はうっとりと音羽を見つめたまま、口を開く。 「安心してくれ、音羽。あんな女に俺は靡かない。俺には自分の命よりも大切な音羽が居る。あんな股の緩い女なんかに俺が靡くように見えるか?」 「……いいえ」 「そうだろう?それに、あの女に色目を使われても気持ち悪いだけだ。俺がどれだけ寒気を感じたか……」 くつくつと笑いながら、伏見は音羽の頬を両手で包み込み、バードキスを何度も唇に落とす。 「ちょ、ちょっと蓮夜……んっ」 「嫉妬してくれるのは嬉しいが、音羽はそんな心配なんてしなくて良い。俺が他の女に靡くなど、天地がひっくり返ってもありえないからな」 「んっ、んぅ……っ」 軽いバードキスだったそれが、何度も何度も繰り返す内に深いキスに変わって行く。 伏見の髪の毛を拭いていた音羽の手からタオルが床に落ち、音羽の後頭部に手のひらを回した伏見はぐっと力を入れて音羽の頭を引き寄せる。 裕
閱讀更多

123話

◇ 翌朝。 ふ、と目が覚めた伏見は欠伸をひとつして、腕の中にいる音羽を優しい目で見下ろした。 結局、あの後。 キスで終わる訳がなくソファで体を繋げ、その後は寝室に移動して散々抱き合った。 音羽の体も限界だったのだろう。 何度目かの絶頂を迎えた後、音羽はくたり、と気を失ってしまって。 (風呂に入れてやる事も出来なかったな……) 伏見は、自分の腕の中で安心しきった顔ですやすやと眠る音羽の額にそっと唇を落とす。 音羽は、快楽に不慣れな様子だった。 だから伏見はいつも最初はセーブしようとするのだが、結局音羽の可愛さと愛おしさで我慢が出来ず、音羽がもう無理だ、と泣いて止めても止まる事なく抱き潰してしまう。 (俺も、堪え性が無いな……。だが、それも仕方ない。やっと……やっと音羽を手に入れたんだ) 過去、旦那が居て。子供までいる。 過去は過去だ、と割り切っているつもりだった。 子供が出来る行為だってしているのだから、音羽だってこういった行為には慣れているのだろうと思っていた。 だが、いざ蓋を開けてみれば。 音羽の反応は初々しく、快楽に不慣れで。 音羽と伏見が初めてこういった仲になった時。音羽が絶頂に至った時など、何が起きているのか分かっていない様子だった。 そんな音羽を見て、快楽で絶頂に至った事も、十分な前戯も、愛撫も経験がないのだろうと察してしまった。 こんな風に快楽で咽び泣く音羽を見たのは、恐らく自分1人だけ──。 そう気付いた時、伏見がどれだけ嬉しかったか。 「……音羽は、そんな事全然気が着いていないんだろうな」 はは、と小さく笑い声を零しながら呟く。 自分の胸に顔を寄せ、すぴすぴと眠る音羽を愛おしげに見つめた後、伏見は音羽をぎゅっと抱き寄せた。 ◇ 朝──7時過ぎ。 ふと目が覚めた音羽は、体を動かそうとしてびきり、と腰に走った痛みに眉を顰めた。 「──痛っ」 「大丈夫か、音羽」 「蓮夜?」 ついつい痛みに呻き声を漏らした瞬間、目の前から伏見の低い声が聞こえ、音羽はぱちくりと目を瞬かせた。 暗さに目が慣れてくると、心配そうに自分を見つめる伏見の目と目が合って。 音羽は昨夜の事を思い出して顔を真っ赤に染めた。 「だ、大丈夫です……!」 慌てて飛び起きようとする音羽に、伏見が止めようとしたが時すでに遅し。
閱讀更多

