《夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした》全部章節:第 141 章 - 第 150 章

181 章節

141話

「──何だ、平田か?」 「どうしたの、樹」 平田の声が聞こえた樹は、声が聞こえた方向に顔を向けた。 樹に腰を抱かれている女性は、甘ったるい声を上げて樹に擦り寄る。 そんな女に構わず、樹は平田を探し、そこで見つけた。 平田は誰かと喋っているように見える。 だが、その顔色は薄暗いフロア内でも真っ青になっているのが分かる。 (何か面倒事を起こしたのか……?) そこで樹は、平田の前に立っている2人の男女に視線を移した。 背が高い男と、男の腕に腰を抱かれている女。 その2人は後ろ姿しか見えないが、男に関しては背中からでも分かるくらい、ただものではない雰囲気を纏っていた。 そして、男の隣に居る女を上から下まで舐めるような視線で見つめた樹は納得する。 (随分いい体の女だな。平田はまた悪い癖を出して、他の男の女に手を出そうとしたのか……。金では靡かなかったのなら、相手もある程度権力のある人物か) 平田の女好きは相当なものだ、と樹は認識している。 恐らく自分より女遊びが激しく、誰彼構わず手を出そうとする所は無鉄砲で危なっかしい。 (だから普段はそういった店に連れて行ってやってると言うのに……こんな所で騒ぎを起こすなよな……) 面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。 だが、平田は平和テックの社長子息だ。平和テックには随分会社も助けられている。 大手取引先である平和テックを今、失うのは痛手だ。 (息子を手助けしてやっているからこそ、社長は今も尚こうして取引を続けてくれている部分もある。ここで見捨てたら社長の逆鱗に触れるかもな) 面倒だが、助け舟を出してやるか──。 そう考えた樹が歩きだそうとした時、樹が連れている女性が声を上げた。 「樹、私あちらの方にご挨拶をしたいのだけど……一緒に挨拶をしましょうよ?」 「──あれは」 女の示す方向に顔を向けた樹は、その人物を見て呆れた。 (あれはたいした取引先ではない。俺が一緒に行く意味はないな) そう判断すると、女の腰から手を離した。 「好きにしろ。俺は少し離れる」 「あっ、ちょっと樹──」 背後から自分を呼び止めるような女の声が聞こえたが、樹は足を止める事なくそのまま歩いて行く。 平田や、後ろ姿の男女に近づいて行く。 後ろ姿しか見えない女──その姿を視界に入れた樹は、女性の後ろ姿の美し
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142話

「音羽 」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえたのだろうか。 樹の目の前にいた、横顔しか見えなかった音羽が振り向く──。 音羽の目が樹の姿を視界に入れ、驚きに見開かれた瞬間──。 隣に居た伏見がそっと大きな手のひらで音羽の目元を覆った。 「──なっ」 伏見の行動に。 音羽の肌に触れる男に。 樹の頭はカッとした。 怒りにも似た感情を抱いた樹は、そのまま伏見と音羽の元へ向かおうとした。 だが、音羽の目を手のひらで覆っていた男──伏見が、音羽の頬に手を滑らせ、そのまま音羽の顔をぐっと持ち上げた。 「──は?」 顔を持ち上げられた音羽に、そのまま伏見が上から覆い被さるようにするのが樹の視界に入った。 恐らく、そのままキスをしているのだろう。 伏見の顔が離れた瞬間、音羽の視線は伏見に向いていて。 頬は真っ赤に染まっている。 そして、怒ったような照れたような顔で伏見の胸を何度か拳で叩いているのが見えた。 どこからどうみても、仲睦まじい恋人同士の姿だ。 怒っていた音羽は、伏見に何かを囁かれた後、気恥しそうにだけど嬉しそうにはにかんだ。 「何で……そんな顔をする……!?」 音羽が自分以外の男に焦がれるような顔をして、嬉しそうに笑っている。 その姿を見た瞬間、樹の心には形容しがたい複雑な感情がぶわり、と湧き上がった。 止まっていた自分の足を再び動かそうとした時、音羽の隣にいた伏見が音羽の腰に手を回し、自分に引き寄せた。 そして、一言二言言葉を交わすと、2人は頷き合い、フロアの出入口に歩いて行ってしまう。 「──ま、待てっ」 このままでは、音羽が行ってしまう。 そう考えた樹は、咄嗟に足を踏み出し2人を追おうとした。 「あいつ……!あの男……っ!」 まるで、自分の女のように音羽を扱っていた。 あの、柔らかそうな腰に手を回し、自分の女だ、と周囲に誇示するような態度。 そして、親密な様子から、2人の距離感から──2人が男女の仲になっているような、そんな気がした樹は、頭の中が怒りで真っ白になった。 樹自身、離婚した元妻の音羽が自分の事をすぐに忘れて他の男とそんな関係になるとは思わなかったのだ。 音羽には、息子の恭がいる。 だから、息子を取り戻そうと自分に接触してくるので
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143話

「──〜っ、邪魔をするな!」 「え、あっ、きゃあ!」 パートナーの女が煩わしく、樹は掴まれた腕を思いっきり振り払った。 すると、ヒールを履いていた女はバランスを崩し、その場に転倒してしまう。 派手に床に転んでしまった女を、樹は面倒くさそうに見下ろした。 「鈍臭い女だな。邪魔をするな!」 「──なっ、酷いわ樹!あなたが私を振り払わなければ私は怪我をしなかったのに!女に怪我をさせておいて、その言い方はないんじゃない!?」 「お前っ、その口の聞き方はなんだ!?」 キーキーと喚く女に、樹は頭を抱えたくなる。 こんな女をパートナーとして連れてきてしまった自分の行動の浅はかさを呪ったが、この場所は人の目が多い。 自分のパートナーを見捨ててこの場を去ってしまえば、業界内で自分の悪評があっという間に広がるだろう。 その事を危惧した樹は、舌打ちをしつつ女を抱き起こした。 「早く立て、俺は知り合いを追いかける!お前は好きに過ごしていろ!」 「あっ、ちょっと樹──!」 樹は女を立たせると、そう言い終えるなり音羽を追った。 だが、大分時間が経ってしまっていたからだろうか。 視界に、見える範囲にはもう音羽の姿は見えなくなってしまっていて。 フロアを出て、この店も出てしまったのかもしれない。 そうなってしまえば、もう音羽を追う事が出来ない──。 「くそっ」 樹は自分の前髪をぐしゃり、と掴み乱した。 ◇ 自分の腰を抱き、躊躇いなくパーティーフロアから出ていってしまう伏見を、音羽は見上げた。 「蓮夜、もういいんですか?」 「ん?ああ、大丈夫だ。意外な収穫があったから結果は上々だ」 にぃ、と口角を上げて機嫌良さげに声を弾ませる伏見に、その言葉は本当なのだろうと察した音羽は「そうなんですね」と頷く。 そして音羽は、伏見に目を塞がれる寸前の事をふと思い出す。 伏見に目を塞がれ、その後あんな場所でキスをしてきた伏見に恥ずかしさやら、文句を言っていたりだとかで忘れてしまっていたが、あの瞬間、元夫と思われる男に自分の名前を呼ばれた気がしたのだ。 (ああ……だから、もしかして……?) 音羽はちらりと伏見を見上げる。 音羽にも、段々と伏見の性格が分かってきたのだ。 伏見は、存外嫉妬深い──。 それに元夫である樹にたいして、もしかしたら音羽以上に怒
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144話