124話

「た、多分時間が経てば……!」 食い下がろうとする音羽に、伏見は緩く首を横に振って続けた。 「いや、今日は俺も帰りが遅くなるかもしれない。俺がいない時に外の散歩は禁止だ。家で恭と遊んでてくれ」 「──分かり、ました」 まともに歩く事も出来ない音羽は、伏見の言葉に頷く事しか出来ない。 不満そうに眉を下げる音羽に苦笑いを浮かべつつ、伏見は音羽を風呂場に連れて行った。 ◇ 伏見を見送り、音羽はリビングでゆっくりとしていた。 今日は家事もしなくていい、と言われてしまったので下手に動き回る事は出来ない。 「蓮夜……私が家の事をしたらすぐに気付いて烈火のごとく怒りそうだわ……」 伏見が出て行く前。 決して動き回るな、と音羽に何度も言い含めてから仕事に向かった。 少しでも家事を、と思った音羽だったが、それをしてしまえばきっと伏見にバレる。 だからこそ音羽は伏見の言う通り、大人しく家で過ごしていた。 お昼頃には体の痛みも大分落ち着いていた音羽は、軽く昼食を作り、キッチンを片付ける。 だが、そうしていても恭が来る時間までまだまだある。 音羽はテレビでも見て時間を潰そう、とリビングのソファに座り、リモコンでテレビの電源をつける。 ニュース番組が映り、音羽はじっとニュースを眺めた。 先日のように不意打ちに樹が出てくる事もなく、ニュースは国内で起きた事件や事故を報道していく。 その中で、大手企業が買収される事が増えている、と報じられた。 音羽でも知っているような、大手企業の社名が次々と出て来て、驚きに目を見開いた。 「え……こんな企業も……?えっ、ここも……?」 飲み物で有名なメーカーや、衣服で有名なメーカー。果てにはホテル経営で有名だった会社までもが次々と買収されたり合併している、と報じられている。 「どうして、こんな急に……何かあったのかな」 経営の事など音羽には全く分からない。 だが、これ程有名な会社が次々と買収されたり合併したり、と言うのは普通じゃないような気がした。 どんな目的があって企業を買収しているのかは分からないが、音羽は自分には関係のない事か、と思い無くなってしまった飲み物を注ぎに行こうとソファから立ち上がった。 リビングのソファから、キッチンまでは少し距離がある。 音羽は少しゆっくりと歩きキッチンに到着すると冷
閱讀更多

125話

◇ その日の夕方。 インターホンが鳴り、音羽はソファから立ち上がるとインターホンに早歩きで向かった。 朝に伏見が言っていた通り、保育園から戻ってきた恭が飯野に連れられてやって来たのだろう。 音羽は逸る心を落ち着かせ、平常心を装い対応する。 「はい、どちら様ですか?」 【こんにちは、おばさん!玉櫛 恭です!】 インターホンのマイクから、恭の元気な声が聞こえる。 「恭ちゃん?待っててね、今開けるわ」 音羽は緩んでしまう頬を唇を噛んで必死に抑え、玄関に向かった。 音羽が玄関の扉を開けると、そこにはにこにこと嬉しそうに笑う恭と、運転手の飯野が申し訳なさそうに立っていた。 「奥様、本日はありがとうございます。これから、どうぞよろしくお願いいたします……!」 「いいえ、お気になさらず大丈夫ですよ」 音羽はにこり、と笑って言葉を返すと、うずうずとしている恭に笑いかけつつ手を差し出した。 「さあ、恭ちゃんいらっしゃい。遊ぶ道具は持って来たかしら?」 「はい!」 音羽の手を握ると、恭は飯野から持たされていた遊び用のバッグを誇らしげに掲げた。 その様子がとても愛らしく、音羽の頬はとうとう我慢出来ずに緩んでしまう。 「ふふ、偉いわね。じゃあリビングでおばさんと一緒に遊ぼうか?」 「はい!よろしくお願いします!」 元気よく返事をした恭に笑いかけつつ、音羽は玄関で立っている飯野に顔を向ける。 飯野は音羽に向かって頭を下げると、そのまま玄関を後にした。 手を繋ぎながらリビングに向かった音羽と恭。 恭は持って来たバッグからいくつかのおもちゃと、ドリルのような物を取り出した。 おもちゃと勉強用のドリル。 相反するそれらに音羽が驚いていると、恭は申し訳なさそうにしゅん、としながら話した。 「いつも夕方はお勉強をしているんです……おばさんと会う時は、お勉強が出来ないから、変わりにドリルをしておくようにって……」 「まあ……。家庭教師の先生に言われているの?」 「はい、そうなんです……。だからごめんなさい、遊ぶ前にドリルをしてもいいですか?」 申し訳なさそうに尋ねてくる恭に、音羽は切ない気持ちになった。 恭はまだ3歳だ。 これくらいの年頃の男の子なら、めいいっぱい遊びたいだろうに──。 勉強をしてからじゃないと遊んでは駄目、なんていくら
閱讀更多