◇ 「わあああ!綺麗、綺麗ですおばさん!」 「ふふ、ありがとう恭ちゃん」 「本当にお姫様みたいです!」 キラキラ、と目を輝かせ、頬を紅潮させ、興奮して話す恭。 音羽は照れくさそうに笑いつつ、ドレスの裾をふわりと揺らしてしゃがみ込んだ。 ──あれから。 音羽と伏見は店を出て車に乗り込み、家に帰ってきていた。 途中、渋滞に巻き込まれてしまいもしかしたら恭が帰って来る時間に間に合わないのでは──。 そんな不安も覚えたが、2人の車が自宅の近くにようやく来た頃、恭が乗る車とタイミング良く鉢合わせたのだ。 向こうも伏見と音羽に気が付いたのだろう。 運転手の飯野が「あっ」と言う顔をして、車を道の端に停めた。 伏見も飯野と同じように道の端に停めて、音羽と伏見は車から降りたのだ。 そして、車から降りてきた音羽を見た瞬間、恭の瞳は輝き、先程から興奮しっぱなしだった──。 くすくすと笑いながら音羽が楽しそうに恭と話している姿を伏見が眺めていると、飯野が伏見の近くまでやって来る。 「奥様とどこかにお出かけをされていたのですね。お二人とも、とても素敵です」 「ああ、妻のドレスを買いに行っていたんですが、あまりにも綺麗過ぎて、見せびらかしたくてそのまま帰って来てしまったんですよ。妻、綺麗でしょう?」 さらり、と惚気ける伏見に飯野は仲睦まじい2人に目尻を下げて頷く。 伏見の姿も同じ男である飯野から見ても惚れ惚れするくらい似合っていて、格好良い人だ、と素直に思う。 だが、そんな伏見に愛されている音羽は、とても輝いていて美しい。 あのドレスは、音羽のような人だからこそあれだけ上品な美しさなのだろう。 飯野は、ふと思った。 (あのドレスを……我が家の奥様が着たら……ああ、駄目だな……伏見様のような上品さは皆無で、ただただ下品な感じになってしまいそうだ……) あれだけの露出がありながら、ちっともいやらしく感じない。 飯野だって、男だ。 露出している女性を見たら少しはそう言った気持ちを抱く。 だが、目の前にいる音羽にはそんな下卑た感情がちっとも起こらない。 ただただ美しく、こちらが気後れしてしまいそうで。 だが、そんな音羽が自分の綺麗なドレスが汚れるのも厭わず、恭に目線を合わせるためにしゃがみ込み、楽しそうに話している。 その姿がまた美しく、飯
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145話

飯野は、伏見の驚いた声にはっとすると、見る見るうちに顔が真っ青になっていく。 そして、自分の口元を手で覆うと即座に頭を下げた。 「も、申し訳ございません伏見様……!このような事……、私の世迷言だと思い、お忘れください……!」 必死に頭を下げる飯野に、伏見は彼が見ていない事を良い事に、はっきりと口角を上げた。 (これほど、この男の心に迷いが生じているなんてな。外堀から、と思っていたが思っていた以上に上手く行っている) すぐに伏見は何とも言えない、困ったような、曖昧な笑みを浮かべると頭を下げ続ける飯野に声をかけた。 「いいんですよ、飯野さん。俺や妻も……恭くんがあまりご両親との時間が取れていないのは……、何となく察していますから」 そこでいったん言葉を切った伏見は、優しげな目で音羽と恭を見つめた。 その瞳には2人への深い愛情が確かに籠っている。 そこに嘘などは一切なく、飯野は伏見が愛情深い、とても出来た人間なのだ、と感涙した。 「俺も、妻も子供が好きですから。……図々しいと思われるかもしれませんが、恭くんを自分の子供のように接していますよ。恭くんは利口で、賢く可愛らしい。俺も、妻も恭くんが大好きです」 「──〜っ、あ、あり、ありがとうございます伏見様……!」 自分の顔を覆い、泣く飯野に伏見はにい、と笑う。 ああ、これでこの男も完全に落ちた──。 きっと、これからは今まで以上に伏見と音羽に心を預けるだろう。 そして、恭のために色々と動いてくれるようになるだろう事が伏見には分かった。 伏見は、飯野に笑いながら対応しつつ、心の中でほくそ笑む。 (これから、恭に対するあいつらの態度と、俺と音羽の恭への態度を見て今まで以上に落差を感じ、恭への同情心は日々募るだろうな) そうなってしまえば、もう飯野は完全にこちらの手の者になる。 恭のために、飯野は自分の主人達をも裏切るだろう。 伏見と飯野が話している所に、恭と手を繋いだ音羽がやって来る。 「蓮夜──っ、と。あなた、恭ちゃんがおトイレに行きたいって。ここからだと家の方が近いから、恭ちゃんと一旦家に行こうと思います。それに、恭ちゃん公園で遊びたいみたいだから、私も着替えてきます」 「分かった。着替えるなら、俺が手伝うよ。1人じゃ脱げないだろ?」 「えっ、だ、大丈夫……1人で着替えられる
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146話