126話

◇ 「これって、何て読むんですか……?」 「これ?これはね、雨 あめ、って読むのよ。雨が降るって言うでしょう?」 「これが、あめ……!じゃあ、これは……」 「これは、草 くさ。地面に沢山生えているでしょう?」 「わあ!ありがとうございます、おばさん!」 恭はにこにこと嬉しそうに笑うと、ドリルに雨と草の漢字を書いていく。 集中していると、恭の唇が突き出てしまっていて、その様子が子供らしくてとても可愛いな、と音羽は微笑ましく思ってしまった。 そんな風に音羽と恭がドリルに集中していると、足音が聞こえるのと同時に伏見の声が聞こえた。 「何だ、随分集中しているな?俺が帰ったのに出迎えもしてくれないなんて」 「──れ、蓮夜!?」 リビングにひょこり、と姿を現した伏見に音羽は慌てて立ち上がる。 恭も伏見の帰宅に気づき、笑顔で伏見に挨拶をした。 「おじさん、お帰りなさい!」 「ああ、ただいま」 恭に言葉を返すと、伏見は恭の頭を雑に撫でる。 音羽はそのまま伏見に近付くと声をかける。 「蓮夜、お帰りなさい」 「ただいま、音羽」 伏見は甘く笑うと軽く音羽の唇に自分のそれを重ねた。 まさか音羽は恭がいる目の前で伏見がキスをするなんて、と顔を真っ赤にして目の前にいる伏見の胸をぺしり、と叩いた。 「れ、蓮夜……!」 「悪い、つい」 全く悪いと思っていなさそうな悪い顔で笑う伏見に、音羽は顔を真っ赤にしたままちらり、と恭を見やった。 すると恭は「わああ」と小さく声を漏らし、恥ずかしそうに自分の手を小さな手で覆っている。 「すごい……おばさんとおじさんは仲良しなんですね!」 「ん?ああ、そうだな。おじさんはおばさんが大好きだし、おばさんもおじさんの事が大好きだもんな?」 にっこりと良い笑顔で伏見にそう告げられ、音羽はもにょもにょと口を動かす。 「そ、そうね……おばさんとおじさんは仲良しだから……」 恥ずかしそうに頬を微かに染めつつ肯定する音羽を愛おし気に見つめる伏見。 子供の恭から見ても、音羽と伏見はお互いが信頼し合い、大切にし合っている人同士なのだ、と言う事が分かった。 そんな風に仲良さげにしている音羽と伏見を見て、恭は「いいな」と羨ましくなってしまった。 「……僕も、おばさんとおじさんの事が大好きです……僕とももっと仲良くしてく
閱讀更多

127話

「本当、ですか……?」 「ああ、本当だよ」 伏見の言葉に恭は嬉しそうに、安心したように抱き上げてくれた伏見にぎゅうっと抱きついた。 そんな恭を、音羽は苦しげに見つめる。 恭は、無意識化で大人の顔色を窺う癖がある。 自分の発言が大人を不快にさせていないか、とても気にして発言しているように感じた。 恭の年頃だったら、素直に両親に甘え、我儘を言ったりするのが普通のはず。 それなのに、恭はいつも申し訳なさそうに音羽や伏見の顔色を窺い、自分の発言に音羽と伏見が怒っていない事が分かるとほっとするのだ。 怒られるかもしれない。 だから、余計な事を言わないように気をつけなくちゃ──。 恭から、そんな感情をひしひしと感じていた。 音羽は伏見に抱きつく恭の頭をそっと優しく撫でた。 そして、優しい手つきと同様、愛情をたっぷりと込めて話しかける。 「ええ、本当よ恭ちゃん。むしろ、おばさん達こそ恭ちゃんともっともっと仲良くしたいわ。これからも沢山おばさんと遊んでくれる?」 音羽の言葉に伏見に抱きついていた恭がぱっと顔を上げる。 それまでどこか不安に揺れていた恭の瞳に、確かに歓喜の感情が現れた。 「も、もちろん、です……!沢山遊んでください……っ!」 無意識なのだろう。 恭から伸ばされた手に、音羽は微笑みを浮かべたまま応えた。 音羽にひしっとしがみつくようにする恭に愛しさが込み上げた音羽も、恭を昔のように大切にぎゅっと抱きしめた──。 ◇ 「それでは、伏見様、奥様。ありがとうございました!また、3日後に伺わせていただきます」 「ええ」 「分かりました」 眠ってしまった恭を抱いた飯野がぺこり、と2人に頭を下げて歩いて帰って行くのを音羽と伏見は見送った。 少しして家に入った2人は、暫くしてから顔を見合せた。 「恭は音羽にかなり懐いていたな」 「えっ!本当ですか!?そう見えましたか!?」 「ああ。本当の親子のように過ごしていて驚いた。俺が帰って来た事にも気付かなかったもんな?」 少し悪戯っぽく笑う伏見に、音羽は恥ずかしくなってしまう。 それだけ恭との時間に浮かれ、集中しきっていたのだ。 「も、もう……もっと前に声を掛けてくれれば良かったのに……。すみません、蓮夜。ご飯の準備をしますね」 「体は?大丈夫なのか?」 伏見にそんな事を聞
閱讀更多