「ちょ、ちょっと蓮夜……!わ、私は大丈夫だから、恭ちゃんのおトイレを見てあげて……!」 「恭くんはしっかりした子だろう?それに、飯野さんもついているから俺がいなくても大丈夫。それより音羽1人でドレスを脱ぐのは大変だろう」 「だ、大丈夫よ……!」 「公園で遊ぶなら、俺も着替える」 「な、なら私は違う場所で──」 「ここにさっき脱いだ服があるだろ?」 寝室、だろうか──。 寝室からボソボソと話す音羽と伏見の声が聞こえてくる。 もしかしたら、寝室の扉が全部閉まりきっていないのかもしれない。 このまま夫婦の会話を聞いてしまうのは申し訳ない、と飯野は自分の耳を塞ごうとしていたが、そうだ、と閃く。 「さあさあ、坊ちゃん。おトイレをお借りしましょうか」 「……どうして飯野まで入ってくるの?おトイレくらい、1人でできるよ?」 「中まではお邪魔しませんよ、洗面所で手を洗わせていただきたいと思っていたのです。ですから、お借りしようと思いまして」 飯野はにこにこと笑いながら、洗面所に入ると扉をしっかり閉める。 伏見宅のトイレは、洗面所の奥だ。 恭は不思議そうな顔をしつつ、だがトイレも限界だったのだろう。 飯野に「ふーん」と言葉を返しただけで、トイレに入ってパタンと扉を閉めた。 飯野は恭がトイレに入ったのを確認すると、洗面所を借りて手を洗う。 (さて……どうしようか……。坊ちゃんが公園で遊ぶ道具を忘れてしまった、と言い訳して坊ちゃんと一緒に取りに行く、とお2人に伝えるか?そうすれば、お2人も少しだけ夫婦の時間が取れるだろう……) 寝室から漏れ聞こえてくる2人の会話が聞こえてしまった飯野は、音羽と伏見、2人の仲の良さに微笑ましく笑みを浮かべた。 (よし、やっぱり坊ちゃんと一緒に一旦遊ぶ道具を取りに戻ろう。そうすれば、お2人が我々を気にせず少しだけ触れ合えるだろう) きっと、急いで着替えようとしてくれている2人だ。 すぐに伝えに行って、少ししたら公園に来て欲しいと言えば、優しい2人はそうしてくれるだろう。 その事を決めた飯野は、トイレから出てきた恭に話しかけた。 「坊ちゃん、保育園で作ったお花のブローチがある、とおっしゃってましたよね?」 「──え?うん、そうだよ」 「もし坊ちゃんがよろしければ、そのブローチ、音羽様に差し上げませんか?と
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147話

飯野と恭を見送った伏見は、再び寝室に戻る。 「音羽」 「れ、蓮夜。恭ちゃんと飯野さんは一旦戻ったの?」 「ああ。公園で使う道具を持ってくるって。まあ……」 くつり、と伏見が喉奥で笑う。 「飯野が何となく察したんだろう」 「──〜っ」 伏見の言葉に、音羽は一瞬で顔を真っ赤に染める。 音羽は、まだドレス姿のままだ。 だが、ドレスの背中は大きく開き、今にもドレスが肩から落ちてしまいそうになっている。 それを、音羽は自分の両手で押さえていた。 乱れているのは、ドレスだけではない。 音羽の綺麗に引かれた口紅も、先程の伏見からの激しいキスによって乱れてしまっていた。 寝室で何をしていたのか──、それを飯野が察してしまったなら、これからどんな顔で会えばいいのか。 音羽が羞恥にじわり、と視界を滲ませる。 すると、伏見はゆったりと音羽に近付き、頬を撫でた。 「俺たちを新婚だと思っているから大丈夫だ。機転をきかせてすぐに家を離れたのだから、こういった状況には慣れているだろう」 「わ、分かっていても恥ずかしいものは恥ずかしいです……」 「そうか?俺に心底愛されてるって飯野にも分かっていいじゃないか」 くつくつと楽しげに笑う伏見に、音羽は口を噤む。 ストレートに愛情表現をしてくれる伏見。それは嬉しいが、慣れていない音羽は恥ずかしくて仕方ないのだ。 「音羽は、俺に重いくらい愛されている事をもっと自覚してもらわないとな」 「──えっ、あ……!」 伏見は、ドレスを押さえていた音羽の手を掴み、自分に引き寄せる。 突然伏見に抱き寄せられ、ドレスから手が離れてしまった音羽の体から、ドレスがずり落ちていってしまう。 丸見えになってしまった下着を隠す間もなく、再び伏見から激しいキスを贈られ、途端に音羽の目はとろん、と蕩けてしまった。 キスをしながら伏見は音羽の体に手を這わせ、遊ばせる。 びくびくと腕の中で跳ねる音羽の体を愛おしく思いながら、伏見は更に激しくキスをする。 音羽の乱れたドレス姿をたっぷり堪能した伏見は、音羽の体からドレスを剥ぎ取ると、下着にまで手をかける。 流石にそれは、と音羽が抵抗しようとしたが伏見は一旦唇を離して告げる。 「──もう、この下着は使い物にならないだろう?新しい物に替えた方がいい。最後まで俺が音羽を着替えさせてあげ
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148話

◇ 「遅れてすみません……!」 音羽と伏見が公園にやって来ると、そこには既に恭と飯野が待っていた。 「おばさん!」 恭は、音羽の姿を視界に入れるなり嬉しそうに笑顔を浮かべ、音羽に駆け寄る。 嬉しさで感情が昂っているのだろう。 恭がそのままの勢いで駆け寄ってきた。 音羽は、考えるよりも先に自然と体が動いた。 駆け寄る恭を受け止めるため、その場に膝をついてしゃがみ込んだのだ。 どんっ!と、恭が勢いそのままに音羽に抱きつく。 腕を軽く広げていた音羽の胸の中に躊躇いなく飛び込んできた恭に、音羽は目の前が滲むのを感じた。 「おっと、危ないぞ。後ろに倒れる」 「あ、ありがとう蓮夜……!」 音羽の体がぐらり、と傾いたのを見逃さなかった伏見は、優しく音羽の背中を支えてやると、音羽の胸に飛び込んで抱きついている恭に苦笑した。 「恭、走った勢いで抱きついたら音羽が転んでしまう。飛びつく前に少し勢いを落としたほうがいい」 「す、すみませんおじさん……」 「はは、恭は素直で良い子だ。次からはしたら駄目だぞ?」 伏見が笑いながら恭の頭を撫でると、嬉しそうに恭が頷いた。 「はい、おじさん!」 そんな3人の様子を、少し離れた場所から見ていた飯野は何とも言えない感情が胸に込み上げてきた。 (坊っちゃまも、こうしてお母様やお父様に甘えたいはずなのに……。旦那様も、奥様もどうしてこんなに可愛らしい坊っちゃまを邪険になさるのか……) 飯野は恭に興味無さそうな樹と裕衣を頭に思い浮かべた。 飯野が恭の運転手として玉櫛の家に雇われたのは、2年前だ。 恭が保育園に行く事になり、運転手が
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149話