128話

2人で食事の準備を始めると、あっという間に食事が出来上がった。 音羽1人で食事の支度をすると倍、時間がかかる。 だが、音羽が「ああして欲しいな」とか「これをやって欲しいな」と思うと、次の瞬間には伏見が不思議と音羽が思った行動をしてくれる。 まるで阿吽の呼吸のようにお互いがお互いに邪魔をせず、料理はスムーズに進んだのだ。 「出来上がった料理はもうリビングのテーブルに運んでいいか?」 「はい!ありがとうございます、お願いします」 「分かった」 こくり、と頷いた伏見は料理を全て運び終えると次に食器を用意してくれる。 2人分のお茶碗やお箸、グラスを持って冷蔵庫から飲み物を取り出してそれも一緒にテーブルに持って行く。 音羽もキッチンから出て来てリビングのテーブルに着くと、2人揃って「いただきます」と告げ、食事を始めた。 始めは世間話や、恭の事で話しをしていた2人だった。 音羽が楽しそうに恭と何をしたかを話す姿を伏見は目を細め、優しい表情で見つめていた。 和気あいあいとした食事が終わり、2人で食器をシンクに運び、再びリビングのテーブルに戻ってくるとふ、と伏見が表情を引き締め、音羽に話しかけた。 「そう言えば音羽」 「──はい?」 「音羽は、今まで会社の設立パーティーや記念パーティーに参加した事はあるか?」 「パーティー、ですか?」 「ああ」 こくり、と頷く伏見に音羽は最初戸惑った。 だが、必要があって自分にこんな事を聞いたのだろうと言う事は分かる。 音羽は伏見に向かって肯定するように頷いた。 「──はい、過去に何度か参加した事はあります」 「……元夫の妻として?」 「はい、そうです。それが、どうかしましたか?」 不安気に問う音羽に、伏見はふ、と表情を緩めると「実はな……」と音羽に説明をしてくれる。 「うちの会社で、様々な会社の買収を進めているんだ。その際に、買収した会社が普段参加していたパーティーがあって」 「ええ」 「買収した会社は、玉櫛ホールディングスとも取引がある会社だ。……そのため、その会社が参加していたパーティーには、玉櫛ホールディングスの重役達も多く参加している」 伏見が言いたい事が分かり、音羽の心臓がどくん、と大きく鼓動を刻む。 「俺は自分の会社の代表だ。……パーティーへの参加にはパートナー同伴が普通だ
閱讀更多