「おばさん、あのね……おばさんに渡したい物があるんです」 もじもじとしながら、そんな事を言う恭に音羽は笑みを浮かべたまましゃがみ込んだ。 「本当?何だろう?おばさん楽しみだな」 「本当ですか?」 「ええ、本当よ。何だろうって凄くドキドキする!」 にこやかに笑う音羽に背を押され、恭は後ろ手に持っていた花のブローチを恥ずかしそうに音羽に差し出した。 「その……僕が作ったブローチなんです。このお花は、おばさんをイメージして、作りました……」 恭が照れくさそうに差し出してくれたのは、とても綺麗な1つのブローチだった。 流石、裕福な子達が通う保育園。 ブローチはしっかりとした作りで、花はチャームを使用されていてしっかり固められている。 可愛らしいマリーゴールドの花がブローチに飾られていて、ごちゃごちゃとしておらずスッキリとしたセンスの良いブローチだった。 自分をイメージして作った、と言われた音羽は、震える手で恭のブローチを受け取った。 「──これを、おばさんに?」 「はい。着けてくれますか?」 恐る恐る、といった様子で自分を見上げてくる恭に、音羽は涙が零れそうになってしまい、慌てて目の前の恭を抱きしめた。 感動して、涙が滲む程度ではない。 我慢しないと、嗚咽が零れてしまいそうで。 音羽は必死に嗚咽が上がってしまわないよう耐えながら恭にお礼を告げた。 「ありがとう、ありがとう恭ちゃん……!おばさん、すっごく嬉しい……!大切にするわ!」
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150話

音羽が伏見の髪の毛を乾かし始めて、しばし。 しばらくの間は伏見は大人しく頭を差し出していたが、不意に悪戯心が芽生えた。 ちらり、と音羽の顔を横目で見上げた伏見は、目の前にある音羽の体に近付いた。 「──蓮夜?」 「そのまま乾かしていてくれ」 「え、ええ……えっ、ちょっ!きゃあっ!」 伏見は喉奥でくつり、と笑うと音羽の背中に手を伸ばし、一瞬で下着のホックを外してしまう。 突然、胸が開放感に包まれ音羽は驚きの声を上げてしまう。 だが、そんな音羽には構わず伏見は音羽のパジャマの裾から手を侵入させた。 すべすべした音羽の肌をたっぷりと堪能した伏見は、ホックが外れて浮いてしまっている下着を上にずらし、胸を手のひらで包み込んだ。 「ちょっ、ちょっと蓮夜……!」 「ほら、もう少しで乾きそうだから……最後までしっかり髪の毛を乾かしてくれ」 「ちょっ、そこで喋らないで……っ!」 伏見は音羽の静止などものともせず、目の前にある音羽の胸の先を服の上からかぷり、と咥えた。 びくっ、と体を震わせ、逃げようとする音羽の体を背中に回した腕でがっちりと抑え、音羽の体を逆に引き寄せた。 「──んっ、やっ」 伏見の頭を抱え、体を震わせる音羽に伏見は口角を上げて笑みを浮かべると、更に胸の先を舌でいじめた。 服の上からだと刺激が少なく、もどかしいのだろう。 だが伏見は尚もそのまま服の上から刺激し、音羽がもどかしそうに声を我慢しているのを楽しんでいた。 どれくらい服の上から舌先で嬲っていただろうか。 寝巻きが濡れてしまい、音羽の肌にぴったり貼り付いていて、その光景が酷く淫猥で。 胸元からちらりと音羽の表情を見上げた伏見は、喉を鳴らす。 顔を真っ赤に染め上げ、音羽は自分の口元を手のひらで覆っている。 だが、音羽の目は期待に濡れていて、伏見の行動を熱の篭った目でじっと見つめていた。 (期待してくれているなら、期待に応えないとな……) 伏見は口端を持ち上げて笑むと、ぐっと体重をかけて音羽をベッドに押し倒す。 殆ど乾いた髪の毛に、音羽の白くて細い指が差し込まれるのが分かる。 音羽からも求められている──。 そう感じた伏見は、そのまま音羽の唇に噛み付いた。 ◇ 情事の名残りが色濃く残る寝室。 伏見は自分の傍らで息を乱し、肩で息をする音羽の頭を労るように
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