129話

「ああ。それじゃあ、早速だが明日パーティー用のドレスを買いに行こう。パーティーにはドレスが必要だろう?」 「蓮夜が一緒に行ってくれるんですか?」 「当然だ。自分の女が着るドレスだ。俺が選ぶのが当たり前だろう?」 どこか得意気に告げる伏見。 そんな伏見の姿がおかしくて、音羽は声を出して笑ってしまった。 どうして音羽が笑ったのか分からず、きょとんとする伏見に音羽は益々笑みが深くなる。 (ふふっ、そっか。私は本当に蓮夜のパートナーになったんだ。それを当然のように口にしてくれるのがこんなに嬉しいなんて) 未だに音羽の笑顔の意味が分かっていない伏見は首を傾げている。 音羽はそんな伏見に対して「何でもないですよ」と嬉しそうに笑った。 ◇ 夕食を終え、お互いお風呂に入ってそれぞれまったりとしていた。 音羽と伏見はリビングで飲み物を飲んでいた。 音羽は暖かい飲み物。 伏見はアルコールを楽しんでいた。 もうそろそろ日付も変わると言う時間帯。 寝室に戻り、明日のために就寝しようかと音羽はリビングのソファから立ち上がった。 そんな音羽を、伏見は目で追う。 「音羽、寝るのか?」 「ええ、そろそろ寝ようと思います。蓮夜も早く寝た方が良いですよ?」 「ああ、そうだな……」 明日はドレスを買いに行く、と伏見が言っていた。 何時頃に行くかは決まっていないが、朝にやるべき家事は済ませておきたい。 そう考えた音羽は、早めに寝ようとしたのだ。 音羽がキッチンにカップを持っていき、カップを洗ってしまおうか、とスポンジに洗剤を付けて洗い始める。 すると、ふと音羽の背後からにゅっと伏見の太い腕が現れた。 「──えっ、わぁっ」 そうかと思えば、伏見のがっしりとした腕が音羽のお腹に回り、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。 「ちょっと、蓮夜……洗い物が出来ないですってば」 伏見がまるで甘えるように自分の頭を音羽の肩にぐりぐりと押し付けている。 それが何だか擽ったくて、音羽はくすくすと笑ってしまう。 泡がついているから伏見の腕を剥がす事は出来ない。 背後から抱きつく伏見をそのままに、音羽は笑いながら洗い物を終えて手に付いた泡も全て落とし、水を止める。 「──洗い物は終わったか?」 「はい、終わりました──」 伏見の声に、音羽は振り向きながらそう答えよ
閱讀更多

130話

◇ 翌日。 少しゆっくり目に起きた音羽と伏見は、遅い朝食を食べてからお昼過ぎに家を出た。 伏見の車が向かった先は、都内にある高級ブティック。 店の前に伏見が車を停めると、店の前で待っていた店の人間が頭を下げて出迎えてくれる。 伏見の手を借りて車から降りた音羽は、頭を下げて出迎えてくれている店員に驚いた。 「お待ちしておりました、伏見様、奥様」 「ああ。車を頼む」 「かしこまりました」 伏見は慣れた様子で車のキーを店員に渡すと、音羽の腰を抱いて歩き出した。 「いらっしゃいませ、伏見様に奥様」 「ああ。今日は妻のパーティー用ドレス一式をお願いしたいんだが」 「かしこまりました、何着かご用意いたしますね。お待ちくださいませ」 2人が店に入るなり、数人の定員が出迎えてくれる。 丁寧にお辞儀をした男性がこのブティックのオーナーだろうか。 上品な笑みを浮かべ、音羽と伏見をフッティングルームへ案内してくれた。 「れ、蓮夜。一式って……!」 音羽が慌ててこそっと伏見に声をかける。 すると伏見は当然だろうと言うように頷いて見せた。 「パーティー用のドレスや装飾品、靴も音羽は持っていないだろう?俺が全部用意する」 「だ、だけど……!全部買ってもらうのは……!」 「音羽を飾りたいんだよ。俺の我儘だ。受け取ってくれ」 優しい顔でそんな風に伏見に言われてしまえば、音羽は言葉を飲み込むしかない。 うう、と申し訳なさそうにしている音羽に、伏見は色っぽい笑みを浮かべ、音羽の腰に回していた自分の腕で音羽をぐっと引き寄せ囁いた。 「それに、俺が選んだ物で全身を飾り付けた音羽の服を1枚1枚剥がす楽しみを味わえるだろう?今夜は購入したドレスを着てくれよ」 「──なっ、ばっ、」 伏見の言葉に、音羽は顔を真っ赤に染めると、声にならない声を上げて伏見の胸をどん!と強く叩いた。 音羽が叩いたくらいでは痛みも感じないのだろう。 伏見はくつくつと楽しそうに喉奥で笑い、真っ赤になっている音羽の唇をさらりと奪った。 「大変良くお似合いです!」 「奥様は肌が白いですから、はっきりとしたお色が似合いますね」 「ジュエリーも奥様の美しさに負けてしまいますわ」 「おみ足も綺麗ですので、おみ足を大胆に見せるデザインもお似合いかと思います!」 音羽がドレスに着替え
閱讀更多
上一章
1
...
1112131415
...
19
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status